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シナリオ

■異世界イアンカムス 荒野 昼


 荒野に巨大な鋼の巨人──ガンダリアンXが茫然と立ち尽くしている。


※ガンダリアンXとは地球世界で人気のロボットアニメに出てくる主人公ロボット。騎士の様な姿で腰には剣、右手にはハイパーレールキャノンを装備している。


 ガンダリアンXの中には【草薙サトル 40歳 元社畜】の魂が存在している。

 サトルは足元の水溜まりに写し出された自分の姿を見て愕然となる。


サトル「オレ、どうしてガンダリアンXに転生してるんすか⁉」


〈時間はほんの少し遡る──。〉


■ 日本 とある繁華街 夜

 

 プラモ屋から出てくるサラリーマン風の男性──草薙サトル40歳はガンダリアンロボXのプラモの入った袋を持ちながらウキウキとした様子で歩いている。


サトル「明日は一か月ぶりの休みだから、今日は徹夜で新作ガンダリアンロボXのプラモを作るぞ!」


 サトルはそう呟きながら嬉しそうにガッツポーズを取る。

 脳裏に過るのはブラック企業で酷使される辛い日々。

 すると、サトルは突然、がっくりとうなだれる。


サトル「彼女もおらず、薄給でブラックな企業にこき使われ、プラモ作りが唯一の楽しみ……オレの人生、そんなんでいいのかね?」


 サトルはふと空を見上げる。視線の先にはキラキラと輝く星々と満月が見える。

 サトルの脳裏に子供の頃、未来への希望に満ち溢れ輝いていた学生時代の自分の姿が過る。


サトル「オレの夢って、なんだっけか?」


 その時、周囲が騒然となる。


女性の声「きゃあああああああ⁉」


男性の声「逃げろ! 通り魔だ!」


 通りの向こうから、大勢の人々が逃げてくる姿が見える。

 悲鳴や怒号が周囲に溢れ返る。

 

サトル「何か事件か⁉」


 サトルが前方を目を凝らして見ると、包丁を持った中年男が暴れている姿が見えた。


通り魔「バカにしやがって! オレをコケにした奴ら、全員に思い知らせてやる! オレは負け組じゃねえ! 負けてなんかいねえ! ただ本気を出していないだけってことを証明してやるあああああああ⁉」


サトル「やばい⁉ 完全にいっちゃってる奴だ。早く逃げないと……!」


 その時、サトルは通り魔の男性が幼い娘を連れた母娘に襲い掛かる光景を垣間見る。


サトル〈あの母娘、もうだめだ。すまん、オレにはどうすることも出来ない……!〉


 サトルは目を閉じると頭の中で繰謝罪の言葉を繰り返しながら走り出す。

 しかし、向かった先は母娘の元だった。

 通り魔の包丁が母娘に襲い掛かろうとした瞬間、サトルは通り魔の前に立ちはだかる。

 次の瞬間、サトルの胸に包丁が深々と突き刺さった。


サトル〈あれ? オレ、どうしてこんな馬鹿なことをやってんだ? 見ず知らずの赤の他人を助ける義理なんかないってのに〉


 サトルは必死の形相で胸に包丁を突き刺されながらも通り魔の男性にしがみついた。


サトル〈何だよ。こいつ、よく見たらオレよりちょっと若いじゃねえか。その年齢なら、いくらでもやり直しはきくだろうに〉


 通り魔の男性は怒声を張り上げながらサトルの身体を引き剥がそうともがくが、サトルは男にしっかりとしがみつき離れようとはしない。

 意識が遠のき始めた頃、ようやくパトカーのサイレンが聞こえてくる。

 その時、サトルは思い出す。


サトル〈思い出した。オレは正義の味方になりたかったんだ……〉


 チラッと横を見ると母娘は酷く怯えていたが無事の様子が確認出来た。


サトル〈オレはこの日の為に生きて来た……そう思うことにしよう〉


 そうしてサトルは静かに目を閉じた。


■ 転生の間


 目覚めると、サトルは何もない空間に佇んでいた。

 サトルはキョトンとしながら周囲をキョロキョロ見回す。


サトル「あれ? オレ、どうなったんだ?」


 すると、目の前が突然光り出すと、神々しい姿の女性──女神エレウスが現れた。


サトル「だ、誰だ?」


エレウス「我が名は女神エレウス。草薙サトル、貴方は悪漢から尊き母娘を守り命を落としたのです」


サトル「あ、やっぱりあれは夢じゃなかったのか。それでここは何処だ?」


エレウス「ここは転生の間。今から貴方には異世界に転生し、そこで新たなる人生を歩んでいただきます」


サトル「オレみたいなただのおっさんを異世界に転生させるだって⁉ こう言っちゃなんだけれども、考え直した方がいいっすよ? 他にも優秀な人間は大勢いるだろうし」


エレウス「もちろん、本来であれば貴方ごとき凡夫をわざわざ異世界に転生させる理由もメリットもありません。正直、こちらとしても貴方より優秀な人間を転生させた方がメリットがあります」


