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御影の消息

御影・・・神や貴人の霊魂。死んだ人の姿。


消息・・・手紙や知らせ。メッセージ


「灯里!?」


 僕が声をあげると、彼女は砂埃のようにさっと消えていった。

 僕を死へ追い込もうと、待っているのか。

 

 僕は何度も灯里に救われてきた。

 嬉しい時も、悲しい時も、苦しい時も。そんな時はいつだって灯里が横にいてくれた。


 次は僕の番だ。僕が灯里のそばにいてあげなきゃ。


 決心すると、明日という日に向けて眠りにつく。



――――――――――――――

 


 時間はあえて放課後にした。

 違うと言ったら嘘だが、別に、誰かに気づいてほしかったわけじゃない。

 発見をなるべく遅らせないようにしたかった。それだけだ。


 通学路を少し抜けたところにある、小さな川の橋。川の流域こそ狭いが、川上から流れてくる勢いで水の流れが早くなっている。



 

 橋の手すりを跨いで橋の縁に乗る。

 後ろでつかまっている手すりは離したいほどに冷たかったが、まだだ。まだ...


「み、湊...?」


 そんな声に顔を上げると、橋の前にきっと僕が心の底で待っていた人が立っていた。

 それを確認すると、なるべく声が震えないようにしていった。


「ごめん飛鳥。僕もう限界だ」


 それを聞いた灯里の双子の姉である飛鳥は、目を大きくさせると、俯いたまま黙ってしまう。


 止める理由はない、ってことか。

 僕は瞬時に悟った。


「ごめん」


 灯里を守ってあげられなくてごめん。

 来世は絶対に守ってみせるよ。


 手すりに再び手をかけ、落ちる準備を完了させると覚悟を決め、前方に体重をかける。


「ねぇ、」


 両手が手すりから離れる寸前、飛鳥が手首を思いっきり掴んだ。

 髪がかかってよく見えない目は潤んでいるように見えた。


「私といっしょに逝こうよ。死への旅に」


 こちらを向いて放った言葉は涙に濡れ、飛鳥の魂からの叫びだと感じたが、それ以上に別のことに心が突き動かされた。


 飛鳥の背後に昨日とは比べようもないほどはっきりと、自宅で首を吊ったはずの灯里が立っていた。

 浮いていた、と言ったほうが正しいのかもしれない。それほどに不思議な存在に見えた。


 灯里は飛鳥の肩にそっと手を置く。

 手を置かれた本人はそれに気づいていないのか、涙で潤んだ目で私を見つめている。


 これが灯里のどんな感情を表しているのか、僕には「飛鳥を守って」というサインに感じた。


 ただ、それだけ。


 僕は計画より少し遠回りした死への旅に行くために、飛鳥の手を握り返した。

 

 





本作では幽霊が見える湊目線での、第8話「親愛以上、信頼以下。」の伏線回収をしています。

第12話「鮮紅花火」では湊が夢の荒野に迷い込んだ話を書いていますのでそちらもチェックしてみてください!m(._.)m

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