表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百鬼夜行と踊る神  作者: 蠣崎 湊太
倭国大乱・越後編
184/235

共犯者

 

 辺り一面に広がる焦土。家屋や畑は無く、黒い影のような染みとたくさんの死体だけが転がっている。


 もはや地獄と形容することさえ生温いような、何一つ残っていない焼け野原。春水一行はそんな見渡す限りの終末を、険しい表情で進んで行く。


「.....酷いもんやねぇ。」


 ボソリと刑部が呟き、それに同調するようにハスミが項垂れる。風景は何も言わない。ただそこには、悪意の爪痕が残っているだけだった。


「ここに来るまで、検問もほとんど機能してなかった。....先を急ごう。」


 春水はややピリついた様子で、歩くスピードを若干上げた。彼らの目的地は越後の城。現在の状況と敵の把握をするために、ひとまず現地の人間との合流を試みる。


 その目的地に向かうまでの道中、誰も口を開くことは出来なかった。どこへ行っても焦土、焦土、焦土。結構な距離を移動したにも関わらず、誰一人として生きた人間と邂逅することがない。


 何人死んだかなんて、数えるのも馬鹿らしくなるほどの死体の山。そんな惨状を腐るほど見ていくうちに、全員が薄々と気づき始める。


 いかに焦土と言えど、ただ村に火を放っただけでこうはならない。唯一残った死体が示すのは、圧倒的な火力による虐殺の証明。


 術式を用いたであろう直接的な殺害は、自分の手で殺してやろうという、人間に対する強い憎しみをひしひしと感じさせた。


 怨恨の集積。人間がもののけにやってきた仕打ちを考えれば、妥当とまでは行かずとも理解は出来るものなのかもしれない。


 だからこそ、余計に春水一行は何も言えなかった。静寂は数時間に及んで続き、彼らはそれからようやく目的地付近へと到達。


 活気あるはずの城下町でさえも何だか重い空気感を漂わせており、春水はその空気を一変させるため、パチンと手を叩いて話題を振る。


「僕はこれから城に行って色々やらなきゃだけど...みんなも一緒にって訳にはいかないでしょ?だから、三時間後辺りにまたここ集合ってことで、みんなはお買い物とかしてきたらどうかな?」


