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6話 選択できない選択肢って、意味ある?

お読みいただきありがとうございます。

本日7話分投稿予定の6話目です。

強制連行、その後。


本日のラスト投稿7話目は22時台に予定しています。

「…えーっと……」


今はもうすっかり日も落ちて、広々としたエントランスに柔らかな灯りが灯る。


今まで縁がなかった場所に縮こまってしまう。


上質な調度品。思い思いに過ごしている上品な方々。

別世界をのぞいてみるみたいだ。


よく言えば多国籍で賑やかな都市だったが、ここでは外界の喧騒とは無縁のゆったりとした時間が流れている。


そんなラグジュアリー感が半端ない空間に

先ほどの逃走劇のすったもんだで

薄汚れた身なりの女が迷い込んでいる。


「私1人、場違い感が半端ない…」


「顎が落ちそうです.間抜け顔ですよ、お嬢さん」

「いや…なにが起きているのか頭がついてかないだけですよ」

失礼だなぁ、と思いながらも返答する。


「そりゃあ、戸惑うのは仕方ないよね!

いきなりこんなとこに連れてこられてさ~。

まさかカナタがそんなことするタイプだとは思わなかったよ~」


底抜けに明るいカナタの美貌の友人、リュートが、ヘラヘラっと会話に入ってくる。


「どんなタイプだとお思いですか?リュート君」


「うーん、とりあえず出会ったばかりの女の子を無理くり攫って

ホテルに連れ込んだりするのは、意外過ぎるほど意外だなーって」


顎に手をやりうんうん、と大袈裟にジェスチャーする。


「それは些か外聞が悪すぎませんか…?」


「いや、リュートの言う通りだと思うけど…」

思わず本音がポロリする。


「…地下牢は、この時期はまだ冷えますね?」

笑顔だけど、笑ってないやつ。


「いえいえ!私は優しい紳士に拾われて幸せだなー」


リズムよく返答を返していると、

興味深げに紫水晶(アメジスト)の瞳を細め、声を上げて笑い出すリュート。


「あははは!キミ面白いね~!…しばらく退屈しないですみそうだ。

カナタが仕事の時は、僕はフラフラしてるからさ~かまってよ!」


「フラフラって・・・」


「僕は今休暇中なの。人生の、ヴァカンスってやつ?

カナタは商談でここにくるって聞いたからさ、仕事押し付けてついて来ちゃった♪

カナタ一人で寂しいかなーと思ってね。僕の優しさ?」


「頼んでいませんが…。サボる理由に私をダシに使っただけじゃないですか」


「そんなことないよ~、僕はこう見えても忙しい身の上なんだから。

友情に厚い、いい男だと思ってね、ハルちゃん」


「なんか…そこはかとなくダメな匂いがしているね、リュート」

薄々、そんな気はしていた。


「そうでしょう?」

「そんなっひど~いっ!!」


僕はカナタほどはっちゃけてないよ?と前おきして


「ううっ、ハルちゃん…不憫なっ!

そこのムッツリ紳士に変なことされそうになったら大声で叫ぶんだよ!」


「あなたにだけは言われたくないな…」


「あはは…」

乾いた笑いしか出ない。



とりあえず、私は今この街で1、2を争う高級ホテルに連れてこられていた。


カナタとリュートの滞在先、のようだが

何故このようなことになっているかというと。


時は少し遡る…


・・・・・・


心臓に悪い捕物劇を繰り広げた裏路地から出て、できれば1人で来たかった大通りに出た。


カナタに手を繋がれて。


「子供じゃ無いんだから1人で歩けるよ。

手、離して。もう逃げないからさ」


「駄目。あなたの『逃げない』は信用できない」


「逃げたいけど、多分カナタからは逃げ切れる気がしないよ」


(地獄の果てまで追って来そう…)

ものすごい執念の追走を見せつけられ、さすがの私も心が折れた。


「ご理解いただけて光栄です。これ以上手荒な真似はしたくありませんから」


「…噛んだくせに」

ボソッと呟き鼻先を抑える私。


「ふふっ。なかなか紳士的振舞いだったでしょう?」


「どの口が言う…」


「まぁ、もう逃さないから諦めてくださいね?」


極上の笑顔のカナタ。大変上機嫌である。


(とんでもない人をターゲットにしちゃったよ…)


とほほ、と肩を落としながら売られる子牛の気分で手を引かれていった。



あの後、

カナタは私を捕まえてどうするのかと思ったら

衛兵に突き出すつもりではなかったらしい。


(…『らしい?』のか?)


