表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百鬼夜行と踊る神  作者: 蠣崎 湊太
倭国大乱・越後編
209/235

翅を広げた弱虫

 

 春水たちが丁度セーラー少女と戦っている最中、春水の実家では取り残された優晏が一人、雑木林の中自主訓練に励んでいた。


 地面に汗を垂らし、仮想敵を自身の脳内でイメージする事で、有り得ざる虚像との死闘を繰り広げる。要するに、シャドーボクシングのようなものだ。


 術式の精密性、術式への理解の深さ、応用、小回り、その他諸々。戦闘に必要な知識と経験は全て、五年間の迷宮で頭に叩き込まれている。


 それでも尚、壁にはいくつもぶち当たる。総合力としては春水一行の中でもトップクラスの強さを誇る彼女は、紛れも無くメンバーの中では最強候補。


 なのに、優晏はこの戦いで実働部隊から外された。その事実だけが、彼女の心に重くのしかかる。


(私が...私がっ.....!!もっと、春水の隣に....立ちたかった.....!!)


 自主訓練は激しさを増していく。そのうちに、雑木林の一帯に凍りつくような冷気が立ち込め、辺り一面の地面に霜が付いた。


「.....寒。優晏、何してるの?」


「訓練よ。今のままじゃ、足りないもの。」


 優晏が一息つこうとしたタイミングで、ふらっとその場にやって来た絹が彼女に声を掛ける。そうして絹は周囲の光景を見て、唖然としたまま視線を地面に動かす。


 ザクザクと踏み鳴る霜の音、見渡す限りの氷柱林。優晏の訓練の足跡は、絹に感嘆の声を漏らさせるほど美しい情景を生み出していた。


 ただし、そんな息を飲むほど美しい氷の世界の中で、ただ一つ。優晏の表情だけが苦しそうに酸素を求める。


「......やっぱり、悔しい?」


 絹の言葉に、優晏はほんの一瞬顔を歪める。でも、その後すぐに優晏は真っ直ぐな顔立ちになって、遠くの空を見つめた。


「....そうね、悔しいわ。私だって、春水の傍で戦いたかった。でも、敵を間違えるほど馬鹿じゃないの。私たちは仲間、みんなで一つの集団。だから....この気持ちは私の自分勝手なのよ。」


 優晏は彼我の戦力差を、痛いほど正確に理解してしまっていた。そうして、己の術式がセーラー少女にとって相性が良いということも。


 正確には異なるが、大まかにかつ単純に意味を還元していけば、セーラー少女の術式は熱を生み出す術式。


 本来であれば、熱を奪う術式を持つ優晏の敵では無い。だが、そこに立ちはだかったのは純然たるスペック差。


 水は炎に相性が良い。では、大火事の中に一滴の水を入れればどうなるか。答えは明白、蒸発して消え去るだけだ。


 優晏の熱量キャパシティ不足。自身の体が相手の熱量放射に耐えきれず、オーバーヒートもしくは自爆してしまう。


 春水はそれを理解した上で、あえて優晏を傷つけないよう相性が悪いなんて柔らかな物言いをした。実際は、その逆であるのにも関わらず。


「.....ボクは、優晏みたいに強くない。だから....そんな風に悔しがれることが....ちょっぴり羨ましい。」


 かぐや、織、絹。三人の弱小コンビの中で、かぐやは一芸を得て、織は全体的に能力が向上した。


 取り残されたのは一人、絹だけ。紛うことなき最弱。絹は自身の中で、自分は戦闘要員ではないと言い聞かせていながら、その実自分以外の全員に劣等感を抱いている。


 だから彼女は分析した。自分以外の全員の強み、弱み、細やかな癖、些細な挙動。前線から一歩下がっていたからこそ見える、冷静な視点。


 されどそれらを理解していく事に、自分の弱さがどんどん浮き彫りになっていく。力が無い、術式も使えない、頭も大して回らない。


「今強くないなら、これから強くなればいいじゃない。それだけの事よ、絹。」


 優晏はそう、絹の悩みを一言で切って捨てた。絹はぶっきらぼうにそう吐き捨てる優晏の態度に、どうしてか全く苛立ちを覚えない。


 それはきっと、心のどこかで自身の怠慢を理解しているからだ。加えて、目の前に突きつけられた優晏のストイックさ。


 前線から外されても腐ることなく、自身の中に原因を探し出して改善しようと努力する。術式が強力なものであろうが、その上に胡座をかかない勤勉さ。絹は心の底から、ああそうかと納得した。