 鬱屈とした雰囲気を払拭するため、春水はできるだけにこやかにそう話す。その健気な気遣いを全員が悟ったのか、春水以外のメンバーも柔和な表情で受け答えを始めた。


「いいわね!越後って何が有名なのかしら...。」


「お米が美味しい町は大体、お酒も美味しいからなぁ〜。」


「大人数で行動するのも些か目立ちます。ここは三対四で人数を区切るのはいかがでしょうか?」


「ん....。じゃあ私はご飯系買いたいから、ご飯系の人一緒に行こ....。」


「私は髪飾りとか...。そういう綺麗な小物を見に行きたいです!」


 結局、ご飯系を探し求めに行くのは刑部と花丸、それから絹ということになった。その他の優晏、かぐや、織、ハスミは小物探しに。


 それぞれが息抜きのため城下町へと散っていき、春水は少しだけ雰囲気の明るくなったみんなを見て、心底ほっとしながら城へと向かった。


 ただ相も変わらず、どんよりとした町は春水の心を鬱々とした気分に浸し込める。今までも、人の死体はいくらだって見てきた。


 それに悲しむ人たちの姿も、どこか喧騒の中に寂しさの混じる街の光景も。全て見慣れているはずなのに。


 春水は、死体を一つ見る度に全身が凍りついてしまいそうなほどゾッとした。黒焦げとなった人の形をした炭に、どうしても妹の面影を重ねずにはいられなかったから。


 ブンブンと頭を振って、嫌な考えを脳みそから追い出し、彼は町の雑音を抜けていく。そうしてしばらく歩いた後、彼はやっと城まで到着した。


 城の門番たちに、春水はヤスから借り受けた紋所を見せて話を通す。すると門番たちはすんなり春水を受け入れ、城の内部まで彼を丁重に案内する。


 最終的にたどり着いたのは、作戦会議室であろう荘厳な障子の前。春水はそこで、一言断りを入れて障子をピシャリと開けた。


 すると、障子の奥に居たのは見覚えのあるローブの弓兵。春水はその顔を見るなり、パッと表情を明るくして声のトーンを思わず上げてしまう。


「季武さん!!久しぶりです!!」


「....うん、久しぶり。.....背、おっきくなったね。」


 季武はほんのり微笑んで、自分の方へと向かってくる春水の頭に手を置く。もう自分よりやや身長の高くなった春水に、季武は嬉しさ半分寂しさ半分で頭を撫でた。


「....そう言えば、かぐや様とかはどうしたの?流石にお城に連れてくるのは難しいと思うけど...。」


「みんなは今息抜きで買い物中かなぁ...。かぐやとか花丸とか、織以外にも仲間が着いてくれてるし...多分問題ないと思います!」


「.....そっか。なら、良かった。」


 季武はなんだか、胸がいっぱいになった。最初は刀の持ち方さえ怪しかった子供が、今では立派に独り立ちして仲間までいるのだという。


 雛が巣立っていくのはいつだって喜ばしくて尊いけれど、胸には言い表しようの無い寂しさが澱のように積み重なる。


 そんな寂しさに見ない振りをして、季武はピシッと背筋を正す。それから再会の興奮冷めやらぬうちに、彼女は現状の越後の状況を伝えた。


「...正直、僕だけじゃ手の施しようがない盤面にまで陥ってる。現地の武士たちも殆どが壊滅、主要な都市はもうここしか残ってない。....不甲斐ないよ、全く。」


「季武さんのせいじゃないですよ...。とにかく、これ以上の被害が出ないように僕も協力します。それで、敵戦力の把握はどれぐらい進んでますか?」


「.....敵戦力は二人。それも、両方人間だ。」


 季武は奥歯で悔しさを噛み殺しながら、衝撃的な事実を春水へと零す。春水はそれを聞いて、更に混乱が深まったようで。


 彼は一瞬思考が停止し、その後すぐに季武へと大量の質問を投げかける。季武はそれに一つ一つ、丁寧に答えていった。


「そんな馬鹿な....!被害現場は僕だって見ました!あんなの...人間が生み出せるものじゃないでしょ?!」


「....僕もそう思うよ。でも、僕だって実際にこの目で見た。女の子が町を焼いていく姿と、男の子が術式を使う場面を。後者なんて、交戦までしたしね。」


「.....っ!そもそも、術式を持つ人間なんて....!あ.......。」


 春水は言葉を紡ごうとしたところで、自分の発言が的外れな事に気がつく。もののけとのハーフなどの例外を除き、原則、人間は術式を持たない。


 ただここに、術式を持つ人間がいる。それは紛れもない、春水本人。彼は自分という存在を持って、季武の発言を全面的に肯定している。


「女の子の方は大規模かつ、広範囲に炎を出す術式だった。男の子の方は....物を生み出す感じだったかな。」


 季武は冷静に、情報を共有して大まかな攻略計画を立てる。春水も次第に突飛な情報の整理がついていったのか、冷静さを段々と取り戻した。


 人間が人間を焼き払うという構図。春水がもののけの恨みの象徴だと思っていた焦土は、実の所人間が生み出した産物で。


 彼はもう、何が何だか分からなくなった。動機も、術式を得た過程さえ不明。分からないことだらけのまま、彼は身近な大人に縋るように弱々しく季武へと尋ねる。


「季武さん....倭国大乱が終わったら、もののけってどうなると思いますか。」


「.....難しいね。でも、きっと穏やかにはいかないと思う。ぶっちゃけて言うなら、この倭国大乱自体がもののけと人間の戦争みたいなものだし。」


 季武は言葉を濁すことなく、ストレートに自分の思いを伝える。おためごかしも、変に取り繕った言葉も、春水のためにはならないと判断したから。


 春水はそれを聞いて、一層深く項垂れる。それからため息のように息を吐き出し、地面を見つめながら言葉も一緒に零れ落とす。


「でも、この越後を焼いて。今から僕らが殺しに行くのは、人間なんですよね。」


「.......そうだね。でも、倭国大乱に加担してるってことはつまり、もののけと通じてることに変わりは無いよ。」


 季武の言う通り、これは紛れもない戦争だった。勝敗のみで正しさが決まる、どちらかの生存を賭けた戦争。


 春水は項垂れていた頭を必死で起こし、立ち上がりたくないと叫ぶ膝を抑えて立ち上がる。それから季武の方を見て、力無く彼は笑った。


「本当に、下らないかもしれないけど。家族のみんなには、人間を手にかけて欲しく無いんです。散々、一緒になってもののけを殺してきたくせに。どうしても、そう思っちゃうんです。」


 だから、僕が殺します。そう最後に、春水は言葉を繋げた。その力無い笑みに、季武は触れることができない。


 色んなものを背負っている背中は、きっと何よりも傷だらけなんだろう。大事なものを守るために、彼は自らの手が汚れることを厭わない。


「.....手伝うよ。だから、一人で背負わなくていい。これで、僕たちは共犯なんだから。」


 触れることの出来ない笑顔に、それでもと季武は手を伸ばした。そうして、季武は春水の掌を優しく包み込む。


 愛でも、憐憫でも、ましてや恋でもない。純粋な、思いやりがそこにはあった。春水はその一瞬の余熱を確かめながら、胸の内で冷ややかな殺意を確実に固める。


 たった一人の、焼け野原を生み出し続ける少女を止めるために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