第3話 第一村人のしごと(上)
前回までのあらすじ
異世界に転生した将臣。
目が覚めると子供になっていた。
階段を降りると親と思しき二人と朝食を食べる。
日本語で父親に話しかけると緊張が走った。
「じゃあ、行ってくるわね。夕方までには戻るから」
と、身支度を済ませた女性が戻ってきた。
マントを羽織った旅人の様な姿に、剣、いや、反りが入っているから刀に分類されるのだろうか。そんな感じで、やや短い鞘入りの刀剣を帯びていた。
「ん、ああ。分かった。気をつけてな。これ、昼飯だ。ポロ鳥肉のサンドだ」
男はバスケットを手渡した。
「ありがとうー。マー君、ママ、ファイちゃんを迎えに行ってくるから。パパとがんばっててね」
女は俺と男とそれぞれキスを交わすと、男に見送られて建物を出た。ほどなく馬の蹄の様な音がして、それが遠ざかっていった。
部屋は静寂に包まれたが、口火を切ったのはヒゲの男だった。
『まさか、転生者か?』
『転生者?何て言ったらいいか。俺は死にそうになったんだ。たぶんこことは別の世界だと思うんだけど。そして気がついたら今日の朝だった』
『それは転生者だな。初めて見た。いきなり覚醒するのか。驚いたよ。俺の息子の記憶はあるか?』
『ない』
『そうか。でもそのうち思い出すんじゃないか。二つの記憶や人格が統合されるはずだ』
『そうなのか』
『恐らくな。お前、東国語を話しているが、俺とシヴ、ええと、つまりお前の母親だが、俺ら二人の会話はわかったのか?』
『理解できた。俺もその言語を話せるのかな?』
『理解できたんだから、話せるだろう。少なくとも息子が話せた程度にはな』
『そうか』
『あ、そうだ。まずは着替えをするか。さっきも言ったが訓練をする。村の入り口まで歩きながら話そう』
俺たちは二階へ上がった。
『ベッドのところに畳んである服を着てくれ』
男に促され、さっき寝ていたベッドを見た。その枕元に畳んであった服に着替え始める。男は更に訊いてきた。
『俺は息子に将臣と名付けたが、お前、名前は何て言うんだ?』
『それが。なぜか不思議と同じ名前なんだ。将臣だよ』
『……っ。そんな偶然があるのか。いや、それとも必然なのか。ていうか、何で東国語を話しているんだ?』
『転生前?に使っていた言葉だからだよ。俺がいた世界では日本語っていうんだけど』
『ニホン語?そう呼ぶのか。そうだ、お前も色々聞きたいことがあるよな。あ、不器用なのは変わらないんだな』
子供の手はまだ未発達で器用には動かない。ボタンを掛けあぐねていると、男はそっと手を伸ばして胸から上のボタンを掛けてくれた。
『そもそも、ここは一体どこなんだ? あと俺はあんたのことを何て呼べばいいんだ?』
『俺か?パパに決まってるだろ。ここは、モシタイの村だ。さ、行くぞ。説明する』
パパ?
このヒゲ面をパパと呼ぶのか。それはちょっとごめん被りたい。
階段を降り、男は上着を羽織った。そして、揃って家を出た。
『その、転生前は34歳だったんだ。パパはちょっと』
『え、ほとんど同じ歳じゃないか。お前、今は九歳なんだぞ。まあいいか。俺の名は朔だ。取り敢えず今はそう呼ぶといい』
少し歩いたところで、近所の住人と思しき男とすれ違う。
「おはよう、サク。今日も天気がいいね」
「おはよう。今日はうちの息子に第一村人の仕事を仕込むんだ。すぐに一人前になるぞ。はははは」
住人と距離が取れると、朔は小声で言った。
『村の人たちの前で東方語は避けよう。あと、誰かいる時はパパと呼ぶんだ』
『わかったよパパ』
こんなヒゲ面をパパだなんて持ち悪いぜと、思っていたところ、朔は更に続けた。
「ここからは言葉をもどすぞ。話せるか?なんかしゃべってみろ」
この世界の言葉は話せる様な気がするが、脳と身体が直結してる感じがしない。
「ダイイチ ムラビトッテ ナンダ?」
「あれ?まさかの片言かよ。ははは。まあいいや。今日一日使って慣れろ」
「ソウスル」
朔はニヤニヤしている。何がおかしいのか。
「じゃあ、説明を始めるぞ。そうだな、基本からになるか」
数歩、上を向きながら考えて続けた。
「第一村人ってのは、村の入り口付近で冒険者を待ち受けする人間のことだ。今日の実習訓練というのは第一村人の実習だ」
朔は続けた。
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「第一村人は、冒険者から話しかけられたら「ここは〇〇の村です」と説明する。喋ることはそれだけだ」
「フム」
「だが、それだけではなく、もっとやることがある。
それが、冒険者のレベルやフラグの確認作業だ。
例えば、俺が下した能力査定結果で、村はずれにある「始まりのダンジョン」の出現階層、出現モンスター等に変化が出る」
まるでゲームみたいな話だ。
「あと、ダンジョンは洞窟、廃坑、遺跡とかそういう都会にはない場所だろ?
だから最寄りの村が監視も担当するんだ。その実務担当が第一村人さ」
へえ、RPGで村の名前しか言わないヤツ、こんなことしてるのか。
「監視してどうするんだ?」
「ダンジョンの監視状況は、全国第一村人協会に報告し掌握される。第一村人の統括組織だな」
やば。第一村人ってただのモブじゃなかったのかよ。
「そう。実は先日、協会から緊急会合の招集があったので、俺は出席するために4、5日ここを離れる。それで将臣、俺が不在の間は、お前が名代として第一村人をやるんだ」
朔は少し考えて続けた。
「何の緊急か詳細分からないのだが、今までこんなことはなかった。もしかしたら、お前の転生とも繋がりがあるのかもな」
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一度にたくさん聞いて、整理がつかない部分もあるな。もし必要になったら尋いてみよう。
そうこうしている間に村の入り口に着いた。
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