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百鬼夜行と踊る神  作者: 蠣崎 湊太
倭国大乱・越後編
193/235

霊柩

 

 織は白亜の閃光を背後に構え、それらを射出させながら同時に、織本人も花丸へと近接戦闘を挑む。


 迫り来る幾つもの閃光が織にとっての追い風となり、追撃阻止や防御の削りなど、攻防一体の支援技として完璧な配置で飛びかかる。


(ズレのない面での攻撃....!それに射出速度もかぐや様本人より格段に速い!受け切るのは至難か....。)


 花丸はそう言いつつも、閃光を唐傘で弾いてから、織本体による近接攻撃を足で捌く。ただし、この状況は織の体力低下によって生み出されているギリギリの産物。


 彼女はこまめに花丸を攻撃しているとはいえ、時間の大半をレーザーに隠れて己の体力回復に使っている。


 故にこの状況が長く続けば、不利になるのは花丸の方。そうして花丸自身もそう判断を下し、長期戦を避け短期決戦へと移る構えを取った。


「その炭の塊ごと沈めます。『金魚罰』!」


 お互い拮抗していたはずの血界が、花丸が力を強めたことにより、織の墓地が影に飲み込まれていく。


 そんな中で、織はやっぱり寂しそうな表情を一瞬浮かべて対抗策を打つ。もう随分小さくなった墓地が再び隆起し、木製の棺が出現。


 ただ、それと同時に炭の塊は崩壊し、サラサラと風に乗って影の世界に溶けていく。そして刹那、新たに生み出された棺の蓋が開けられた。


「『竜頭荼毘(りゅうとうだび)白銀(しろがね)』」


 首は無く、青色でボロボロの布だけを羽織っている半透明の幽体が棺の中からぬっと体を出し、影の世界にそっと手を当てる。


 その瞬間、地面の影は凍り付き、やや滑るものの沈みこんだりはしない足場が形成された。幽体はその後も、足場を作るだけでなく氷の刀を生成。


 それを織へと手渡し、幽体はただぼーっと立ち尽くした。援護するわけでもなく、さりとて見守っているという様子もない。


 まるで、術者である織本人が遠ざけているみたいに、幽体は少し離れた遠くに安置された。


 花丸は目の前に次々と現れる想定外に、ぐるぐる目を回しながら混乱した。それでも散らばった思考をなんとかまとめようと、彼女は影で擬似的に『魔纏狼』を展開し防御を固め、致命的な一撃は貰わないよう対策する。


(.....うん。はなまるなら、そうする。)


 されどそれは、織の思う壺。織はもう、擦り切れるほど何度も何度も、沢山の戦いを見てきたのだ。


 戦い方の癖、思考の偏り、術式の弱点。それに、死に行く様も。全て、呆れ返るほどに彼女は見て来てしまっている。


 それが心を摩耗させようと、目を瞑っても無駄なことは繰り返される時間が教えてくれた。だから、次に活かせるようにと目を開き続けるしか無かった絶望。


 その瞬きすら許さぬ絶望こそが、今この瞬間にて活路を開く。そうして織は、皮肉に自嘲気味な笑みを浮かべて言葉を吐いた。


「しゅんすいの気持ち....分かった気がする。寂しいよね、ずっと...会えないのは。『焱立燈華(えんだちとうか)』」


 春水が編み出したオリジナルの魔術。それを織は術式を交えることで無詠唱で発動し、氷の刀に燈色の花弁をまとわせる。


 火花のようにチカチカと瞬く光は影の濃度を著しく下落させ、花丸の装甲を脆く壊れやすいものへと変貌させていく。


 そうしてそんな脆くなった装甲へと、氷の刃が一筋走る。擬似的な『魔纏狼』はそれだけで瓦解し、焼き払われた影は泡沫へと帰した。


 ただ、織の作戦はこれだけに留まらない。魔術を用いて熱を加えられた氷の刀は、その役目を果たした瞬間にこれまた崩壊。


 氷の刀は水蒸気に変化して花丸の視界を奪いつつ、徒手空拳で身軽な動きが可能となった織が完全に花丸の背後を取る。


(取った!これなら入る!!完全に不意の一撃!!)


