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百鬼夜行と踊る神  作者: 蠣崎 湊太
幼年編
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夜を割く明けの明星

 一筋の光が空を二分するように降ってきた。その光は、まっすぐ祭壇の方へ向かって僕に降り注いだ。


 極光が身を包み、あまりの光量に目を眩ませる。すると次第に光が薄れていき、あたりは完全な闇に戻った。


 変化はなかった。お姉さんや金時、影たちさえもが呆然とこちらを見ている。しばらくして、影たちが膝を折った。崩れ落ちるように地面に伏し、声にならない嗚咽を漏らしている。


「ごめんねぇ、坊や。こんなことに巻き込んでもうて。さぁさ、お家に帰ろか。」


 お姉さんは、僕を祭壇から持ち上げるとさっきみたいにまた優しく抱き抱えた。視線は空に向いていて、お姉さんがどんな表情をしているのか、何を思っているのかは、僕には分からなかった。


 ただ、僕の顔に冷たい何かがかかって、雨が降ってきたのだろうということだけがわかった。


「ちょっと待て、その赤んぼ見せてくれ。はっきりとは言えねぇが、完全に失敗ってわけでもないんじゃねぇか?」


 金時がお姉さんには目もくれず、ずいずいこっちに向かって歩いてくる。そして僕の顔を覗き込んで、目を大きく開いたり細めたりしながら、訝しげに観察した。


「やっぱりだ。この赤んぼ、魂の強度がイカれてやがる。元々神格クラスの魂を備えてたのか?じゃなきゃ神降ろしによる魂の上書きを防いで、逆に喰らっちまうなんて芸当、有り得ねえ。」


「......ほんまや。よぉく見たら気配がおかしいな。山伏?上がり人?森の神格が混じっとる。それにしたって、大甕様に敵うとは思えへんのやけど。まぁでも、神格としては申し分ないなぁ。」


 お姉さんは嬉しそうに、赤い目を擦りながら言った。影たちも楽器を取り出して、再び祭囃子を響かせた。


「人死が出てねぇってんなら、まあ良しとするか。一旦都に戻って報告もしなきゃなんねぇしな。」


 金時は僕の頭をぐしゃぐしゃ撫でてから凄まじい跳躍を見せ、とてつもない速さで空へ飛び去った。


「嵐みたいなお兄ぃさんやったねぇ。うちらもおいとましましょか。」


 祭囃子は行きよりも活気を得て、空に薄い青が差すまで続いた。全てが終わったあと影たちは地面に解け、お姉さんは僕を家の寝床まで送り届けてくれた。


「坊や。おねぇさんな、刑部言う名前なんよ。出来れば覚えておいてな。」


 お姉さんは目配せをして、そっと布団の中に僕を潜り込ませた。僕がこくこく頷くと、お姉さんは嬉しそうに微笑み、霧のように朝焼けに溶けた。


 ずっと起きていたからか、布団に入ってすぐに眠くなってしまった。そういえば、両親の言葉が分からないのに金時やお姉さんの言葉が分かったのは何故なんだろう。そんなことを不思議に思いながら、僕は眠りの中に沈んで行った。


 目を覚ますと、もうお昼頃だった。お布団の中から出ようと身を悶えさせると、何やらもふもふの感触が伝わってきた。


 布団から抜け出し、中を覗いてみる。すると暗闇の中から、小さな花びらをつけた一匹のたぬきが出てきた。


 たぬきはもそもそと暗闇から手を伸ばし、僕をまた布団の中へと引きずり戻した。


(おねぇさんまだ眠いわぁ。もうちょっと、あと五分すやすやさせてなぁ。)


 頭の中にお姉さんの声が響いた。そこでようやく、このたぬきがお姉さんなのだと気がついた。


 僕はなされるがまま布団の中に潜り、もふもふのお姉さんをきゅっと抱きしめた。


(甘えんぼさんやねぇ。ふふ、ええよ。五分と言わずもっと寝よか。)


 肉球をぽむぽむ僕の頬に押し付け、お姉さんも僕も再び眠ってしまった。


 しばらく経ったあと、母が様子を見に来てもふもふのお姉さんに驚いていた。僕はその声で起きたものの、お姉さんはまだ夢の中にいた。


 お姉さんは眠ったまま母にお風呂に連れていかれ、帰ってきた時にはもっともふもふになっていた。


 夕食になって、僕がお乳を飲んでいるとお姉さんは母にもたれかかってきた。母は眉を八の字にしながら、小皿に夕飯の残ったお米を乗せて持ってきた。


 お姉さんはそれを美味しそうに食べて、ぺこりと母に一礼した。


 僕は家族がもう一人増えたみたいで、なんだか嬉しかった。


ちなみに金時と刑部さんの言葉が主人公にも理解出来ているのは、人間語じゃない獣の言葉を使っているからです。赤ちゃん、というより主人公は獣に近い性質をしているので、二人の言葉がわかるという設定です。

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