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第162話 ジミノフ実習 その23

前回までのあらすじ

王都で同居生活をすることになった将臣、ファイ、ゆあ、ターニャ。

ゆあの姉で王太子妃のヒルダに関わり、王太子の跡目争いに貢献すると、将臣は騎士に叙され、ターニャは男爵を継ぐことになった。

その後、ゆあはリヨイで成敗した騎士オリワンの配下を名乗る者から、呪いの魔法でタヌキに変えられてしまった。

将臣は叔父で聖職者のエーゲに会い、術者の魂の場所を検知する魔導機器を手に入れた。

大晦日の日、宴会で酔っ払ったエーゲは、中途半端にゆあの呪いを解く法術を試みると、ゆあはタヌキ人間になってしまった。

だが、このお陰で、ゆあは一時間ほど人間の姿に戻れるようになったようだ。

年始からの実習で将臣とお小夜は互いに隣街に赴任した。

ゆあは二人の関係を警戒して将臣に同行した。

ゆあとヘルポスたちはガコエワまで北上して呪い器の調査をしたが、良い結果は得られなかった。

ところが、ジミノフニ戻ってきた翌日の午後、魔導レーダーを起動すると反応があった。

以前ゆあのパーティだった、弓使いのマルゲリータの助けを借りて呪いの器の一部を破損せしめた。

マルゲリータによれば、呪いの器を持っていたのは、かつての教育係の聖職者であった。

週明け、研修に行くとセルツのお小夜と交代が命ぜられ、赴くと、担当者は冒険者を全滅させることすら厭わぬ女で、一組のパーティが餌食になった。

だが、ゆあは彼らとパーティーを組んでダンジョンを攻略し、ゴム長靴を獲得した。


 翌日、翌々日と、実習の最後の日までペトラとのレベル調整の攻防が続いた。ペトラが上げすぎたダンジョンレベル補正を、将臣が下げる、それをまたペトラが上げる、そんな補正合戦が続いた。


 そして、とうとう実習の終わりを迎えた。


「あんた、タダですまないわよ。どうなるか後から思い知るがいいわ」


 ペトラは、将臣の補正を戻す行為が何らかの問題を生じさせるとは、最後まで警告しなかった。それは、将臣に後からツケを払わせるための陰湿な対応であった。ペトラの思惑通りなら、普通は将臣は何らかの咎めを受けるのかもしれない。ただ、ペトラに誤算があるとすれば、将臣がエリート第一村人の父を持ち、騎士号を叙され、王室にまでコネがあるハイパー・メガ・エリートであること。加えて、ペトラが全滅させようとした冒険者の中には、ゆあ、つまり王妃の実妹が含まれていた、ということである。


 将臣は、あえて意味のある言葉を返すような真似はしなかった。というのも、ペトラの発言で、全滅による冒険者通貨ゴールド搾取が意図的で、かつ、それを指示・監督する上役が存在することが論理的に推測できたからだ。


(後から思い知るのは、あんたの方かもな)


 ただ、一言だけ嫌味を返した。


「何か問題があることが解っていて、最後までそれを指摘しなかったんですか?大した実習講師ですね。とても為になった実習でした。ありがとうございました」


 何か公に指摘できない問題でしたでしょうか?将臣は、そう加えたかった。しかし、それを言うと、何かに気づいたと悟られる。だからここは押さえた。この問題のポイントの一つは、どれくらい上の人間がこの件に関わっているか、だ。それによっては、軽々しい告発をすると自分が吹っ飛ぶこともある。だから現時点では気づいていないと思われた方が得だ。


 夕方、実習が終わると、ゆあと共に荷物を持ってセルツの門をでる。ジミノフに門が閉じる前に入らなければいけないので、短距離だが駅馬を用いる。将臣は門の前に立つペトラを見て最後に一言を加えた。


「馬上から失礼します。それでは、ありがとうございました。失礼します」


 ペトラはこちらを見向きもせず、目も合さなかった。完全にシカトだ。そう言う女である。


「ゆあ、行こう」


「ええ、あなた」




 馬を駆ってジミノフに着いた。駅舎で馬を返すと宿をとり、ゆあに一泊分の荷解きを頼んだ。将臣は門の前に行き、あの人物を探した。誰が味方になり得るのかは解らないが、少なくとも、ずさんな通貨レート管理体制の実態を自分に打ち明けた彼ならば、ジャブを打ってみる価値はある。


 門の前には、モジャモジャの髪でメガネをかけた髭面の男が今日も立っていた。


「トレクロッケさん!」


「ん!?あ、ああ!君か!マサオミくん、どうした!?」


 トレクロッケさんの声は、門の周りに響き渡った。


「すみません、聞いてもらいたい事があります」


 将臣は、セルツ村では、意図的に弱小パーティが全滅させられ、彼らの冒険者通貨ゴールドの半分がジミノフのダンジョン管理組合に流されている実態を説明した。


 トレクロッケさんは、軽くうつむくと、おでことメガネのフレームの間から鋭い目を覗かせ、珍しく小声で話してきた。


「それ、ほんと?それが本当なら、ちょっと思い当たる節がある。ここからはオフレコで頼めるかな?」


「もちろんです」


「実はさ、気になる動きはあるんだよ。駅から冒険者通貨ゴールドを持った冒険者が、入ってきて交換レートが大きく変動する問題は言ったでしょ?」


「ええ」


「そいつらが、交換する前に、どうも組合の持ってる冒険者通貨ゴールドが売られているみたいなんだ」


「え?じゃあ、事前にレートの変動を見越してるんですか?」


「それだけじゃねえんだよ。あいつら、レートがゴールド安に落ちきったところで買い戻してる。帳簿上はゴールドが変わってないように見えて、生活通貨ゼニーの利鞘を着服してるらしいんだ」


「は?」


1.つまり、たとえば、大量の冒険者通貨ゴールドが売られる前のレートが、 100G が 100Z だった時に、


 組合のゴールドを売り建てし、100Gを売って、100Zを得る。


2.大量の冒険者通貨ゴールドが売られ、たとえば、100G が80Zに値下がりしたところで


 組合が100G を 80Z で買い戻す。


差額の20Zの利鞘が生じ、それが着服されているのではないかと言う事だ。


「じゃあ、その原資にセルツから流れる冒険者通貨ゴールドが!?」


「可能性はあるね」

最後までお読みいただきありがとうございます。

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