「目には目を...と言いますしね。チャフにはチャフで対抗させていただきます。『蝶害(ちょうがい)墨揚羽(すみあげは)』」


 花丸の視界を奪っていた水蒸気ごと、嵐のように空を回遊する沢山の蝶々が包み込み、両者の行動を阻害する。


 加えて『墨揚羽(すみあげは)』の鱗粉は風に舞い、過剰なまでに互いの鼻腔に侵入。青く艶やかな鱗粉は脳みそを蕩けさせ、睡魔を誘う。


「っ....!こんなの....自爆と.......変わらな.........い.......。」


「いいえ.....。体格差がありますので...私の方が...鱗粉への耐性が....強い.....。」


 とろんと落ちそうなまぶたでは相手をうっすらとしか視認できず、尚且つ途切れ途切れの集中などで血界を維持できるはずもない。


 両者の血界は弾け飛び、もはや戦闘続行とは言い難い二人が庭へと放り出される。しかし、最終的に二本の足で立っていたのは花丸の方だった。


「すぴー。すぴー。」


 織はその小さい体を猫のように丸めて、地べたにすやすやと寝息を立てながら眠ってしまっている。


 一向に起きる気配のしない織を、花丸は自分もフラフラなのを気にせずに抱えて寝室まで運ぶ。


 それからうとうとしながら縁側へと腰を下ろし、何だか興味深そうに話しかけてくる刑部と軽く言葉を交わした。


「織ちゃんって、血界使えたんやっけ?しかも、荒削りってよりかは使い慣れてるって感じやったし...。そんで、中身はどうやったん?」


「......かぐや様と、恐らく優晏様が出てきました。見た目は....少しおぞましいものでしたが。」


「なるほどな....。正直、織ちゃんとかぐやちゃんの術式は破格も破格やからなぁ...。パッとしないのって、絹ちゃんぐらいのもんやない?別にあの子、戦闘向きって感じやないし。」


 そう言って刑部は、あまりの体力不足に居間で気絶している絹とかぐやを見つめる。それからその間抜け面に思わず吹き出し、彼女は楽しそうに笑った。


「術式のポテンシャルは二人に劣りますが、私は絹様にも光るものがあると思っています。....化けますよ、あの三人は。」


 刑部とは種類の違う笑みを浮かべ、花丸はほんの少しだけ口角を上げた。彼女はその先に何を見ているのか。それは、何よりも厳しい花丸教官のスパルタ特訓を乗り越えたものにしか、分からない。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「それで春水、これからどうするの?」


「ん〜。まずは城に行って季武さんと会ってからかな。今、調査がどこまで進んでるのか知りたいし。」


「季武...?あ、春水が屋敷ってとこでお世話になったって人っすか!聞いたことある気がするっす!」


 何だかテンションが高そうなハスミと対照的に、優晏は物憂げな表情を見せた。基本的に、人間ともののけ。特に悪霊なんかは、他種族と関わることはできない。


 蝦夷では人間ともののけの共生が成されていたが、そんなのはごく一部の話でしかないからだ。


 生きるためという名目での排斥。人間ほど、排他的な種族もいないだろう。そういう諸々を危惧して、優晏は軽くブルーな気持ちになる。


 そんな沈んでいる優晏の背中を、春水がポンと叩いてニッコリ笑う。そうして優晏の前へ一歩出て、彼は優晏の手を引いた。


「大丈夫!季武さんは優晏のこと悪く言ったりしないから!ほら、行こう?」


「そ、そういうのじゃないんだけど....。まあ、怖がってても仕方ないわよね。」


 手を繋がれたのが恥ずかしかったのか、優晏は頬を赤く染めてそっぽを向く。そうしてそんな二人の甘酸っぱい空気感を感じ取ったのか、その中にハスミも乱入。


 ボロボロのローブの中に隠していた襟足の触手を春水の体に搦め、少しの隙間も生み出さぬように体をピタッとくっ付けた。


「ちょっと!近い近い!くっ付き過ぎよハスミ!」


「えぇ〜!いいじゃないっすか!春水はみんなのものっすよね?」


「それは....とにかく!私にもハスミのが当たってんのよ!それにこんな固まったら動けないじゃない!」


 街の真ん中、わちゃわちゃと固まって怪しげな動きをしている人物が三人。そんなのが目立たないはずもなく。


 騒ぎという程でもないが、ヒソヒソと人が少し集まってきたタイミングで、丁度街を通りすがった季武が春水達を発見。苦笑いをしながら、二人の女の子に揉みくちゃにされている春水へと声をかけた。


「.....綱に似て、女好きになっちゃったね...。春水....せめて場所と時は....選ぼう?」


 静かに諭された春水は、しょんぼりとした顔をして季武の後に続いた。優晏とハスミは一瞬だけ恥ずかしさを覚えつつも、初めて見る春水の塩らしさに気を取られる。


((春水って...こんな年相応な顔するんだ....。))

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