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百鬼夜行と踊る神  作者: 蠣崎 湊太
倭国大乱・越後編
214/235

ほかの何より、私を見て(三)

 

 白昼夢のように溢れ出す数々の記憶の破片。ちぐはぐでまとまりの無い、不出来な空想。でも、それには確かな手触りと温もりがあって。


 これがただの幻想で無いことは、痛みが証明していた。微睡みの白昼夢から、胸の痛みで目が覚める。


 多くの離別、五つの死。それらを乗り越え、ようやく紡いだ一つの命でさえ、呆気なく奪われた。


 残った一つは、自分で殺した。後戻りが出来ないと知っていて、もう戻れないと分かっていたから。


 それで狂わない訳が無い。春水という少年の辿る、一つの終着点。それが、有り得ざるものとして顕現する。


「あーあああ!ーあーあー!あーああ!あ!ああ!」


 織の壊錠、『病蜘(やみくも)』の能力は世界線の重複と混線。織が体験した全ての世界線の出来事、それらを現在の世界線にいる春水に無理やり詰め込む。


 それは戦闘技術だけでなく、絶望や苦しみ、幸せや楽しかったことも、全て。結果、一時的に春水は発狂した。


 その大きな力と引き換えに、春水は自身の体を売り飛ばす。これこそ、織の秘めたる奥の手。決して、使いたくは無かった最後の手段。


「返せ。返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ!!!!!!!!!!」


 春水は折れかけた腕、ボロボロの身体を強制的に動かすため、風の操作を体外では無く体内で完結させる。


 無理やり自身の心臓を風で圧迫。ポンプ作用を強め、血管内にさえ微量の風で流れを通し血流速度を上げた。


 一瞬でも集中を欠けば自滅する。そういう綱渡りを、春水は平然とやってのけた。守るものなど、守りたいものなどとうに無くなっているのだから。


「『魔纏狼・無月』。」


 混濁する意識の中、ギラギラと闇夜の如く視線が光る。狂気の渦で尚、呑まれ失われることの無い憎しみ。


 たった一瞬、刹那の変性。それだけで、空気の重みが一気に変わる。そうして、この場にいる全員が数秒で悟らされた。今から始まるのは、虐殺なのだと。


 爆発音が鳴り響く。シンプルな跳躍、地面を蹴って相手に向かうだけの動作が、織と刑部にはこれ以上ないほど恐ろしく思えた。


 ほんのコンマ数秒でメリーゴーランドの中心部まで到達した春水は、驚愕で手の止まった季武の隙を抜け自身へと向かってくるブリキ馬たちを一瞥する。


 そして最初に向かってきた馬が機械音を激しく上げる寸前、春水は腕を振るってブリキ馬の首を握力だけで引きちぎった。


 しかし、それでもブリキ馬の爆発は止まらない。ブリキ馬は首が取られても無感情に起爆を始め、春水をその爆発に巻き込む。


 爆風が巻き起こり、その中心には春水。傍から見ても、もろに自爆攻撃を喰らった春水がタダで済むはずが無い。そう思われていた。


 だが、春水は何事も無かったかのように立っている。その姿に、ブリキ馬たちはあるはずの無い恐怖を植え付けられる。


 もはや、馬たちに戦意はなかった。ただ頭を垂れ、のうのうと処刑人からの執行を待っているかのように、彼らは地面へとへたり込む。


 春水はそんなブリキ馬たちを、一匹一匹丁寧に千切り殺していく。首をもぎ、足をもぎ、隅々まで粉々にする。ブリキ馬は、それから二度と再生しなかった。


「...キャハハッ!ぐるぐるぐるぐる、はやいはやーい!『コーヒーカップ』!『ジェットコースター』!!」


 ブリキ馬たちの完全敗北に焦りを感じたのか、牢獄の上のピエロが二つの技を同時展開。コーヒーカップで春水を閉じ込め視界を遮りつつ、ジェットコースターの突撃を繰り出す。


 春水はコーヒーカップの内部で、グッと力を溜めて握り拳を腰に構える。視界の失われた状況、ただし不意打ちが来るのは理解している。


 だったらあとは、反応速度が速ければ対応は可能。春水は、狂気が一瞬見せる正気の冷静。鉄のように冷たい心を持って、不意打ちに備えた。


 ジェットコースターが襲撃してきたのは、丁度春水の背後から。常人であれば、普段の春水であれば、間に合うことの無い一撃。


 その完全に背後を取ったジェットコースターに対し、春水はドンピシャで拳を当てる。加えて拳の直面する瞬間、春水は『借煌』を拳一つに集中させていた。


 時間は一瞬、範囲は極小。得られるリターンは想像を絶するものとなる。拳は音速を超え、光速を超え、衝撃波が巻き起こるレベルの一撃がジェットコースターを正確に打ち据えた。


