02 猫さんのお申し出。
「巡どした?鼻ずびすびうるさいんだけど」
「お前もうるさいんだけど」
翌日、巡は風邪をひいた。
実は数日前から風邪気味でこれくらい平気だろ、と無理して学校にきていた。
親友の成瀬光に指摘され、フンと鼻を鳴らそうとしたらずびっと鼻が鳴る。
「失敗してんじゃん。ウケる〜」
「うるせぇ」
市販の薬は飲んできたものの、今まで飲んでいなかったのでこのザマである。
あーまた、とティッシュと友達になっている巡に勇気は言った。
「今まで薬飲んでなかったからだぞ〜」
「そこまで症状酷くなかったんだよ」
「てか手首の傷どうした?昨日なかったじゃん」
「……猫に噛まれた」
実際あっている。なぜなら朝姫の二つ名は学園のネコだからだ。
だが、学校で朝姫に噛まれた、など言えるわけもなくこのようなごまかし方をした。
ちらっと朝姫をみたが、ケガ一つなく元気そうだった。
まぁ、気軽に話しかけたのが原因だ。
それとちゃんと手当てしなかった。
「お前部屋散らかり過ぎなんだよ。薬見つけるの絶対苦労しただろ」
「……何でわかった」
「お前んちの不衛生具合みたらすぐに分かるよ。バーカ」
くそ、と思ったがこれは事実なので言い返せない。
一人暮らしなのにこんな生活ではこうもなるだろう。
「土日できっちり治してこいよ」
「……わかってる」
「お隣の猫さんに看病してもらえばいいのにな」
「黙れ。彼女もち」
光の言い方に腹が立ち、自前のティッシュ箱で光の叩いた。
ーーーーー
学校からの帰り道。
巡の状態は悪化していた。学校では鼻水だけで済んでいたが今は席や熱も出てきていた。
もうすぐ部屋と思ったら重い足が上がる。
帰り道で油断していた。体が一気に不調を訴えかけてくる。
自分の住む階にエレベーターがとまると視線の先には―朝姫がいた。
あまりの驚きに一瞬固まってしまった。
朝姫の手には先日押し付けたタオルが握られていた。
しっかり洗濯もしてあった。返さなくてもいいと言ったのに返しに来たのだろう。
「………返さなくてもいいって」
「借りたものは返すのが当たり前………」
彼女の言葉が途切れると巡の顔を見て、こっちに近づいてきた。
「熱、ありますよね」
「……ないし」
最悪のタイミングだ。
タオルを返しに来てくれたのはありがたいが、勘がいい彼女のことだ。
すぐに風邪をひいていることに気づくだろう。
「いいえ、あります。……!この傷……!」
朝姫が手首に目を落とすと、昨日の傷がある。
「わたしが噛んでしまったから……しかも風邪もひいているし……」
「お前には関係ないことだろう」
「大ありです!わたしが泥だらけになって…しかも噛んで……ごめんなさい」
「お前が気にすることじゃない。じゃあな」
巡が勝手にやったことだから朝姫に責任を持たれるのが嫌だった。
だが朝姫も潔く放っておいてはくれない。きれいな顔には焦りと申し訳無さの表情が出ていた。
「あ………」
ポケットから鍵を出してドアを開けた所までは良かった。
でも油断した。
「うっ……」
頭がズキッと痛んだ。
状態がまた悪化したのだ。
あまりの疲労に倒れかけたそのとき。
ぎゅっと腕を引っ張られ、体勢が戻った。
「さすがに放っておけません!」
強い声が薄れゆく意識の中に聞こえてきた。
「借りは返します」
そう彼女が言った途端、巡の意識が途絶えた。