 真実を告げられ、サトルは少しムッとなる。


エレウス「しかし、貴方が救った少女は将来、聖女として異世界に召喚される運命を背負いし者。故にその功績を認め、褒美として異世界に転生させる権利を与えることに致しました。もし転生を拒否するならば、来世はこちらの世界でその辺に生えている雑草かインフルエンザウイルスのどちらかに転生させることになりますが、どうなさいますか?」


サトル「異世界に転生でお願いします」


 サトルは、ハハーッと平伏しながら言う。


エレウス「ならば、本来は一つだけのところを、未来の聖女を救った褒賞として三つほど貴方の願いを叶えて差し上げましょう」


サトル「本当っすか⁉ それならすんごいチート能力もいいし、イケメンになるのもいいな」


 その時、サトルの脳裏に過去に味わって来た屈辱の日々の記憶が過る。子供の頃から社畜になるまでの間、サトルは数多くの虐めを受け続けてきた。そして最後に通り魔に殺害された時の記憶も過る。


サトル〈もうクソ野郎どもに虐げられるのも、誰も守れないのは嫌だ。オレは圧倒的な強さが欲しい。そう、ガンダリアンロボXみたいな圧倒的な強さが!〉


 サトルは決意したかのように頷くとエレウスに言った。


サトル「なら、来世では誰にも負けない鋼の (ように強い)身体が欲しいです!」


 エレウスはサトルの脳をスキャンし記憶を読み取る。

 その時、エレウスの頭の中にはサトルの大好きなロボットアニメ【ガンダリアンX】が映し出された。


エレウス「了解しました。では、貴方には鋼の身体を与えましょう! 残りの願いは転生後に叶えて差し上げますので慎重に考えておくのですよ」


 次の瞬間、サトルの全身は眩い光に包まれた。


■ 異世界イアンカムス 荒野 昼


〈そして冒頭に戻る。〉


 変わり果てた自分の姿を見て愕然となるサトル。


サトル「いや、そりゃあさ! 鋼の身体が欲しいとは言ったよ⁉ あの馬鹿女神は比喩も知らんのか!」


 しかし、水溜まりに映る自分の姿を再度見て、少し格好良いと思い始める。


サトル「まあ、なってしまったものは仕方が無いか。これはこれでいけるな……」


 その時、頭の中にエレウスの声が響いて来る。


エレウス「お目覚めですか、サトル」


サトル「その声はエレウス⁉ 何処にいるんだ⁉」


エレウス「正確には私はエレウスではありません。エレウスの断片的な存在。魂の一部を切り取り、サトルのサポートをする為に搭載されたシステムです」


サトル「それじゃあ、お前のことは何て呼べばいいんだ?」

 

