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百鬼夜行と踊る神  作者: 蠣崎 湊太
幼年編
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決意

日差しの匂い、雲が流れていく様子。鳥のさえずりや、遠くで薪を割る音。全てが心地よかった。


僕が小さくなってから、もう三日が経った。初めの頃はこれが全部夢で、目を覚ましたらまたあの寂しい森の中なんじゃないかと気が気じゃなかった。


そんな気持ちのまま泣きじゃくっていると、黒髪の女の人が優しく抱き抱えてくれる。特段美人という訳では無いけれど、優しさのある柔和な顔立ちは、僕に安心感を与えて自然と涙が止まった。


どうやら、この人が僕の母親らしい。何が起こったのかは分からないが、もう一度赤ちゃんになって人生をやり直しているらしい。森にいた時にはなかった経験だ。


そんなことを考えていると、今度は父親が薪割りを終えて帰ってきた。父親は斧と大量の薪を担いで、薪を倉庫に入れてから母の元へ向かった。


父もまた優しい顔付きの人だ。ただ、薪割りをしているには少々体つきが細かった。前世の父ですらもっと腕周りが太かったような気がする。


「みどりごはどのようなりや。すくよかに乳を飲めりや?」


父親がなにか喋っているが、言葉が分からない。前世では人間と会話するよりも、動物と対話する方が多かったから、その影響で言葉を忘れてしまったのかもしれない。


「いとすくよかぞ。先程までは大声に泣けり。」


母親がそう言いながらにこやかに微笑んだ。なにか不名誉なことを言われているような気がするが、どうすることも出来ないので、とりあえず両親の方へはいはいで駆け寄る。


母に抱かれ、父のほっぺたをつつかれながらこの三日間で得た知識を振り返る。


まず第一に、体が縮んでいる。赤子に戻っていて、別の命として生まれ直したという感じだ。どうやら夢では無いみたいだが、何が起きているのかは分からないので一旦保留にしておく。


そして二つ目、不思議な現象がこの世界にはある。父親が切った薪を穴に入れて、手から火を出している。お風呂を沸かしているのは何となくわかるが、この手から火を出しているのがいまいちよく理解できない。


元の世界でもあったのだろうか。少なくとも、父や母はやっていなかったはずだ。ただ、よく父が赤くて細い木の棒を何かに擦って火を出していた。まあ、火を出している時点でそんなに変わらないのかもしれない。


最後に三つ目、よく分からない生き物がいる。夜になると、変な動物が枕をひっくり返してきたり、ざらざら何かを洗っているような音を立てたりしてくる。森にこんな動物はいなかったし、この場所特有の生き物なのだろう。とにかく、知らないことだらけだったのだ。


分からないことばかりに頭を悩ませているうちに、どんどん眠くなってきた。最近はやけに眠い。しかも起きた時には下半身がべちょべちょになっていることが多いのだ。


今日こそはおねしょをしないと決意し、糸が切れたように母の腕の中で眠りにつく。心音がとくとく耳に心地よく、深い深い眠りへと落ちていった。


「すは、寝きよこの子。」


「おどろかすまじく布団に移さむ。」


「させむ。寝小便すべかるべく、手ぬぐひを巻きおくよ。」


次の朝、起きた時にはあの不快な冷たい感覚がなかった。四日目にしてやっとおねしょを回避した!そう思ったのだが、外に黄色の小さな布が干されていたのを見て、これがぬか喜びだったということを悟った。


当面の目標はおねしょをしないことだな。そう固く決意した。


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