異世界召喚されたエルフさん、現代の生活に溺れて堕落してしまった件
序章
僕の名前は『森口 孝信』、19歳の大学一年生
子供の頃から内気で引っ込み思案だった僕は、昔からロクに友達と呼べる存在はほとんどおらずいつも本ばかり読んで過ごしていた
中でも好きなジャンルの本はファンタジー系の作品で、魔法とか冒険とかそういう単語聞いただけでもワクワクドキドキする…そんな時、僕はとある小説に出会った。
それは、とある『エルフ』の女性が人間の男性と出会い恋に落ちるストーリーといったもの…
エルフ…ファンタジー作品ではおなじみの架空の種族で長く尖った耳を持ち大抵は森に住んでいて人間よりも数倍長く生きる神秘的な力を持つとされている…作品にもよるが、その容姿はとても美しく描かれており、僕はあっという間にエルフの虜になった。
叶うものならこんな素敵なエルフの女性とお付き合いしたい、そんな風なことをずっと思っていた…
けど、そんなことは到底無理だということは分かってる…そもそも僕なんかがエルフのような綺麗な女性と付き合うなんて夢を見る方がおこがましい…どうせ僕みたいな根暗なキモい陰キャオタクなんかエルフは愚か、普通の人間の女の子からだって見向きもされない…きっと僕は、エルフへの恋心を一人抱き続けたまま誰とも恋仲になることもなく一人寂しく死んでいく運命なんだ。
そんなある日のこと…僕の人生が変わる運命の出来事が起こったのだった。
第一章
夏休みが始まった頃、大学の教授のところへお邪魔した時のことだった。
「いやぁ、本当にすまないねぇ…一人じゃ中々片付けきれなくて」
「いえ、丁度僕も暇だったもので…」
教授の研究室には沢山の古い本が置かれている、古代文学の本や歴史書などなど…教授も若い頃から本が大好きで今も古今東西のあらゆる文学を研究している。
僕も教授も同じ本好きということもあって意気投合し、たまにこうして研究室にお邪魔して本の話をしたり研究室にある本を読ませてもらったりする。
「じゃあこの本はこっちの棚に置いてくれ」
「はい」
教授を手伝ってせっせと本の整理をしていく
「ふぃー大分片付いたよ、ありがとう」
「いえ、お礼には及びませんよ…」
「折角だからお茶でも飲んでいきなさい、ちょっと待っててくれ」
「ありがとうございます、いただきます…」
と、教授がお茶を沸かしにいってる間に本でも読んで待っていることにした。
「んーと、これにしようかな…」
何気なく一つの本を手に取った、その本の内容は古代に行われた儀式について書いてある本のようで様々な儀式の内容が書かれていた。
「『雨を降らせる儀式』、『病魔を打ち払う儀式』…へぇ、昔の人は色々考えてたんだなぁ…」
「お待たせ、実はこないだイイ茶葉が手に入ってのぅ…」
「あの、教授…この本って?」
「ん?おぉおぉ、懐かしいのぅ…その本は私がまだ若い頃にバックパッカーとして世界中を旅して回っておった頃に旅先の国で売られてて興味本位で買ったものなんじゃ…いざ買ってみたはいいもののどうにも胡散臭くてな、なんでそんなもの買ってしもうたんじゃろ若い頃の私は…ナハハハ」
「へぇ…」
「もし興味があるんだったらその本君にあげよう」
「えっ?いいんですか?」
「構わんよ、私が持っててもしょうがないものだしな…」
「あ、ありがとうございます…」
こうして、僕は教授からもらった『儀式の本』を持って帰って読んでみた
そこで僕は、とある一つの儀式に目が止まった。
「『異界の者を召喚する儀式』…って、ま、まさか…異世界からこっちの世界に呼び出せるってこと!?」
僕は思わず胸が躍った、何故なら…もしかしたら僕が長年思い描いていた夢がこれで叶うかもしれないからだ…
「もしかしたら、この儀式で…憧れのエルフをっ!?」
そう考えただけで僕は居ても立っても居られなくなり、早速儀式を試してみることにした
本当に成功するかどうかなんて分からない…けどもし1%でも憧れのエルフに会えるのだとしたらやってみたい!そう思って僕は一心不乱に準備を進めた。
儀式にに必要なものは三つ、『カラスの羽根』、『度数の高いお酒』、『山羊の乳』、そして呼び出したい対象の偶像…つまり絵や写真など、僕は一番お気に入りの絵柄のエルフの挿絵をコピーしてそれを用意した。
後はそれらを祭壇に捧げてそれを中央にして魔方陣を描く、僕の部屋だと狭いので夜中に誰もいない空き地で儀式を行うことにした。
祭壇と魔方陣の準備も全て整い、後は『召喚の呪文』を唱えるだけ…
「これでよし…じゃあ、コホン!えーっと…『異界の門開くところに我はあり、汝…我の呼び声に応えこの場所へ姿を現し給え…』」
見様見真似で本に書いている通りに呪文を詠唱する…が、しかし
“シーーーン…”
待てど暮らせど何も起こるはずもなかった…
「…ハァ、何をやってんだ僕は…アホらし、淡い期待を抱いて損した…帰ろ」
さっさと片付けて撤収しようとしていたその時だった。
“ゴゴゴゴゴゴゴ…”
突如空き地の上空に黒い雲が現れ、如何にもヤバそうな雰囲気だった…。
「おいおいおい、ちょ、何なのこれ…!?」
するとその時だった…魔方陣目掛けて稲妻が落ちてきた
「うわぁっ!?」
僕は咄嗟に身を屈めた、稲光りが収まり恐る恐る顔を上げると…魔方陣の中央に誰か立っているのが見えた
「えっ?ま、まさか…」
間違いない、誰かいる!ということは一応儀式は成功したということか?
恐る恐る魔方陣の中央まで近づいてみると…
「っ!?」
そこに立っていたのは金髪の女性、体の線はとても細くスレンダーな体格で綺麗な顔立ちをしており、しかもちゃんと尖った長い耳がついている…まごうことなきエルフの召喚に成功したのだった
「や、やったぁ!せ、成功したんだ!」
僕は思わず諸手を上げて喜んで万歳した
「…??」
喜んでいる僕を見て状況がよく分からないといった表情でポカンと口を開けているエルフの女性
「あ、ごめんなさい!は、初めまして…僕は森口 孝信といいます!」
「…??」
と、僕が自己紹介しても何を言っているのか分からないと言わんばかりに首を傾げる
「…あ、あれ?ま、まさか…僕が何を言っているのか分かんないのかな?」
「…プ、プルナ、ベヘナサニ?」
「へっ?」
と、漸く口を開いて声を発してくれた
なんて言ってるのかは全然分かんないけど、とても綺麗な声で聞いているだけで夢心地になるほどだった。
「ルセナ、ルセナホコ?…ウゥ、ワイナクインディ…」
と、今度は突然その場にへたり込んで泣き出してしまった…無理もない、突然こんなわけのわからないところに呼び出されたんだ、パニックにならない方がおかしいってなもんだ…なんだか急にものすごく申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。
「…あ、あの」
「…?」
「ご、ごめんなさい…あなたをこの世界に呼んだのは僕なんです…こんなに迷惑してるなんて思いもよらず、本当に、申し訳ありませんでした…」
と、彼女に向けて精一杯頭を下げた…当然言葉は通じていない、けど誠心誠意持って謝ればきっと気持ちは伝わるはず
「モ、モルスハナ…ナタタアイレン」
と、頭を下げる僕の背中を優しくさすってくれた…ひょっとして許してくれたのかな?
「と、とにかく元の世界に戻すにはどうすれば?…って、あれ?本は?…あっ!?」
見ると、本はさっきの落雷に当たったせいで無惨にも焼け焦げてもう読めなくなってしまった。
「そ、そんな…そんなことって」
するとその時だった…
“ぐぅ~”
「??」
「ア…アナクナンシィ」
と、顔を真っ赤にしてお腹を隠すように両手を抱える彼女…ひょっとして、お腹が空いてるのかな?
このまま放っておくのも可哀想だ…元に戻す方法ももう分からないし、呼び出したからにはちゃんと最後まで面倒見ないと…
「あ、あの…もしよかったらウチへきてください」
「…??」
・・・・・
…なんとか彼女をウチへ来るように説明し、ウチへ招き入れる
「ど、どうぞ…」
「オ、オシャンディギレス…」
「えと、今何か食べるものを用意しますのでここ座っててください…」
と、座布団を用意してそこに座るように促す、彼女は僕の意図を読み取ってくれたのか無言で頷いて座布団にちょこんと座る
「お、お待たせしました…」
用意したのはカップラーメン、エルフの口に合うかイマイチ自信なかったが今食べられるものといえばウチにこれしかなかったので致し方無い…
「…?」
不思議そうな目でカップラーメンを見つめる彼女
「あ、そっか…多分食べ方が分からないか…えっと」
と、何とか頑張って食べ方をジェスチャーを交えながらも説明する
「…ふーっ、ふーっ、ちゅるちゅる…っ!?」
ラーメンを一口口にした途端、彼女はカッと目を見開いた
「マ、マーシヤ!プルクマーシヤ!」
すごく興奮した様子でそう叫ぶ彼女、するとその直後すごい勢いで麺を頬張り最後のスープまで残さずあっという間に平らげてしまった…もしかして気にいったのかな?
