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百鬼夜行と踊る神  作者: 蠣崎 湊太
倭国大乱・越後編
199/235

悪友

 

 薄暗い空間に、白い微かな文字に照らされたエンドロールの中、二人は視線を交わらせることなく言葉を紡ぎ合う。


「全部ぶっ壊してやろうって思ったのになぁ。どれもこれも、中途半端なままだった。」


「........そう、だね。僕と...一緒だ。」


 春水もまた、少年と同じく旅路の途中。人を守るために倭国大乱を沈める。だが、その行いが家族を死へ追いやってしまうのではないかという迷い。


 救うべきものと救いたいものの狭間で葛藤を抱え、春水はその身をすり減らし続けていた。それは奇しくも、小さく擦り切れた少年の後ろ姿に似ていて。


 中途半端な思いのまま、進み続けていた彼ら。行き着く先も、たどり着く未来も見えないまま、二人はどこか逃避するように上へスクロールしていく文字列を目で追う。


「力を持てば変わると思った。環境が変われば変わると思った。だけどな、結局俺は俺のままだった。無難でテンプレな、どこにでもいるありふれた高校二年生。」


 少年は軽くよろめきながら席を立つ。感情をどろりと吐露したことが災いしてか、その声は酷く震えていた。


 情けなさ、悔しさ、みっともなさ。そして何より、失ってしまった悲しさに、少年はエンドロールが終わるまで耐えきれなかったのだ。


 コツコツと、悲しい靴音が響く。スクリーンを横切り、薄暗い階段を下り。少年は映画館、もとい血界の端の方にある出口に蹲る。


 扉の上方、緑色に光る出口の二文字。春水は少年の嗚咽が混じったエンディングテーマを、思うところがありそうに顰めた表情で脳みそに流し込む。


「迷って、迷って、迷い続けて。考え続ける。僕らが中途半端なのは....きっとまだ、僕らが道の途中だからだよ。」


 無意識のうちに春水の口から零れ出したのは、自分に向けた言葉で。それでいて、少年へ向けた言葉でもあった。


 言い聞かせるように、語りかけるように春水はぽつりと呟く。そんな呟きに、少年は蹲りながら問いかける。


「....苦しくてもか。その道のりが、どれだけ苦しくても。歩き続けなきゃ、考え続けなきゃ、辿り着かなきゃ、俺らは中途半端なままなのか。」


 血肉を切り裂く嵐を抜けて、また別の嵐へとその身を投下していく。終わりは見えない。終わりがあるのかさえ、分からない。


 それでも、泥のような停滞は緩やかに心を蝕む。だからこそ、嵐の中に飛び込み続け、苦しみ抜いた方がずっと楽だ。少なくとも、こうして蹲って泣き続けるよりかは、何十倍も。


