表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三題噺もどき4

嫌悪

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくにじゅうはち。

 



 楕円形のようになった月が、空に浮かんでいる。

 昨日とは打って変わって、今日は天気が良いようだ。

 雲に隠れることもあまりなく、常に煌々と夜道を照らしている。

「……」

 それでも変わりなく昨日と同じように風は強い。

 いや、多少はマシなのかな。強風が毎日続くと、そういう感覚もなくなってくる。これが当たり前になっていくからだろう。海岸沿いとか、もっと酷そうだな。

「……」

 そうだ。今年の夏は海にでも行こうかな。

 夜だったらアイツも連れて行けるし、人もそんなにいない時間を狙えば大丈夫だろう。近場には無いが、それなりに行けばある。海というモノに憧れとかそんなものは持っていないが、今年の夏の夢というか、目標だな。ちなみに春は、花見に行くことだ。

「……」

 秋と冬にやる事って何がるんだろうか……。秋は、紅葉狩りとかだろうか。過ごしやすい気候だとは言うが、昨年はなかったからなそんなもの。

 冬はまぁ雪が降れば、それでよし。温泉巡りというモノにも興味があるが、あまりアイツの気乗りがしないからな。

「……」

 こうして、季節というモノを楽しめるのも、この国ならではなんだろう。

 ホントに、この国に来てからというものの、心穏やかに過ごせていると言う感じがある。幼い自分に見せたら、嘘だと言いたくなるような緩やかな日々だ。夢のような日々だ。

 ……逆に羨ましすぎて、殺してしまうかもしれない。自分なのに。

「……」

 それくらい、あの頃は、平穏というモノとは無縁だった。

 夢見ることもかなわないくらいには、無縁だった。

 どれもこれも、アイツが居たから叶ったものであって、叶えようと動いたものであって。

 きっと、アイツが居なければ今の自分は確実にいない。

「……」

 この日常は、手放すにはあまりにも惜しい。

 目が覚めて、暮れる陽を眺めて、朝食を食べて、仕事をして、散歩をして。

 アイツの作る菓子に舌鼓を打ちながら、休憩をして、また仕事をして。

 陽が昇り始める前に、眠りにつく。

 そんな、緩やかに過ぎていく時間が、どれだけ尊いか。

「……」

 それを。

「……」

 壊そうと伸ばされる手は。

「……」

 何だろうと。

「……」

 許さない。

「……全く…」

 足を止め、そう無意識に言葉が漏れた。

 同時に何かが背後から襲い掛かり。

 しかし、それより早く。

「……何の用だ」

 獣のように伸びた爪が、空を切る。

 そこから、赤が飛び散る。

 殆ど脊髄反射で動いたようなものだが、案外私も衰えていないらしい。困ったものだ。

「――っぐ」

「……」

 たいしたこともないだろうに。呻きながら現れたその何かは、同族だった。

 先日不躾な手紙を送ってきたやつだろう。あれで懲りたと思ったが、全くそんな事なかったらしい。死にづらいと言うか、死に対する恐怖が少ないと言うのは、めんどくさくて仕方ない。下手に再生するから、その程度と驕る。

「―――」

「……どうした、たいして痛くもないだろう」

 未だ赤をまき散らすソレに、問う。

 用があるなら、さっさと済ませて欲しいものだ。私はこれから帰って、また作られているだろうチョコレート菓子を食べなくてはいけない。その後にまだ少し仕事をするのだ。

 コレにかまっている暇はない。

「―――っおまえ」

「用がないなら消えてくれ」

 それが聞こえたかどうかは知らないが、懐に隠し持っていた小さな小瓶の蓋を開け、ひょいと投げる。中身はちょっとした水だ。コレがあの手紙をよこしてから持ち歩いていた。来ないだろうとは思っていたが、万が一というのは、こうしてありあえるからな。

「……」

 途端に、ソレの姿は音を立てて消え、積もった灰は強風に煽られていった。

 せめて、空へ飛ぶしゃぼん玉が、ぱちんと音を立てて消えるように、美しく儚く消えてくれればいいものの。

 これで懲りてしまえばいいが……どうにもめんどくさそうな感じがする。

「……はぁ」

 さっさと帰って、休憩しよう。

 せっかくの散歩が台無しになってしまった。

 その前に風呂にも入らないと。




「……おかえりなさい」

「た、ただいま」

「何をしたんですか」

「…何もしていないよ」

「……先に風呂に入りますか」

「あぁ、そうする」












 お題:脊髄・しゃぼん玉・夢

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