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百鬼夜行と踊る神  作者: 蠣崎 湊太
倭国大乱・越後編
202/235

鉄の冷たさより、血の流れるあなたへ

 

 全身を迸る過剰電力を体内でぐちゃぐちゃに掻き回し、ユキナは溢れんばかりの磁力を発生させた。


 そうしてその磁力と電流を全て左腕に集め、自らの大部分を砲台として犠牲にすることで放たれる最後の一撃。


 青色の閃光。直死の電撃。夜空を切り裂く一陣の流星となりて、レールガンより打ち出された弾丸が優晏へと走る。


 その威力たるや、余波の電撃でさえ雷に匹敵する火力を孕み、触れたものには感電の足跡を残す。


 その足跡はまるで、青き薔薇の如き傷跡。本来落雷などの影響によって樹形図を刻むリヒテンベルク図形が、歪な電力放出により薔薇の形を取って現れる。


 正に必殺技と呼ぶに相応しい最終奥義。しかし、その一撃を優晏は真正面から受け止めようと試みた。


 油断でも驕りでも、ましてや嘲りなどでは決してない。戦士として、何より乙女として、敬意を表したからこそ真っ向から受け止めてみたくなった。


 故に優晏もまた、周囲を巻き込まぬギリギリの範囲で自らの最終奥義を披露する。今出せる自身の限界、最高硬度を誇る宝石のような氷壁。


「【壊錠】『幽愛(かくりあ)』。」


 レールガンが自信に着弾する刹那、ほんの数コンマ一秒にも満たない時間。その僅かな時間だけ、優晏は壊錠を発動した。


 何者も壊すことなど叶わぬ、キラキラと透明に輝く氷の棺桶。優晏を包む宝石と、その周りを覆う氷の茨が侵入者を阻む。


 ただその一瞬にして、バキンと轟音が響き渡る。電撃の熱で氷が蒸発したのか、辺りを水蒸気が呑み込んでしまう。


 不明瞭な視界ではどちらが勝利者なのか、互いですら判断することができない。そうして少しの時間が経過し、水蒸気が晴れた時、ユキナは刮目する。


 先刻から寸分違わぬ姿。自身の全力を受けて尚、ダメージを負う事無く立っている、銀髪煌めく優晏の瞳を。


「凄い一撃だった。本当に、ヒヤッとさせられたわ。」


「.....嘘。」


 ユキナはこの時点で、先程鳴った轟音が氷を砕いた音ではなく、自ら放った弾丸が氷に敗れ破裂した音なのだと理解した。


 そうして無傷の優晏とは対照的に、全エネルギーを使い果たしてボロボロになったユキナは、もはや滞空のエネルギーさえ維持出来ず屋根上へと自由落下。


 糸が切れたかのように、ぼとりと指先一つ動かさないまま落ちていった。優晏はそれを確認して氷の刀を生成、ゆっくりと息を整えつつユキナの元へ寄った。


 バチバチと立てる電流も弱々しく、屋根上に仰向けに寝転んで空を見上げる様子は風前の灯。優晏はそんなユキナの目の前に立ち、刀を構えて機械少女を見下ろす。


「....最後に何か、言い残すことはある?春水に頼んで、私がしっかりあなたの想い人に伝えるわ。」


「い.....や。いや....だ。伝えたいこと.....は....自分で....伝える......!」


 トスっと優晏は氷の刀をユキナの胸に軽く突き立て、最後の言葉を聞き出そうと穏便に言葉を紡ぐ。


 しかし、ユキナはそれに抵抗。せめてもの反撃として、弱りきった電流を氷の刀を通して優晏へ流し込む。


 だが、所詮は最後っ屁。窮鼠が猫を噛んだとて、それは抵抗足りない。優晏はピリっと軽く痺れる腕に力を込め、いつでも相手を殺せるよう準備を済ませた。


「私にもね、好きな人がいるの。ずっと前から好きだったし、これからも一生好きな相手。だから、あなたの気持ちも理解出来る。」


「.....私....は....私の気持ち.....が...分からない...!」


 ユキナは自分に突き立てられようとしている氷の刀を睨みつけ、死中に活を見出すため必死で眼前の死神に抗う。


「そう。なら、最後に教えてあげる。あなたは、あの人の事が好きなのよ。文字通り、死ぬほどね。」


 その言葉に、ユキナはほんの一瞬抵抗をやめた。驚いたと言うより、呆気に取られてしまったのだ。


(好き.....?好きって....好きって何なの?分からない....分からない.........。)


