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百鬼夜行と踊る神  作者: 蠣崎 湊太
倭国大乱・越後編
206/235

焔よ人と成れ、人よ神と成れ

 

 肌にへばりつくような汗。それさえも長持ちせず、汗が水分を飛ばして塩になる程に周辺の温度が上昇していく。


 ただ攻撃を振りかざす余波。ほんの反動だけで、着々と熱発が春水たちの体力を削る。その様子を、セーラー服の少女は心底愉快そうに眺めていた。


「ただ焼くのにも退屈してきたところだし、ちゃんと楽しませてよね〜?いや、逆かな?私が楽しませてあげるから!死なないように、ちゃんと見ててね!」


 比較的小さく練り上げられた太陽が、四方八方を縦横無尽に駆け回る。防御不可、触れれば即死の攻撃を、春水と織は死に物狂いで連続回避。


(あの太陽....っ!速くて回避するだけで手一杯だ....!近づけない.....!)


 防御が意味を成さないため、春水は『魔纏狼』を使わず翼と風だけを展開。そんな風に春水が相手の気を引いてくれてるおかげか、織はそれなりに余裕を持って相手の攻撃を回避できている。


 その余裕の分、織がセーラー少女へと距離を詰め、太陽に負けずとも劣らない黄金に輝く剣を横に薙ぐ。


「【足を削げ】『八束落』!!!」


 少女の頬に赤い筋がたらりと一本垂れ、かすり傷とは言え確かな手応えに織は思わず白い歯を見せて笑った。


 ただその笑顔も束の間、セーラー少女は油断を突かれ驚いたのか、大きく目を見開いて太陽を春水の方から急速旋回させ、自分の方へと全速で向かわせる。


「『天衣無法・吊るし蜘蛛』」


 織は加えて術式も発動。凪いだ水面かの如く世界が静止し、きっかり五秒間の時を止めてその時間で相手から十分に距離を取った。


 その名の通り、極めて強力で無法な能力。ただしその実、力の全てが全くのノーリスクという訳でもない。


 まず一つ目の弱点として、体力を大量に消費するという点は元から据え置き。そして二つ目。この大幅体力消費に加え、『天衣無法・吊るし蜘蛛』は触れた相手も自身と同じく静止した世界に引き摺り込んでしまう。


 つまり、攻撃のタイミングで相手に触れた瞬間、相手も織を認識できてしまうという事。極端な話、驚異的な反射能力さえあれば織への反撃が可能になるのだ。


 織はそれを警戒し、万が一に備えて回避のみに術式の使用を絞った。そのお陰で織はセーラー少女からの反撃を受けることなく安全圏まで移動し、ダメージを貰うことなく戦果だけを持ち帰ることに成功。