「お、美味しかったのかな?」
「ウナ!プルクマーシヤッサ!」
「え、えっと…気に入ってくれたならそれで良かったよ」
「ウーシャ…アインガシャス」
と、突然彼女は僕の手を握ってきた…なんて言ってるか分からないがとりあえずとても感謝してるようだ。
「あ、えと…い、いいよ、お礼には及ばないよ」
不意に彼女に顔を近づけてこられ、恥ずかしくなって顔を背ける
「フフフ…テテナフーナ、クーアイ♡」
「??」
クスクスと笑みを浮かべる彼女、一体何がそんなに面白かったというのか?
「え、えっと…もう夜も遅いのでそろそろ休みませんか?ベッド、使ってください」
僕は彼女にベッドに寝るように促すと…
「ヘ、ヘナスンポ…シリャンダルーナ」
と、急に両手で自分の胸を隠すようにしてもじもじする彼女
まさか、これから僕が彼女に手を出すんじゃないかと心配しているのか?
「だ、大丈夫です!安心してください!神に誓って君には指一本触れないと約束します!絶対に何もしません!」
と、一生懸命に彼女に訴えかけると…多分彼女は分かってくれたのかホッと胸をなでおろすような顔をした…多分思いが伝わったのだろう。
「で、では…おやすみなさい」
…それからというものの、僕が召喚したエルフの女性との奇妙な共同生活が始まった。
相変わらずお互いに言葉は通じないものの、何日か過ごす内に何とかジェスチャーなどを交えながら意思の疎通は測れるようになった。
ちなみに彼女の名前は『リナシーさん』というらしく、彼女も僕の名前を理解してくれたのか僕のことを『タカノブ』と呼んでくれる。
そして、彼女と過ごしてから二週間ほど経過し…夏休みも終わり大学が始まる頃になるとリナシーさんはウチで一人で留守番しないといけないわけで、せめてもの暇つぶしになればと思い彼女に『国語辞典』をプレゼントした…これで少しでも彼女が日本語を覚えてこれからよりコミュニケーションが測れればいいと思った。
辞典をプレゼントしたその日から、リナシーさんは朝から晩まで辞典を穴が空くほどに読み続けている
そして…リナシーさんがウチにきてから一ヶ月が経った。
「ただいまー」
「タカノブ!お、おかえり!」
「!?、リ、リナシーさん!?」
「タカノブにもらった本、何度も何度も読み返していっぱい練習したヨ…どう?私、喋れてる?」
「か、完璧だよ!すごいすごい!」
「嬉しい…早くタカノブとお喋りしたくて私、頑張ったノ…」
「リナシーさん…」
よもやこの短期間で日本語をマスターしてしまうなんて…そういや、小説の中でもエルフはとても聡明で頭のいい種族として描かれていることが多い…だとしたらこの短期間で日本語を習得できたのにも納得がいく
「ねぇ、早く早く!私、もっとタカノブとお話したいヨ!」
「う、うん…」
…それからも、彼女は日本語をメキメキ覚えて日常生活には困らないほど流暢に喋れるようになった。
それからは、僕は彼女と一緒に楽しい日々を過ごした…一緒にテレビを見たり、ゲームをしたり…たまに変装して外に連れ出して一緒に出掛けることもあった。
その度に彼女はとても喜んでくれてまるでデートをしている気分になった。
そして季節は段々とすぎていき、秋になって冬になり…それから春になり夏に、そしてまた秋に…
気づけば、リナシーさんと出会ってから“十年”の月日が流れていた…。
・・・・・
僕はあれから、大学四年生になった頃に自分で書いた小説をコンクールに応募し、なんと最優秀賞に選ばれてそこから作家として華々しくデビューを飾り、出した作品は超ミラクル大ヒットを記録した。
それから僕は一気に大金持ちとなり、今となっては都内の高層タワーマンションで暮らしている
そして、あれからリナシーさんはというと…
「ただいまー」
「あ、おかえりータカノブぅ!“アレ”買ってきてくれた?」
「ああ、もちろん…はい、『モンエネ』」
「サンキュー!よっしゃ、今日はとことんレベル上げまくるわよー!」
と、あれからゲームやアニメといった日本のサブカルチャーにどっぷりハマってしまい…僕が作家として売れ始めた頃からすっかり引きこもりのニートのような生活を送るようになり朝から晩までゲームしてはアニメ見て過ごしている…あの頃の面影はどこへやら?すっかりと現代の生活に溺れてしまい堕落してしまっている…というのも、半分は僕がいけないというのもある…彼女に最初にゲームなどを進めたのは何を隠そうこの僕なのだから…それからついつい彼女のことを甘やかしすぎてしまいこの始末である。
「ねぇタカノブ~、お腹空いたんだけど~!ご飯まだぁ?」
「もうちょっとでできるのでリビングでテレビ見て待っててください」
「はぁい、今日のご飯なーに?」
「今日はリナシーさんの好きなシチューですよ」
「やったぁ!タカノブの作るシチュー大好きっ!」
「はいはい、じゃあテレビ見て待っててくれます?」
「はーい♡シチュー♪シチュー♪フンフ~ン♪」
と、鼻歌を歌いながらリビングへ戻っていく
基本ダラダラしてばっかりだけどやっぱりリナシーさんはとてつもなく可愛い…だからどうしても憎めない、ついつい甘やかしてしまう。
「ぐぉ~、むにゃむにゃ…もう食べられにゃい…」
夕食を食べた後、しばらくゲームしたりアニメを見ていたりしてたけどその内ソファに寝そべったまま大いびきをかいてお腹を出して寝ているリナシーさん
「リナシーさん、起きてください…こんなとこで寝たら風邪ひいちゃいますよ」
「んー、歩きたくないよぅ…抱っこして!」
「ダーメ、甘えてないでほら起きてください」
「むぅ、タカノブのけちんぼ…」
むすっとして膨れるリナシーさん、眠いといつも以上に甘えん坊になってスキンシップが激しくなる
正直これが一番キツイ…
「ぐぉ~、すぴぃ~…」
「やれやれ…結局そのままソファで寝てるし、しょうがないな」
と、仕方なくリナシーさんを抱きかかえてベッドまで運ぶ
「むにゃむにゃ…タカノブぅ、いつも…ありがと」
ただの寝言なのか実は起きてて本心で言っているのかは分からない…これだからリナシーさんは憎めない。
【翌日】
僕はその日朝早くから出版社で取材の為、リナシーさんの食事を用意した後急いで向かった
「森口先生、本日はお忙しい中ありがとうございました!」
「いえいえ、こちらこそありがとうございました」
取材を終えてタクシーで家に戻る、そしてふとスマホを見るとリナシーさんから鬼のように着信とメッセージが入っていた。
「!?、運転手さん!少し急いでもらっていいですか!?」
急いでタクシーを飛ばしてもらいすぐにマンションへと急ぐ
「リ、リナシーさん!」
「タカノブ!もう遅いよぉ!」
と、帰ってくるや否やぴょーんっと飛びついてくる
「うぐぅ、えぇぇぇぇん!!」
「ど、どうしたの!?そんな子供みたいに泣きじゃくって…」
「えぐっ、えぐっ…」
「ん?」
「あのね、私の推しの声優さんが吹き替えやってる映画見てたんだけどさぁ…実はその映画ホラー映画でさぁ!それ知らずに見てていきなりオバケ出てきて怖くなっちゃって…」
「なんだ、そんなこと…」
「そんなことって何よ!?タカノブは本物のオバケを知らないからそういうこと言えるんだよ!私子供の頃にオバケに取り憑かれそうになったことあって滅茶苦茶怖かったんだからねっ!」
「そ、そうなんだ…」
子供の頃ってことは、異世界の話だよね?異世界には実際にオバケがいて取り憑かれることなんてあるのか…
「大丈夫、安心してリナシーさん…こっちの世界じゃオバケなんていないから…あれだってただの作り物でしょ?」
「でも怖いものは怖いの!わぁぁぁん!」
「分かった分かった、よしよし…」
それからリナシーさんはずっと僕に引っ付いて離れなかった
僕が風呂に入ろうとした時も無理矢理一緒に入ろうとしてきて必死に抵抗したけど結局押し切られてしまい、一緒に入ることになった。
もちろん僕は目隠しして、リナシーさんはしなくてもいいと言ってくれたけどやはりそこは譲れないと言って押し通した。
「ねぇ、タカノブ」
「うん?」
「前々から聞きたかったんだけどさ…タカノブはさ、私のこと…その、好き?」
「な、何ですかいきなり?」
「だって、私達さ…もう十年も一緒に暮らしてんじゃん?十年も暮らしてたらそういう気持ちになったりしないのかなってふと思ってさ…」