「そう。苦しんだ先にしか、嵐を超えたその先にだけ、答えが待ってる。だから、僕はまだまだ苦しむよ。」


 中途半端な思いの結論。何よりも二人が求めた、最終回答。それは幾千幾万の地獄を踏破した者のみが、拝謁することの許される山嶺の絶景。


 エンドロールが終わり、天井の照明がパッとオレンジ色で世界を包む。それと同時に、春水は席を立って出口へと歩いた。


 彼の眼下には蹲る少年。出口に手をかけたまま、次の嵐へ飛び込んでいく勇気を失った、有り得たかもしれない自分の姿。


 春水はそんな少年に元に、膝を折って背中をポンと叩く。そうして自分の顔を見上げてくる少年に向かって、春水はニッと笑う。


「....お前は強いな。ぶち当たっても、挫けても、転んでも。すぐに立ち上がる。どういうメンタルしてんだよ、本当。」


「それは多分、僕が一人じゃないからだよ。みんながいて、みんなに支えて貰って初めて、僕は一歩踏み出せる。」


「なるほど。通りで、俺が進めないわけだ。」


 そう言って再び俯く少年の肩を掴んで、春水は半ば強引に少年を立ち上がらせる。それから全てを諦めたように力なく笑う少年へ向けて、彼は肩を貸した。


「何言ってんのさ。もう、一人じゃないでしょうが。」


「.....っは、笑かすな。ついさっきまで、殺し合いをやってたんだぞ?敵同士だぜ、俺たちゃよ。」


「殺す気なんて無かった癖に。殴り合って、映画見て。そんで今、肩まで組んでる。これが友達じゃなかったら、何だって言うんだ。」


 春水が一歩踏み出し、出口のドアノブにその手を掛ける。そうしてガチャリとノブを捻って、眩しすぎるほどの光へと飛び出して行く。


 それにつられて、春水と肩を組んだ少年もまた光へと進む。血界の外、昼をも欺く月明かりの下で、二人は疲労から屋根上に寝転がる。


「...もしも、もしもの話だけどよ。お前がなんの問題も無く、普通に生きて、普通に学校行って、普通に俺と出会えてたら。俺....少しは違ってたかな。」


 少年は空を見上げながら、なんでもない独り言みたいに言葉を夜空へ飛ばした。その飛んで行った言葉に、春水はあえて返答をしない。


 言わずとも、もうそれは二人とも分かりきってる。少年は頭の中に、ありもしない空想をふと思い浮かべた。


 多勢に無勢。一人ではかすり傷しか付けられなかったいじめっ子連中に対しても、二人ならきっと。


 傷だらけの学ラン、生徒指導の後の二人で食べるラーメン。居なくなった先生のことを想って、二人で走り抜けるサイクリングロード。


 存在しなかった青春を、少年は奥歯の隅で噛み砕く。未だに、少年も春水も、中途半端なままだ。


 生きる意味も、これから先の未来も、何一つ分かりやしないけれど。二人は歩き出す。少年は心の中で春水へ感謝をしつつ、そのまま瞳を瞑った。


 そう簡単に、未練が無くなったりはしない。憑き物が落ちたように濯がれた今の少年でさえ、きっとまだ様々なことを悩み続けるのだろう。


 時には傷つきながら、時には過去を思い出して涙を流しながら。そうやって少しづつ、少年は大人になっていく。


「....春水、お疲れ様。」


 倒れ込んで動かない二人に、季武が近づいてゆっくりと腰を下ろす。春水はそんな季武に戦いが終わったことを報告。


 もう少年に敵意が無いことを伝達し、何とか無罪放免にはできないものかと懇願。どこかバツの悪そうな少年の瞳を背後に、春水は季武の表情を伺った。


「特段被害も出てないし...人殺しだってしてない。季武さん...どうにか無罪って訳には行きませんか...?」


「.....条件がある。それ次第にはなるけど...見逃してあげれなくもない。君....どんな条件でも飲む覚悟はある....?」


 少年は思案しながら頭を軽く掻いて、それから頭を下げて謝罪の意を表明。両手を屋根の地面に付け、半ば土下座のような形で季武に向い直る。


「殺し以外なら、何だってする覚悟はある。そこだけは....俺にゃダメなんだ。すまねえが、分かってくれ。」


 季武はそんな少年の様子を見てから、期待に満ちた瞳を自分に向ける春水の表情を視界の端で確認。


 随分うんうんと迷いながらも、最終的に季武は少年を見逃す決断を取った。ただし条件として、セーラー少女の現在地の共有、それと今後人間への加害行為を禁止。


 この二つの条件を少年はすんなりと承諾。交渉は円滑に進み、見事少年は春水の助け舟あって無罪放免を勝ち取った。


「....被害は確かに無かったけど、騒ぎはちゃんと起こしてるからね。....後始末、やらなきゃなぁ.....。」


「「ごめんなさい.........。」」


 春水共々、少年は業務に追われる未来が確定し、虚空を虚ろな目で流し見始めた季武に全力で謝罪。


 それから今もまだ騒ぎを起こし続けている機械少女に思いを馳せて、少年はこれから先の事を脳みそに過ぎらせる。


 少し離れた遠くでは、未だに戦いの音がする。ただその音はあまりに弱々しく、もう決戦が近いのだろうということをありありと示していた。

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