 セーラー少女は急に視界から消えた織を見て不思議そうな表情を浮かべながらも、自分の頬から流れる血液をサッと親指で撫ぜる。


「...私、痛いの平気なの。ほら、痛いのいっぱい我慢してきたから!」


 そう言って彼女は、自身のセーラー服の袖を捲り、夥しい数の横線が入った手首を春水たちに見せつけた。


 その痛々しさに、思わず春水たちはギョッと一瞬動きを止めてしまう。しかしそんな事は気にせず、少女は何でもない事かのように話を淡々と続ける。


「これするとね、みんな私を心配してくれるの。傷つけたら傷つけるだけ、たくさん心配してくれる!でも、やり過ぎたら飽きられちゃうの。」


 セーラー少女は軽く俯いて、しょんぼり顔を浮かべ口をすぼめる。けれどすぐにまた面を上げ、パッと子供のように笑った。


「飽きられなくて、みんなに注目される方法!教えてあげよっか!それはね、出来るだけ相手を傷つけることなんだよ?こんな風にっ!」


 パキッと空間が歪む錯覚を覚え、春水は反射的に凄まじい暴風を生み出し、自身と織を遠くへ弾き飛ばす。


 そうして二人が風により跳ね退いたコンマ数秒後、セーラー少女が操っていた太陽が破裂。極小の太陽フレアを引き起こし、辺り一体を大爆発に巻き込んだ。


 軽傷なだけの自爆にも似た強引な回避のおかげで、春水たちは爆発の影響を殆ど受けないまま何とかやり過ごすことが出来た。


 そして大規模な爆発の砂埃が治まった後、二人は自身の視界を疑う。まさか、本当にまさか、ここまでの威力があるとは思ってもいなかったから。


「嘘.....だろ...........?何だよ.......その威力........。」


 暴風は確かに、竜巻のような威力を伴って春水たちをはるか遠くまで吹き飛ばした。そのはずなのに、春水の足元数センチ。


 爆発の影響によって抉られた地面が、すぐそこまで迫っていた。ざっと見積って、破壊範囲は半径五百メートル。


 そう軽々と破壊出来ていい規模じゃない。春水はその地面の抉られようを見て、心の底からゾッとした。


(少しでも出し惜しみしてれば....死んでた......。何だよあいつ、術式の規模もスペックもイカれてる.....!本当に人間か.....?)


「しかも、至近距離でこれだけの大爆発に巻き込まれて無傷...?どうなってんだよ、一体。」


 爆心地から華麗に歩き、スカートをヒラヒラと靡かせる少女の姿は当然のように無傷。セーラー少女はまだ死んでいない二人を見つめて嬉しそうに再び太陽を生成。


 コツコツとローファーを踏み鳴らしつつ、顔面蒼白の二人に向かって、まるで仲良くなれた友人同士のような気軽さで話しかける。


「二個目、いってみよっか?」


「....はは、何言ってんだこいつ。」


 春水からは思わず、乾いた笑いが出た。馬鹿げた威力に、特にデメリットがあるような素振りも無く再度太陽の生成。もはや笑うしかないレベルで、セーラー少女の術式性能は壊れている。


 言うなれば、歩く水素爆弾。しかも連発可能で、かつ反動も準備も必要ない。極めて殺傷力の高い、最強格の術式。


「織っ!!撤退!!!もう一回逃げる!!!!」


「こら、逃げちゃダーメ♡」


 残虐な笑みを顔全面に貼り付け、セーラー少女は春水が風を生み出すよりも速く腕を太陽に伸ばして起爆を試みる。


 しかし、その瞬間に一本の矢がどこからとも無く射出され、素早く正確に少女の手に突き刺さった。


 そのダメージのおかげか、少女の集中が崩れ太陽が消失。春水たちは危機を逃れ、逆に相手に攻撃するチャンスまで得た。


「すえたけ......!!!!!」


「季武さん!!!!!」


 二人は姿の見えない季武に感謝しつつ、逃避しようとしていた足を逆方向に向けて走り出す。


(威力、燃費、取り回しの良さ。術式はどこを取っても破格!なら、本体はどうだっ.....!)


 春水は腰に差していた刀をスラリと抜き、そのまま地面にへたり込む少女の首へと走らせる。そうしてそれと同時に、織も剣筋を春水と合わせ少女の首を切り裂く。


 左右の二方向から繰り出された斬撃は、確実にセーラー少女の首を跳ね飛ばした。されど、飛んでいく首はどうしてか炎に巻かれている。


 次第に首だけでなく、胴体にまで炎が巻き起こり、少女の肉体が炎へと変貌。実体を失った気体となって、跳ね飛んだ首を炎の胴体が回収した。


「『天照(あまてらす)現人焔(あらひとほむら)』。」


 炎の輪郭が融合して一つとなり、人型のシルエットを作り出す。それから完全に元の形状に戻ったところで、セーラー少女は炎から人間へと戻る。


「....っぷは!この姿、可愛くないからあんまりやりたくないんだ〜。でも、どう?ビックリした?」


 自身の肉体を炎へと変換することで、物理攻撃を完全に無効化。春水は目を見開いて、冷や汗をダラダラと流す。


「............うそ。」


「無敵かよ.....こいつっ......!」


 中遠距離は極小の太陽が、近距離は自身を炎の化身とすることでカバー。どの距離においても隙がない、正に無敵の術式。それでも、春水はその眼でしかとセーラー少女の腕を見た。


(いや...よく見ろ....!季武さんの矢はしっかり貰ってる。術式を発動してから体を炎とするまでの刹那。もしくは意識外からの不意打ちなら、確実にダメージは当たるはずだ....!)


 元より、彼ら二人は囮。作戦通り、春水たちは自らの役割を全うするため、体勢を建て直して闘志を再燃させる。


(季武さんに繋ぐ....!!そのために、全力で!!!!)

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