前線
バキュン!
俺に頭を撃ち抜かれた船頭がゆっくりと河に落ちた。
慌てて後ろにいた3人の弓兵が立ち上がって周辺を警戒し、2秒後に俺を発見する。
なるほど、共和国の水兵隊は優秀だと聞いていたが噂以上である。
一瞬、置き盾越しに俺と弓兵の目が合う。
数秒、緊張が流れた後に突然矢が放たれるも…
よし、データ通りだ。
この距離と角度なら本職の弓兵でも矢が届かない。
だが、こちらは有効射程距離!
バキュン!
バキュン!
バキュン!
残念ながら殺せたのは2人だけ。
一番背の高い男は、俺が撃鉄に指を掛けた瞬間に身体を捻って自ら河に飛び込んで難を逃れた。
流石は最前線。
敵も味方もエースが集結している。
そう。
俺は今、戦場にいる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『俺に戦争に行けと?』
ギルドの小会議室でキャシーはそう提案した。
確かにカネを稼げるミッションを探せと指示していたが、従軍までは構想になかった。
きっと俺が兵役のない国に生まれたからであろう。
「ヤブキ様はその…
王宮で色々あったと伺っております…」
キャシーは言葉を濁す。
前王を殺したのが俺という事実には少なくない者が既に薄々勘付いている。
眼前の少女もその1人である。
そりゃあそうだろう。
俺が召喚された日に王が急逝したのだ、疑われない方がどうかしている。
「新王に対して忠誠を示しておくことは、損にはなりません。」
『わかった。
王国軍に陣借りして、敵兵を殺せばいいのだな?』
「はい、それも目立ち過ぎない形で。」
『ああ、その点は俺も同感だ。』
俺とキャシーが国境たる大河を挟んで共和国軍と対峙しているのは、それが発端である。
泥棒猫のミャレーも同行を希望したが、この前線基地は前科者や獣人に門戸を開いていなかった。
「いやあ、お見事でした。
流石はヤブキ殿。
国王陛下もさぞかしお喜びになるでしょう。」
『ありがとうございます、少佐。
少しでも陛下のご恩に報いる為、粉骨砕身する次第であります。』
案内役を称する少佐は国王直属の政治将校である。
まだ25歳と若いが、将官や大諸侯が彼を怖れること甚だしい。
そりゃあそうだろう、代替わりのタイミングで政治将校に目を付けられたいと思う馬鹿がいるわけがないからな。
少佐の任務は俺の監視。
その証拠に温厚な笑顔と裏腹に眼光は氷のように冷たい。
展開次第では俺の粛清も任務に含まれていると考えるのが妥当。
「いやあ、それにしてもヤブキ殿の武勲は素晴らしい!
共和国の短艇部隊を3名も射落として下さった。
私の方からも是非とも表彰を申請しておきますね。」
『いえいえ、私如きがそんな。』
「いえいえ、国王陛下もヤブキ様には格別の期待と信頼を寄せておられますので。」
『なんと!?
私如き軽輩にそこまで!?
参りましたねー。』
そして少佐と形式的に肩を叩き合って笑う。
地球でもそうであるように、戦場とは味方の視線と戦う空間である。
1言たりとも失言は許されないし、1秒たりとも気は抜けない。
夜更け。
ここからが本番である。
両軍共に、見晴らしの良い大河を昼間に渡るような愚は犯さない。
夜の闇に紛れて特殊部隊を互いの国内に潜入させ合い、測量や破壊工作を行うのがセオリー。
ただでさえ水戦に長けている共和国が、前王ブラッディの急逝を知って攻撃を活発化させている。
先週もホイットニー伯爵の陣屋が共和国の決死隊に焼き討ちされる被害が出た。
昼間仮眠を許されていた精鋭部隊もこの時間からエンジンを掛ける。
俺の本番もここからだ。
『夜分に恐れ入ります少佐殿!』
「いえいえ、ヤブキ殿であれば大歓迎ですよ。」
満面の笑みでノックを歓迎した少佐だが、俺が差し入れようとした高級ワインは拒絶。
「申し訳ありません。
軍規により物品の受領が出来ないのです。
いやあ、恥ずかしながら我が軍で賄賂が横行した時期がありましてね。
どうか、ヤブキ殿のお気持ちだけ受け取らせて下さい。」
『なんと!?
知らぬ事とは言え、誠に申し訳ございませんでした!