エレウス「普通に至高の御方、女神エレウス様でよろしいですよ?」


サトル「断固拒否する。名前の一部を取ってエレって呼ばせてもらうよ」

※以後、名前をエレウスからエレに変更。


サトル「それでエレ、ここは何処なんだ?」


エレ「ここは異世界イアンカムス。魔法と幻獣の存在する世界」


サトル「そんなファンタジーな世界にオレはロボとして転生したってわけか。場違いにも程があるぞ」


 その時、レッドアラームが鳴り響く。


エレ「警告。敵対勢力の存在を感知しました。近くで村が襲撃されています」


サトル「村が襲われている⁉ なら、助けに行かないと!」


エレ「何故ですか? わずかな現地民を救いに危険を冒す理由が分かりません」


サトル「いや、でも、オレ、正義のロボ【ガンダリアンX】の姿で転生したんだけれども?」


エレ「だからなんですか?」


サトル「ああ、もういい! とにかく村の場所を教えてくれ。助けに向かう!」


エレ「了解しました。ここから北に3キロの場所です」


サトル「よし! 向かうぞ!」


 そう言ってサトルは走り出す。一歩足を踏み出すと、メリメリと重さで足が沈み大地が悲鳴を上げる。そして二歩目を出した瞬間、音速を超える速さで駆け抜けた。

 ほぼ一瞬でサトルは村の付近に到着した。しかし、勢い余り急には止まれず、近くで村を襲っていた魔物の集団に突っ込んでしまった。

 数十ものゴブリンやオークなどといった魔物が吹き飛び血と肉片が飛び散った。


サトル「やばい! 沢山轢いちゃったぞ⁉」


エレ「肉片にしたのは全て薄汚い魔物ですので問題ありません」


サトル「いやいや、そういう問題じゃ……まあ、結果オーライか」


 サトルは周囲を確認する。

 村からは黒煙が上がり、周囲には数百もの魔物が確認される。

 

サトル「まずい! 早く何とかしないと! エレ、何か武器は無いのか⁉」


エレ「その機体については、私よりサトルの方が詳しいのでは? それは貴方の思い描く通りの性能を持っているはずです」


サトル「マジか⁉ なら、ハイパーレールキャノンで……いや、威力が強すぎて村ごと吹き飛ばしちゃうか。ならビームサーベル、だと敵が小さすぎて逆に当たらない。なら、最弱の武装【頭部バルカン】で!」


