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第5話 朔、旅立つ

前回までのあらすじ


異世界に転生した将臣まさおみは子供になっていた。

父は「村へようこそ」の一声を生業とする第一村人であった。

しかし、第一村人の役割には冒険者のレベル査定や、ダンジョンの監視が含まれるという。

父から第一村人の実習を受け、スキルの使い方を学ぶ将臣。

そこに妹ファイが帰ってきた。

ファイは突如正拳突きを放ち、将臣を気絶させてしまうのだった。

「……! おい、将臣大丈夫か?」


「マー君!マー君!」


「お兄ちゃん、ごめんねー」


「う……うぅん」


 俺は朦朧とする意識の中、目をかすかに開けた。


「おい、気がついたぞ」


「マー君!よかった!」


 ここは…、サクとシヴの家だな。俺は朝起きたベッドに寝ていて、朔、シヴ、ファイの三人が横にいる。


「ファイ、お前何てことしたんだ。いきなり正拳突きだなんて」


「そうよ、お兄ちゃんにごめんなさいしなさい」


 ファイは悲しそうに謝ってきた。


「お兄ちゃんごめんなさい。ファイ、強くなったのをお兄ちゃんに見てもらいたかったの」


「そうか。強くなったな…」


 いや、ちょっと待て。その強さを身をもって実感しなければならぬ理由なんぞ皆無だ。なんてやつだ。



 俺の腹部はまだ痛むが、とりあえず家族で夕食を食べることになった。腹の痛みを除けば、いたって普通の明るい家族の団らんである。


 今日あったことを話していた中で、ファイは祖父から拳法を習っていることを知った。


「ねえお兄ちゃん、今日は中段蹴りを習ったんだよ」


「すごいな〜。でも俺に中段蹴りは効かないよ。反撃でドラゴンスクリューだからね!」


「ドラゴンスクリュー!?何それ!?強そう!どんな技?教えて!」


 朔は小声で俺を制した。


「おい、何だそれ?まだあんまり変なこと言うんじゃないぞ」


「マー君、なんだか今日はいつもより楽しそうね。パパともファイちゃんとも仲良しでママ嬉しい!」


「はっはっは。ファイの正拳突きで、お兄ちゃんが少しおかしくなったのかもしれないぞ」


「えぇ〜お兄ちゃん大丈夫?ごめんね?」


「はっはっは」


「うふふふ」


 そうか。まだ、この体が刻んできた記憶はおぼろであるけれども、ここが彼の居場所なのは疑いなく解った。


 なんだか、それが嬉しかった。


 そのうち、ファイにドラゴンスクリューを教えてやろう。ちなみにドラゴンスクリューというのは、キックへのカウンターに使える投げ技だ。もし下手に抵抗したならば、相手は膝関節を壊してしまうだろう強烈なものだ。


「ねえあなた、明日は早めに出るんでしょ?」


「うん、そうだな!」


 朔の話になった。旅程やら、お土産のこと、帰りの予定やら話をした。全国第一村人協会の会合はガコエワ城の城下町で行われるという。


 明日は俺と村の入り口まで行き、そのまま出発するそうだ。


 家族一同で旅路の無事を祈った。



 恐らくいつもの感じで、この家族の夜は過ぎていった。



ーーー***ーーーー***ーーー



 朝だ。


 カーテンをまとめて、窓を開け放った。朝露で潤った柔らかい風が頬を凪ぎ、鳥の声がよく響いた。あたりに朝焼けの黄色みは既にない。空の青さは雲の白さで引き立っていた。


 初任務に少し緊張しているのだろうか、少し浮ついた感じがある。



 一階に降りると、朔の支度は済んでいる様で、あとは着替えるだけと言った落ち着きぶりだ。今日もシヴと二人で朝食を用意している。


「おう、おはよう。すぐできるぞ」


「おはようマー君。ファイちゃんも起こしてきてくれる?」


 俺は二階へ戻り、再びファイと共に一階へ降りる。朝は時間の流れが速いのを感じる。


 家族で朝食を済ませ、朔はすぐに洗い物を済ませた。もう準備完了という空気を放っている。俺も身支度を済ませて、朔にアイコンタクトをすると軽く頷いた。


「シヴ!そろそろ出る」


「うん。気をつけてね。マー君も頑張るのよ。後で様子を見に行くから」


「パパ、気おつけてね。あとお土産のグローブを忘れないでね」


「ああ。行ってくる」


「行ってきまーす」


 俺と朔は家を出発した。十メートルくらい進んだところで、後ろからファイが叫ぶ声が聞こえた。


「パパ、お兄ちゃんが冒険者にイジめられたら、ファイがやっつけるからね」


 二人で振り返って手を振ると、村の入り口へ向かい歩き始めた。


 四、五日の間は俺が第一村人を代行するわけだが、心配はいらないだろう。なんせ冒険者のレベルをチェックするだけの簡単な作業だ。



 昨日と同じ道を進みながら、朔がスキルの説明をしてきた。


「定型の台詞は、補助スキル[モブ台詞読み上げ]を開いて登録しておけ。そうすればいつ何時でもブレずにセリフを言うことができる」


「そんなスキルがあるのか。えぇと」


 スキル欄を開くと、確かに項目があった。そこへ昨日の台詞「ここはモシタイの村だよ。冒険者様だ、わーい」を登録した。


「ちょっとテストしてみるか」


「ここはモシタイの村だよ。冒険者様だ、わーい」


「ここはモシタイの村だよ。冒険者様だ、わーい」


「ここはモシタイの村だよ。冒険者様だ、わーい」


すごい。何回言ってもブレない。


「あんた、こんな便利なスキルを黙って実習させたのか」


「はっはっは。はじめはそう言うものに頼らないでやるのもいいものだぞ」


「ぬぬ。師匠ぶりやがって」


 そんな話をしながら歩いていると、村の入り口に着いた。


「よし、ここでお別れだ」


「ああ。気をつけてな」


「おう。子供の中身が三十四のやつに変わったのはショックだが、任務代行を頼むには良かったのかもな。シヴやファイをまかせるにもな」


朔は少し考えて続けた。


「あと、はやく、息子の記憶も思い出してやってくれ」


 そして、ニコリと笑って東方語で加えた。


『じゃあ、あいつらを頼んだぞ』


『ああ、まかせてくれ。(いや、俺が一番弱い気がするけど)』


 俺が応えると、朔は振り向いて街道方面へ進んでいった。


 朔のやつ、突然自分の子供が転生者になってしまった割には冷静だなんだよな。そんなことを考えながら、朔の背中が段々と小さくなっていくのを見つめた。



ーーーさて、初仕事だな。

最後までお読みいただきありがとうございます

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