梟探し
両親に愛され、友達にも恵まれ、なにも不自由のない生活だった。
私、光川飛鳥双子の妹である光川灯里はいつもいっしょだった。
私よりちょっと後に生まれただけなのに、いつも灯里は「お姉ちゃん」って甘えてくる。
いつもは言えないけど、そんな妹が大好きだった。
私たちが16歳になり、お互いに楽しい高校生活を送っていた頃、悲劇は起こる。
いつもいっしょに学校に登校しているが、最近は灯里が寝坊気味だった。
「先に行ってていいよ、お姉ちゃん」
今日は委員会の仕事があったので、急がなくてはならなかった。
そんな私の心境を感じ取ったのか、灯里はまだ毛布にくるまったまま言った。
「ごめんね、灯里。授業が始まる頃には来てよ」
そんな言葉を残して家を後にした。
4時間目の国語の時間。いつものように授業を受けていると、突然、教室の電話が鳴り始めた。
先生が小声で電話をしていると、急に「なっ」と息を呑む。何故か心の奥から謎の嫌な予感が広がっていったのを感じた。
先生は受話器を直すと、呼吸を一つしてからいった。
「光川、今すぐに準備をして帰りなさい」
何が何だかわかんなかった。
自転車を全速で飛ばして家に着くと、家の前に救急車とパトカーが止まっていた。
嫌な予感がどんどん膨らんでいく。
家の前にお父さんとお母さんが泣きながら立っているのを見つけた。
「お母さんお父さん!どうしたの?何があったの...」
次の瞬間、家からブルーシートが被せられた担架が運ばれてきた。
その時、全て悟った。
音をたてながら心の中で何かが崩れた音がした。
それは脆い飴細工のように心を侵食していき、ついには私自身の心をも蝕んでいった。
後に両親から聞いた話によると、灯里は同級生からいじめを受けており、精神的に不安定な状態であったそうだ。
あの日、私が学校へ行った後に部屋で1人、首を吊っていたのだという。
許せなかった。
灯里をいじめていた同級生を?いや違う。
灯里の変化に気づかず、無惨な死を迎えさせてしまった自分に対してだ。
灯里の通学頻度が日に日に少なくなっていっていたのも知っていた。私たちはいつでも心の中で繋がっているたはずなのに...
私は何も救えなかった。
そんな思いは、日に日に私を食い荒らしていっ
た。
――――――――――――――
もし神様なんかがいるとするのなら、なんで灯里を救ってあげなかったのだろう。
どうにも理不尽な世界だ。
もう一度会って、謝りたい。
それが私の、たった一つの願いだった。
もう私はどんなことがあろうと、幸せにはなれない。それが運命が下した定めだと思った。
私は妹の理不尽な犠牲の上に立っている。
きっと灯里は私を恨んでいるだろう。
ずっと信頼していた仲なのに、どうして気づいてくれなかったの。なんで私がいじめられるの。
そんな重いから灯里は一人、首を吊ってしまった。まだ小さな命を奪ってしまった。こんなことが許されていいのだろうか。
私は枯れた涙を拭きながら一人ベットの中で眠った。
―――――――――――――
灯里がいない日々は、なんにも楽しくなかった。
おはよう、と毎日挨拶する人も、一緒に学校へ行く人も、なんにもなくなった。
そんな飛鳥を気遣ってか、クラスメイトも空っぽな飛鳥と距離をとるようになっていた。
突然スマホに連絡が届く。
見れる気には相当なれなかったが、自分のことを忘れられるのでしょうがなく確認すると、一つのメッセージが届いていた。
『飛鳥
僕は彼女を追いかけるよ。今までありがとう
湊』
それを読んだ瞬間、大切なことに気づいた。
気づいた頃には私は教室を飛び出して上靴のまま、あの場所へ向かった。
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通学路から少し外れた小さな橋にくると、予想通り、彼が今にも飛び降りそうな姿勢で立っていた。
彼、池羽湊は灯里の交際相手であった。2人は誰がどうみても愛し合っていた。それはお互いにお互いの人間性に惹かれたのであろう。
だが最近は灯里と連絡が取れなくなり、心配していたようで最近だと毎日、家によっては灯里の安否を確認していた。
そのうち、私とも少しずつ信頼を作り上げて行った。そう、彼なら灯里を幸せにできる、という信頼からくる確信を。
灯里はいつも笑顔だった。
だからこそ、私も湊もあんなことが起きているとは思いもしなかったのだと、今になって思う。
かけてくる私を見つけると、湊はどこまでも悲しそうな目をしていった。
「ごめん飛鳥。僕もう限界だ」
2人は心で繋がり合っていた。その分、自分の存在意義を見失っているように見えた。
「ごめん」
灯里を救えなくてごめんーー。
私には湊がそう言っているように聞こえた。
失った者同士。もうなにも無い。
どこにいるの?
でも大丈夫。待ってて、すぐ逝くから。
私は心の中で灯里に話しかけると、死への旅に向かった。
ー本当にそうなの?ー
耳元で風がなびく音が灯里の訴えのように聞こえた。
梟・・・「幸せ」を意味する鳥。