「リナシーさん…」
「で?どうなの?」
「…正直なところ、僕はリナシーさんのことが好きかもしれません…でも」
「でも?」
「僕なんかが、リナシーさんのこと本当に好きになっていいのかと思ってしまって…僕なんて今となっては超売れっ子作家なんて呼ばれてますけど…それ以外は何の取り柄もないパッとしない根暗陰キャで、いいところなんて一つもないし」
「そんなことない!タカノブはすっごくイイ人だよ!そりゃあ最初は勝手に人をこんな知らないとこに呼ぶなんてどうかしてるとか思ったけど、でもタカノブはそんな私のことを最後まで見捨てずに面倒見てくれたじゃん!今だって私がどんなにワガママ言っても聞いてくれるし、いつも美味しいご飯作ってくれるし…私、そんなタカノブのこと大好きだよ!」
「えっ…!?」
「だから、そんなこと言わないでよ…“僕なんか”なんて自分を否定しないでよ…もう二度と、自分を悪く言わないでよぉ…そんなこと言われたら、私悲しくて涙出ちゃう」
「ご、ごめんなさい…」
「だからさ、タカノブも自分の気持ちに素直になりなよ…」
「いいの?」
「いいよ」
「ありがとう…僕、これからももっと頑張るよ!」
「フフフ…よかった、じゃあさ…しちゃう?」
「な、何を?」
「“恋人らしーこと”、子供じゃないから分かるよね?」
と、裸のまま僕に抱きついてくる
「ちょ、待っ…待って!」
「ん?」
「さ、流石にそれはまだ…恥ずかしいから」
「えー…」
「そ、それに僕…リナシーさんのこと、大事にしたいから…」
「そっか、残念…でもお楽しみは最後にとっておいた方がいいかもね」
「ほっ…」
「でも、キスはしていい?」
「キ、キス!?」
「あ、もちろんまだ唇にはしないよ?ほっぺでいい?」
「う、うん…」
「分かった…じゃあ」
と、彼女は僕のほっぺにチュっとキスをした
「タカノブも、してよ…」
「う、うん…じゃあ」
お返しに僕もリナシーさんのほっぺにキスをする、目隠しした状態だったからちゃんとできたか不安だったけどとりあえずできたみたいだ
「これで、いいかな?」
「フフフ…唇めっちゃ震えてた、可愛い♡」
「…っ」
それからお風呂から上がり、僕が書斎で原稿を書いていると…
「タカノブ」
「リナシーさん、どうしたの?」
「あのさ、やっぱりまだちょっとだけ怖くてさ…今日だけ一緒に寝てくんない?」
「えっ?ま、まぁ…寝るだけなら、別に…」
「あ、ちょっと今えっちなこと考えたでしょ?」
「し、してないよ!失礼な!」
「冗談だよ」
「もうっ…」
ということで、一緒に寝ることになった…隣で寝ている横でリナシーさんがずっと僕の腕にすがりついてくる
「リナシーさん」
「ん?」
「その、胸が当たってるんですが…」
「あててんのよ」
「ちょ、勘弁してください…これじゃいつまでたっても寝られません」
「何?興奮してんの?」
「そりゃまぁ、僕だって男ですから…さっきだって一緒にお風呂入った時だって目隠ししてたとはいえ我慢するの必死だったんですから…」
「そっか、でも嬉しいな…」
「えっ?う、嬉しいんですか?」
「うん、ほら…私って正直おっぱい小さいってか“ない”じゃん?」
「まぁ、そうですね…」
たしかに、リナシーさんはスレンダーな体型だからなのか胸のサイズは少々というかかなり慎ましやかだ…大体ファンタジー作品でもエルフはスタイルのいい巨乳美人に描かれていることが多い
リナシーさんはたしかにとびきりの美人ではあるが慎ましやかなお胸をされている。
「それ、私だけなんだよね…私ぐらいの歳のエルフの女の子は普通、みんなこっちの世界でいうところの『Gカップ』ぐらいは当たり前にあってさ、私は全然大きくならなくてそれで私、向こうでいじめられてて男の子からも全く見向きもされなくて…こんな私が大嫌いだった、でもこんな私でもタカノブは興奮してくれて嬉しいよ」
「…そんな当たり前だよ、だって好きな人のおっぱいだよ?巨乳だろうと貧乳だろうと関係ないよ…要は大きさ云々よりもそれが誰のおっぱいかじゃない?」
「…そっか、ありがと…おかげで元気出た」
「うん、よかった…」
「じゃあ、おやすみ」
「うん、おやすみ」
・・・・・
翌朝、目覚めるとまだリナシーさんは幸せそうな顔して眠っている
僕は起こさないようにそっとベッドから抜け出してキッチンに行って朝食を作り始める
「ふあぁ~、おはよ…」
「おはようリナシーさん…」
寝ぼけまなこのまま起きてくるリナシーさん、朝ご飯ができるまでの間机に突っ伏して待つ
「ん~、眠い…」
「ほら、シャキッとしてください…ご飯出来ましたよ」
「はーい…」
するとそこへ、僕のスマホへ出版社から電話が来る
「もしもし、森口です」
「『あ、先生!朝早くから申し訳ありません!実は先生に至急お伝えしたいことがありまして…」
「はい?」
「『実は、先生のデビュー作である『エルフと暮らしてみた』をコミカライズ化したいという話がありまして、ゆくゆくはアニメ化の話も…』」
「えっ!?マジですか!?『エルくら』が!?」
「『はい!なので近々それに関して打ち合わせの方を…』」
「分かりました!是非よろしくお願いします!失礼します!」
電話を切る
「お仕事の電話?またなんか新しいお仕事?」
「聞いてよリナシーさん!僕の書いた『エルくら』が漫画になるんだって!」
「えっ!?マジで!?それってたしか、タカノブのデビュー作じゃん!すごいやったね!」
エルフと暮らしてみた、通称『エルくら』…僕のデビュー作にして今でも若者達から絶大な人気を誇る看板作品として親しまれている
この物語は、リナシーさんと暮らす僕の実体験を基に執筆を始め、最初はネットの小説投稿サイトにアップしていただけだったが、徐々に人気に火がつき始めそのサイトが主催するコンクールに作品を応募し見事に最優秀賞を受賞し今に至るというわけだ。
「やったね、嬉しい!」
「うん、それもこれも全部リナシーさんのおかげだよ」
「私は何もしてないよ…タカノブが頑張ったおかげじゃん」
「うん、でももしリナシーさんに出会わなかったらこんなイイ結果にはならなかったと思う…」
「タカノブ…」
「本当に、ありがとう!」
「タカノブ~、しゅきぃ~」
と、言って僕に抱きつくリナシーさん
「ね、今夜お祝いしよ!お寿司とかピザとか頼んでさ!」
「いいよ、今夜は二人でお祝いしよう!」
「うん!」
てなわけで、今夜は二人でささやかながらお祝いをすることにした。
「ではでは僭越ながら、えー…エルくらの漫画化を祝して、乾杯!」
「カンパーイっ!」
シャンパンを開けて特上寿司とピザをつまみながら二人で飲んだ
「あー!美味しい!幸せ!」
「へへへ…こうして二人でお酒飲むのもたまにはいいね!」
「そうだね、僕はいつも仕事の付き合いとかで飲むこともあるけどリナシーさんはあんまりお酒飲まないもんね」
「うん、お酒は嫌いじゃないけど…お酒よりもジュースとか甘いのが好き!」
「そっかそっか…あのさ、よかったら今度久しぶりに外にでも出ない?」
「えー、いいよぉ…外出るのめんどくさいもん…」
「でもこっち来てしばらくは一緒に出かけたりしたこともあったじゃん?」
「だってぇ、今の時代ネットで注文すれば大抵なんでも買えるし、お家で映画も見れるし…外出るのめんどくさくなっちゃったんだよね…」
ダメだ、完全にニートみたいな考えになってる…
「でも、外に出ないとできないことだってありますよ?」
「…例えば?」
「デ、デート…とか?」
「デートかぁ…何?タカノブ私とデートしたいの?」
「そ、そりゃあまぁ…折角こうして恋人同士になったわけなんだし…」
「そっか、そうだよね…タカノブがそんなに私とデートしたいっていうんならしょうがない」
「じ、じゃあ…」
「か、勘違いしないでよ!あくまでもタカノブの為なんだからね!私は別に外出るのめんどくさいし、どうしてもって言われて仕方なくなんだからね!」
「わ、分かったよ…じゃあ来週までにどこいきたいか考えといて、できるだけ希望に沿えるようにするから」
「わ、分かった…フフフ」
と、口ではめんどくさいとかいいつつも嬉しすぎて口元がニマニマしてしまっている。
第二章
数日後…
「ねぇねぇタカノブ!私ここに行きたい!」
