04 猫さんのお困りごと。
「はい。次は傷の手当です」
そう言って手際よく包帯とシップ、塗り薬を取り出した。
「お前がやったやつな」
「うっ………」
これはきいているな、と口には出さなかったがそう思った。
「その件に関しては、深く反省をしています。心配してもらったのに噛むなどして……申しわけありませんでした」
深々と頭を下げて言ったものだから、さすがの巡も目を丸くした。
「どうかされました?」
「……いやほら、夕月ってそんなに喋らないイメージだったから……ここまでしてくれるとは思わなくて」
「失礼ですね」
言葉はシビアだがその奥には温かさがあったように感じた。
でも関わるのがこれっきりだと思うと思わず苦笑が出てしまった。
そう、これはたまたまだ。たまたま風邪をひき怪我をしただけ。
ラブコメの主人公じゃあるまいしこれからも、なんてことはありえない。
明日からは普通のなんの関係もない隣人に戻るのだから。
「わたしは男から言い寄られるのとかは嫌いです」
朝姫が顔をしかめて言った。
「お前、自分の可愛さ自覚してるだろ」
朝姫はあからさまに驚いた。
図星だったんだろう。朝姫の頬が少し赤くなったような気がした。
「今までちょうちょみてほほえみ一つで大騒ぎされたことは何度もあります。それじゃ嫌でもわかりますよ」
ネコの世界も大変なようだ。
でも正直、ちょうちょをみてほほえむというのは少し子供っぽくて意外だった。
その姿を想像した巡の顔は無意識に笑っていた。
「まぁ、タオルだのなんだのは俺の自己満足でやったんだ。罪悪感を持たれても困る。でもまぁ夕月と関わるのもこれっきりだからな」
「………」
朝姫が驚いた顔をし、巡を見つめた。
関わるのもこれっきりというワードが引っかかったのだろう。
「特に接点ないし当たり前だろ。お前がネコだのなんだの言われてるからってどうこうするともりはない。俺は見返りを求めるつもりはない。もしかして―なんて思ってないか?」
ちょっと気まずそうに顔をそむけた朝姫に図星か、と苦笑する。
これはきっと本人が実際に経験したから疑ったのだろう。
美少女を助けて見返りを求めるやからはきっとそう少なくはないだろう。
そういうことを幾度として経験してきたからタオルを渡したときも警戒の視線を向けてきたんだろう。
「別に好きでもない男に構われるのめんどくさいだろ。お前」
「それはそうですが」
「やっぱりか」
本人が同意したのが少し面白かった。
普段おとなしい優等生の朝姫にもやはり好き嫌いなどはある。少しだけ親近感が湧いた。
本人としてはイメージ崩壊がしたような感覚でほんの少し、巡を恨んだ。
朝姫も感情があるんだなとまた面白おかしく巡は笑う。
「別に好き嫌いがあるのはいいことだ。人間らしさが出てる」
「わたしが人間じゃないと?」
またもや巡が恨めしく朝姫は巡を睨んだ。
「夕月は夕月のままでいい。自分なりに生きればいいんだ」
その言葉に朝姫は目を丸くした、そしてほんのりと苦笑を浮かべた。
ぺこりと頭を下げて出ていく朝姫を思い出しながらベッドの上で寝返りをうつ。
瞳を閉じて今日あったことをおもいだす。
ネコに看病されたなんて言っても、誰も信じてはくれないだろう。
だから言う必要もない。
明日からは他人。
そう言い聞かせ、ゆっくりと意識を沈めていった。