 サトルが「バルカン!」と叫ぶと、頭部からバルカン砲が火を噴く。

 たちまち銃弾の雨が魔物に降り注ぎ、次々と肉片に変えていく。

 魔物達は弓矢で抵抗を試みるもサトルの装甲には傷一つつけることが出来ず跳ね返される。


サトル「そんなんでガンダリアンXの装甲に傷一つつけられるものかよ!」


 サトルは容赦なくバルカン砲を撃ちまくり、周囲の魔物を全て駆逐する。

 すると、目の前に一匹の巨大な魔物、ジャイアントオーガが現れる。身長は20m程度。今のサトルよりわずかに背が高い程度。


ジャイアントオーガ「グオオオオオオオン!」


 ジャイアントオーガは大木のような棍棒でサトルに襲い掛かる。


サトル「無駄だ!」


 サトルはビームサーベルを抜くと、棍棒を切り裂き、そのままジャイアントオーガの首を斬り落とした。

 ジャイアントオーガの死を見届けた魔物達は戦意を喪失し、散り散りになって逃走し始めた。


サトル「ふう、これで良し。エレ、他に敵の姿は確認出来るか?」


エレ「魔物は全て逃走しました。我々の勝利です。ですが、一つ問題が」


サトル「話はあとだ。村から人が出て来たぞ?」


 村から大勢の村人達が現れる。だが、サトルを前に村人達は全員、怯えたように顔を蒼白している。


サトル「ありゃ? 様子が変だぞ? もしかして、オレを見て怯えているのか?」


エレ「それはまあ、当然のことかと。いきなりこんな得体の知れない物が現れれば誰でも怯えるでしょう」


サトル「敵じゃないって伝えないと。おーい、オレの名前はサトルって言います! 敵じゃないのでご安心を!」


 サトルの声は響いているが、村人達は動揺した表情で意味を理解出来ずにいるようだった。


サトル「もしかして、オレの言葉が分からないのか?」


エレ「私が通訳しましょうか?」


サトル「すまない。頼むよ」


 すると、エレはサトルの言葉で異世界語を話し始めた。

 村人達はエレの言葉は理解出来ている様子。

 一度、村人達は笑顔を浮かべ歓声を上げる。

 しかし、再度エレが何かを話すと、村人達の表情が絶望に塗れた。がっくりとうなだれ、すすり泣く者すら現れた。


サトル「おい、エレさん? 何だか村人達は喜んだり泣いたりと忙しない様子ですけれども何を話したんだい?」


エレ「魔物どもは我々が駆逐したのでもう大丈夫と」


サトル「ほうほう、それで?」


エレ「助けた見返りに若い娘を一人生贄に捧げろと要求しておきましたから」


 サトルは驚きのあまり噴き出す。


サトル「一刻も早く訂正しなさい! それじゃオレが悪魔じゃないか!」


エレ「惜しい。村人はサトルのことを【魔神様】と呼んでいますよ?」


サトル「魔神だと⁉ いやいや、ないない! この姿を見て魔神はあり得ないって! だってガンダリアンXは世界を巨悪から守る正義のスーパーロボットなんだよ⁉」


エレ「そんなこと私の知ったこっちゃないですよ。私はただ村人の言葉をサトルにお伝えしているだけなので」


 すると、サトルの目の前に悲壮感を漂わせた一人の村娘が歩み出る。

 目の端から涙の粒をこぼしながら、必死に笑顔を作って何かをサトルに喋っている。


サトル「聞きたくないけれども、あの村娘さんは何をおっしゃっておいでで⁉」


エレ「ええと【私の名前はシャノン。魔神様、どうか生贄は私だけにして、他の者達には手出ししないでください。それさえ守ってくだされば私は生きながら貪りつくされようとも構いません】って言っています」


サトル「これじゃオレ、完全に悪役じゃん⁉ そんなのは嫌じゃ!」


 その時、サトルはハッと何かに気付く。


サトル「おい、エレ。転生前の話はまだ有効なんだよな? なら二つ目の願い事だ。こちらの言葉を話せるようにしてくれ!」


エレ「了解。ただちに翻訳機能を有効にします」


 サトルの全身は一瞬、柑子色のオーラに包まれる。


シャノン「どうかさないましたか、魔神様?」


サトル「おお⁉ 言葉が分かるようになったぞ⁉ えっと、シャノンさん? さっき言った生贄云々の話は無しだから安心して!」


シャノン「それは本当ですか⁉ でも、私達には他に何も魔神様に捧げられる物はございませんが……」


サトル「いいのいいの! オレが勝手に助けただけのことだからさ。それよりもこの村で少し休ませてもらえるとありがたいんだけれども」


シャノン「では、可能な限り魔神様をおもてなしさせていただます!」


 シャノンがそう言うと、村人達は家に戻っていく。

 サトルは、ふう、と一息つくと、片膝を地面についてしゃがみ込む。


サトル「やれやれ、まさかロボの身体になっても疲れを感じるとは思いもしなかったよ。何だか身体がだるく感じる。ま、気のせいだろうけれども」


エレ「それよりも生贄はよろしいのですか?」


サトル「くどい。気分が悪くなるからもうその話は二度とするな」


エレ「了解しました」


シャノン「魔神様! お酒とお料理です! どうぞお納めください!」


 シャノンを筆頭に、村人達はサトルの前に酒や果物、様々な料理が盛り付けられた皿を持ち込む。


サトル「ありがとう、シャノン。それに村の皆さん。お気持ちだけ受け取っておきます。オレはこんな身体なので食べることが出来ませんから、こちらは皆さんでお召し上がりください」


村人「おお! なんと無欲な魔神様だ!」


 村人達は嬉しそうな表情を浮かべると、ありがたやありがたや、とサトルを拝み始めた。

 その時、機体内に再びレッドアラームが鳴り響く。


エレ「警告。敵対勢力の大軍勢がこちらに進軍中です」


サトル「数は⁉」


エレ「推定百万」


サトル「百万だって⁉ おいおい、流石にやばいんじゃないか?」


 サトルの動揺した様子にシャノンが気付く。


シャノン「あの、魔神様、どうかなさいましたか?」


サトル「さっきの奴らがまたこの村に向かっているみたいなんだ。ここは危険だから、皆は早く何処かに避難した方がいい!」


 すると、シャノンを含めた村人達全員は悲痛な面持ちでサトルから目をそらす。


シャノン「魔神様、残念ながら逃げる場所など何処にもございません」


サトル「へ? でも、近くに別の村とか大きな街は無いのかい?」


シャノン「ございます。ですが、私達は国王軍の命によりこの村から出ることは出来ないのです」


サトル「それはどうして? いや、そもそも国王軍は何故、君達を保護しないんだい?」


シャノン「実は、先程の魔物の群れはこの村の北の廃墟で復活した魔王の軍勢なのです。あまりに急に復活した為、国王軍も迎撃準備が整わず、それで私達の村で少しでも時間を稼げと命じられたのです……!」


