冬の短編 焼き芋とパンプキンパイとおしるこ缶
冬の甘味を屋外で食べるお話です。
これは、拙作「秋の短編」の続編になりますが、特段読む必要は無い構成になっている…、はず…。
(一応、リンク貼っておきます。https://ncode.syosetu.com/n9639hw/)
モンブランの男子高生とみたらし団子の女子高生を、陰気モブ女子からの視点で書いてます。
こんな大変な時ですが、私にできるのは、何気ない日常をただ描写することだけなので、
読んだ方の気持ちがぼんやりと柔らかくなれば幸いです。
「ふんふふ~ん♪」ご機嫌~♪
「…。」カラカラ…
寒空の下、自転車を押しながら、隣を歩く友達に視線を向ける。
手袋とモコモコのセーターに抱きしめられてられている、新聞紙の包み。
大事な赤子を抱いてる様な慎重さである。中身はすぐそこの屋台で買った、ただの「焼き芋」なのだが。
「方向、こっちで合ってる?」
「合ってるよ~。」
「分かった…。」カラカラ…
終始ご機嫌だな。
まあ、気持ちは分からんでもない。自分で買った美味しい甘味は、大概のものに勝る宝物だろう。
わざわざ外で買った焼き芋を、そのまま屋外で食べる意味はあんまり理解できないけど…。
風情を感じるのはメリットだけど、家の中で食べる方が遥かにプラスな気がする。
いやまあ、こちらとしては助かるが。
「ヒトミは買わなくて良かったの?」
「うん、まあ、大丈夫…。」
画材購入にお金を回しちゃってあんまり余裕が無いんだよね。
今月もお小遣いがカツカツなのだ。
別に要らないって言ったのに携帯電話を持たされて、その支払いはお小遣いから引かれるとか酷い話なんだよなぁ…。いや、家に余裕が無いのは分かるけどさぁ…。なら、持たせるなよ…。
便利だし、今さら拒否もできないんだけど。何か釈然としない…。
まあ、母としては、画材に使うお金の方が無駄とか考えてるんだろうけど。
「やっぱりバイトしなきゃかなぁ…。」
「バイトするの? 絵のバイト?」
「いや、イラストとか漫画でバイトとか無いと思うよ…? 多分。
やるなら、普通に飲食店だよ。」
漫画のアシスタントは、ある程度描ける人が担当の編集者から声をかけられてやるもの、のはずだ。担当が付いていない高校生ごときでは雇われることは無い。
そんな話を、焼き芋を持つ彼女、雨沢葵に解説する。
アオイには、時々甘い物を外で食べる習慣が有るらしい。
今回、その様子を私が描く絵のモデルにさせてくれないかと頼んだら、少々渋られたものの最終的にオーケーを貰えた。
対価は、描いた絵の画像データ。絵を写真メールして送った後、気に入ったら待ち受け画像にするそうな。
自分が描かれた映像を毎日目にすることになるけど、良いのかな…? 私だったら絶対やらない。何故に、毎朝、ソバカス眼鏡の陰気女を目撃せねばならないのか…。
まあ、アオイは普通に可愛い見た目だから、まだ良いのかな。
どっちにしろ、頑張って描かせてもらうけど。
「ここをまっすぐ突っ切るよ~。」すたすた…
「分かった。(自転車は…、まあいけるか。)」カラカラガタガタ…
今は、食事ポイントへの移動中。
何やらお気に入りの場所が有るんだとか。
「こんなところ有ったんだ。」
「うん。見晴らしも良いし、人もあんまり来ないから『穴場』ってやつだよ。」
林の中に広場が有った。地面は草で覆われており、木のベンチがいくつか置いてある。
他には何も無いが、ロケーションは悪くない。
私の中で、この緑地公園の印象は「ホームレスの溜まり場」だったから良い感じはなかった。
しかし、数年前に行政が頑張ったらしく、段ボールの塊は完全に姿を消しており、想像以上に清潔感の有る綺麗な公園に変化していたようだ。
たまには、ここに風景画でも描きに足を運ぶのも悪くないかもしれない。
…まあ、もう少し暖かくなってからかな…。
アオイがベンチに座ったので、その正面に自転車を停めてスケッチブックを取り出す。
「それじゃ描いてくね。アオイは好きに食べてて。」
「了解~。いただきま~す!」あ~んっ!