(.....ボクが弱いのは、術式が弱いとか、体が強くないとか、そういうのじゃない。......考え方が違う、思考の方向性が....全然違うんだ。)


 凍てつく視界とは裏腹に、絹の心臓を轟々と熱が突き動かす。自分も、彼女と同じ地点に立てたなら。どれだけ心地がいいだろう。


 自分だけ、ずっと外野にいた気がした。強さは無く、サポートもままならず、蚊帳の外で放置され続けた自分。


 一歩踏み出すなら、きっと今なんじゃないか。そう、絹は確信した。彼女は術式を発動して糸を紡いでタオルを生成し、優晏にポイッと投げ渡す。


「あぁ、助かるわ。気温がいくら下がっても、汗のベタベタ感って取れないのよね。」


「......優晏、私を強くして。」


 自身の体をタオルで拭いながら、優晏は絹の方へ目線を向ける。力強く、信念に背中を押された眼。


「絹、あなたは何のために強くなりたいの?」


「.......仲間はずれは、嫌。それだけ。」


 置いていかれるだけ、みんなの背中を見続けるだけの旅はもう嫌だと、そう絹は瞳で語る。優晏はそんな彼女を、言葉ではなく行動で受け入れた。


「構えなさい。あなたは多分、一朝一夕で強くなれるタイプじゃない。だから、堅実に時間を掛けて、あなたを強くしてあげる。」


 地味な術式に、平均より少し上レベルの肉体。それでも、鍛えて何とか物にしてやると、そう優晏は断言する。


 ただし、厳しさと苦しさが大津波となって襲ってくるぞと、そうこれから先の苦難の忠告を言い加えて。


「......ん。望むところ。」

絹から見た春水一行の実力まとめ!


(絹)「....まずは大まかに、六項目に分けて分析する。内訳はフィジカルのパワー、術式のパワー、スピード、体力、サポート性能、防御力。の六つ。評価の数値は上からS+、下はF-まで。」


・春水


フィジカル:B+

術式:A+

スピード:B

体力:B-

サポート:D-

防御:B-


(絹)「....全体的に隙のない性能。術式を幾つか持ってるし...手数も多い。文句無しに、春水が私たちの中で一番強い。」


・刑部


フィジカル:C-

術式:A

スピード:C-

体力:D+

サポート:S+

防御:F


(絹)「....ん、サポート全振り。だからって先に潰そうと思っても....術式的に倒し切るのは難しそう。....敵に回せば厄介。」


・優晏


フィジカル:B-

術式:A-

スピード:A

体力:C-

サポート:D

防御:B


(絹)「...総合力も高いし、安定して強い。けど、スピードの代わりに体力が若干少ない。キツい一撃を貰えば動きは落ちるし、隙が全くない...って訳じゃなさそう。」


・かぐや


フィジカル:F-

術式:S+

スピード:F

体力:D

サポート:A+

防御:F


(絹)「....例えるなら、遠距離からの固定砲台って感じ。一発屋だけど、その一発が何より怖い。それ以外は...ボクでも勝てそう....。」


・花丸


フィジカル:A

術式:B-

スピード:B-

体力:A

サポート:D-

防御:B+


(絹)「...フィジカル特化の近接型。その上搦手も使えるし、防御も体力も優秀。遠距離と中距離技が無いから...近づかれる前に仕留めたい相手。」


・織


フィジカル:C+

術式:S

スピード:C+

体力:C

サポート:A-

防御:B


(絹)「.....術式が滅茶苦茶すぎる。イメージさえ出来れば何でも出来る無法性能....。でも、使えば使うほど動きは落ちる。連発し過ぎれば自滅するのが弱み。」


・ハスミ


フィジカル:A

術式:B

スピード:C+

体力:C

サポート:A+

防御:C


(絹)「...サポート寄りな割にはフィジカルが強い。油断して近づいたら....普通に殴り負ける。でも性格的に油断が多いから、そこが狙い目。」


・絹


フィジカル:C-

術式:D

スピード:C

体力:B-

サポート:C

防御:C

家事スキル:SSS+


(絹)「...................。ここから....ここから頑張る。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