お前、ぬくもり。
古びた団地の傍で生まれたおいら。五匹兄弟の長男だったことからか兄弟たちよりも一回り大柄な体だったが、温厚なな性格だったと母猫は言っていた。
時が経ち、裏路地に独り立ちして少し経ったある夜のこと。おいらの陣地にしらないサビ柄の奴がとことこ歩いてきたんだ。
そいつはおいらよりも2回りほど大きくて、珍しいサビ柄に加え、尻尾が先端でかくっと曲がったような鍵尻尾が特徴だったことが鮮明に覚えている。
おいらは不器用ながらにも威嚇した。
「やぁ黒猫くん。ここはいいところだね、時間帯によっては日向ぼっこができて、日陰にもなる。俺の新陣地にはとっておきだ」
新陣地...まさかこいつはおいらの陣地を奪いに!?
そう思うと居ても立っても居られなかった。
黒猫ということを生かして闇夜に溶け、素早く相手の口元を精いっぱい引っかく。
「ぐわっ!!」
奴の左口は縦方向に裂けて真っ赤な血が出てきていた。それを確認すると、奴は毛を逆立てて威嚇してきた。
「手加減をしようと思ったが、この俺を怒らせちまったようだなぁ?」
奴はそう言うと思うと次の瞬間、僕の耳目掛けて吹っ飛んできた。
空中でなすすべなく真正面から攻撃を受けたおいらはそのまま地面に落ちる。
「に゛ぁぁあ」
おいらの左耳は完全に潰れ、右耳もほとんど聞こえなくなってしまった。
痛みに苦しむおいらを満足そうにみた奴は、尻尾を機嫌が良さそうに振ると一言付け加える。
「今回は俺の勝ちだ黒猫くん。だがこれだけは覚えておけ。俺の名前はジン。この町のボスだ。キミが大人になったら是非いつかともう一度俺と戦おうじゃないか」
そういうとジンは塀に登り、鍵尻尾を揺らしながら去って行った。
おいらはその影去っていくのを見ることしかできなかった。
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それからというもの、おいらはそこから離れた路地裏に隠れて暮らすようになった。だがそこの近くは"ニンゲン"が多くいたので、耳が潰れているおいらは、よく蹴られたりした。
正直あそこで死んだしまえばよかったと思った。
寒い。痛い。苦しい。
もう限界だと思い、立ちすくんでいると、小さなニンゲンがおいらの陣地に入ってくるのがわかった。
威嚇しようとするが、その気力も残っていない。
おいらはニンゲンに殺されてしまうのか。そう思って身を縮めると、そのニンゲンは予想外の行動をした。
おいらに気づいているのかわからないが、壁に背をもたれて座ってしまった。
その時おいらは悟った。お前も死にそうなんだな、と。
その時おいらは寒かった。とても寒かった。何でもいいから暖を取りたい、と思った。
おいらは勇気を振り絞ってお前に近づいた。ゆっくり、ゆっくり。その瞬間にもお前は苦しそうな呼吸を続けているのが胸の動きからわかった。
こいつにおいらを傷つける力はもうないと感じると、おいらは思い切ってお前の膝に乗った。
「にぁ〜」
思わず声が出てしまうほど、そこは今までに感じたことないほどに暖かかった。
体温だけではない、なにかどこかで繋がっているような安心する暖かさ。
お前はおいらをみて目を見開いたかと思うと、がくっと瞼を落として眠ってしまった。
それに続くようにおいらは暖かさの中、安心して眠りに落ちた。
本作「お前、暖かい。」は第一話「こいつ、すき。」の"こいつ"の過去と僕との出会いをお話にしたものです。
「こいつ、すき。」との伏線回収もたくさんあるので、是非比べて読んでみてくださいm(._.)m




