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百鬼夜行と踊る神  作者: 蠣崎 湊太
倭国大乱・越後編
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安っぽいテンプレート

 

 取り押さえられたままの少年は、どこかスッキリしたような顔で不敵に口角を上げる。それから痺れ毒が少しづつ体に巡っていくのを感じながら、彼は吐き出すように呟いた。


「俺の術式は『天触(テンプレ)』。俺自身がテンプレだと感じたイメージを具現化できる能力だ。」


 そのどこか余裕っぷりのある語り口に、季武が拘束に加えている力をより強める。ただそれを受けて尚、少年の語り口は止まらない。


「要するに、イメージさえ出来れば大体のことは出来ちまう。例えば、もうどうしようもないって逆境からの大逆転!これも、またテンプレだよな?」


 刹那、季武の眼前にグレネードが出現。もちろんピンが抜かれた状態で、今にも爆発すると言った風に膨張を始めている。


 春水はそれを視認した瞬間、全速力で季武を抱えてその場を離脱。グレネードが爆発する前に、季武を避難させた。


 そうして、二人が安全圏まで避難したと同時にグレネードは爆発。中から煙を大量に吹き出して、この場にいた三人全員の視界を塞ぐ。


「....春水。どれだけ効いてるかは分からないけど、確実に麻痺毒は相手の体内に入った。....攻めるなら、今しかない。」


 春水は季武の言葉に頷き、術式を発動させ風を操り視界を遮る煙幕を巻き上げる。そうして視界を取り戻し、奇襲する気マンマンだった少年を確認。


 まさか煙幕を一瞬で破られると思っていなかったのか、無防備な体勢でこちらを強襲しようとしていた少年に向かって、春水は逆に奇襲を仕掛ける。


 翼で空を切り、まずは手始めに相手の拳銃を斬り捨てる。しかし、少年にとって獲物などは全て使い捨て。壊されればまた新しいものを作ればそれで良い。


 そんなことは春水も承知で、彼は相手の拳銃を斬り捨てた後、反撃にと再度武器を生み出されぬように最速で蹴りを腹部に叩き込む。


「かっ....!容赦ねぇな....!畜生が....っ!」


「いいや、容赦塗れで中途半端だよ。僕も....あんたも。」


 春水は刀を捨てて、徒手空拳での決戦を選んだ。その決断を、少年は恨めしそうな目で吐き捨てる。


「けっ。ウザってぇ。なんもかんも分かってますみたいな目しやがって。そんなに気取りたきゃ好きにしてろよ、ぶっ殺してやるから。」


 少年は苛立ちを隠しきれず、先程まで浮かべていたニヤケ面を消して拳銃を生成。それをわざと見逃した春水へと、銃弾を乱射する。


 春水はその銃弾を避けることなく、風をやや掌に纏って、軽い緩衝材のようにすることで銃弾を全てキャッチ。


 バラバラと余分に撒かれた銃弾をあらかた地面へ投げ捨て、春水はそのうちの一つを摘み、少年に諭すような口調で見せつけた。


「これ、もし鉄で出来てたらこうはいかなかった。僕はあんまり銃に詳しくないから分からないけど...それは多分、殺すための銃じゃない。」


 春水が見たシャコ・マーン弟が使用していた銃の銃弾は、もっと鋭く硬度のあるものだった。それこそ、鍛え上げられた肉体にも易々と穴が空くくらいに。


 だが一方で、少年が撃った弾丸はどうだろう。ほんの少し風でガードしただけで止まってしまうような、非致死性のゴム弾。


 春水がこれに気づいたのは、少年が季武の残像を撃った時。あの時季武に向かって放たれた弾丸は虚空を進み、屋根へと着弾した。


 しかし、それは屋根を貫くことなく、ヒビを入れるだけに留まりぽとりと地面へ転がった。その時点で、春水は様々な違和感に気づく。


 季武を撃った瞬間の手の震え。その後の安い挑発。さっきだって、通常の爆発をもたらすグレネードでは無く、わざわざ煙幕用のグレネードを使用した。


 それらから導き出される結論はただ一つ。春水はその答えを、突きつけるように少年へと差し向ける。