「ん?それって、デートで行きたいってとこ?」
「まぁそうとも言えるかな…とりあえずここ行きたい!」
と、そう言ってリナシーさんはスマホの画面を見せる
「『ジャパン・アニメカーニバル』?」
「そう!ジャパン・アニメカーニバル!略して『JAC』!毎年開催される日本最大級のアニメイベント!ありとあらゆるアニメ関連のグッズもいっぱい売ってて声優さんとかアニソンシンガーのライヴとかもあるんだよ!一度行ってみたいって思ってたんだぁ」
正直デートとしてはどうかと思うけど、こんなにもリナシーさんが行きたいっていうからには叶えてあげたいな…
「分かった、行こう!」
「やった!先行チケットもうすぐ発売予定だから絶対チェックしてよね!」
「うん、分かった」
こうして、チケットの発売日となり…何とか二人分のチケットを手に入れることができた
【イベント当日】
会場には超満員の人が押し寄せてごった返していた
「うわー、すごい人の数…」
押し寄せた人々を目の前にして度肝を抜かれた様子のリナシーさん
一応、周りにエルフだってバレないように大きめのキャスケットをかぶって変装している、耳さえ隠れればぱっと見ホントにエルフだと分からない…ただのものすごい美人ということしか分からない。
「それではこれより入場を開始しまーす!」
いよいよ会場内へと入場する、手前側にはアニメグッズなどを販売しているブースが沢山あり、他にもコスプレイヤーさん達による撮影会や有名企業によるフードスペースも設けられていた。
一番奥には大きなステージが設けられており、今日この後アーティストさんや声優さん達によるライヴが開催される予定だ。
「まだライヴの時間まで大分余裕がありますね、それまで色々ブースとか回りましょうか」
「ラジャー!」
ライヴの時間までの間、僕らは各ブースを色々と回ってみた
リナシーさんの好きなアニメのグッズを買ったり、コスプレイヤーさん達の撮影ブースを見学したりと時間を過ごした。
「あー楽しい!来てよかったぁ!」
大好きなアニメグッズを沢山買い漁りコスプレイヤーさん達と写真を撮ってもらったりと満足そうな顔でホクホクしている。
「もうすぐライヴの時間ですね、そろそろ席にいきましょうか」
「ああ、そうだった!ついつい楽しんでて忘れてた!これを楽しみにしてたのに私ったら、てへへ」
今日のライヴにはリナシーさんの好きな声優さんやアーティストも出演する、今日の日の為に僕は曲を粗方予習してきた。
「いよいよ始まる、ワクワクしてきた!」
「いよいよだね…」
「『さぁ皆さんお待たせ致しました!それではこれより、ジャパン・アニメカーニバルスペシャルライヴを開始いたしまぁす!今年のオープニングアクトはこの人!『コイシヨシマサ』!」
ステージ上にアーティストが登場すると客席からわっと歓声が上がる
一方で僕の隣でリナシーさんも大興奮で歓声を上げている。
「さぁみんな盛り上がっていくぞー!!」
…その後、ライヴは最後まで大熱狂の盛り上がりを見せて幕を閉じた。
「はぁ、もう最高!まさか生ヨシマサをこの目に焼き付けられるなんて思わなかった!」
「喜んでもらえてよかった…」
「タカノブは?楽しかった?」
「うん、楽しかった…人混みの中でちょっと疲れたけど」
「それな、もうしばらく外出はいーや…」
「やれやれ…」
・・・・・
そんなある日の朝、リナシーさんが風邪を引いてしまった。
「ゴホゴホ…あぁ、つらい」
「大丈夫リナシーさん?お粥作ったけど食べられそうかな?」
「…う~ん、食欲ない…気持ち悪い、うぅっ」
「おっと、洗面器持ってきたから…これ使って」
「うん…」
朝から吐き気と食欲不振で明らかに元気がないリナシーさん
「ハァ、ハァ、私ならもう大丈夫だから…タカノブ今日は大事なお仕事でしょ?もう行っていいよ」
「ダメだよ、リナシーさんが心配で置いてけないよ…」
「大丈夫だよ、もう心配性なんだから…」
「う、うん…じゃあ何かあったら必ず連絡してよ!もし食べられそうならお粥食べて薬飲んで寝ておくんだよ?」
「分かってるよ…ほら、早くしないと遅れちゃうから」
「うん、じゃあ…いってくるよ」
後ろ髪を引かれる思いで仕事に向かう
打ち合わせの最中だってずっとリナシーさんのことばかり考えててあんまり集中出来なかった。
「ということでキャラクターのデザイン案はこの様になりましたが、先生いかがでしょうか?」
「…はぁ」
「…先生?」
「へ?あぁ、ごめんなさい…何の話でしたっけ?」
「大丈夫ですか?先ほどからボーっとされて…」
「す、すみません…」
と、打ち合わせが終わった直後すぐさま家へ急いで戻る
今のところスマホに連絡は来ていない…静かに寝ているだけなのか、だとしてもとても心配で気が気じゃなかった…
「た、ただいま!」
慌てて家に駆け込んだ、すると空になった土鍋を持ったリナシーさんが部屋から出てくる
「あ、タカノブ…おかえり」
「リ、リナシーさん…体、もう大丈夫なの?」
「うん、さっきお粥食べて薬飲んだら大分楽になった…美味しかったよ、お粥」
「はぁ、よかった…」
リナシーさんの元気な姿を見てホッとしたのかちょっとだけ涙出てしまった。
「もう、何泣いてんの?これくらいじゃ全然死なないから大丈夫だよ…」
「ごめん、なんか…ホッとしたら勝手に涙が…」
「もう、でも心配してくれてありがとう…」
「うん…」
翌日、すっかり治って元気になったリナシーさん
「んー!快調快調!昨日までだるくて動けなかったのが嘘みたい!」
「よかった、元気になって…」
「じゃ、元気になったところで…溜まってたアニメ消化しないと」
と、早速テレビをつけるリナシーさん
「相変わらずブレないなぁ…ん?ゲホゲホ!ゲホゲホ!」
「ん?タカノブ?」
「あれ?おかしいな?喉が、なんか…ゲホゲホ!」
「タカノブ?タカノブ大丈夫!?」
その後、僕は病院に行って診察してもらい…結果は風邪だった
今日は仕事はキャンセルして一日家で大人しく療養することにした。
「ゲホゲホ!あー、しんどい…」
「大丈夫?ごめん、多分私のが伝染ったんだよね…ホントにごめんね」
「リナシーさんは悪くないよ、謝らないで?」
「うん…」
その後も、リナシーさんは甲斐甲斐しく僕の世話を焼いてくれた
フルーツを剥いて持ってきてくれたり、汗を拭いてくれたりと色々と面倒を見てくれた。
「…タカノブ、起きてる?」
「うん、起きてるよ…」
「ご飯、食べれそう?一応、お粥作ってきたけど…」
「ありがとう…いただくよ」
リナシーさんの作ったお粥を食べる、これでもかというくらいにショウガがふんだんに入っていてちょっと辛くてむせたけどなんとか食べられた。
「…ありがとう、ごちそうさま」
「うん、風邪にはショウガが効くってアニメで見たからいっぱい入れてみたけど…どう?」
「…う、うん…ちょっと辛かったけどこれはこれですごく効きそう、体がポカポカするよ」
「よ、よかった…ちょっと入れすぎたと思って焦ったけど」
「ハ、ハハハ…」
そしてまた翌日、昨日食べたお粥のおかげか昨日よりもとても調子が良かった。
「おはよ」
「タカノブ!風邪、もう治ったの!?」
「うん、まだ本調子って感じじゃないけど昨日よりも大分調子いいよ…リナシーさんのショウガたっぷりのお粥のおかげだね」
「…うん!イヒヒ…」
「あ、そう言えば疑問に思ったんだけどさ…リナシーさんって『魔法』は使えないの?」
「ん?あー、ねっ…うん」
「そういえば使ったところ見たことないなって思ってさ…」
「だよね、まぁ魔法とか使えば風邪なんて簡単に治せちゃうんだけどさ…こっちの世界きてから魔法使えなくなっちゃったみたいなんだよね…」
「えっ?」
「うん、多分この世界と私のいた世界とで環境の変化?が関係してるんだとは思うけど詳しいことは分かんない」
「そっか、まぁでもちょっと気になっただけだからさ…あんまり深く気にしないで」
「?、うん」
…それから数日、いよいよ僕の作品が今日漫画になって雑誌に掲載される
僕は朝から開店前の書店に並び雑誌を手に入れると一目散に家へ戻った。
「じゃーん!買ってきたよ!」
「おぉ!見せて見せて!」
早速買ってきた雑誌をリナシーさんと一緒に見る
「すごい、漫画となると全然違うねやっぱ!絵も可愛い」
