餓狼
「失礼、貴方がヤブキ殿ですね。
お噂は常々聞い…」
バキューン!
ドタン。
ふう、驚いた。
まさか誰もいないと思った森の奥でいきなり背後から話し掛けられるとは。
恐怖のあまり震えが止まらない。
見たところ、死体は若い冒険者のようだ。
反射的に吹き飛ばしてしまったので断言は出来ないが、割と爽やか系のイケメンだった気がする。
勘弁してくれよ。
こっちは完全に一人なれたと思って気を抜きかけてのに…
後ろから声を掛けるとか反則以外の何者でもないだろう。
見たところ、かなり使い込まれた剣だ。
この距離で戦闘に発展していたら確実に殺されていただろう。
想像するだけで胃液が逆流してくる。
今更のように全身から滝のように汗が流れる。
そ、そうだ!
早く死体を処分しなければ!
もしもこの男に仲間でもいたら大変だ。
俺はさっき露店で買った瓢箪を取り出す。
どうやら異世界人達は水筒代わりに使い捨ての瓢箪を使うらしい。
こんな事もあろうかと、中のお茶を飲み干した後にスライムを入れておいて正解だったぜ。
『狭い所に閉じ込めてしまって済まなかったな。
ほら、餌だ。
ちゃんと食べきってくれよ。』
俺は男の死体にスライムを垂らして、隠蔽を開始する。
さっき色々試したが、瓢箪一つに入るスライムは2匹が限界。
3匹目を入れようとすると、凄い悲鳴を上げながら逃げ出してしまう。
俺の計算だと死体の処理をスライムに2匹に任せる場合、30分以上掛かってしまう。
くっそ、30分は長すぎる。
誰か5秒くらいで死体を処理してくれる奴はないないのか。
まあいい。
今、出来る事をしよう。
俺は周辺を走り回って、1匹だけスライムを捕まえ死体処理班に加えた。
手持ち無沙汰なのでステータス画面を開く。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「パラメーター」
《LV》 4
《HP》 19/19
《MP》 15/16
《力》 7
《速度》 12
《器用》 19
《魔力》 10
《知性》 12
《精神》 18
《幸運》 26
《経験》 1100
本日取得経験値 100
次のレベルまでの経験値300
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ステータスを眺めているといつの間にか死体が消えていた。
よし、スライム達よよくやってくれた。
3匹のスライムが甘えてくるので、頭(?)を撫でてやる。
何て可愛い奴らなんだろう。
異世界に来て、ようやく安らぎを感じることが出来た。
と言っても、やはり瓢箪に3匹は入らない。
仕方がないので元気の良い2匹を瓢箪に入れ、残りの1匹はここに放置することに決める。
俺の妄想かも知れないが、置き去りにされるスライムが寂しげに鳴いていた。
思わず感極まって涙を流してしまう。
『スマン、スライム君!
不甲斐ない俺でごめんな!』
涙を懸命に拭って駆け出す。
泣きながら森から出る途中、ガラの悪い2人組が話し掛けてきたので皆殺しにした。
バキューン!
バキューン!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「パラメーター」
《LV》 4
《HP》 21/21
《MP》 16/19
《力》 8
《速度》 13
《器用》 21
《魔力》 10
《知性》 13
《精神》 20
《幸運》 31
《経験》 1300
本日取得経験値 300
次のレベルまでの経験値100
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
…死体の処理、どうしよう。
無理をしてでもさっきのスライムを連れてくれば良かった。
とりあえず3体の死体の上にスライムを置くも、消化速度が鈍い。
雰囲気からして満腹なのだろう。
俺が『早く食べろ!』と命令してもノソノソと死体の周囲を蠢くだけで真面目に死体処理をしてくれない。
俺が焦りながら周囲を見渡していると、狼の群れがジリジリと近づいて来る。
そう言えばキャシーが「ダイヤウルフは死臭に素早く反応します。」と教えてくれたな。
最初、俺を警戒していた彼らだったが俺がジリジリと下がると、横目で俺を睨み付けたまま3人組の死体を貪り始めた。
死体がみるみるうちに自然な肉片に変貌したので、心から安堵する。
うん、銃創さえ消えてくれれば俺は何でもいい。
30分ほど、狼たちの食事を見守る。
狼は8匹チーム。
よく見ると、大柄な2匹が殆どを食べており、小柄な6匹は少し離れたところで待機させられている。
人間も狼も社会の仕組みは大して変わらないらしい。
胴や脚など可食比率の高い部位を喰い尽くすと、大柄な2匹は満足気な表情で先に帰ってしまった。
可哀想なのは残った6匹である、食い残しを必死に奪い合ってる。
てっきり俺を襲ってくるのかと思っていたが、目が合っても戦意を見せてくれなかった。
理由は明白だ。
俺が込み上がる笑顔を隠せていないからである。
『ふふふ。』
異世界に来てから人間しか撃ってない。
そろそろ別の生き物を撃ってみたいと思っていたのだ。
再度狼と目が合う。
向こうが喧嘩を売ってくれるのを期待していたのだが、相手は慌てて目を逸らす。
どうやらこちらの本音はバレているらしい。
撃ちたくてウズウズするが堪える。
3人組の死体がまだ原形を留めているからだ。
もう少し派手に食って欲しい。
特に頭部は全部食べて貰えると助かる。
10分ほど彼らの食事を見守る。
獣の食欲とは恐ろしいもので、3人組の原形は完全に消えて、装備も程よく散らばってくれる。
グーーーーッド、君達はいい仕事をしてくれた。
感謝しかない。
バキューン!