今後、このような失態を犯さぬよう、厳重に自戒致します!』
ここまでが定型文。
お互い、ワインや軍規などどうだっていい。
【俺は軍規への無知を詫び、少佐は説明不足を詫びる。
話の流れとして少佐が俺に軍陣の作法をレクチャーする。】
この一連の遣り取りを踏むことにより、密談が公文書上で肯定されるのだ。
少佐にだって政敵は多い。
気を遣うのは当然だろう。
「さて、本題。」
『はい、ありがとうございます。』
【説諭も兼ねたレクチャー】の名目で予備櫓に登った俺と少佐は静かな河面を2人きりで眺めている。
これは軍務ではなく私的贈答を試みた不心得者に対する説教なので、会話を記録する義務はない。
「率直にお願いします。
ヤブキ殿の攻撃射程を検証させて頂けませんか?」
『はい、喜んで。』
「国王陛下が個人的に興味を持っておられましてね。」
直訳すれば、【スキルの詳細は王だけが把握したい】ということだ。
当然だろう。
俺が王様でも同じ事を考える。
実験台は無数に浮かぶ共和国側の哨戒艇。
「取り敢えず可能な限り殺してみて下さい。」
とのオーダーだったので、指が痛くなるまで乱射する。
軍用のエーテルも半強制的に服用させられたので、MP切れを理由にした中止は認めない、という意味だろう。
俺の視力では詳細が分からないのだが、共和国側は阿鼻叫喚らしい。
兵士達の怒号は響き渡っているのだが、それを発しているのが味方陣営なのか敵陣営なのかすら分からない。
結局、よく分からないまま300発ほど撃ち、本当に指が痛くなったので何とか許して貰えた。
ステータス画面を見た限り、殺せたのは38人だけ。
自分の中では完全に失敗だったのだが、翌朝の少佐が異常に親しげに抱擁してきたので、軍人としては好ましい成果だったらしい。
「ヨハン・カーディナルと言えば、共和国側のスーパーエースですよ!!」
少佐が頬を紅潮させて語ったところによると、俺が昨夜撃ち殺したカーディナル中佐なる人物は共和国軍特殊部隊の総隊長であり、その卓絶した指揮能力に王国側は痛い目に遭わされ続けてきたとのこと。
「それで、申し上げにくい事なのですが…」
恥ずかしそうに少佐がモジモジし始める。
なるほど、コイツも年齢相応の可愛げはあるんだな。
『ええ、昨夜の私は全て少佐殿のご指示に従って動きました。
少佐殿の迅速かつ的確な判断能力には非常に強い感銘を受けました。』
「ははは、いやあ。
参りましたねえ、それでは私が言わせてるみたいだ。
ははは。」
新王即位直後だからな、軍人達は少しでも心証を稼いでおきたいのだろう。
特に少佐は前王の考案した評価システムに乗って出世したらしいので、代替わりの恐怖はひとしおなのかも知れない。
兵舎で少佐がニコニコしながら報奨金と表彰状を渡してくれたが、この世界の異邦人たる俺には割に合っていたのか否だったのかすら判別出来なかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『じゃあ、今回の総括をさせてくれ。』
帰路、キャシーと2人きりになった頃合いを見計らって話し掛ける。
「新王への点数は稼げたと思います。
共和国軍のカーディナル中佐は猛将として有名でしたから。
我が国の武将を何人も討ち取っていますし、そんな難敵を即位早々に倒せたのは新王にとってかなり幸先が良いです。」
『だろうな。
軍人さん達の態度が急に好意的になったから、正直驚いたよ。
まあ、悪くは無かった。
…だが。』
「性に合いませんか?」
『割には合ってるよ。』
この国が安泰ならな、という台詞は当然胸に秘める。
俺の目的は俺が勝ち抜くことであって、その拠点が貴様らである必然性はないからだ。
今回の殺害人数 38名
総殺害数 62名
【ステータス】
「名前」
矢吹弾
「能力名」
ピストル
「能力」
詳細不明
リボルバー式の銃がホルスターごと腰に固定される。
弾倉数5。
1発射撃するごとにMPを1消費する。
撃ち尽くすと約60秒後にリロードされる。
有効射程距離50メートル
最大射程距離80メートル
「パラメーター」
《LV》 6→8
《HP》 24/24→30/30
《MP》 19/23 31/31
《力》 9→10
《速度》 14→17
《器用》 24→27
《魔力》 10→10
《知性》 14→15
《精神》 22→25
《幸運》 32→37
《経験》 2700→6500
本日取得経験値 3800
次のレベルまでの経験値2700
レベル9に到達するまでに必要な総経験値9200
☆レベルアップルール
召喚者の初期レベルは1。
レベルアップに応じて必要経験値が100ずつ増加する。
1→2 100
2→3 200
3→4 400
4→5 700
5→6 1100
6→7 1600
7→8 2200
8→9 2900
9→10 3700
10→11 4600
「経験値表」
人間 100ポイント
狼系 50ポイント
【筆者から】
貴重なお時間を割いて頂けた事に感謝しております。
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