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百鬼夜行と踊る神  作者: 蠣崎 湊太
少年篇
34/235

相棒

 


 大量の小鬼たちに対し、お互いに背中を預けて全方位を警戒する。僕の武装は簡素な刀で、ヤスの武器は無骨な大剣。僕が一匹一匹丁寧に刺殺していくのとは対照的に、ヤスは一気に何匹もの小鬼を吹き飛ばして鏖殺する。


 そんなことを繰り返してると、あれだけいた小鬼共の姿がもう見えなくなっていた。一瞬で雑魚を圧倒し、自分の強さに溺れそうになるものの、まだ大将首が残っていると心を律し刀に着いた血を振るった。


「ようやく来やがったみてェだなァ〜?!行くぜシュン!合わせろ!」


「了解!こっちは左から詰める!」


 今目の前にいる大鬼は、あの時僕が喰われかけた時の鬼と全く同一の見た目をしていた。しかし、過去のトラウマに足が竦むことなく一直線に切りかかる。


 ヤスが大剣を大きく振りかぶった。それに対して大鬼は手に持っていた棍棒で防御。しかし、そんなもので止まるヤスではない。棍棒は真っ二つに切り裂かれ、大鬼の頭に二つ生えていた角の一本をヤスの大剣が砕く。


 それと同時に、僕はがら空きになっていた左足を切断し、そのまま攻撃の勢いを緩めずに刀を切り上げる。大鬼は一瞬にして角と左足を失い、体には致命傷レベルの大きな切り傷がつけられた。


 四か月前の自分と比べて確かな成長を感じ、腕に力が入る。片膝をつき満身創痍といった大鬼だったが、まだその目は死んでいなかった。


 煙を吐きながら角以外の傷を再生させた大鬼は、僕の方が脆いと見たのか攻撃の対象を僕へと設定して拳を繰り出してくる。


「ヤス!頼んだ!」


「おうよ!」


 僕達は目も合わせずにお互いの獲物を投げ、交換した。僕の体ほどある大きさの大剣の切っ先を地面へ向け、防御体制へと移る。そのまま大鬼の拳を受けきって、ヤスがある程度自由に動ける隙を生み出すことに成功した。


「父なる大地の呻きよ。母なる大海を割き、我ら人を呑み、愛すべき森を分かつ真なる厄災よ。」


 そしてフリーになったヤスが素早く動き、詠唱をしながら刀を大鬼の足に突き刺す。突き刺された刀を足場に、バネのような跳躍をして大鬼の背中に飛びついた。


「我は汝を縫い止める。決して二度と動かぬように。決して誰かを害さぬように。堂々たる巨木の魂よ!深く根を張り耐え忍べ!『鯰殺し(なまずごろし)』」


 大鬼の全身を木の根が多い尽くし、地面へと縫い付ける。恐れるべきはその範囲と強度。大鬼は最早地肌が見えぬほどびっちり木の根に包まれており、これ以上は小指さえ動かせないといったふうな状態だった。


「今だ!ぶっ殺せェ!!!!!」


 重い大剣を全力で大鬼の心臓部分へと投擲する。すると大剣は見事に心臓を射抜き、大鬼は耳がちぎれるぐらいの咆哮を上げて死んだ。


 鬼の巨体から降りてきたヤスが僕にグーの手を突き出してくる。僕はそれに答え、コツンと握りこぶしをそれにぶつけた。これにて、僕たちの初任務は呆気ないほどあっさりと終わった。


「お前さんらすごかったっぺ〜。」


「お礼ってわけでねが、これでも持ってけ。若いうちは沢山食わんと大きくなれんべさ。」


「農業最高!!農業最高!!農業のありがたみを知れい!!!」


 そう言って、泥田坊たちは僕らに米俵を一つくれた。きっと彼らが一から作ったものなのだろう。少し泥が着いていたが、そんな事よりも鬼を倒して感謝されたことの方が嬉しかった。


 村を出ると、頼光さんが僕らの抱えていた米俵を見てため息をついた。頼光さんは仕方なくといった様子で馬に米俵を乗せ、また僕らを荷物のようにして運んだ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「はぁ〜遊郭で遊ぶのも楽じゃねぇな。すぐに金が無くなっちまう。金に足でも生えてんのか?」


 すっかり軽くなった財布を川へ投げ捨てて、煙草を吹かしながら夜の京をぶらぶら歩く。資金が尽きたので、いよいよ任務にでも出るかと考えていた矢先。橋を渡っている最中、目の前に金髪の長い縦ロールを靡かせた鬼が現れた。