残弾ゼロ、狼の残り5匹。
さて早く1分が過ぎないかな。
6匹の中でも一番強そうな個体を最初に殺した。
彼らは突如発生した轟音と仲間の死にパニックになりつつ、俺からは決して目を切らない。
なるほど、人間よりも遥かに賢い。
俺はリロードの瞬間撃てるように、狼から銃口を離さない。
彼らも覚悟を決めたのか、ジリジリと俺の周囲をゆっくりと囲み始める。
ヤバい、コイツら俺の100倍優秀だww
一番右に散開した個体が姿勢を低くした瞬間。
【reloバキューン!
射殺。
残弾4、残り4匹。
バキューン!
バキューン!
バキューン!
続いてこちらに向かって来る3匹を殺す。
残弾1、残り1匹。
最後の1匹は有能でも勇敢でもない個体なのだろう。
攻める訳でも逃げる訳でもなく、不安そうにキョロキョロし始める。
他の個体よりも小柄だし子供なのかも知れない。
不意の強襲はないと判断してステータス画面を開く。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
《LV》 4→5
《HP》 21/21→24/24
《MP》 04/19→23/23
《力》 8→9
《速度》 13→14
《器用》 21→24
《魔力》 10→10
《知性》 13→14
《精神》 20→22
《幸運》 31→32
《経験》 1300→1550
本日取得経験値 300→550
次のレベルまでの経験値 100→950
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
レベルが上がったみたいだな。
…なるほど、レベルが上がるとMPが全快するのか。
このギミックは使えるかも知れんから覚えておこう。
MP19。
19発撃てるようになったのはありがたい。
欲を言えば100発くらい連続で撃たせて欲しいのだが。
…そして、5匹殺して250を稼いだということは、狼の経験値は50か。
参ったな、端数が出てしまった。
バキューン!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
《経験》 1550→1600
本日取得経験値 550→600
次のレベルまでの経験値 950→900
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
よし、整数になった。
ストレスから解放された俺は満面の笑みで背筋を伸ばして己の苦労を労った。
今回の殺害人数 3名
総殺害数 13名
【ステータス】
「名前」
矢吹弾
「能力名」
ピストル
「能力」
詳細不明
リボルバー式の銃がホルスターごと腰に固定される。
弾倉数5。
1発射撃するごとにMPを1消費する。
撃ち尽くすと約60秒後にリロードされる。
「パラメーター」
《LV》 5
《HP》 21/24
《MP》 23/23
《力》 9
《速度》 14
《器用》 24
《魔力》 10
《知性》 14
《精神》 22
《幸運》 32
《経験》 1600
本日取得経験値 600
次のレベルまでの経験値 900
☆レベルアップルール
召喚者の初期レベルは1。
レベルアップに応じて必要経験値が100ずつ増加する。
1→2 100
2→3 200
3→4 400
4→5 700
5→6 1100
6→7 1600
7→8 2200
8→9 2900
9→10 3700
10→11 4600
「経験値表」
人間 100ポイント
狼系 50ポイント
【筆者から】
貴重なお時間を割いて頂けた事に感謝しております。
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