──────────
「うわぁ~! すっごい上手いね!」
「いや、そんなこと無いよ。」
私の雑な線画を見たアオイが歓声を上げる。
焼き芋を食べ終わってかテンションが高い。
「でも、この幸せそうな感じ! すっごい伝わってくるよ!」
「それはアオイがそんな雰囲気出してってだけ。それにこれはラフスケッチだしね。ここからペン入れするとドンドン良さが削れて別物になっちゃうし。」
勢いで描いたぼんやり輪郭のスケッチの方が躍動感が出るとか、あるあるだよね。
「ねぇ、このラフってやつも写メしていい!?」
「良いけど…。はい、どうぞ。」体を避ける…
「わあ~、ありがとう!」ピロリン♪
そうして、絵や甘味の雑談をしつつ軽くペン入れをしていると、アオイの視線がふと遠くを向いた。
「あ。あの人、来た。」
「あの人?」
視線の先には、広場の反対側のベンチ。そこに男子が1人、歩いてきていた。
「知り合いさん?」
「ううん。名前も知らない。」
「…何…? もしかして、付きまとわれるとか…?」疑いの目…
「違う!違う! 普通の人だよ。多分!」
名前も知らない赤の他人が普通かどうかなんて、分からなくない?
「たまにあそこに居るのを見かけるんだ。甘いのが好きな人みたいで、あの場所で、買ってきたっぽいスイーツを食べてるの。」
「男が、1人で、甘い物…??」
「今時、普通じゃない? そう言うの。」
そうかなぁ? いや、甘党な男子はまだ普通だけど、こんな緑地公園の中のベンチに座ってまで食べる奴とか、早々居ないと思うんだけど…?
しかも今、真冬ですよ?
まあ、その条件はこちらも同じだが…。
アオイの行動をどうにか把握して、偶然的に近づこうとしてるとか──
「あ…!! あれって、△△・△△△△のっ…!!」
興奮した声に思考を中断して、意識を戻す。
どれのこと…? え? あの男子が持ってる、箱?
いや、矯正視力は1,0だけど、何の箱かも分かんないよ? 朧気なカラーリングくらいしか…。
「何か凄いやつなの?」
「洋菓子だよ! 美味しいタルトのお店で──あ! タルトじゃない!
あれ、『パンプキンパイ』だっ!」
「…美味しいやつなんだ?」
「まだ食べてない…!! でも絶対美味しいやつ…!!」
男子が箱から取り出した何かを見て、目を輝かせるアオイさん。さっき叫んだ名前のお店でキャンペーンか何かをしているやつらしい。
過去一のハイテンションだ。
クリスマスプレゼントを貰った子どもの様である。そんな興奮することかね?
私、その洋菓子店は行ったことないからなぁ。興味は多少有るんだけど。高価だからって、親が連れてってくれないんだよね。
我が家の冬の甘味と言ったら普通に「みかん」である。炬燵で食うと無駄に美味い──
──あ、不味い。
あの男子と目が合った、気がする。
淀みなく食事の準備に動いていた彼が、顔をこちらに向けて固まっていた。
流石にジロジロ見過ぎた、か…。どうしよ…。
数秒そのままだった向こうの彼が、軽くこちらに頭を下げた。
思わず私も頭を下げ返す。
「えと…、謝りに行った方がいいよね…?」
「そ、そうかも…。」
アオイも気不味そうに頷く。
挨拶?してくれたくらいだし、そう怒ってはないと思うけど…。
──────────
「えっと、こんにちはごめんなさい…。」
「ごめんなさい…。」
「いや、なんで、いきなり謝ってるの?」
謝罪したら困惑の声が返ってきた。
怒ったり邪険にされたりする雰囲気は無さそう。
「食事中にジロジロ見ちゃったから…。気分悪かったよね?」
「ああ、いや、気にしてないよ。
俺の方こそ邪魔してごめん。」
アオイの言葉にむしろ謝り返してくる男子。
向こうもこっちを見ていたことを気不味く思っていたらしい。
同世代だと思うが、好青年って感じだな。
「いつもは1人なのに、今日は2人で楽しそうにしてたから気になって…。」
「いつも?」
思わず疑いの視線を送ると、軽く狼狽えた男子が訂正の言葉を述べる。
「あ、いや、変な意味じゃなくて。
そっちの君、良く広場で甘い物食べてる子だよね?」
「う、うん! そうです!」
「俺も甘い物好きなんだけど、いつも美味しそうに食ってるから、つい見入っちゃって。」
「そ、そうなんだー。は、恥ずかしいなー…。」
言葉とは裏腹になんか嬉しそうなアオイさん。
あれ…? 焼き芋を食べてた時以上に幸せオーラ出てる…??
