四話
「はい、こはくの分のアイス」
「うむ。苦しゅうない」
遥から遠慮なくアイスを受け取り、蓋を外してスプーンを突き立てる。
このアイスは、前にブラカーで勝負した時に遥に奢るよう取引した物だ。
「くぅぅーー、奢ってもらったアイスは美味しい!」
「はいはい、よかったねー」
遥も自分用にアイスを買ってきていて、二人で甘さと冷たさを楽しむ。
「そういえば、リビングにダンボール箱が置いてあったけど、こはく何か買った?」
「ああ、それ多分マイクだと思う」
「マイク・・・?と言うことは、こはく!」
「そ。ちょっとだけVtuberやってみようかなって」
どのくらいやるかは決めてないけど、とりあえず試しにやってみる事にしてみた。
せっかくLIVE2Dモデルもあることだしね。
「そっかそっか。やってみることにしたんだ」
「まあ、ちょっとだけね」
「何か手伝える事があったら言ってね」
「うん、ありがと」
と言っても、まだ全然予定は立ててないんだよね。呆然と『やってみようかな?』くらいにしか考えてない。
「初配信はいつやるの?」
「まだ決めてないけど・・・いつにしよう?」
「んー、だったら10月20日は?」
「10月の・・・20日?なんかあったっけ?」
「その日が、こはくが女の子になって一ヶ月に日だから。丁度いい節目かなーって」
割と安易な理由だなぁ・・・
10月20日だと、初配信まで一ヶ月もない。色々準備しないといけないし、間に合うか?
「初配信よりも前に、自己紹介動画を用意したりしないとだから、10月20日だと忙しくない?」
「それなら、今から自己紹介動画撮ろうよ。私も手伝うから」
「え、うえぇ!?いきなりそんなこと言われても・・・」
いくらなんでも急すぎだって。まだ心の準備ができてないし・・・
「ほらほら、動画撮ってみよ!」
「ああもう!わかったから!引っ張るなっアイス落とすから!」
――――――――――
「大体こんな感じかな。こはく、お疲れ様」
「おうふ・・・」
想定してたよりも長引いたし、大変だった・・・途中から遥のやる気に火がついて、何度も撮り直されたからマジで大変だった。
「・・・動画撮ってる時、こはくずっと猫被ってたよね」
「うるさい」
猫耳幼女だけにって?別に上手くないし。
「後は動画を編集して、投稿すればいいんだね」
「簡単に言うけどさぁ・・・遥は動画編集なんて出来ないでしょ」
「うっ、そうだけど・・・」
遥の方が俺よりテストの点がよかったくせに、パソコンとかの機械関係には弱いんだよな。いうて俺も、パソコンつよつよってわけでもないんだけど。それでも遥よりは出来る自信がある。
「動画編集はするけど、その前にちょっと休憩ー」
「あ、もしかしたらこはくが喜ぶかなーって買ってきた物があったんだった」
「何?魔法のカード?」
「そんなのじゃないってば。リビングに置きてきちゃったから、取ってくるね」
うーーむ、魔法のカードじゃないなら、一体何を買ってきたんだろ?
他に俺が喜ぶ物・・・お菓子やジュースもそれなりに嬉しいけど、わざわざ勿体ぶる程の物じゃないし。
・・・全然わからないな。遥のことだから、俺にイタズラ仕掛けようとしてる可能性もある。
「お待たせー、持ってきたよ」
「それで、何を買ったの?」
「それはね・・・じゃーーん!」
遥の手に載っていたのは、猫がプリントされた小さな袋。
俺の目が狂っていなければ『マタタビ』と書いてあるように見える。
「・・・いや、なにそれ」
「マタタビだけど?」
「そういう事を聞いてるんじゃなくて。俺は別にマタタビなんか要らない」
「でも、猫と言ったらマタタビだよね?」
いや『猫と言ったらマタタビだよね?』じゃないが?そもそも、俺は猫じゃないんだが?
「ちょっとだけ嗅いでみてよ。先っちょだけでいいから」
「先っちょとか関係ないし!猫扱いするな!」
言ってるそばからマタタビを開けるな!そんな物、速攻ゴミ箱に突っ込んでやる!
「ほーら、マタタビだよー」
「だから要らないって、言って・・・」
遥の手元から、形容し難い不思議な香りが漂ってくる。
その香りが鼻を掠める度に頭がぼーっとして、体の芯がじくじくと熱を帯びる。
「はぅ、んにゃぁ」
「え?こ、こはく?」
好きっこれ好き♡頭ふわふわするの、気持ちいい♡
「もっとぉ、もっとちょうだい♡」
「ま、待って!そんなに押したら危な、っ!?」
えへへ♡押し倒しちゃったぁ♡気持ちいいの、逃がさないの♡
「すんすん・・・ふああぁぁ♡」
「こ、こはく!正気に戻って!」
ふわふわ気持ちいい♡体あついぃ♡腰くねくねしちゃうの♡
――――――――――
「んんっ・・・ふぁーーあ」
知ってる天井だ。って、あれ?なんで俺寝てるんだ?
「・・・ええっと、こはく大丈夫?」
「大丈夫って何が?」
そういえば、なんか体の調子が変だな。ムズムズするっていうか、熱っぽい感じ。例えるなら風邪になってるみたいだ。
「なんか風邪っぽいけど・・・そんなことよりも、なんで俺寝てたの?あっ、寝てる間にイタズラしてないよね?」
「それは・・・どう説明したらいいかなー・・・」
「説明出来ないような、エグいイタズラしたの!?」
「そういうわけじゃないんだけど・・・こはくが覚えてないなら、その方がいいよ」
「おおい!?吐け!知ってることを全部吐け!」
「・・・ノーコメントで」
そういう意味深なのが一番怖いんだって!
頼むから、何したのか吐けぇ!
デビューするまで、あと21日