「怖いんだろ。人殺しが。」


「.......ハズレ。」


 少年は銃口を再び春水へと向け、弾丸を発射しようとする。されど、それ以上の速度で春水が少年へと詰め寄り、銃に手を添えて照準をズラしてから拳を放つ。


 渾身の力で放たれた右の拳が少年の頬に突き刺さり、少年は軽く吹き飛ぶ。だが少年は口からペッと血の塊を吐いてすぐに復帰。


 反撃の狼煙として、少年はマガジンを生成し宙に放り投げ、器用に空中でリロードを済ませて弾丸を射出。春水へ向けて弾丸の雨を繰り出した。


 春水はそれをあえて避けることなく、全てをその身一つで受け切って堂々と拳を振るう。その気に当てられたのか、相対する少年も同様にノーガードで春水の攻撃を受ける。


 そこに繰り広げられたのは、殺し合いだとか奪い合いだとか、そんな覚悟の決まったものじゃなかった。


 殴り合い、意地の張り合い。喧嘩にも似たただのままごと。そんな様子を見て、季武は思わず矢を射る手を止めてしまう。


「.....バカみたいだ。」


 言葉とは裏腹に、季武の口角はやや上向きに傾いていた。季武も春水も、屋敷でやっていたのは物言わぬ凶悪なもののけの退治。


 決して、人殺しなんかではない。季武は年相応に息巻いて拳を振るう春水を見て、爽やかに笑みを浮かべた。


「....いいんだよ、めんどくさいことなんて。全部忘れて。」


 そんな呟きを、拳の衝撃音と銃の発砲音が掻き消す。一心不乱に空中戦を繰り広げる二人は、何よりも互いの視線を交錯させ合う。


 拳と銃弾の応酬の最中、二人はどこか仲睦まじい友人のように言葉を交わす。流血と汗、それから油が混ざり合って、男臭い世界がそこにはあった。


「滅茶苦茶にするとか....!好きでもない癖にそんなこと....っ!しようとするなよっ!!!」


「うるせぇ....っ!!なんもかんも滅茶苦茶にしてやりてぇって気持ちがっ....!!お前に分かるかよ.....!!もう全部....全部どうでもいい.....!!」


 少年の放った弾丸が、春水の首元に命中。いかにゴム弾とはいえ、至近距離から急所への攻撃に春水は目を見開いてふらつく。その隙を、少年は逃さない。


「分からねぇだろ....!!死ぬほどやりきれねぇ...!!殺したいほどむかっ腹が立つ....!!俺を追い詰めた世界が......!!俺は憎い.....!!!」


 少年は銃の撃ち方なんて忘れて、ただ春水の胸ぐらを掴み銃で直に彼の横顔を殴りつけた。


「....かっ....。そんなに....憎いなら......。なんで、そんな顔するんだよ......。」


 春水の瞳に映る少年の顔を、彼は自分自身で目撃する。下がりきった眉に怯えた目、少し震えてカタカタと鳴る歯。


 少年は、どうしようもなく普通の人だった。どこにでも居て、探せば腐るほど溢れ出てくる。そんなテンプレの擬人化。


 人殺しなんて、手が震えて出来そうにもない。人を間接的に殴った嫌な温もりにさえ、震えてしまうような気弱さ。


 それが、少年の本質だった。必死に覆い隠そうとして、必死に何か別のものになりたくて。そう、包んで心の奥底に秘めていた自分が、いつの間にか剥き出しになっていた。


「.....もう、いいだろ。向いてないことやったって、虚しくなるだけだ。」


 少年は掴んでいた胸ぐらをそっと離して、自分と同じように滞空している春水をじっと見つめる。


 それから、何かを諦めたようにため息を吐いた。目の前の自分より、明らかに血塗れで真っ直ぐな表情が、自ずとそうさせた。


 少年は銃を投げ捨て、中には何も無くなった手を春水に差し出す。無防備な握手の申し出。春水はそれを疑うことなく、差し出された方の手とは反対の手で少年の握手を受け入れる。


 そうして、世界は闇に包まれる。真っ暗闇の中、たった一点の淡い光が二人をほの明るく照らした。


「【血界侵蝕】『FIGHT(ファイト) CLUB(クラブ)』」

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