第37話 麺屋の店主
前回までのあらすじ
将臣は訓練のため王都に住むことになった。
妹のファイも王都に進学するため同居することになった。
そこにターニャとゆあが押しかけ修羅場の様相を呈した。
その時、おぞが出現して将臣は気を失った。
女たちは、泡を吹いて倒れている将臣をベッドに寝かせた。
どれくらいの時間がったのだろうか。
将臣はぼんやり目を覚ました。
「ここは……?」
(あ、そうか、ここは王都での新しい家だ)
顔を横にしてみると、女三人が菓子の乗ったテーブルを囲み、笑いながらお茶を交えている。
将臣は目線で部屋を見渡した。
棚の横には口の空いたトランクが二つ。
俺が荷物を並べたはずの棚には、女物の生活雑貨が並んでいる。
服を入れたはずのクローゼットには、女物の服がかかっており、俺の服が部屋の隅の椅子の上にたたんである。
将臣は現実を受け入れつつあったが、一筋の涙を流した。
「あれ、お兄ちゃん?起きた?大丈夫?」
「将臣、わたくしたちは夕飯を外でいただきましたわ」
「大通りの料理屋さんがおいしかったよ」
争っていた女が何故か仲良くまとまっている。こういうケースというのは、おそらく男を悪者にして意気投合した場合である。将臣は、女たちに何があったのか、そこには触れないことにした。
「外の空気を吸って、俺も何か食べてくるよ」
王都の夜は明るい。大通りには街灯がともされ、飲食店が立ち並ぶ。夜でも人が行き交って、田舎とは大違いだ。
将臣は昼間ぷらっと歩いた時に、一本裏の小道で東国風の立ち食い麺料理屋があるのを見つけていた。将臣は女のことを忘れるかのように、わくわくしながらのれんをくぐった。
「へいらっしゃ……あっ!」
「ん?……あぁぁっ!」
店長と目があった。しかし、その店長は見たことのある顔だった。
その者は、ゆあに仕える隠密の湯八である。湯八は大変バツの悪そうな顔つきである。将臣のわくわくは一気に吹っ飛んで、食いかかるように詰問した。
「ちょっと!湯八さん!あんた一体ゆあに何ふかしこんだんだよ!?」
「え、えぇ、まあ、ちょっと落ち着いてくださいよ」
「第一、こんな近所で店やりながら、バレちゃったみたいな顔してさあ!」
「いやあ、め、めんぼくねえ」
「あれさあ、うちじゃあ狭くて無理ですよ。他に一人来ちゃったし」
「へえ」
「どうしてもって言うなら、部屋を手配してもらえませんか?もう一人も、ゆあ様の皆殺しで泡食ったリヨイのお嬢様ですよ」
「そいつぁ……、ビタ一文出さねえって訳にもいきませんね」
数日後、今のアパートのワンフロア五部屋が借り上げられることが決まった。一人一部屋に分配し、残りの一部屋は改造して風呂場にした。
ただ、食費などは相当かかってくる。将臣はエリートであることを利用して、バイト先もみつけた。
故郷モシタイと王都の間にある、王都北の森のレベル調整業務である。
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