 無論、ジェットコースターは粉々。春水を取り囲んでいたコーヒーカップさえも、衝撃波で跡形もなく消し飛ぶ。


「.....キャハハ。キャハ、キャハハ。」


 打つ手無し。力無く笑うピエロは、言外にそう述べていた。そうして風船から空気が抜けていくように、ゆっくりと体を萎めていく。


 残ったのは、冷たい牢獄ただ一つ。春水は着実に一歩づつ、牢獄へと足を進めていく。そうして、牢獄の目の前に立った時抑えきれなかった怒りが一気に放出。


 全力で鉄柵に拳を打ち続けながら、鬼の形相でセーラー少女に向かって呪いを吐き出す。


「お前がっ.....!!!お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前のせいで!!!!!お前がお前がお前がお前がお前が!!!!!かぐやを殺した!!!!!!!!!!」


 一発一発が致命の一撃。それでも、一切ビクともしない堅牢な牢獄。これは、セーラー少女を閉じ込める檻であると同時に、守るための鉄壁でもあった。


「...は!あはは!その目、その目すっごくいい!私しか見てないって目!かぐや?ってのはよく分かんないけど、そうだね!いっぱい殺しちゃったし、多分私が殺したよ〜!」


 拳を撃つ力が強まる。鉄を殴る音が、次第にグシャリグシャリと骨の潰れる音に変わっても、春水は殴る腕を止めようとしない。


「フー.....!フー....!フー.....!!!!ふざけんな....ふざけんなあああああ!!!!!」


 血は流れ続ける。腕が使い物にならなくなってからは足で、足が使い物にならなくなってからは、頭で。


 痛々しいという言葉が生温く感じられる光景は、織とそれから刑部の心までもを、酷く打ち付けた。


「返せよ.....!(おれ)の大事なもの....!全部返せ......!返せ!!!!!!」


「もう死んじゃったんでしょ?じゃあ無理じゃん!馬鹿なの?」


「いつも....何で(おれ)は.....!誰も守れない....!!こんなに.....こんなに強くなったのに.....!!!!!!何で奪われる!!!!なんでだ!!!!なんでだよ!!!!!!」


 頭を強く鉄柵に打ち付け、涙ながらに春水はセーラー少女を睨む。そんな視線に恍惚とした表情を浮かべるセーラー少女は、ビクビクと体を仰け反らせて甘い溜息を漏らす。


 はち切れそうな心で、春水はもう一度拳を繰り出そうとする。そんな春水の悲しげな背中を、刑部がそっと抱き締めた。


「大丈夫。まだ、みんなちゃんと生きてる。」


 その瞬間、春水の脳みその回路に別の世界線の情報が鮮明なまでに流れ込む。それは、暖かい日向の中の出来事。


 抱き上げた小さな体温。小春日和の縁側で、心の底から生きてて良かったと、産まれてきて良かったと思えた日。


 苦しかった。寂しかった。泣き出してしまいたかった。でも、その瞬間だけは確かに幸せだったと、胸を張って言える。


 刑部はそれを知らない。春水も、時間が経って『病蜘(やみくも)』の効果が切れてしまえば忘れてしまう出来事。覚えているのは、織ただ一人。


 でも、その一幕があったから、春水はきちんと報われた。幸福を染み込ませたスポンジが、刑部に抱き締められた事で一気にその体を縮める。


 そうして溢れ出る、幸福な記憶たち。春水の涙が、ここでほんの少し熱を帯びる。意味の変わった、温かい暖かい涙。


 狂気は洗われる。背中に押し当てられた体温が、冷たい心を溶かしてくれた。洗いたての気持ち。苦しいことも悲しいことも、一緒に居れば紛れた気がした。


「一人だけ、苦しもうなんて思わないで。勝手に、どっか行かないでよ。」


 寂しがり屋が、二人。姉に置いていかれた妹は、家族を求めた少年は、深いところでやっぱり似ていた。

・『病蜘』使用後の春水


フィジカル:A+

術式:S

スピード:A+

体力:A

サポート:F+

防御:A-



後々参考になるかもしれないので、屋敷メンバーのステも記載しておきます!


・綱


フィジカル:A+

術式:F-

スピード:S+

体力:A+

サポート:B-

防御:B+


・金時


フィジカル:S+

術式:B

スピード:A

体力:A+

サポート:C-

防御:A


・貞光


フィジカル:B-

術式:F-

スピード:B

体力:C-

サポート:A-

防御:C+


・季武


フィジカル:C+

術式:F-

スピード:B-

体力:C-

サポート:A

防御:D+


・道鏡


フィジカル:B

術式:F-

スピード:C-

体力:S+

サポート:D+

防御:B-

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