「私は.......マスターのことを.............。」


「えぇ、好きなんでしょう?愛しているんでしょう?私も、おんなじだから分かるわ。でも...いや、だからこそね。私の愛している人のために、死んで。」


 戦いの後に友情が生まれたとしても、殺さねばならない相手であることに変わりは無い。春水の意に沿うため、春水以外の仲間たちみんなが幸せに生きるため。


 不安の芽は摘んでおく。そう覚悟を決め、優晏は氷の刀を振り上げた。そうしてそれが振り下ろされる瞬間、優晏の腕を何者かが掴む。


「もういい。もう...終わったんだよ、優晏。」


 背後から優晏の腕を掴んだのは、背後にバツの悪そうな学ランを羽織った少年を引き連れた、春水だった。


「....事情はよく分からないけど、殺さなくていいのね?」


「うん。お疲れ様、優晏。それに、ハスミも。」


「もう...帰りたいっす.......。」


 優晏はその春水の言葉にほっと胸を撫で下ろし、氷の刀を宙に霧散させた。それから春水をぎゅっと抱きしめて、満足した後ユキナの体に指を触れる。


 そうしてズタボロになった彼女の背中を押して起き上がらせ、学ランの少年の前へと強引に引っ張り出した。


「ほら、自分で伝えるんでしょ。こんな今だから、言えることだってあるの。」


 申し訳なさと友情をかき混ぜて、優晏はせめて自分に出来ることを考え、ユキナの背中を押すことを選択。


 せっかく気に入った彼女を殺さなくても良くなった事に心の底から安堵しつつ、こんなにズタボロにしてしまった返礼として、戦いの後の報酬を後押しした。


「ごめんなさい....マスターの思いに....答えられなかった。」


「....いや、それで良かったんだ。......俺は結局、何がしたかったんだろうなぁ。今はもう、そんな事さえ分からなくなっちまった。」


 ボロボロの少年は、同じくズタボロになった少女の元へ近寄り、深く腰を下ろして空を見上げる。その瞳には、やはり少女の姿は無い。


 ユキナはその瞳を見て、やっぱりと思った。実際の距離は近いのに、何だか空に浮かぶ星々のように遠く感じる少年の横顔。


「......分からない。私、マスターのことは全部知ってる。それなのに、分からない。」


「......そうか。まあ、そうだわな。」


 少年は彼女をそう作った。決して近寄りすぎてしまわないように。決して、自分の醜い心の内を理解されてしまわないように。


 彼はユキナの頭に手を伸ばし、優しく撫でようとした所でその腕を止めた。彼女はその伸ばしかけた腕を、残った精一杯の力を振り絞って掴む。


 それからその腕を引っ張って、自分の胸の中に抱き込んだ。困惑の表情を貼り付けた少年は、されるがままにその腕を少女に預ける。


「変なんだ、ここが。おかしいよね、作られただけの炉心なのに。鼓動なんて、あるわけないのに。すごく....ドキドキしてる。」


 少年は意図的に、目を逸らした。だがそんなことは気にもとめず、少女は口を動かし続ける。思いのままに、伝えたかったことを。


「私は...マスターのことが分からない。だから、これから理解していきたいの。私にとって、マスターは特別で....意味あるものだから。」


 少年の視線が引き戻される。その瞳には、記憶の影でもなく、誰かの投射でもなく、正真正銘、今ここにいるユキナの姿が映っていた。


「......悪い。ちょっと、泣く。」


 引かれるままに、少年はユキナの胸の中へと倒れ込む。ユキナはそんな自分の胸の中に飛び込んできた少年の頭を撫で、うっすらと微笑みを浮かべる。


「全く、マスターはしょうがない人。」

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