「でしょ?この漫画の作画手掛けてる先生もとても有名な人みたいで…」
「あ、ここ懐かしい!これ、私達が最初に出会った場面だよね?」
「うん、もうあれから十年も経つのか…」
「あっという間だったね…まぁエルフの私からすれば十年なんてほんの一瞬ぐらいの感覚でしかないんだけどさ…」
「そういえばそうだ…」
「でも、向こうの世界にいた時よりも断然こっちの世界にいる時の方が充実してるよ…向こうじゃ私、いつも一人ぼっちだったから…」
「リナシーさん…」
そう言えば前に言ってた、彼女は向こうの世界でみんなからいじめられていたっていう話…つらかったんだろうな…僕はいじめにあった経験はないけど、中には自ら死を選ぶほどつらい思いをした人もいるという。
「リナシーさん…」
と、僕は彼女を思わずそっと抱きしめた
「タ、タカノブ?どうしたの?」
「いや、なんか…急に抱きしめたくなって…嫌だった?」
「ううん、嫌じゃないよ?…あったかい」
と、リナシーさんもぎゅっと抱きしめ返してくれた
「ねぇ、タカノブ…」
「ん?」
「…チューしてもいい?もちろんお口とお口で…」
「…う、うん、い、いいよ」
「…なんか、緊張するね」
「…うん」
「フフフ…タカノブの照れた顔、可愛い♡」
と、次の瞬間…僕はリナシーさんとキスをした
「ちゅぱ…れろれろ、はむはむ」
「っ!?」
するとリナシーさんは舌を絡ませてきたり唇を包み込むようにして甘嚙みしてきたりと、所謂『大人のキス』をしてきた。
「リ、リナシーさん!?どこでこんなの覚えたの!?」
「えへへ、こんなこともあろうかと…ちょっとえっちなアニメ見て勉強したんだよ、どう?気持ちいい?」
「…なんか、脳みそが蕩けそうだ」
「フフフ…でも、まだまだこんなもんじゃないからね?これからもっとすごいことしてあげる」
「そ、それってまさか…ダメだよ!その先はまだ…」
「知ってる、タカノブはそういうの慎重なタイプだもんね…私としてはちょっと残念だけど」
「ご、ごめん…僕が経験ないばっかりに、我慢させちゃって」
「ううん、いいよ…初めてなのは私も一緒だから、お互い様でしょ?」
「う、うん…」
「それに私、好物のおかずは最後のお楽しみにとっておくタイプだから…最後にゆっくりじっくり味わいたいから」
「あ、ありがとう…」
「じゃあ、今日は思う存分チューしていいよね?」
「えっ?あ、ちょっと…あっ」
その後、リナシーさんに唇が唾液でふやふやになるほどキスされた。
「ふぅ、満足満足!」
「………」
「アハッ、タカノブったら口の周り涎まみれだ!自分でやっといてアレだけど…」
「ア、アハハハ…」
・・・・・
それからまた数ヶ月が経ち、コミカライズされた僕の作品は評判を呼んで更に原作の小説の方も重版が決まった。
「今すっごい人気みたいだね!エルくら!ネットでもアニメ化してしてほしいって声がいっぱいだよ」
「そうみたいですね」
「これでアニメもヒットしたらさ、タカノブもっとお金持ちになっちゃうね!」
「うん、それもこれもやっぱ、リナシーさんの存在があったおかげだよ…改めてありがとう」
「もう、やめてよぉそんな改まっちゃって…ホントに私は何もしてないってば、ただ一日ゴロゴロしてゲームしてアニメ見てるだけのぐうたらエルフだよ?」
「いや、そんな…とにかく感謝しているよ、ありがとう」
「…ま、まぁそこまでお礼言われちゃったら悪い気はしないなぁ、なんて…」
「フフフ…じゃあこれから打ち合わせだから行ってくるよ!」
「うん!行ってらっしゃい!…あ、待って!忘れ物!」
「ん?」
と、振り向くや否やリナシーさんは僕にキスをしてきた。
「…んぱぁ、行ってらっしゃい♡」
「う、うん…行ってきます」
…それからというものの、僕はリナシーさんと一日最低三回はキスするようになった
仕事に出掛ける前と帰った後で二回、夜寝る前に長~いキスを一回…まるで新婚カップルのようだ。
とにかく、ここ数日彼女への愛が加速してどうにも歯止めがかからなくなりそうだ…リナシーさんのことが心から好きだ、できることなら本当に一緒になりたい…でも、僕らは人間とエルフ…戸籍を持たないリナシーさんとは法的にも僕らが家族になることは認められない、しかもこのことは両親にすらまだ説明していない…なんて説明したらいい?…僕はずっと葛藤していた。
「…はぁ」
「先生?森口先生!」
「はっ!ご、ごめん…何だっけ?」
「またボーっとして…お疲れなのは分かりますけど今日はこれから大事な打ち合わせなんですから、しっかりしてくださいよ」
「すみません…」
怒られてしまった…最近どうもリナシーさんとの今後の将来のことばかり考えてしまって仕事にもあまり身が入らないでいる…これじゃダメだ、せめて仕事中はしっかり集中しないと。
打ち合わせを終えて帰宅する
「ただいま」
「タカノブ!おかえり!」
出迎えるなり僕にぴょーんと飛びついてキスをするリナシーさん
「遅くなってごめんね、すぐご飯にするから…」
「うん!」
夕食を食べる
「んふっ、だし巻き卵美味しっ!和食もたまにはいいね!」
「フフフ、そうだね…」
「あ、これ食べ終わったら一緒にゲームしようよ!私結構練習して強くなったんだよ!」
「うん、じゃあ一時間だけね…ちょっと原稿も書き進めたいし」
「ありがと!」
その後、一時間だけ彼女とゲームで相手をしてあげた後執筆作業に勤しむ
「さて、頑張るか…」
するとその時だった…。
“ヴヴヴ…ヴヴヴ…”
「もう、誰だよ…今からやろうって時に」
ため息をつきながらスマホを見ると、僕の母からだ…
「母さん…」
そういや、最後に連絡とったのだって僕がコンテストで最優秀賞とった日以来だったかな…?実家にだって上京してからずっと帰っていない
「…もしもし?」
「『もしもし孝信?お母ちゃんやけど?エライ久方ぶりやないの!元気にしとんかあんたぁ!』」
「…心配せんでもこっちは元気でやっとるよ、もう子供やないねん…そない心配いらんて」
「『何言うとんのこのアホ!折角お母ちゃん心配して電話したゆうんに愛想ない子ぉやわホンマにもう!』」
「別に今に始まったことやないやろ…で、なんか用でもあったんちゃうの?忙しいからちゃっちゃと済ましてほしいんやけど…」
「『ホンマにこの子は…まぁええわ、とりあえず用件言うわ…来週な、『さゆりちゃん』結婚すんねんて」
「さゆり姉ちゃんが?」
さゆり姉ちゃんというのは僕の子供の頃からの幼馴染で、昔から僕の家とさゆり姉ちゃんの家は家族ぐるみで仲が良い、でも僕が高校を卒業して大学進学と共に上京して以来ずっと連絡もとってなかったし会うのもすごく久しぶりだ。
「『あんた覚えとる?子供の頃ようけ遊んでもろたやろ?忙しいやろうけどこっち帰ってきて面と向かっておめでとうの一言ぐらい言うたげてや…』」
「分かってるよ…せやけど、ホンマに忙しいからいけるか分からんで?」
「『まぁええよ、とにかく近いうちに帰ってきいや…あんたも長いことこっち帰ってきてへんやろ?』」
「分かったよ…ほなもう忙しいから切るで」
と、会話を切り上げて通話を切る
「結婚、かぁ…はぁ」
・・・・・
【翌朝】
「ふぁ~、おはよタカノブ…」
「おはよ…朝ご飯出来てるよ」
「うん、いただきます…」
「…はぁ」
「ん?どうかしたの?」
「あっ、いや…何でもない」
「??」
今日は一日パソコンに向かって執筆作業の日、原稿を書いている最中でも結婚のことや両親のことなどを考えてしまいイマイチ集中できずにいた。
「はぁ…全然ダメだ、どうしよう?」
するとそこへ…
「タカノブ、ちょっと休憩しない?一緒にアイス食べよ」
「あ、リナシーさん…ありがとう」
「疲れた時には糖分摂らなきゃイイアイデアも浮かばないよ?タカノブ何味がいい?」
「じ、じゃあバニラで…」
「オッケー、じゃあ私は抹茶にしよっと!すぐ持ってくる!」
一息入れて彼女と二人でアイスを食べる
「美味しいね、ねっ?タカノブ!」
「えっ、あ、うん…美味しいね」
「…タカノブ、なんか悩んでるでしょ?」
「えっ?な、なんで?」
「だって十年も一緒に暮らしてんだよ?嫌でも分かるよ…」
「そっか、やっぱリナシーさんには敵わないな…」
「フフン、この私を出し抜こうなんて百年早いのよ!で、何を悩んでるの?」