サトル「いやいや! そんなの無理でしょう⁉ だって敵は百万の大軍勢だよ⁉」


村人達「百万だって⁉ それではもう死ぬしかないじゃないか⁉」


サトル〈あ、まずい! うっかり口が滑っちまった〉


 村人達はたちまちパニック状態に陥る。


サトル「だ、大丈夫! オレが何とかするから!」


エレ「いえ、それは不可能です」


サトル「やってみないと分からないだろう⁉」


エレ「そうではなく、先程の戦闘で魔力が枯渇しかけています。魔力を補給しないと、このままではまともに動くことすら不可能になるでしょう」


サトル「マジか⁉ それで魔力を補給するにはどうすればいいんだ⁉」


エレ「ですから、その為の生贄です。何度も申し上げたはずですよ?」


サトル「そ、そんな……!」


 サトルは愕然としながら、チラッとシャノンを見る。


サトル〈彼女を犠牲にするだなんて、そんなことは出来ない!〉


エレ「魔力補給をしなければここから離脱することも不可能です。可及的速やかに生贄を再要求し、魔力補給を御薦め致します」


サトル〈一人を犠牲にして村を救うか、何もせず皆で死ぬしかないって言うのか?〉


 サトルはハッとなり、エレに話しかける。


サトル「なら、三つ目の願い事で魔王軍を倒してもらえればいいんじゃないか⁉」


エレ「それは不可能です。女神は地上の事案に直接介入することは出来ません。何の為に勇者や聖女が存在していると思っているのですか?」


サトル「そんなのオレが知っているわけないじゃないか! クソッ! 女神なんて言っても何の役にも立たないじゃないか!」


 すると、シャノンはサトルの足に手を触れさせながら呟いた。


シャノン「魔神様、どうぞ遠慮なく私を生贄にしてください」


 そう言ってシャノンはニッコリと微笑む。


サトル「い、いや! 君はそんなこと気にしなくていい。オレが何とかするから!」


シャノン「嘘。先程から魔神様とエレ様の声が聞こえてきました。村を救うにはもう私が犠牲になるしかありませんよ」


サトル「エレ! お前、わざとオレ達の会話を流したな⁉」


エレ「私は貴方のサポーターです。可能な限り貴方を手助けするように、私は本体の私から命じられておりますので、優先すべきは貴方の生命維持になっております」


シャノン「お願いします、魔神様! どうか私の命をお使いください。この通りです!」


 そう言ってシャノンは平伏して哀願する。


サトル「エレ、本当にシャノンを犠牲にするしか方法は無いのか?」


エレ「皆無です。魔力補給をしたとしても勝利出来る可能性は限りなくゼロに近いと言わざるを得ません」


サトル「それで十分だ。シャノン、済まない。代わりに約束する。オレは絶対に魔王軍を倒し、この村を救って見せるから!」


シャノン「はい、ありがとうございます、魔神様!」


 すると、サトルの腹部のハッチが開く。


エレ「コックピットに生贄……シャノン様を搭乗させてください」


サトル「分かった。シャノン、オレの手に乗ってくれ」


 サトルは巨大な手をシャノンの前に下ろす。

 シャノンは恐る恐るサトルの手に乗ると、そのまま持ち上げられコックピット前に手を寄せられる。

 シャノンがコックピットに乗り込むと、ハッチは閉じられた。


■ サトル コックピット内部


 シャノンが座席に座り込むと電源が入り照明が点く。周囲には機械的なシステムがあり、シャノンは戸惑った様子でコックピット内を見回す。


エレ「シャノン様? お覚悟はよろしいですか?」


シャノン「は、はい! いつでも準備は出来ております!」


 すると、床が開くとそこからサトルの像が現れる。


サトル「はい? 何でオレの像が下から出てくるんだよ⁉」


 エレはサトルの問いかけには無視し、シャノンに話しかける。


エレ「シャノン様、【我が身を贄に捧げる】と呟いた後、誓約の証としてサトルの像に口づけをしてください。それで契約は完了し、貴女の魔力がサトルに捧げられます」


シャノン「もしかして、サトルというのが魔神様の真名なのですか?」


サトル「ああ、うん、実はそうなんだ」


シャノン「では私もサトル様とお呼びしても?」


サトル「好きに呼ぶといいさ」


シャノン「ふふ、ありがとうございますね」


サトル「なあ、シャノン。今からでも遅くはない。君だけが犠牲になることは……」


シャノン「サトル様、私、さっきまでは本当に死ぬのが怖かったんです」


サトル「なら……!」


