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百鬼夜行と踊る神  作者: 蠣崎 湊太
倭国大乱・越後編
194/235

機械少女は笑わない

 

「マスター。もうずっと何もしてない。いいの?このままで。」


 機械仕掛けの少女は、学ランを羽織った少年にそう尋ねる。少年は焼け野原に沈んでいく夕日を見つめながら、ゴロンと地べたに寝転がった。


「そうだなぁ...。何かは...しないとな。そうじゃなきゃ、こんな辺鄙な世界に来た意味が無い。」


「驚き。マスターは前の世界にいた時、意味を持っていたの?」


 心底不思議そうに、機械少女は額の両端からちょこんと伸びる触覚ヘアを揺らし、後頭部のポニーテールを風に靡かせる。


 その表情には皮肉や他意など一切含まれてないと言った純真さが全面に現れており、それが余計に少年の心を抉った。


 少年は起き上がり、背中や学ランの裾をパッパと払ってから、やや苦笑して彼女の方へと視線をやる。


「あのなぁユキナ、意味のあるなしなんてのは視点の違いなんだよ。俺にとっちゃ無意味でも、誰かにとっちゃそうじゃないかもしれない。そういうもんなんだよ。」


「ふーん。じゃあ、マスターは誰かにとっての意味あるものだった?」


「ノー!コメント!!」


 少年はムキになって、明後日の方向へと歩き始めた。そんな夕暮れに染まる真っ黒な学ランの背中を、同じく緋色の影を浴びているユキナが追いかける。


 彼女のビー玉のような翡翠色の瞳に映る少年の横顔は、どこか複雑で物憂げなものだった。


 ユキナはそんな顔をした少年の心を、自身を創造したマスターの心を、なかなか読み解けないまま何も言わない。


 そう在れと、創られたから。機械仕掛け、絡繰仕掛けの少女など、心を理解できないのがテンプレなのだと。


 少年の歪んだ美学によって生み出された彼女は、歪んだ鳥籠の中で歪んだ主人をただ想う。


(あぁ...なんて、悲しい目をするの。)


 心を理解出来ずとも、それとは別に心が無いわけではない。主人を理解したいと思うたび、どうしようもなくぽっかりと空いた人工の穴が顔を出す。ユキナはそんな愚かな主人を、恨むことも憎むこともせず、ただひたすらに憐れんだ。


「ユキナ。俺が今から全部、なんもかんも滅茶苦茶にしてやろうって言ったら、笑うか?」


 少年はあいも変わらず、明後日の方向を向き続ける。その瞳の中に、ユキナの姿はない。あるのはただ、ユキナに似ている誰かの面影。遠い日の記憶、いつかの話。だがそんなこと、絡繰の心臓では理解するには至らない。


「よく....分からない。したいの?滅茶苦茶に。」


「さてな。自分でも分かんね。」


 ぶっきらぼうに少年はそう吐き捨て、くるりと方向転換し行き先を変更。下手くそな作り笑いをユキナに見せ、くたびれたように微笑んだ。


「あの焼畑女ともしばらく会ってないしな。いいぜ、やろう。まずは街から滅茶苦茶に。一番でっけえ所を狙うのが、悪役のテンプレだ。」


「....マスターが、そう願うのなら。」


 機械少女は目を伏せる。痛々しい主人の笑顔を、これ以上見たくなかったから。主人の心を理解できない自分を、これ以上知りたくなかったから。


 落ち着いた茶髪が空の色を写し取って、赤みの掛かった宝石のように輝く。ユキナの容姿はどこにでも居るような、何の特徴もない顔をしているのに、それらを飾り立てる瞳や髪は特徴的で。


 誰の面影に縛られ続けているのか。誰の面影を未だに追い続けているのか。ユキナは夕暮れに掻き消えそうな声で、ボソッと呟いた。


「私のモデルは...マスターにとって価値あるものだった?」


 聞こえていて無視したのか、それとも聞こえなかったのかは分からない。ただ一つ確かなことは、少年が歩みを止めなかったということ。


 城のある街へと向かい、少年と機械少女は歩き続ける。何かを滅茶苦茶にしたいと、そんな破滅的な欲望のままに。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 春水たちは季武と合流した後、まずは城へと向かい情報共有を開始した。そして春水たちは真っ先に、自分たちがセーラー少女に襲撃されたという事を報告。