「うん、実は…」
僕はとうとう根負けしてリナシーさんに僕が抱えていた想いを全て打ち明けた。
リナシーさんのことが本当に大好きで結婚したいけど実際はそうはいかないこと、両親にリナシーさんのことをどう説明したらいいか分からないことなど、洗いざらい包み隠さず全部説明した。
「…と、いうわけなんだ」
「…っ」
「リ、リナシーさん?」
リナシーさんは突然耳まで真っ赤になって狼狽えていた。
「結婚、私と…タカノブが、結婚…はわわわ」
「リ、リナシーさん!お、落ち着いて!一回落ち着こう!ねっ?」
「う、うん…ごめん取り乱して、でも…結婚は無理だよね、私戸籍ないし」
「うん、そこはまぁ一旦おいとくとして…問題は、ウチの両親にどう説明したらいいか」
「エルフ…だもんね、そりゃご両親だって戸惑っちゃうよね」
「うん、ウチの両親そこまで厳しい感じじゃないしまあまあ理解はある方だと思うけど…流石に常識の範疇を越えてるっていうか何ていうか…」
「…もうさ、正直に打ち明けちゃえば?僕はこのエルフの女性と一緒になりたいですって…」
「それが簡単にできればこんなに悩んだりしないよ…」
「大丈夫だよ、きっと誠心誠意持って話せばタカノブのご両親も分かってくれるって!」
「リナシーさん…」
「そういえば、さっきタカノブの知り合いのお姉さんが近いうちに結婚するからお祝いしに行くって言ってたよね?」
「う、うん…ま、まさか」
「私も、一緒にいく!一緒に行ってタカノブのご両親に私のこと認めてもらう!」
「そんな上手くいくかな?」
「大丈夫!絶対上手くいく!後ろばっか向いてちゃ何にも進まないよ?しっかり前向いて進んでいかなきゃ!」
「う、うん…」
「よし!そうと決まったら着ていく服探さなきゃ!ア〇ゾンでイイ服ないかなぁ?」
・・・・・
【新大阪駅】
ついに僕は、リナシーさんを連れて故郷へと帰ってきた…もうここまできたからには引き返すことはできない…覚悟を決めるしかない。
「…ここからタクシーで移動しよう」
「うん、分かった」
タクシーを拾って実家まで行く
「…着いた、ここだよ」
「ここが、タカノブの生まれ育った家なんだ…」
二人とも緊張した面持ちで門をくぐる、そして一旦深呼吸して意を決しチャイムを押す
「はいはーい!」
「…ただいま、母さん」
「おかえり孝信!…ん?こちらのお嬢ちゃんは?」
「紹介するよ、こちら…僕がお付き合いしてるリナシーさん」
「は、初めましてお母様!タカノブ、さんとお付き合いをさせていただいております…リナシーですどうぞよろしくお願いいたします」
挨拶してかぶっていた帽子をとる、そこでリナシーさんの長い耳が露わとなる
「まぁっ!?」
「母さん、驚かせてごめん…ちゃんと説明させてほしい」
「わ、分かったわ…とりあえず玄関先やとあれやし、どうぞ」
「お邪魔します」
リナシーさんを実家に招き入れる
そこで両親にリナシーさんがエルフであることや出会った経緯、今も一緒に暮らしていることを事細かに説明した。
「…はぁ、なんともまぁ、奇妙奇天烈な」
「ホンマに信じられへんわ…」
「父さんや母さんが信じられないのは分かる、でも全部紛れもない事実だというのは本当なんだ」
「ま、まぁあんたは昔から真面目を絵に描いたような子ぉでこないな嘘言うような子ぉやないっちゅうんわお母ちゃん分かるけどもやな…」
「分かってる、それに僕は…リナシーさんのことを心の底から愛してるんだ!将来的にはこのまま一緒に暮らして結婚したいとも思ってる…二人にはどうか、僕達の仲を認めてほしい!お願いします!」
「私からも、お願いします!タカノブさんのことは私が精一杯支えていきますから…お願いします!」
「せ、せやかてなぁ孝信…リナシーさん言うたか?この人戸籍も作れんのやろ?そんなんでどうやって結婚するつもりやねん?」
「それなら一応、籍は入れないで『事実婚』っていうことも…」
「アホぬかせ、世の中そない甘いもんやない!第一、お前な…」
「皆まで言わんでもええ、諸々全部ひっくるめた上でこっちはもう覚悟決めたんや、せやからどうか…二人にも認めてほしい!お願いします!僕達の結婚を認めてください!」
僕は床に頭をこすりつけて必死に懇願した
「タカノブ…」
「お父さん…」
「ああ、分かってる…孝信、頭を上げなさい」
「父さん…」
「お前の気持ちは分かった…この先どんなことがあっても、二人一緒に生きていくんやな?」
「…はい!」
「後悔したりせえへんな?」
「はい!僕は、一生懸けてリナシーさんを幸せにします!」
「…分かった、そこまで決意が固いんやったらお父ちゃんから言うことはもう何もないわ、好きにしたらええ」
「と、父さん…ホ、ホントに?」
「構へん、彼女…幸せにしたり!」
「!?、あ、ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
二人して両親に頭を下げる
…こうして、晴れてウチの両親にもリナシーさんとの仲を正式に認めてもらうことができたのだった。
その日の夜、僕は久しぶりにさゆり姉ちゃんに連絡をとり久しぶりに会うことにした
もちろんその時にリナシーさんのことも紹介するつもりだ。
さゆり姉ちゃんと会うのは地元の居酒屋の個室席、僕らは先に来てさゆり姉ちゃんの到着を待つ
「ごめんお待たせ~!」
「ううん、そんなに待ってへんよ…久しぶり、さゆり姉ちゃん」
「ホンマ久しぶりやんな?タカ君が東京行ってからやから十年以上やん?えらい大人になってからに!」
相変わらずのハイテンションでやってきたさゆり姉ちゃん、十年経ってすっかり大人っぽい雰囲気のある女性になっていた。
「ほんで何?そっちの娘が例の彼女?おばちゃんから聞いたで、なんや…エルフゆーて違う世界から来たっちゅう…」
「初めまして、タカノブさんとお付き合いさせてもらっていますリナシーと申します」
「初めまして、ウチはタカ君の幼馴染でさゆりいいます…どうぞよろしゅう」
「よろしくお願いします」
「ほぉ、しっかしまぁ…どえらい別嬪さんやないの!やるやん!タカ君!」
「ア、アハハ…」
「タカ君はウチにとって弟みたいなもんやからな!今日から『リナちゃん』もウチの妹やな!」
「リ、リナちゃん?」
「リナシーやからリナちゃんや!そっちもウチのこと遠慮せんと『お姉ちゃん』って呼んでええんやで?」
「え、えっと…お、お姉さん?」
「おぉよしよし!可愛ええやっちゃな!こないな可愛ええ妹ずっとほしかってん!」
と、リナシーさんに抱きついてほっぺをスリスリするさゆり姉ちゃん
「さ、さゆり姉ちゃん!ちょおやめぇや!リナシーさん困っとるやろ?」
「ええやないのちょっとくらい、女の子同士やねんから…にしてもめっちゃほっぺ柔らかいしスベスベやん!スキンケア何使こうとるん?」
「え、えっと…」
「も、もうその辺に…」
それから、さゆり姉ちゃんと三人で飲み明かしみんなべろんべろんになってしまった。
「ほな、ウチは今からフィアンセが迎えに来る言うからここで待ってるわ」
「うん、それじゃさゆり姉ちゃん改めて結婚おめでとう!」
「ありがとう!あんたらも幸せにな!」
「うん、じゃあおやすみ」
「おう、気を付けて帰るんやで~!」
さゆり姉ちゃんに見送られながら帰る
「さゆりお姉さん、すっごく楽しい人だったね…」
「ごめんね、大変だったでしょ?姉ちゃんの相手するの、めっちゃだる絡みされてたもんね」
「うん、最初はちょっと戸惑ったけど楽しかったよ…」
「そっか、それならよかった…」
「うん…あれ?おっとっと…」
酔っているせいかフラフラして真っ直ぐ歩けない様子のリナシーさん
「大丈夫?」
「うん、フラフラする…真っ直ぐ歩けないや」
「こりゃ参ったな…どっか休めるところは?」
どこか休めるところを探す、しかしそれらしいところは見つからず途方に暮れる…
「ないなぁ…」
「ん?ねぇあそこは?」
「ん?…って、あ、あそこは」
と、目の前に見えたのは『ラブホ』…たしかに休憩するにはうってつけの場所かもしれない、けど僕には少々ハードルが高すぎる…けどもうリナシーさんも限界みたいだし、背に腹は代えられないか
「リナシーさん立てる?あそこでちょっと休憩してこう」
「うん…」
第三章
ラブホの部屋に入り、一先ず休憩する
