第168話 温水パンツの開発 その2
前回までのあらすじ
王都で同居生活をすることになった将臣、ファイ、ゆあ、ターニャ。
ゆあの姉で王太子妃のヒルダに関わり、王太子の跡目争いに貢献すると、将臣は騎士に叙され、ターニャは男爵を継ぐことになった。
その後、かつて教育係の聖職者の差金から、呪いの魔法でタヌキに変えられてしまった。
将臣のジミノフへの派遣に着いていったゆあは、弓使いマルゲリータと思いがけない再会をし、彼女の協力を得て呪いを改善させた。
一方将臣は、ダンジョン管理組合と隣町のセルツの担当者がグルになって不正を働いている証拠を見つけ、それを密かに王都に持ち帰った。
王都に帰ると、その日はターニャが荒れていた。
夕食の折、将臣はターニャに話しかけた。
「ターニャ、明日俺も一緒に子爵様のところに行っていいかな?湯沸かし器の会社に温水パンツの開発協力をお願いするわけだし、やっぱりオーナーの子爵様にも挨拶しておきたいじゃない」
「うん、いいよ」
ターニャのテンションは異常に低くく、目も合わせず下を向いたまま答えた。将臣はゆあと目を合わせると、ゆあは苦笑いで返した。ピリついた雰囲気はファイにも伝わっており、横目で様子を伺いながら食べていた。
翌日、ターニャと二人で子爵の屋敷を訪れた。車寄せに立派な馬車が停まっていた。将臣はその馬車に見入ってしまった。
(お、いい馬車だな。加飾はさりげなく、脚まわりがしっかりしてる。馬もいい体してるし、そもそも品種の選び方も良い。機能主義でセンスがいい)
「まあくん、何してるの?入るわよ」
「あ、ああ」
中に通されると、老夫婦と中年の男がいた。老夫婦が子爵夫妻で、中年の男が息子だそうだ。息子の方はターニャも初めて会うそうで、子爵から紹介された。
子爵は七十歳くらい。短い白髪を後ろに流している。細長い顔で口髭と顎髭がもみあげと繋がっている。中背で細い。歳の割に早口で認知能力の衰えを感じさせない。妻のほうは、歳は子爵と同年代に見える。髪は白髪でボリュームがある。顔は丸顔で団子鼻だが、上品な小太りだ。口調はゆっくりしている。今日は薄青系のドレスに身を包んでいる。
息子は四十そこそこか。髪の色は明るい金髪で、父親と同じく短髪を後ろに流している。表情は温厚で輪郭が丸く、口調も穏やかで母親の面影が強い。背丈はさほど高くないが、体つきががっしりしている。
子爵の号は、メガズスワ子爵。領地はリヨイとは隣り合ってはいないが、その南側の近いところにあって、地名をワガキトと言う。畑作や畜産を主とした農産地で、その領地経営は息子が行い、子爵夫妻は王都で会社の面倒を見ている。
最初にターニャの会社の経営について話していたので、その流れて温水パンツの話題を出したところ、すんなりと協力に同意してくれた。将臣の任務は早くも終わったので、心はリラックスしてしまった。
(まあ、あとは世間話だな)
「表に立派な馬車がありましたが」
将臣は話が雑談に向いたところで、世間話的に馬車の話を出してみた。すると息子が答えた。
「ああ、それは私が乗ってきました。荷馬車を使うほどではないのですが、運ぶものもありましたので馬車で来ました」
「あの脚まわりは最新式のサスペンションですよね?馬も脚が太くて見事でした」
「はっはっは。マサオミ殿はお目が高いですね。よかったら後で一緒に乗りましょう。僕は見てくれの装飾には大して興味がありませんが、脚まわりは乗り心地に直結しますのでこだわりたいのです。それに馬車を挽かせるなら田舎の大きな馬に……」
息子は身振り手振りを交えて話していた。彼の掌は分厚いというか、皮が厚そうでゴツかった。貴族というより農民の手のようだった。
「そういえば、湯沸かし器もお使いなんですよね?調子はいかがですか?ご自分でメンテナンスされてる?え?設置もご自分で?それは凄い。工具いじりがお好きなんですか?東国機械工具社製のハンドツールをお使いで!?私もです!」
息子と将臣は妙に話のツボが合った。子爵夫妻とターニャは完全に置いて行かれていた。
話がひと段落したところで、子爵が話を切り出した。
「ターニャくん。先日話した、うちの息子との縁談の件だけど」
「は、はい……!その私なりにきちんと考えたのですが……!」
ターニャの表情がかなり固くなった。
(ははーん、なるほど。ターニャが情緒不安定だったのはこの件だな)
横から息子がキリリとした表情でターニャに迫った。
「父さん、ここは僕から話すよ。ターニャさん、今日はきちんとお話ししておかなければならないことがあります」
息子の表情は引き締まったし言葉も引き締まったが、声の調子が柔らかくて、やはり彼の性格が穏やかであろうことが窺える。
「は、はい……」
「両親からお話しした御縁談の件は、大変失礼ですが、ご縁がなかったと言うことでお考えいただけませんか」
「……!」
「僕は田舎で領民と一緒になって農地開発や生産技術開発をやっていくのが好きなんです。生きがいと言っても良い。都会の王都で会社を経営するあなたとやっていけるか不安だし、私が王都に来るわけにも行かず、あなたを領地のワガキトに連れて行くなんてできません……」
「そ、そうでしたか。私もかつての領民を雇っての経営で、経営をすぐに他の者に任せてと言うわけにも行きませんので……」
「そうですよね。すみません両親が早まったことを言ってしまって」
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