「あ、あなたも! いつも美味しそうな洋菓子、食べてますよね。とても良いと思います!」
「え。いや、男で菓子好きとか変じゃない?」
「全然! 凄くちゃんとしたやつを毎回チョイスしてて、凄いと思う!」
「凄い」を2回言ってますよ。
「あ、俺、日室幸助。」
「雨沢葵! です。
ヒムロ君は食べるスイーツをどう選んでるの!?」
「えっと、姉貴とか母親が言ってた店に──」
「へぇ~! あ、あそこは行ったこと──」
「あ、俺もそこはまだ──」
そこからは怒涛のマシンガン・スイーツトークである。
2人とも堰を切った様に、ケーキや和菓子の話で盛り上がっていく。
やがて話題は彼が持つ「パンプキンパイ」へと移っていった。
なんでも、日本では馴染みが薄いが、海外では冬の定番スイーツらしい。甘いカボチャのピューレに、スパイスのシナモンを入れて冬の寒さを乗り切る食べ物なんだとか?
「シナモン大丈夫なんだ。大人~!」
「いや、これくらい普通じゃないか、な?」
ヒムロ氏、照れ照れである。可愛い女子に褒められて顔を赤くしている。
「そうだ、アマサワさんも食べてみる?」
「え! でも、悪いよ、そんな高いやつ。」
「大丈夫だよ。気に入るかは分かんないけど。」
良かったらそっちの君も、と私にも声を掛ける好青年男子。
プレートの上のカットされたパイを、フォークで3つに切り分けてくれた。
つーか、そのフォーク、家からわざわざ持ってきてるの?? これがガチ勢…?
なんか色々疑わしいけど、アオイさんは食べる気満々みたいだし、ここは乗るべきか…? シナモン微妙なんだけど、ちゃんとしたとこのやつなら美味しいかな?
アオイが恐る恐る1つ摘まんで、口に運んだ。
私もそれに倣っていただくことにする。
「」もぉぐもぉぐ♪
「」もぐもぐ…
お、おお…。これはなんとも不思議な味…。
甘いけど、ピリッとした辛味も有って、なんかスイーツって感じがしない。でも、なんか美味いな…。これが高級店の味か…。
「どう?」
「美味しい…。」幸せ~♪
「そっか。良かった。
俺も食おう。」もぐもぐ♪
「ありがとう、ヒムロ君。美味しかった…。」
「どういたしまして。量が少なくてごめんね。」
「ううんっ! もう1つ追加で貰っちゃって! ありがとう!」
うん。量は十分だよね。
彼が1人でパイを2切れも食べる予定だったのは、まあ男子だからいいとして。
アオイさん。あなた、さっき焼き芋を1つ丸々食べてたはずだよね? 晩ごはん大丈夫? 親に怒られない?
その後も、やれあのお店のアレが気になるだの、やれあのスイーツの素材がどうのだの、甘味の話題で盛り上がる2人。
トークでカロリーを消費する気か…??
「あ~…、そろそろ私、帰るね。」カチカチコチ…
「あ、ごめん、話し込んじゃって。」
「あれ? 予定無いって言ってなかった?」
切りの良いところで、ケータイ片手に2人に断りを入れる。
「あ、えっと、なんかお母さんの予定が変わったみたい。買い物頼まれちゃって。ごめんね、急に。」
アオイは彼と、もっと話したいみたいだ。
彼女の家の場所もそう離れてはないし、明るいうちに帰れば大丈夫だろう。
なんなら彼が送ってくれそう。きっと問題も有るまい。
「絵が描けたらまた写メするね。」
「うん! 楽しみにしてる!」
「絵?」
「うん。ヒトミはね──」
話題の矛先が私になりそうだったので、そそくさとその場を後にする。
背後から楽しそうな男女の声が聞こえていた。
──────────
「…さて。この後、どうしよう…。」
買い物自体は頼まれてないけど、スーパーに寄って買っておいた方が良いものは有る。の○たまとかお茶漬けの素とか。
お母さん、自分も使うのに買い物の時は何故か買い物かごに入れるの忘れるんだもんなぁ。
公園を出て自転車をこいでいると、ふと、自販機が目に入った。「あったかい」の文字がたくさん並んでいる。
おもむろに減速し、その前まで戻って考え込む。
「…これくらいは、良いか。」
何にしようかな、と…、まあ、これかな。
──ガコン!
スタンドを立てて自転車を停めたら、「おしるこ缶」の蓋を開ける。
「う~ん、甘い。」ほふぅ…
なんか、普段飲むよりも数段甘い感じがするかも。
──ピロンッ!
メールだ。送信者はアオイだった。
──「日室君、ヒトミの絵褒めてたよ! 可愛いってさ! 完成したら日室君にも見せる約束しちゃった!」
「褒めてるの、絵じゃなくてモデルじゃないかな…?」
これが“砂糖を吐く”ってやつだろう。おしるこの味が違うのは、これが原因だな。
「甘い雰囲気、ご馳走で~す…。」ズズズッ…