「はぁ、頭クラクラする…世界が回るぅ、ラウンド・ザ・ワールドぉ…」
「大丈夫?はいお水」
「ありがとう…」
水を渡して飲ませる、少し落ち着いたのか顔色も良くなってきた。
「………っ」
「タカノブ…?どしたの?さっきからソワソワして」
「いや、ラブホって初めて入ったから落ち着かなくて…」
「だよね、本当ならここって…そういうことする場所だもんねぇ」
「うん…」
「私達もさ、する?」
「えっ!?」
「いいよ、タカノブだったら…それにもうご両親にだって正式に仲を認められたわけだし」
「そ、そうだけど…や、やっぱりいざってなると、き、緊張して…」
「大丈夫、言ったでしょ?私はえっちなアニメで色々勉強してるから任せて…」
「いいの?」
「いいよ…私に任せて」
…リナシーさんにベッドに誘われて、そしてとうとう僕達は一線を越える関係となった。
「ハァ、ハァ、ハァ…」
「ど、どうでした?大丈夫でした?」
「うん、ちょっと痛かったけど…思ったほどでもなかったっていうか、とにかく気持ち良かったよ」
「そっか、よ、よかった…」
「フフフ、これでめでたく卒業だね…おめでとう」
「リナシーさんもね…おめでとう」
「うんっ!」
体力も回復したところで僕達はラブホを後にして、その晩は実家に泊まって翌日には東京に戻った。
…それからまた数ヶ月後、いよいよ『エルくら』が本格的にアニメ化に向けて動き出してきた。
「では、今回はここまでということで…次回また資料を纏めてお渡しします」
「はい、ありがとうございました!」
今日はアニメの製作会社でアニメ化についての打ち合わせ、僕も原作者として積極的に製作に関わっていく
「森口先生!」
「ああ、『カルボナーラ先生』!」
この人は漫画版の作画を担当している漫画家の『カルボナーラ伊藤先生』
これまで自身の作品も多くヒットさせ、僕以外にも多くの小説原作の漫画の作画を担当している売れっ子漫画家だ。
「いよいよですねぇ、ワクワクしてきましたよ!」
「えぇ、僕もです…しかも僕の場合作品がアニメ化するなんて初めてですから、ワクワクすると同時にドキドキします」
「そうでしょうねぇ、かく言う僕も何度か作品がメディア化されてますけど、やっぱり何度でもドキドキワクワクするものですよ」
「そう言うもんですかね」
「えぇ、それじゃあまた後日!これからもお互い頑張りましょう!」
「はい、ありがとうございました!」
打ち合わせを終えて帰宅する
「ただいま」
「おかえりタカノブ!チュっ」
お決まりのキスで出迎えるリナシーさん
「アニメ化の話どう?上手く進めてる?」
「うん、実は今度キャスティングのオーディションがあるんだ…僕もそこに同席することになったんだ」
「えー、いいなぁ…私の推しの声優も来るかな?」
「どうかな?誰が来るかは当日まで分からないからさ…」
「そっか、いいなぁ…早く見たいよ」
「うん…ご飯にしようか」
「うんっ!」
…そしてオーディションが開かれて、キャストも無事に決定した
選ばれた人達はみんな実力派のベテランや新進気鋭の若手人気声優などが選ばれた。
「いやぁ、楽しみですねぇ~…一体どんな風に演じるのか楽しみです!」
「えぇ、いよいよですね…」
「じゃあ僕はこの後他の作家さんと打ち合わせがあるのでこれで…」
「はい、お疲れ様でした…」
その後僕も帰宅し、無事にオーディションが終わったことをリナシーさんに伝える
「へぇ、じゃあ無事に決まったんだ…」
「うん、まだ公表はできないけどね…守秘義務ってやつで」
「えー、ずるぅい…原作者の家族でもしゃべっちゃダメなの?」
「残念ながらね…そういう情報漏洩とか厳しいからこの業界、それに今知っちゃったら後の楽しみなくなっちゃうでしょ?」
「んー、それもそうだね…どうか私の推しが受かってますように…」
と、天に向けて祈りを捧げるリナシーさん
「フフフ、でさ…リナシーさんにちょっと話があるんだけど…」
「ん?何?」
「そろそろ僕の仕事も落ち着いてきたことだしさ…その、もしよかったら二人で旅行でもいかない?新婚旅行的な、さ…」
「新婚旅行…?」
「いや、嫌ならいいんだ…リナシーさん出不精だし、気が進まないなら別に…」
「ううん、新婚旅行…ちょっと行ってみたいかも」
「えっ!?ホ、ホントに?」
「うん、いきたい!」
「よ、良かったぁ~!絶対楽しい旅行にしようね!」
「うんっ!」
…こうして、図らずも新婚旅行に行けることとなった。
・・・・・
【旅行当日】
旅行の行き先はリナシーさんの要望で京都に行くことにした。
京都は色々なアニメの聖地とも知られていてリナシーさんも聖地巡礼したいとのこと
「着いたぁ!ここが京都かぁ」
「懐かしいなぁ」
「京都きたことあるの?そっか地元関西だもんね」
「うん、てゆーかひいおばあちゃんの家が京都だったんだよ…僕が中学生の頃に亡くなったんだけどね、おばあちゃんが元気だった頃は毎年家族で来てたんだ」
「へぇ、そっか」
「じゃあ早速行こうか」
「うんっ!」
僕達が最初に向かったのは『伏見稲荷大社』、京都でも有名な神社だ
早速お参りをして僕達のこれからの幸せを願った
「…何お願いしたの?」
「ん?もちろん、リナシーさんとこれからも幸せに暮らせますようにって」
「フフフ、私も同じ…あと、タカノブの作品がこれからも沢山の人に広まって親しまれますようにってついでにお願いしといた」
「えー、二つは流石に欲張りじゃないかな?」
「いいじゃん、どうせ願うなら二つも三つも同じでしょ?」
「そう、なのかな?」
続いて僕らがやってきたのはリナシーさんが好きな恋愛系アニメの聖地となった場所を訪れた
「うぉぉぉ!マジでアニメのそのまんまだ!すっごい!アガるわぁ!」
と、テンション爆上がりでスマホで写真を何枚も撮りまくるリナシーさん
「すごいテンション上がってんね…」
「そりゃそうだよ!今正に私は同じ舞台に立って同じ景色を見て、そして同じ空気を吸ってるの!ヤバいでしょ?」
興奮気味に目をキラキラと輝かせるリナシーさん、まぁ喜んでもらえて何よりだ…
「よぉし!まだまだいくよ!」
「えぇっ!?ちょ、ちょっと!」
その後、聖地とされる場所に十か所以上連れ回されてへとへとになってしまった。
「ハァ、ハァ、疲れた…」
「んふふ、満足満足♪」
憧れの聖地を回れて満足してホクホク顔のリナシーさん
ちょっと休憩がてら僕達は抹茶のスイーツを食べに来た、京都といえば『宇治抹茶』が有名で美味しい抹茶系のスイーツが山ほどある
「宇治抹茶パフェ美味しー!」
「ホント、抹茶の味がすごく上品な甘さで美味しい」
「ねぇねぇ、タカノブの抹茶ソフトもちょっと一口頂戴!」
「ん?いいよ、はい」
彼女にソフトクリームを差し出す
「ん、美味しい!じゃあ私もお返しに…はい!」
と、スプーンに一口大乗せてこっちに差し出す
「あーんっ…うーん、こっちのパフェも美味しい」
「フフフ…」
「ん?」
「今の、関節キスだね…」
「…っ!?」
「何照れてるの?もうキス以上のことだっていっぱいしてるのに…」
「い、今それ言うかな…恥ずかしい」
「フフフ…照れちゃって可愛い♡」
と、散々からかわれてしまった…。
…次に訪れたのは舞妓さんの格好を体験できるお店、ここでは舞妓さんの衣装とメイクを施して写真撮影ができるそうだ。
「お待たせ~、できたよ~!」
「ん、お…おぉ!」
舞妓さんに見事に変身したリナシーさん、顔全体を白粉で真っ白に塗り綺麗な着物を着こなしている。
「すごいよリナシーさん!滅茶苦茶綺麗!」
「ウフフ、ホンマどすか?嬉しおすえ…」
「おぉ、言葉までなりきってる…」
すっかり舞妓さんにハマった様子のリナシーさん、その後しっかり写真も撮ってもらった
「いやぁ、楽しいね京都!」
「そうだね、食べ物も美味しいし建物も風情があっていいし…老後はここで二人でのんびり過ごすのもいいかもしれないね!」
「老後…」
「ん?リナシーさん?」
「えっ?ううん、何でもない!あ、私生八つ橋食べたいな!」
「え、あ、うん!行こうか」
・・・・・
すっかり京都観光を満喫し、今日泊まる宿へ行く
宿の夕飯はとても豪華な懐石料理で僕らは舌鼓を打った、けれど時々…リナシーさんがとても悲しい目をするのが気になった。
