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鏡は意識の交差点

ネメシス・・・『不幸の神』

夢の中の狼・・・『危険が迫る』


ーそれは、鏡の中に閉じ込められた俺だったー


 怖くて口が閉まらなかった。しかも鏡の中の俺は、何かを一生懸命に叫んでいる。

 近づいてはいけない。脳が本能的にアラームを流すが、それを無視するかのように自然に手が全身鏡に伸びていった。

 手が勝手に動いていく。怖くて声も出せない。なのに、どんどん手は鏡に近づいていく。


 ピタッ


 指が鏡に触れた瞬間、静電気が走ったかのように僅かな電流のようなものが、全身を駆け巡っていった。


『聞こえるか!?』


 次の瞬間、鏡から声が聞こえた。聞き慣れた、自分の声だった。


「な、なんだよお前!なんで俺がもう1人いる!?」


 その時には口も手も自由に動かせるようになっていた。だが周りの風景は時間が止まったかのように白黒になっており、自分と"もう1人の俺"だけが鮮明に色を放っていた。


『よかった、あのヤギが言ってたことは本当だったのか...!そんなことはどうでもいい、お願いだ聞いてくれ俺!』


 不思議なことを呟くと鏡の中の自分は語りかける。


『お前、もう自覚したのだろう?』


「自覚って何を...」


 鏡の中の自分が問いかけることが一瞬わからなかったが、すぐに1つだけ思い浮かぶことがあった。いや、1つしかない。多分このことだろう。


『言ってくれ。お前が言わなきゃ意味がない』


 心臓の鼓動が高鳴っていくのがわかる。

 俺は1つ呼吸を置くと、言い放つ。


「俺は本当の俺じゃなく、2人存在する。

   そしてあいつも、おそらく2人存在する」



―――――――――――――


 2人存在する。というとドッペルゲンガーが思いつくだろうが、性格にはそうではない。

 心の中に2人の人格が存在する。いわゆる、多重人格というやつだ。

 

『いつ気がついた?』


「あれは...」


 あれは1ヶ月前。家に帰ると、部屋が酷く荒らされていたことがあった。

 すぐに空き巣だと察し警察に通報すると、正確な証拠がない限り動けない。と門前払いされた。

 そこでバカなりに考えた結果、部屋の中に小型のペット用カメラを設置することにした。

 それから毎日寝る前に変化がないかその日の様子を見ることが日程になっていった。

 最初の1週間は何も起こらなかったため、自分で酔っ払って荒らしたのだと思っていた時のこと。


 雨の日に変化は訪れた。


 シワひとつないスーツを身につけ、髪も整髪料できちんと整えた、見るからにハイスペックな人が家の中に入ってきたのだ。

 家に知らない人が帰ってきた、という証拠を得ることができたため、警察にこの録画を持っていって...と考えていると、その男の顔が見えた。


ーその男は、俺だったのだー


 どこからどうみても俺。俺を知っている人からしてみれば、10人中10人が金松だと答えるだろう。

 色々混乱し、インターネットで調べていくと、一つの病名にたどり着いた。それは、


『解離性同一性障害...ってことか』


 鏡の中の俺は顎を撫でながら答えた。

 今思えば、カメラでみたハイスペック男子とはこの鏡の中の俺、そのものだった。


「それで自分の病名を知れて、もう1人の自分とも出会えて、どうしろっていうんだ?精神科を受診しろってか?」


 何故か俺は突き倒すような言い方になっていた。自分でもわからないが、1つの現実逃避なんだろう、と馬鹿なりに納得してしまう。 


『違う、そうじゃない。実はお願いがある』


「お願い?」


『どうか、笠島を救ってやって欲しい。そうしないと、"本当のあいつ"はもう2度と現世に姿を表さなくなる!』



――――――――――――――


 まるで、眠っているみたいだ。でも手も動かせるし耳も聞こえる。だけど体が浮遊感に包まれている。


〔おいで〕


 突然脳に響く優しいハープのような声に自然と導かれ、俺は雲の上を歩いていく。


〔こっちだよ〕


 そこには、1匹碧眼の狼がいた。


〔私はネメシス。さぁ子羊よ、こっちにおいで〕


 そう言い放つとネメシスは強い光を発し出した。それに吸い込まれるように足を進めた。



――――――――――――――


『帰ってこなくなる前にどうか、あいつを助けてくれ...』


 鏡の中の俺は膝をつくと、力弱く嘆いてしまう。

 なんのことだかわからない、だがここで一歩踏み出さないと、もう一生笠島に会えないような気がした。


「任せろ。俺が笠島を守ってやる。もちろん、もう1人の笠島もな」


『ありがとう...』


「で?どうすればいいんだ」



『俺たちは天気によって人格が変わる。それはあいつも同じであることが、社員の様子からわかった』


 俺が何もしていない間に、もう1人の俺はそんなこと調べていたのか。どうやらもう1人の俺は、頭がよく回るやつらしい。


「晴れの日は俺、金松。そして雨の日はお前...」


直斗(なおと)と呼んでくれ』


 直斗は力強く頷く。


「雨の日は直斗ってわけだな?」


『そうだ。そしてあいつは晴れの日は笠島...雨の日は晴彦という青年に変わるんだ』


 難しい話題についていくことに集中する。


「で、どうしたら笠島を救えるんだ?」


 直斗は1つ呼吸を置くと答える。


『それは、晴れの日、雨の日それぞれのあいつに"自分の人格は2つある"ということを自覚させるしか方法はない』



――――――――――――――





最後まで読んでくれてありがとうございます。

第14話「交わる記憶」では本作の続きを書いています。是非チェックしてみてくださいm(._.)m

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