時は少し遡る。


「お嬢さん。

牢獄と私、囚われるならどちらが良いですか?」


「究極の質問!どっちも嫌です!」


「困りましたね。選択肢はこれしかありませんので」


「私を解放するって第3の選択肢があってもいいんじゃないかと…」



恐る恐る希望を口にしてみたが、ニコッと微笑み



「……牢獄は春でも寒くて冷たいでしょうね。余罪もたっぷりありそうなあなたなら、鞭打ちくらいじゃ済まないかもしれないな」

「しかも看守は男ばかりだ。君のような若くて可愛い子が入ったら…

ーーーどうにかなってしまうかも、しれないね?

囚われの君を思うと憐れでならない」


黒いオーラがダダ漏れてきそうな圧でつらつらと、カナタ。


「…どっちにしても囚われているんですけど」


「ふふっ、そうですね。

どちらにしても逃げ場がないのだから、

私に囚われてくださいね」


軽口を叩きながらも私を見つめる瞳だけはとても優しい。

あの翠玉(エメラルド)の瞳に私が映ると、強く出られない気にさせられる。


「目が合ったが運の尽き…」


このような流れで私に拒否権はなく

否応なく連れていかれる羽目になるのであった。


・・・・・


(その後、はぐれていた連れのもう1人の美男子(イケメン)リュートと合流して、

ここに連れてこられたと言うわけで)


(お金持ってそうとは思っていたけど、まさかここまでとは)


『仕事』するならカモさん選び放題!な環境だけど


高貴なカモの群れに丸腰で放り込まれたら、こちらの方が淘汰されてしまうわ。

 

(つまりは、場違いが過ぎるのでいたたまれない…)



「今日は疲れましたね、部屋に戻りましょう」

「そうだね。…くれぐれも!無理強いはしないように!!

はやまっちゃダメ!焦ってもダメだよ~?」


面白半分で囃し立てるリュートに、呆れた視線を投げかけるカナタ。


「リュート君とは違いますよ、ご心配なく。」


「あ~怖い怖い。じゃあハルちゃん、また明日ね!おやすみ~!」


「はい、おやすみなさい」


カナタとリュートのホテルの部屋は隣同士だが

私が知っている安宿と違ってドアの間隔はずいぶん離れている。


「あ、そうだハルちゃん」

「はい?」


自分の部屋に向かおうとして、リュートは思い出したように振り返る。

いたく真面目な声色に私はちょっとたじろいた。


「君って、よく似た姉か妹いない??」


「………」


「どうなんだろ?わからない。」

私に関する記憶は名前以外ないので、こうとしか答えられない。


「ふーん、そっか。苦労したんだね…変なこと聞いてごめんね、今度こそおやすみ~!」


何か思うことがありそうな顔をしつつも、追求はせず

いつもの軽いノリでにこやかに自室に向かった。


「リュート君がすみません。嫌なことを思い出させたでしょう?」


「いや、別に気にしてないよ」

昔の記憶がほとんど無いから、思い出すこともできなかったりするし。


(それよりもっと気になるのはこの状況だよ…)


「あの、やっぱり入らなきゃダメ…?

一応私も嫁入り前だし…ちょっと」


「牢獄のベッドはさぞかし寝心地はいいだろうね?」


「…ですよねぇ~」

あー、泣きたい。


真っ黒い笑顔で脅迫してくるカナタに勝てるはずもなく。


尻込みする私を有無を言わさずに

引っ張り込むように部屋に通されたのだった。



タイトル詐欺にならない展開にやっと入りました……

ホテルステイ、憧れます。(我が汚部屋を薄目でみる)

上げ膳据え膳、されてぇぇ……

本日7話投稿、次がラストです。

お付き合いいただけたら嬉しいです。

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