 相手の術式の大まかな詳細や威力など、様々な事を春水は伝達したが、季武が気になったのはそこではなく。


「....待って。かぐや様って....術式持ってたの?」


 季武の中で思っているかぐやは未だ、屋敷にいた時のまま変わらず、囚われのお姫様のような存在だった。


 それが一転、春水の口から語られるかぐやはまるで別人。季武はその事に驚きながらも、静かに話に耳を傾け続ける。


「かぐやは火力だけなら、私たちの中でも一番なんだから!」


「........とんでもない事になってるんだね。」


 まるで自分の事のように自慢げな雰囲気でかぐやの事を語る優晏を見て、季武は苦笑いせずには居られなかった。


(悪霊にもののけ.....。まあ、織ちゃんと花丸が居た時点で若干怪しかったけど...。これ、貞光辺りが見たら倒れちゃうんじゃないかなぁ...。)


 どこか遠くの京に居る苦労人の胃が痛むことが確定し、季武はやや目線を優晏とハスミから遠ざける。


 そうして春水たちがあらかた襲撃の内容を話し終えた後、今度は季武が自身の調査によって得た情報を開示。


 季武の入手した情報はセーラー少女のものではなく、比較的問題にはなっていないもう一人の方。


 学ランの少年についてだった。正直、季武もこの少年のことはあまり警戒してはいなかったのだが、一応セーラー少女の仲間だということで最低限の注意は払っている。


「....術式は相変わらず不明だけど、人手が増えてたね。見たことの無い女の子が一人、近くの荒れ野に潜伏してた。」


 これまでの被害状況を考慮するに、どう考えても即座に対処すべきはセーラー少女の方。だが、彼女はまさに神出鬼没。


 足取りが転々とし過ぎていて掴めないため、その足掛かりとして学ランの少年を拿捕しようという方針へと切り替えた。


「それじゃあ、その荒れ野に行って男の子と女の子の確保ってことですか?」


「....うん。未確認なだけかもしれないけど、現時点ではその子が起こした被害はゼロだからね。ただ越後を滅茶苦茶にした女の子と一緒にいたってだけ。.....一回、話を聞こうとしたら戦闘になったことはあるけど。」


 多少の荒事は覚悟した上で、学ラン姿の男の子を確保。その後聞き取り調査をして、セーラー少女を撃破。


 という流れを構想した所で、時刻は丁度五時半時を回っていた。日が少し落ち、黄昏色の雲が空を覆い尽くしている。


 時間も時間なので、荒れ野に向かうのは翌日に決定。明日の集合時間をすり合わせ、春水たちは城を後にした。


「.....都合が悪くないなら、ご飯でも奢るよ。個室で良いお店があるから...多分ほとんどはローブを取っても大丈夫......。情報整理とかじゃなくて、普段の春水の話....聞きたいしね。」


「えっ?!いいんですか!!ありがとうございます!!ほら、二人もちゃんとお礼言うんだよ?」


「ありがとうっす!季武さん!」


「あ、ありがとう...ございます....。」


 人間に優しくされることに慣れていないのか、優晏はやや恥ずかしそうに吃ってお礼を言った。


 足元が少し見えづらくなるような時間帯の街を、春水たち四人はてくてく歩いていく。ゴミゴミとした飲み屋街を通ること数分、ようやく目的地付近まで到達した。


 そして季武はお店がここら辺なのか確かめるために、首を傾けて店の柱に着いている看板を見上げる。


 すると同時に、視界にはやや薄暗くなった空が覗き込んでくる。刹那、その空に何やら怪しげな影が二つ浮いていたことに彼女は気づいた。


「....春水。あれ、何か見える?」


「女の子が、男の子を抱えて飛んでるって感じですね。....怪しさは全開って感じです。」


「今日話した男の子って、多分あれじゃないっすか?なんか学ラン羽織ってるっすよ?」


「学らん.......?よく分かんないけど、黒い服よね。なら、多分合ってるわ。」


 春水たちは一瞬で、それぞれが跳躍か術式を使用して家屋の屋根へと登る。そうして空に浮かんでいる少女と、それに抱えられている少年を目視し、季武は確信に満ちた表情で言った。


「....うん、あの子で間違いない。全員、一応戦闘準備。」

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