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百鬼夜行と踊る神  作者: 蠣崎 湊太
倭国大乱・越後編
213/235

ほかの何より、私を見て(二)

 

 各々が独自に動き回る九体のブリキ馬。織はそれらの一挙手一投足全てに目を光らせ、調律されたピアノのように正確に合間を無くして特攻してくる敵たちから紙一重で距離をとる。


(近寄りすぎたら爆発する...。でも、わたしに遠距離技は無い。どうするっ.....!)


 ブリキ馬が織に接近してから、爆発までの時間は凡そ一秒ほど。爆破する直前になるとピピピと鳴る機械音のような嘶きの感覚が短くなり、最後にはピーと音が伸びて爆発する。


 故に時間停止を使えば、一体かそこらの爆発は避けられる。だがそれでは、体力がすぐに底を突いてしまう。


 考えに考え、織が導き出した結論は、いわゆる術式の抜け道のようなもので。法の穴を掻い潜る。いや、無法の道さえ外れるとでも言おうか。


「おさかべ...お願いがあるの。.....爆発に巻き込まれてくれない?」


「?!」


 織は本当に申し訳なさそうな顔をして、小声で刑部に肉壁になってくれと懇願する。いかに肉壁になるのが分身とは言え、それが仲間を盾にしていい理由にはならない。


 それでも、ここを突破する為にはそれしかないのだと、織は苦渋の決断で刑部にそう告げた。刑部はそれを、何とも複雑な気持ちで処理する。


「今のうちだって、別に本体って訳やない。だから手負いになってしまっても、特に問題は無いんよぉ。でもな、うちの分体にも意思はある。自分たちから自爆しに行きたいなんて、あんまりならへんと思うけどなぁ。」


 刑部の術式唯一の弱点。それは制御の難しさと、それによる不確定要素の発生。刑部により生み出された分身たちはそれぞれが独立した意志を持ち、ともすれば本体の命令にだって逆らう。


 分の悪い賭け、一か八かの大博打。それでも、現状よりは可能性があると、織はそう判断を下した。


「...保証はせえへんよ。」


「いい。わたしだって、本当はおさかべが爆発するとこなんて見たくない。だから.....ご」


「謝らなくていい。その代わり、絶対死なないで。これ、約束だから。」


 刑部は織の言葉を、口早に遮った。普段のおちゃらけた口調ではなく、真剣な眼差しと激励を込めて。


 短い間柄、少ない時間、僅かな旅路。それでも、寝食を共にした事実は変わらない。刑部もまた、やっぱり仲間たちが好きなんだろう。


 一見冷めているように見えて、深いところでは意外と仲間思い。そういう部分を、織はちゃんと知っている。


 信頼の笑みを浮かべ、織は術式を発動した。『天衣無法・吊るし蜘蛛』。たったの五秒間、世界は静止する。


 唯一動けるのは織と、それから彼女に触れている刑部。そして世界が止まった瞬間に刑部も同じく術式を使用し、九つの分身を生成。


 止まった時の中を動けるのは、術者本人とそれに触れているものだけ。加えて、刑部の分身はその全てが同一のもの。


 言い換えるなら、分身と分身、本体と分身は物理的な繋がりでなくとも、術式的に繋がっている。と言ってもいい。


 それに姿形から、着ているものまで。寸分の狂い無く全てが等しい等価性を所有している。つまり、術式の判定としてただ一人、刑部だけはどれか一体が織に触れてさえいれば静止世界へと入場できる。


 まさに無法。例外の抜け道。術式の穴を突いて莫大な効果を得る、バグ技に等しい技術。織はこれを、繰り返されるループで既に習得していた。


 そこから刑部はその分身たちをブリキ馬へと走らせて、止まっている馬にタッチさせる。その接触が間接的に時間停止への入場を招き、ブリキ馬が動き出す。


 ブリキ馬たちは分身である刑部に反応。けたたましく機械音を鳴り響かせ、それぞれが一斉に大爆発を巻き起こした。


 だが、それらは全て分身。分の悪い賭けは結果的には大成功を収め、見事ブリキ馬の殲滅に至る。


「えへへ。不謹慎だけど、ちょっと嬉しい。おさかべ、わたしのこと...そんなに好きだったんだ。」


 懸念していた分身の命令違反。それぞれ自己が独立している刑部の分身が、迷わずブリキ馬へと向かっていったという事。


 それは、自身の命を投げ出してまで織を救いたかったという事実を暗に告げていた。分身だからという、ハードルの低さもあっただろう。それを踏まえても、織はその事が嬉しくて堪らなかった。


