第4話 第一村人のしごと(下)
前回までのあらすじ
異世界に転生した将臣。
目が覚めると子供になっていた。
父親は村の第一村人で日本語を解する存在であった。
父の代理を務めるため、今日は第一村人の実習を受ける。
俺と朔がいるのは、村のメイン通りを過ぎていって建物がなくなったあたりだ。この場所にいれば冒険者が来るそうだ。
あたりを見渡していると、早速冒険者らしき人影が歩いてくるのが見えてきた。
「あれが冒険者だ。いいか。冒険者と接近すると能力査定スキルが自動的に発動する」
「スキル?何だソレ?」
冒険者との距離が数メートルほどになると、視界にウィンドウみたいなものが出現した。
発動スキル 冒険者査定(見習い) Lv0
冒険者1 戦士 Lv3
冒険者2 聖職者 Lv2
冒険者3 魔法使い Lv2
承認番号 仮承認
フラグ 初期状態
クエスト 始まりのダンジョンで冒険者の証を手に入れろ
「うわ、ナンカ出タゾ。Lv?承認番号?」
「それが第一村人のスキル[冒険者査定]だ。レベルは冒険者の強さの指数。承認番号は王都で発布される冒険者番号だ」
「仮承認って書いてアルケド。」
「そうだ。冒険者は始まりのダンジョンのクエストを終えると、王都で正式に承認される」
「ソレマデハ仮の冒険者ってことか」
「左様。飲み込みが早いな」
とか言っている間に冒険者が近寄ってきた。もう疲れ果ててるって感じでやつれている。
「ここがモシタイの村ですか?」
朔は答えた。
「こんにちは。ここはモシタイの村です。冒険者始まりの郷として知られています」
戦士が訪ねてきた。
「薬草を売ってる道具屋か、宿屋はあるのかな?」
「こんにちは。ここはモシタイの村です。冒険者始まりの郷として知られています」
聖職者が更に言う。
「あの、もうMPが残ってなくて宿屋…」
「こんにちは。ここはモシタイの村です。冒険者始まりの郷として知られています」
朔のやつ、意図的に聖職者の言葉を遮ったが、嫌味の入ったイントネーションを伴うことない。三回とも全て均一な口調だ。
こいつ、プロだわ。
魔法使いが悟った様に言う。
「あ、この人は第一村人だよ」
「なんだ。そういうことか。イカれてるのかと思ったぜ」
「モブなんか相手にするな。行こう」
見習い冒険者一味は村のメイン通りを進んでいった。三人の背中が小さくなっていくと、朔はつぶやいた。
「これがお前が代行する任務だ」
「ナンダ。簡単そうだな」
「まあな。特にこの村に来る冒険者は、レベルの幅が少ないから調整も楽だしな」
「調整?」
「ダンジョン難易度の調整も仕事のうちだ。お前はまだスキルレベルが低いから無理だがな」
朔は考えながら続けた。
「お前のセリフも考えておこう、そうだな。「ここはモシタイの村だよ。冒険者様だ、わーい」、でどうだ?」
「ヨクワカランガ、そうするか」
そんなこんなで、午前中にはもう一組だけ冒険者が来た。再び朔の近くで第一村人任務を見た。
昼食は家に戻らず、村の入り口にある木の下で食べる。朔はバスケットからサンドイッチの紙包みを取り出して俺に渡す。母親のシヴに作ったサンドイッチと同じものだろう。
鶏肉と似た肉と、黄色いソースがはさまっている。一口食べてみると、肉の旨味と酸味のあるフルーティーな香りが広がる。
「ウマイ」
「ははは。そうか。それはよかった。午後からは一人でやるんだ。ちゃんと食べて準備だな」
「ほんとうに コンナノやらなくちゃ イケナイノカ?」
「当たり前だ。国の経済にも影響する重要な任務だぞ」
「ぬ〜」
更に朔は思い出したかの様に切り出した。
「あと、転生の件だが、少なくとも俺が帰ってくるまでは黙っていてくれないか」
「この先の数日間は、あの母親の前で何もなかったフリをしてオケト?」
「そうだ。単純に取り乱されても困る。記憶がないとなれば尚更だ」
俺は少し考えて返事をした。
「解った」
その後、朔から言われた通りに午後は一人で第一村人をやる。朔のやつは、木の裏に隠れてこっちを見ている。
「将臣、がんばれよ。俺がついてるからな!」
ーーー***ーーーー***ーーー
結果的にいうと、午後に来た冒険者は一組だけだった。なんということもなく、Lv2とか3のパーティーと挨拶を交わした。
他は誰もこなくて暇だった。だが不思議と足は疲れない。これは第一村人の常駐スキル[立ちっぱなし]らしい。
こうして午後は過ぎ、陽が少し傾いてきた頃だ。馬ぽい動物に乗った女性が近づいてくるのが解った。前に小さな女の子を乗せている
女性は手を振りながらさけんだ。
「マーくーん。ただいまー」
シヴか。続いて女の子がさけんだ。
「おにーちゃーん」
あれがファイか。俺をお兄ちゃんと呼ぶからには妹か。変な名前だから、犬猫の類かと思ってたぜ。
俺の前までくると二人は馬から降りた。
ファイはブロンドの髪を左右に分けて三つ編みにして、子供用のマントを着ていた。ニコニコして楽しそうだ。
シヴはファイに言った。
「ファイちゃん、お兄ちゃんにただいまを言うのよー」
ファイは俺の方を向いて大きくにこりと笑った。
「おにいちゃんただいまー」
ファイは駆け寄ってきた。
盛大にハグか?かわいいじゃないか。俺は駆け寄る妹を受け止めるべく手を広げた。
だが、目の前でファイの顔が沈み、ドブっという鈍い音が聞こえた。その刹那、視界が歪んで体の中心に鈍い痛みが走った。
「ぐふぉあっ」
ファイの正拳突きが、俺のみぞおちにクリーンヒットしている。
ちくしょう、しっかり腰が入ってやがる。俺は意識を失った。
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