第13話:父の死の疑惑
父の死に関する疑惑が語られます。
「納得が、いっていない……?」
アイリスは、マーカスの言葉を繰り返した。工房でクロックワークに言われた「真実は複雑だ」という言葉や、ソルの「殺された」という断言が、脳裏をよぎる。父の死は事故ではなかったと、この人も考えているのだろうか。
マーカスは静かに頷き、淹れたてのハーブティーを一口すする。その落ち着いた仕草とは裏腹に、彼の瞳の奥には深い憂慮の色が浮かんでいた。
「ギルドが発表した事故報告書を読んだよ。いくつか、どうにも腑に落ちない点があるんだ」
彼は立ち上がり、店の奥にある書棚から一冊の古いファイルを取り出してきた。中には、新聞の切り抜きや、几帳面な手書きのメモがびっしりと挟まれている。まるで、彼自身が独自に調査を続けていたかのようだ。
「まず、事故現場の状況だ」
マーカスは一枚の図面をテーブルに広げた。それは、父の研究室の見取り図のようだった。アイリスも見覚えのある配置だ。
「報告書によれば、実験装置の暴走による爆発が原因とされている。だが、現場に残された破壊の痕跡は、単純な内部爆発にしては不自然な点が多すぎる。まるで、外部から強力なエネルギー攻撃を受けたかのような……そんな歪な壊れ方をしていた」
「外部からの攻撃……?」アイリスは息を呑む。
「そして、目撃証言の食い違いだ。事故当時、研究所の近くにいたとされる数人の証言が、微妙に食い違っている。時間や、見たものについて。まるで、誰かに都合の良いように記憶を修正されたかのようにね。ギルドは早々に調査を打ち切ってしまったが…」
マーカスはため息をついた。その瞳には、ギルドへの不信感が滲んでいる。
「極めつけは、遺品の不自然な欠落だ。トーマスが肌身離さず持っていたはずの研究ノートの一部や、特定の実験データが、事故現場から綺麗さっぱり消えていた。事故の混乱で紛失したとは、到底思えない。あまりにも…都合が良すぎる」
マーカスの指摘は、具体的で、論理的だった。それは、アイリスが漠然と抱いていた疑念に、確かな輪郭を与えるものだった。父の死は、やはりただの事故ではなかったのかもしれない。
「ギルドは…何かを隠している…? あるいは、父の死に、直接関わっていると……?」
アイリスの声が震える。その可能性を考えると、背筋が凍るような恐怖を感じた。
「断定はできない。だが、その可能性は極めて高いと私は考えている」
マーカスは静かに、しかし強い確信を込めて言った。
「トーマスは、ギルドの主流派、特にクロックワークとは激しく対立していた。彼の『感情共鳴理論』は、精霊を『制御』するのではなく『共鳴』するという発想。それは、ギルドの支配体制を根底から揺るがしかねないものだったからね」
アイリスは、工房を訪ねてきたクロックワークの冷たい目を思い出した。父の研究資料を執拗に要求してきた彼の姿。ソルの言葉。全てが、一つの恐ろしい可能性へと繋がっていく。
「私はね、アイリス」
マーカスは、居住まいを正し、アイリスの目を真っ直ぐに見つめて言った。その穏やかな表情の奥に、秘められた強い意志が感じられた。
「『古き道を歩む者』の一員なんだ」
「古き道……?」
初めて聞く言葉に、アイリスは眉をひそめた。
「そうだ。我々は、第一時代――精霊と人間が調和して生きていた時代の知恵と技術を、秘密裏に守り継いできた者たちだ。君のお父さん、トーマスも、我々の協力者だったんだよ」
古道派。父はその協力者だった? ますます知らない事実が明らかになっていく。父は、一体どれだけの秘密を抱えていたのだろう。
「真実を知るためには、ギルドと対峙する必要があるだろう。そして、そのためには…」
マーカスは、アイリスの手にそっと触れた。埃っぽい彼の指先は、意外なほど温かかった。
「君自身の力…君の中に眠る『共鳴』の力を、正しく理解し、目覚めさせる必要がある」
共鳴の力。自分が機械の声を聞く、あの不思議な能力のことだろうか。それが、父の死の真相に繋がるというのか?
アイリスは、自分の内に秘められた未知の可能性と、父の死を巡る巨大な陰謀の渦に、否応なく巻き込まれていくのを予感していた。
父の死は、やはりギルドの陰謀の可能性が高い…?
そして、マーカスが明かした「古道派」とは?




