第32話 訪問者
前回までのあらすじ
リヨイの村に派遣された将臣。
ひょんなことから勇者ゆあたちと共に、ダンジョンに入ることとなり、領主の娘と、捨て置かれた水神を救出した。
ダンジョンを出ると、村はモンスターによる夜襲を受けていた。
領主は、夜襲が土工山賊キンドーの仕業だと言うと絶命した。
湯八がキンドーのアジトに潜入し、一連の事件がキンドーと村の治安担当騎士オリワンの謀略であると確証を得る。
ゆあたちはキンドーのアジトに攻め入り、罪状を認めさせ、全員を成敗した。
一行は村に凱旋し、領主の葬儀を上げた。
葬儀の帰り、領主の娘ターニャが将臣の部屋を訪ねて悲しみを感情をみせた。
「じゃあ、私そろそろ行くね」
ターニャはショールを羽織い、髪を手櫛でまとめた。
アパートの玄関まで行くと将臣は言った。
「屋敷まで送っていくよ」
「いいえ。いいの。お願い、ここで」
ターニャの口調から、将臣は無理に送ろうとはしなかった。
ターニャは、ドアから出る前とドアを閉める時の二回、将臣を振り返って笑みを見せた。一度外に踏み出したが、戻ってきたので抱き交わした。ターニャは後退りしながら将臣を見つめ、ドアが静かに閉じられた。
今後のターニャはどうなるのだろうか。近く、ターニャは爵位を継ぐことを強く望まない。そのため、ガコエワの土木工事の計画発注を担当している伯爵家に白羽の矢がたつ。この一家ならばリヨイの土工組との関係もあるから、その地を治める道理もあるように思えた。
今後、公爵家で複数の案が検討される。例えば、ターニャをゆあのすぐ上の兄に嫁がせてリヨイを公爵家領とさせた上、伯爵家次男を土木工事担当として雇うという案である。または、伯爵家の次男をターニャの婿にし、爵位を継がせる案など、他の案も考えられた。
ただ困ったことに、公爵家の利益が大きいというか、そもそも土木工事のプロ集団を新たに抱えること自体が目立ってしまう。というのも、ゆあがキンドーの一味の全員を殺したため、オリワンの反乱を立証する手立てがターニャの証言以外にない。これが客観的な説明として弱かった。
見方によれば、土木技術が欲しいがため、領主を暗殺して領地ごと乗っ取るガコエワの謀略に見える。
公爵家はこれを嫌うことになる。
かといって土工組獲得を狙う国土大臣の勢力が、ガコエワに程近いリヨイに置かれることは許容できない。このような事情で、ガコエワ公爵によりターニャへ爵位が後継される手筈が強く斡旋される。
すぐ先の未来、ターニャが領主の座を継ぐことは、寧ろ事実上の強制という色合いを見せる。
ターニャが帰って程なくした後、将臣のアパートにゆあが訪ねてきた。
「こんばんは、将臣。ちょっとよくて?」
そう言うと、将臣の返答も待たずに部屋に入ってきた。
将臣は茶を入れたカップを持っていたが、シンクにもう一つのカップがあった。
「誰かいらしてたのかしら?」
「え、ああ。ターニャ様がお見えに」
「そう。すぐ帰ったの?」
「そ、そうだね。魔導PCを使いにいらして、すぐに帰ったよ」
将臣は何故か怒られてるような気分になり、咄嗟にそう返した。
ゆあはまるで自分の家に帰ってきたかのように、先ほどまでは将臣とターニャのものだったソファーに腰かけた。
「将臣、こちらにお座りになって」
「え、ああ。どうしたんだい?」
将臣がソファーに腰をかけると、ゆあが身体を寄せてきた。将臣は驚いて言った。
「ちょっと、いきなり何だよ!?」
「良いでしょう?私たちの未来は決まっているのですから。何の咎めもありませんわよ?」
実際には大きな身分の差があるし、何も決まっていない。しかし、ゆあはそう言うと将臣の肩に頭を乗せ、腕を絡ませてきた。
将臣は焦ったが、ついついゆあの身体に目を向けてしまった。ウェーブのかかったダークブラウンの艶やかな髪に、透き通る様な色白の肌。長いまつ毛の整った顔立ち、胸は丸みを帯びており、鍛えられてメリハリの効いたボディライン。すらっと細い大腿部でも、筋肉の量感によるカーブで二本の脚の間に目線が吸い込まれた。
一緒にいるならターニャが良いが、ゆあは明らかに可愛い。
ゆあは将臣の肩の上で、遠い目線を飛ばしながら声を低くして言い放った。
「一人残らず誅殺したのはまずかったかしら」
将臣は、横目でゆあを見ながら一瞬固まった。
「えっ、何よこれ?」
ゆあは将臣の胸のあたりに気がついた。付着している茶色く長い髪の毛を一本つまみ上げた。
「将臣?」
将臣は更に固まった。
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