「…はぁ、温泉気持ち良かった…リナシーさん、ビール買ってきたから一緒に飲まない?」
僕が部屋に戻ると、リナシーさんは憂いを帯びた表情で窓の外を眺めていた。
「…リナシーさん?」
「えっ?あ、タカノブ戻ってたんだ!おかえり…」
「…どうかしたの?」
「えっ?」
「いや、さっきからずっと時々悲しそうな目をしたりするからちょっと気になって…」
「これは、その…」
「何かあるなら話してよ…ねっ?」
「うん、分かった…あのね、タカノブ昼間にさ、『老後は京都で暮らしてみたい』って言ってたじゃん?」
「うん、言ったね…それがどうかした?」
「それでね、知ってると思うけど私達エルフって人間の十倍以上も長生きする種族なんだよね…」
「そうだね、ファンタジー作品でもよく1000年以上生きてるのに若い見た目のまんまっていうのよくあるよね」
「そう、だから私もさ…百年、二百年経ってもこの容姿のままなんだよ…でも、タカノブは違う…タカノブは私と違って普通の人間だからこの先何十年も経てば普通に年を取って、それでおじいちゃんになっちゃうんだよね…」
「そ、そりゃあまぁ人間誰しもそうなる運命だからね…」
「それで、段々と老いぼれて百年も経たないうちに死んじゃうんだよね…」
「…うん」
「…嫌だ」
「えっ?」
「嫌だ嫌だ嫌だ!そんなに早くお別れするなんて絶対やだよ!私は、もっともっとタカノブと一緒に生きたいよ!」
と、大粒の涙を流しながら僕の胸に飛びつくリナシーさん
「リ、リナシーさん…」
「ごめんなさい、身勝手なことを言ってるのは自分でも分かってる…でもやっぱりタカノブと離れるのは自分の体が半分にちぎられるぐらいつらい…なんで私はエルフなんだろう?私も、人間になりたい…人間になってタカノブと一緒に歳を重ねていきたいよ…」
「リナシーさん…」
僕は泣いているリナシーさんに言葉を投げかけようかと思ったが、泣いている彼女をどう慰めたらいいか分からず、ただ彼女の気分が落ち着くまで優しく抱きしめることしかできなかった。
「…どう?落ち着いた?」
「うん、ごめんね…タカノブのこと困らせるようなことばっか言って」
「気にしなくていいよ…僕の方こそ、気の利いた一言の一つもかけてあげられなくてごめん」
「ううん、いいよ…」
「あのさ、リナシーさん…」
「ん?」
「たしかに僕は、百年も生きられないかもしれない…ほぼ確実に僕の方が先に死んじゃうだろうね」
「…なんでそんなこと言うの?」
「最後まで聞いて、だからさ…それまでの人生、最高の思い出を沢山沢山作ろうよ!アルバムにも収まりきらないぐらいたっくさん!そうすれば、僕は君の中に思い出として…ずっとずっと一緒に生き続けるから…」
「タカノブ…」
「それでさ、まだ何百年先になるか分からないけど…もし来世があったら、今度はお互い人間に生まれてもう一度結婚しよう!」
「う、うぅ…」
「そうだ、リナシーさん…これ、受け取ってくれる?」
そう言って僕はカバンの中から小さい箱を取り出した
「これ、まさか…」
「うん、知ってると思うけどさ…この世界じゃプロポーズする時に相手に指輪を送るんだ」
「知ってる、アニメで見たことある」
「うん、そう言えば僕らまだちゃんとプロポーズしてなかったなって思って、だから…これを君に捧げるよ」
と、目の前で箱をぱかっと開ける
「リナシーさん…どうかこの僕と、これからも…そして来世でも、ずっと一緒にいてください…僕と、結婚してください」
「タカノブ…うぅ、ぶえぇぇぇぇぇん!!う、嬉じいよぉ!」
「リナシーさん…好きだ、大好きだ!」
「私も、私もタカノブのこと大好きだよぉぉぉ!ぶえぇぇぇぇぇん!!」
「これからも、ずっとずっとずっとよろしくね…僕のマイスウィートハニー!」
「う゛んっ!」
…こうして、僕らは将来を固く誓い合い、来世でも一緒になることを固く誓った。
・・・・・
【数年後】
「『もしもし森口先生?いやぁ『エルくら』の最終巻見ましたよ!もう感動で目が滲んじゃって涙が止まらなかったですよ!」
「ありがとうございますカルボナーラ先生、僕としても納得のいくラストを迎えられてホッとしてますよ」
「『いやぁ、ホントに素晴らしいなぁ…来年には映画化と舞台化も決まってるんでしたっけ?ホント森口先生様様ですな!』」
「そんな、僕一人の力ってわけじゃ…応援してくれるファンや、“愛する妻”のおかげですよ…」
「『くぅ~お熱いねぇ!もう惚気話も何度聞かされたことか…もうこっちは腹いっぱいですよ』」
「えー、まだまだ聞いてくださいよぉ」
「『またその内ね!じゃあまた今度!それじゃ』」
と、通話が切れる
「さてと、今日も張り切って頑張りますか!」
するとそこへ…
「あなた、ちょっといい?」
「ん?どうしたの?」
「実は私ね、妊娠したみたいなの…」
「えっ?本当に!?」
「うん、しばらく生理がこなかったから薬局行って検査キット買って調べてみたら、陽性だったの」
「本当に、僕の、僕達の子供が…ここに」
「これから家族も増えて大変になるだろうけど…頑張っていきましょうね?」
「…うん、頑張るよ!」
…それから更に数十年の時が経ち、僕は今日“九十九歳”の誕生日を迎えた。
「みんな、用意はいい?」
「せーのっ!孝信おじいちゃん!お誕生日おめでとう!」
「あぁ…ありがとう、みんな…」
子供や孫やひ孫達に囲まれて誕生日を祝われる…心からとても嬉しい
「よかったわねあなた、今年もみんな集まってくれたわよ…」
「あぁ、私は…なんて果報者なんだ」
誕生日パーティーの後、妻と二人で昔のことを語り合う
「覚えているかい?君に初めて出会ったあの夜から、僕の人生はとてもいいものになったよ…」
「そうね、あの時初めて食べたカップラーメン…とても美味しかったの今でも覚えているわ」
「ああ、それから一緒に暮らし始めて互いに言葉も分からないまま何とかやっていったものだね…」
「うん、あの時プレゼントしてもらった国語辞典…今も大切にとってあるわ」
「ホントに、それからも数え切れないぐらい…沢山思い出ができたな」
「ホント、そうね…」
「僕は、君に出会うことができて本当に幸せだった…君には、どれだけ感謝の気持ちを述べても物足りないぐらいだよ…」
「私もよ、この世界にこれて…あなたと出会えて本当に幸せだったわ…」
「うん…ありがとう、リナシー、さん…愛してるよ」
「私も、私も愛してるわ…タカノブ」
そう言って僕はそっと静かに目を閉じた。
「…眠いのね、うん…ゆっくりおやすみ…またね」
終章
【西暦 30XX年】
俺の名前は『森山 孝宏』、今日から大学生だ…高校生まではぱっとしない人生だったけど、大学に入ったら絶対に彼女を作ってバラ色のキャンパスライフを送るんだ!よぉし、やるぞぉ!
と、決意を新たに歩き出そうとしたその時だった…
「きゃっ!?」
「おわっ!?」
後ろから突然人がぶつかってきて思わずこけてしまった。
「イタタ、す、すみません…大丈夫でしたか?」
「いえいえこちらこそ、すみません…ボーっと突っ立ってて…」
「いえいえ、私こそちゃんと前を見てればこんなことに…」
と、ぶつかってきた女性と目が合ったその時だった…。
“ピキィーーーン!”
突然、全身を雷に打たれたかのような衝撃が走ったと同時に彼女の瞳から目を離せなくなってしまった。
「あ、あの…お怪我は?大丈夫ですか?」
「あ、はい…大丈夫です」
「あの…俺、森山 孝宏っていいます…失礼ですが、お名前は?」
「はい、私は『椎名 里奈』っていいます…」
「そうですか…素敵なお名前だ」
「えっ!?」
「いや、あのすみません…初めて会った人なのに失礼ですよね?じゃあ、失礼します!」
「あの、待ってください!」
「えっ?」
「あの、もしよかったら…ぶつかってしまったお詫びに、お食事にいきませんか?」
「えっ?そんな…でも」
「お願いします!是非…」
「わ、分かりました…じゃあ、お言葉に甘えて」
「はい、この大学の近くに美味しいラーメン屋さんを見つけたんです!そこで大丈夫ですか?」
「いいですね!俺、ラーメン大好きです!」
「よかった…フフフ、ではまた後で」
「ええ、また…」
この時、運命の歯車が大きく動き出したということは…まだこの二人は知らないのであった。
Fin...