 その鬼は華奢な長身に鬼とは思えぬほど整った顔をしており、腕を片方欠いていた。どこかで見覚えのあるようなないような、そんな鬼だった。


「久しぶりですわね綱。今日こそ片腕の借り、返してもらいますわよ。」


「ん〜?ああっ!丁度良かったぜ茨木〜!今金無くてよ。お前の首っていくらぐらいだっけ?」


 隻腕から繰り出される鋭い爪での攻撃を軽くいなして、腹へ思いっきり膝蹴りを入れる。茨木の体が宙へ浮き、その浮いた背中に拳を振り下ろす。地面に叩きつけられて身動きが取れなくなった茨木を踏んづけて、首を狩るために刀を抜こうとする。


「もうこれしきでへこたれるようなわたくしでは無くってよ!ですが...やはりまだ届きませんわね。今日のところはお暇させて頂きますわ!」


 金の髪が発光し、その眩しさに一瞬目を瞑ってしまう。その隙に茨木は足から抜け出したようで、再び目を開けた頃にはもうその姿は無かった。


「クソッ。逃げ足だけは一級品だな。はぁ〜任務行きたくねぇなぁ〜。まじでめんどくせぇよぉ〜。」


 橋を渡り切り、頭をぽりぽりかいて屋敷へと向かう。そう言えば、近々大規模なもののけ討伐があったはずだ。それで稼げば暫くは働かなくていいかもしれない。頭の片隅にあった予定を思い出し、これから先の懐事情を思って足取りが軽くなる。


「....綱。もう出るよ。」


 京の外れに馬を待機させていた季武と合流し、そのまま二人で夜道を駆ける。その途中に何度ももののけと遭遇したが、大体が雑魚だったので瞬殺。季武が弓を構える前に全ての首を落としてしまった。


「....綱はさ、もうちょっと真剣にやったら?」


「あ?お前も分かってんだろ?真剣にやったっていいことなんかひとつだってありゃしねぇんだ。バカ真面目の貞光がガキのお守りなんかしてやってるが、それで何になるってんだよ。」


「....一応、お手当ては出てる...はず。」


 その言葉を聞いて一瞬固まる。とんでもない失策をやらかしてしまった。まさか、あんなガキ共のお守りで小銭稼ぎができたなんて。貞光はなんて狡い野郎なんだと義憤の心に燃え、怒りが湧いてくる。そんな俺の様子を見て、季武は呆れたようにため息をついた。


「....昔はもっと、真面目だったのに。」


 しっかりとその言葉が耳には入っていたが、聞こえないふりをする。今更長い付き合いのこいつに、いちいち反論するのもめんどくさい。


 暫く沈黙が続き、その日は三河国まで歩を進めて休憩することになった。季武に野宿用の準備を片付けさせ、一人で焚き火に当たりながら酒を飲んでいると、いよいよ沈黙に耐えられなくなって話を切り出す。


「なぁ、近頃でけぇ任務があったろ?あれどんなんだっけ?」


「....常陸国で土蜘蛛退治だよ。ようやく見つかったんだって。」


 土蜘蛛と言えば、うちで匿っている貴族のガキに目をつけたっていうあの土蜘蛛か。その土蜘蛛のせいで屋敷に結界なんて大仰なものを貼らなければならなくなり、俺でさえ月に一度はガキの部屋の前で寝ずの番をしないといけない。俺から見れば、とても厄介なもののけだ。


「今更か?あんだけ巧妙に姿を隠してたやつが、なんだって今になって居場所がバレるんだよ。」


 季武は困ったような顔をして、薪を火にくべながら虚ろな目で炎を眺めている。そうしてため息をついてから、ようやく語り出した。


「.....屋敷の子供たちがかぐや様を外に連れ出したんだ。それを嗅ぎつけた土蜘蛛が手下を派遣してきて....。それで、貞光がその手下の後をつけてって感じかな。」


 ガキンチョ共は随分大胆なことをする。危険なもののけに狙われている帝の子を、あれだけ禁じられている外に連れ出すなんて。何も無かったから良かったものの、本来であれば死刑でもおかしくない事だ。


「真面目バカがよくキレなかったな。ちょっとでも傷がついたら洒落になんねぇぞ。」


「....貞光も色々思うところがあったんじゃないかな。かぐや様、昼間は軟禁状態みたいなものだし。」


 まあなんだっていい。楽に金が入るような相手なら、どんなもののけだって構わない。俺は酒を飲み直して、もう十分だろうと話を切り上げすぐに寝た。寝ずの番も季武にやらせたので、ぐっすり眠ることができた。



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