シャノン「でも、今は違います。だってただの村娘の私が村を救えるんですもの。こんなに嬉しいことはありませんわ」


 そう言うと、シャノンはサトルの像の頬に手を置く。


シャノン「我が身を贄に捧げる」


 シャノンはそう呟いた後、愛おし気にサトルの像の唇に口づけをした。

 その瞬間、サトルの全身に銀色の魔力が迸る。


サトル「力が漲るのが分かる……! シャノンは大丈夫か⁉」


 見ると、シャノンはキョトンとしている。


シャノン「あれ? 私、何で生きているの? 魔力を捧げたら死ぬはずじゃ?」


エレ「いえ、魔力を捧げても死にはしませんよ?」


サトル「いや、でも、お前は生贄にするって言ってたよな⁉」


エレ「はいそうですけれども? でも、私、一言も死ぬなんて言ってません。魔力を捧げて自らを犠牲にするという意味では、生贄と言う表現が最も相応しいと思っただけですが、それが何か?」


サトル「ああ、もう! オレのさっきの葛藤を返してくれ! でも、シャノンが死ななくって本当に良かったぜ」


シャノン「あの、それで、私、どうすればいいんでしょうか?」


エレ「シャノン様、魔力が足りなくなったらその都度、先程のようにサトルの石像に口づけをして魔力を充填してください。魔王軍の大軍に打ち勝つには魔力補給が鍵となるでしょう」


シャノン「わ、分かりました! サトル様、私のことは気にせず頑張ってください!」


サトル「よし! それなら、シャノン、オレに力を貸してくれ!」


シャノン「はい!」


■ 村北部 昼


 魔王軍の大軍勢が迫ってきている。その数はおよそ百万。

 すると、そこに上空から銀色の魔力を全身から迸らせたサトルことガンダリアンXが飛んで現れる。

 サトルは上空から魔王軍を見下ろすと、右手に持っていたハイパーレールキャノンの照準を魔王軍に定めた。

 

サトル「ハイパーレールキャノン!」


 その瞬間、銀色の魔力砲が放たれた。

 たった一撃で魔王軍の1割が吹き飛ぶ。


サトル「これなら勝てるぞ!」


 サトルは次々とハイパーレールキャノンを魔王軍に撃ち放つ。

 轟音が轟き、次々と魔王軍の兵士が消滅していく。

 そして、サトルはビームサーベルを身構えると音速を超えた速さで魔王軍の中に突撃する。


サトル「うおおおおおおおおおおおおお!」


 それから数時間後、魔王軍は壊滅していた。

 サトルは満身創痍の状態で膝をついている。


サトル「どうやら勝てたようだな」


エレ「付近に敵対反応はありません。我々の勝利です」


サトル「一時はどうなるかと思ったぜ。シャノン、早く村に帰って皆にも勝利を報せてやろう」


 しかし、シャノンは座席でうなだれたまま反応はない。


サトル「シャノン、疲れて眠っちゃったのかな?」


エレ「いいえ、彼女は亡くなりました」


サトル「何だって? エレ、冗談は止せ」


エレ「冗談ではありません。シャノン様は全ての魔力を使い切り亡くなりました」


 サトルはそこでエレに騙されたことに気付く。


サトル「エレ、貴様、騙したな⁉」


エレ「騙してはおりません。ただ魔力を使い果たせばシャノン様が死ぬことをお伝えしなかっただけです」


サトル「同じことだ! くそ、そうと知っていればシャノンを死なせなかったのに」


エレ「たった一人の凡人の犠牲で多くの命を救えたのです。嘆くよりも誇るがよろしいかと」


サトル「……エレ、これで一つはっきりとしたことがある。オレはお前が大嫌いだよ」


エレ「はあ……私は別に好かれようとは思っておりませんのでそれはご自由に」


サトル「エレ、最後の願いだ。ちゃんと叶えろよ⁉」


■ 十年後 とある村 昼


 とある村に聖女の一行が現れた。

 聖女の名は高木由香。かつてサトルが救った少女である。

 由香は村に祀られている魔神を見て驚嘆の声を洩らす。


由香「何でこんな場所にガンダリアンXが祀られているの⁉」


 そこに幼い子供を連れた女性、シャノンが現れる。


シャノン「それは村を救ってくれた魔神様です」


由香「へえ、ガンダリアンXは異世界でも正義のロボットだったのね?」


シャノン「いいえ、違います。この方の名はサトル様。自らを犠牲に、私ごとき凡人を御救いくださった偉大な方でした」


 そして、シャノンは涙をこぼしながら一言「ありがとう、サトル様」と呟いた。

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