「....ええから、ほらっ!あとは敵の本丸叩くだけなんやし....!」


 刑部は織の懐にぎゅむっと深く潜り、赤らめた頬を必死に隠す。そんな刑部に対し織は心底絆を感じ、上がったテンションのまま足をメリーゴーランドに向かわせる。


 しかし、ここで爆発したはずのブリキ馬の内、まだ壊れていなかった一体がその目をギラリと光らせた。


 自爆により片足を欠き、三本足になって尚二度目の自爆を成功させるため織へと駆ける。


「なっ....?!どうして....?!」


 よくよく周りを見渡せば、爆発したブリキ馬たちは巻き戻しでもしてるみたいに飛び散らせた自身の破片を回収。そして修復していた。


 何度でも自爆を繰り返すことの出来る、最悪の特攻兵たち。それが、メリーゴーランドのブリキ馬の正体。


 織と刑部はとにかく顔を真っ青にしつつ、メリーゴーランドの中心部へと急ぐ。ただ、その速さよりも馬が蹄鉄を鳴らす速度の方が何倍も速かった。


 されど、それより速いものがある。それは生き馬の目を抜くような、弓矢の早駆け。相手が再生する事を確認した季武は、いつも通りだと弓を番える。


 屋敷での主な仕事は鬼狩り。経験と繰り返した鍛錬故に、再生する相手であれば、屋敷組の右に出る者はいない。季武は弓をブリキ馬の足元に正確に着弾させ、その全員の動きを止めた。


 それはまさに、導火線を切り落とされた爆弾の如く。得意の足を失った馬たちはその場に倒れ込み、爆発もすること無く不能と果てた。


「すえたけっ!!!!!!ありがとー!!!!」


 窮地をサラッと救われ、その卓越した技術とかっこよさに、織も思わず大声を上げて感謝を叫ぶ。


(あと一回分、術式を温存できたのは嬉しい誤算...!!このまま....押し切るっ!!!!)


 暗く冷たい雰囲気を醸し出す中央の鉄柵とは裏腹に、ほの明るい白熱電球を纏わせた誰もいないメリーゴーランド。


 そんなちぐはぐな世界観を作り出しているセーラー少女を打倒するため、織は『八束落』を握り直して鉄柵に刃を打ち付けた。


 ガキンと背筋に虫が這う様な金属音を幾度となく響かせ、織は少女へ迫ろうと必死に剣を振るう。


 それでも、圧倒的に足りないものがある。それは、小さな体格と小柄な体躯では絶対に引き出すことの出来ない膂力。


 最後の最後で、織にはあと一歩を詰める地力が無かった。この場でそれを持つのは、もはや誰も居ない。


 疲労で満身創痍の春水、膂力不足の織、サポート全振りの刑部。ここに来て、相手を追い詰める手札に在庫切れが訪れた。


 春水もたった今それを把握したのか、彼自身の奥底に眠る力を使おうかと迷い、判断を下し切れぬまま口を開く。


「.....ミカっ!.......全開出力なら、このメリーゴーランドごと、叩き潰せるか.......?」


 《ん〜?ボクを誰だと思ってるのさ!余裕に決まってるでしょそんなことっ!面倒臭いことゴチャゴチャ考えないでさ、最初っからボクを使えばいいんだよ。キミには、その権利があるはずだろう?》


 ニタニタ口角が上がっているであろう話し方をするミカに、春水は不思議と安堵を覚えてしまった。


 自分よりも大きな力に身を委ねる安堵感。この力さえあれば、誰も傷つかずに済むのかもしれない。


 春水はほっと胸を撫で下ろし、織を回収するため翼をはためかせ、ピエロから距離を取る。そうして鉄柵の前で格闘していた織の手を掴み、二人はメリーゴーランドから十メートルほど間合いを離した。


「.....ミカ。頼っ」


「ダメっ!!!!!!それだけは.....絶対にダメ。」


 織が血相を変えて、春水の言葉を遮る。その表情は、焦りと後悔、それから絶望が混ざったような色をしていて。


「そんな事するぐらいなら.....そんな事する、ぐらいならっ.....!!【壊錠】『病蜘(やみくも)』っ!!」


 ゾワゾワと、形成す異形。織の上半身は成長し、背丈を伸ばして豊満な体つきへと変化。お姉さんと呼ぶに相応しい外見へと生まれ変わる。


 ただその瞳は、繰り返される時間の牢獄に囚われ、憔悴仕切っているものだった。でも、どこか目を離さずにはいられない。そんな美しさもどこか宿っていて。


 その時ふと、春水は視線を少し下げる。そこにあったのは異形の正体。大型の蜘蛛が、織の下半身には存在していた。


 宝石のように煌びやかで、背筋がゾッとする赤い目が四つ。視線が合うだけでおぞましいとさえ思われるそれは、紛れもなく織と融合している。


 そうしてその腹部分。上半身の織で言うなら背中部分には、大きな糸巻きがいくつも散りばめられていた。


 その糸巻きは常に回転をし続け、キリキリと織の体を少しづつ縛る。痛むほど、苦しみを忘れないよう、強く。


「もういやなの.....。だれにも...しんでほしくないの.........。おねがい....おねがい.......しゅんすい.................。」


 大きくなった織は春水をそっと抱き上げて、涙を流しながら彼女は優しく春水を自身の胸に押し当てる。


「ちからがほしいなら、わたしがあげる。だから....だからしんじて。」


「....うん。分かった。信じるよ、織。」


「ごめんね.....きっと、くるしいとおもう......。くるしくして....ごめん.....なさい.....!『輻輳(ふくそう)』。」

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