第8話 ことの顛末(上)
前回までのあらすじ
異世界に転生した将臣は子供になっていた。
「村へようこそ」の一声を生業とする第一村人の父。
将臣は数日の間、不在の父の職務を代行することとなった。
印象の悪い勇者ゆあのパーティーは、将臣のスキルにより全滅に追い込まれた。
全滅した勇者一行の四人を宿屋のベッドに寝かせた。
所用で外していた母のシヴが戻ってきて宿屋に顔を出した。宿屋のおやじがシヴをみて言った。
「ああ、シヴ、聞いてるだろ。回復魔法をかけてやってくれよ」
「わかりましたー」
シヴは四人を見渡し、戦士、アーチャー、聖職者の三人は意識がないことを確認した。ゆあも虫の息だ。
中でも戦士は外傷がひどく、一番危険な状態だ。シヴは彼から治療を施すことにした。
回復魔法の詠唱が始まった。すると両手のひらから光が放たれた。
ぽわぽわぽわぽわ…。
その時、シヴは俺に気がついた。
「あら、マー君。あなたもお手伝いしたのね?」
「うん。勇者様を運んだよ」
「ちょっといらっしゃい」
「うん」
俺はシヴの横まで移動した。
ほんわかしたシヴの空気というかオーラが、突然ピリッとした。小声ではあるが、鋭い口調で語りかけてきた。
「何があったの?あなた、ここ数日おかしいわよね。ダンジョンも。あんな凄腕の聖職者がついてるのに全滅だなんて」
「っ…!」
回復魔法の光が、下から照らす懐中電灯みたいになってシヴの顔が怖い。
何から話そうか、言い出し兼ねた。
ぽわぽわぽわぽわ…。
回復魔法の音が耳に付く。
シヴは続けた。
「それにあなた、マー君じゃないわよね」
「なっ…!」
やば。バレてたのかよ。
「う…。たしかに今は、マサオミの記憶がない。でも、この体はマサオミのもので間違いない」
ぽわぽわぽわぽわ…。
「そう……。サクはね。私にはバレてないって思ってるらしいけど、あの人、東国の……」
「えっ?」
「その話は置いておくとして。あなたの言葉を信じるなら、誰かが東国の術でマー君に化けてるわけじゃないのね?」
「化けてない。この体はマサオミだ。それは間違いない。朔が出かける前日の朝、起きたらこの体だった。それまでは全然別の世界にいたんだ」
シヴの瞳が刺さるが、そのまま俺は続けた。
「年なんか三十四だったんだけど、子供になっちゃって。朔は、俺が転生者だと言っていた。マサオミの記憶もそのうち戻るだろうって」
ぽわぽわぽわぽわ…。
シヴは戦士の方を見ながら少し考えている。俺は続けた。
「転生前、俺はこっちでいう東国語と似た言葉を使っていて、その時の名前も将臣というんだ」
ぽわぽわぽわぽわ…。
シヴの目線は動かない。
「もしそれが嘘なら、わかってるわね」
シヴは静かに凄みを増していく。
「わかるも何もないさ。俺はマサオミだし将臣だ」
そして、すぐ無意識に口から出た。
「ママは心配性だなあ。僕はここにいるじゃない」
そう言いながら左手で頭をかいた。
数秒の間、時が止まった様に二人は見合わせた。二人ともハッとしている。
「マー君…」
シヴはそう言って俺の手を握った。そして続けた。
「そう。わかったわ」
どうやら信じてもらえたのだろうか。雰囲気がやわらいだ。
だが突然、シヴがさらに鋭く訊いてきた。
「そうだ、そうよ。ドラゴンスクリューって何?」
えっ、何?それ気になってたの?
「ど、ドラゴンスクリューですか?それは、キックに対するカウンターの投げ技です。ファイさんの護身術として、たいそう役に立つと思いますよ」
シヴのあまりの迫力に敬語になってしまった。が、そのとき。
「あっ……」
なんだ?頭の中で何か繋がったぞ。
「俺、今の鋭い雰囲気のあなたに、どこかで、その、助けてもらったことありませんか」
シヴは目を見開いた。俺は続けた。
「ていうか、あんたこそマサオミの母親って……」
「……!そ、そうね…。そうね。でも、マー君は私の大切な子なの。私の大切な…」
その時だった。
「うっ。」
戦士の意識が戻り始めた。シヴは戦士を見て言った。
「そろそろ大丈夫かしら」
回復魔法の詠唱を終えて光が消えると、シヴは元の雰囲気に戻っていた。
「マー君、ここはもう大丈夫だから、第一村人のお仕事に戻ってなさい」
シヴによれば、しばらく休めばLv25の聖職者の魔力も回復して、もっと強力な回復魔法が使えるはずとのことだ。もう心配いらないだろう。
翌日。
朔が出かけて四日目の朝、勇者一行は村を後にする。村の入り口で再び勇者一行と対面した。
「マサオミ褒美をとらそう。わたくしに跪いて、従者にお命じくださいと懇願なさい。そうすれば考えてもよろしくてよ」
「いや、しない」
「まあっ、わたくしのオファーをお断りになるんですの?」
「俺に会いたいなら自分で会いに来ればいいじゃないか」
「べ、別にあなたなんかに会いたくありませんわ」
「会いたくもない奴を従者に勧誘するのか?俺はゆあに会いたいよ」
「えっ…。そうなんですの?わ、わたくしと?会いたい?」
ゆあは例によって体をよじらせている。すまんが、その反応がおもしろいから言ってみただけだ。
「やっぱり、うそ」
「なっっ、わたくしをからかったわね!」
そう言いながらも、ゆあはじりじり近づいてくる。
「はははは。相変わらずかわいいな。でも、かなり強くなった頃に、また始まりのダンジョンでクエストがあるかもよ」
聖職者は言った。
「ゆあ様を搬送した少年か。礼を言う。あのダンジョン、不穏な妖気も瘴気もあらなんだ。にもかかわらずアークドラゴンが出現するとは不自然の極み。管理者には忠告したが、これでは初心の冒険者は手が出せぬぞ。厳に気をつけられい」
俺は聖職者の目を見て頷いた。
ゆあが続けた。
「マルゲリータ、あれをもってらして」
「ええ、これね」
アーチャーの女が紋の入った包みを俺に差し出した。
「あなたの妹へですわ。恩人の妹の気を悪くさせたままでは、わたくしの名誉に関わりますわ。お受け取りなさい」
必要ないと言ったが、受け取らなければ後々使いに届けさせるという。渋々受け取った。
「マサオミ、見ててごらんなさい。わたくし、もっと、もっともっともっと強くなってみせてよ」
「ああ。がんばれよ」
「それはそうとマサオミ。あなたのお母上、この村には似つかわしくなくてよ」
「どういう意味だ?」
「さあ、どういう意味かしら。それではごきげんよう。ほっほっほっほ」
村を騒がせた勇者の一行の背中が、ゆっくりと遠ざかっていった。その日の午後に朔が帰ってきた。
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