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百鬼夜行と踊る神  作者: 蠣崎 湊太
倭国大乱・蝦夷編
174/235

堕ちた聖女に賛美歌を(四)

 

 優晏は海の表面を凍結させ、足場として利用することで自分が空を飛べなくても問題ないようにフィールドの有利を覆す。


 そんな新戦力の導入に、聖女はもちろんのこと警戒を続ける。そうして先程の痛手を貰ったことで、もはや彼女に慢心も出し惜しみもない。


 聖女はその力を全力で振るうため、迫り来る二人に合わせて二本の腕を同時に動かし、能力の発動を行った。


אַיִן(エイン)רְצוֹן(レツォン)


טָהֳרָה(ツァハラ)


(ここに来て能力の並行使用....!向こうも正念場って訳か....!!)


 そうして生み出されたのは、ダイヤモンドの輝きを放つ天使たちと、鋼鉄の冷たさを孕む鉄の処女。


 前者の群れが優晏に向かい、後者が花丸へと飛行する。二人はそれぞれ乱戦にならないようお互いに距離を取って、各々が影響を受けない範囲での戦闘を開始する。


 この状況において、全てを素早く判断し、誰よりも迅速に対応したのは優晏だった。優晏は自分へと遣わされた天使を最速で撃破するため駆け、聖女の腕を切り飛ばすため氷の刀を生成。


 その刀を用いて、彼女は天使たちへと斬撃を解き放った。しかし、優晏の想像とは裏腹に天使たちの輝きには切れ込み一つさえ入っていない。


 それどころか、三人の天使は優晏を取り囲み、光の剣を創り出して優晏と鍔迫り合いを始めた。


(三対一....二分でカタをつけたい所ね。)


 優晏は周囲を囲まれつつも、冷静に術式を自身を中心とした円形五メートルに発動。天使たちの熱を奪い、動きを阻害して叩き潰そうと試みる。


 だが、術式が発動したのにも関わらず、天使たちは体に霜をつけただけで何の問題もなく活動を続けた。


 予想だにしなかった結果を目の前にして、優晏はほんの一瞬対応に遅れ、光の斬撃が彼女の肩を焼く。


 無垢なる鉱石の輝きは無慈悲に、ただ眼前の敵を屠らんと光の手向けで斬り結んだ。優晏はそれを紙一重で回避し続け、地面をスケートのように滑走して相手から距離を取る。


(斬撃は効き目が薄いし、氷結も無駄。でも、まだ大技は温存しておきたい....。どうしようかしらね....。)


 血界に壊錠。優晏はまだまだ手札を存分に残している。ただそのどちらも、体力を存分に使い潰してしまう大技。


 聖女を目の前にして、手下相手に体力を使っていたのでは話にならない。そう考えた優晏は、何とか作戦を捻り出す。


 そんな中、もう一方の花丸も鉄の処女相手に苦戦を強いられていた。


 鉄の処女、アイアン・メイデン。純潔の乙女の名を冠する拷問器具として名高いそれは、あらゆる不浄を許さない。


 鉄の処女が胸にある扉を開いた途端、とてつもない吸引力がその針だらけの虚空から発生。花丸の持つ影を吸い込み、影という概念そのものを串刺しにした。


(影が.....喰われた.....?)


 花丸は自身の術式が通じないことを悟り、徒手空拳を構える。花丸の強みはあくまで、術式に由来されないフィジカルに依るところが大きい。


 故に、彼女は素手だけで十分に対応が可能だと判断。先程の影のように自分までもが吸引されないよう、ジグザグに動いて相手を翻弄しつつ距離を詰めていった。


 それから彼女は自身の攻撃範囲内まで相手に接近し、渾身の右ストレートを鉄の体に刻み込む。


 そしてビリビリと反動で痺れる腕の痛みも無視し、間髪入れずに蹴りをお見舞い。目にも止まらぬ連撃の手数で、相手を圧倒した。


「っ....!」


 されど鉄の処女はその名通り、鉄壁を誇る。鉄の容貌は少しの凹みだけを残して、何事も無かったかのように花丸へと向かい直る。


 鉄の冷たい音がガコンと響き、再びその扉が開かれた。今度は影だけでなく、花丸本体を串刺しにしようと鋭い針を覗かせる。


 鉄の処女の抱擁。その腕の中に囚われてしまったが最後、何人たりとも生きて帰ることは叶わない。


 花丸はそれを感覚で察知し、全力で吸引力から逃れようと鉄の処女からは反対方向に脱兎の如く走った。


 そうしてそこで、ダイヤモンドの天使相手に苦戦している優晏と目が合った。二人はアイコンタクトで何となく互いの情報を共有し合い、全くの同時に同じ結論へと至る。


「「交代!!」」


 すれ違いざまにパチンと手が触れ合い、ハイタッチの様な形で二人は反対方向へとすり抜けた。


 花丸は吸引の力から脱して天使へと向かっていき、優晏は吸引の力を逆に利用して鉄の処女へと勢いよく走り抜けていく。


 優晏は相手が鉄で象られている相手だと見るやいなや、術式を発動。熱を奪い、そして瞬時に奪った熱を返して冷却と加熱を繰り返す。


 急速に行われる冷却と加熱。その結果金属は熱疲労を起こし、その強度を著しく下落させた。そこをトドメと言わんばかりに、優晏が氷の刀で一刀両断する。


 一方花丸はダイヤモンドの天使へ向けて、傷んだ素手のままシンプルな打撃を繰り出した。純粋に鍛え抜かれた膂力から解き放たれる、小細工のない一撃。


 シンプルさ故に、その拳は真っ直ぐ天使たちを撃ち抜く。拳を受けた瞬間、天使は飛び散り砕け、ただのダイヤモンドへと成り下がる。


 天使たちを構成していたダイヤモンド。それらは斬撃には耐性があっても、単純な物理衝撃には脆い。


 ダイヤモンドの天使と、鉄の処女。これらは聖女が相手の特性を見抜き、最良の選択をしてぶつけた負けるはずのない戦いだった。


 その選択は正しかった。だが一つだけ、聖女が考慮し忘れていたものが一つある。それは、彼女らが一つの目的を持ってまとまっているということ。


 春水の力となるため。その一点の目的のために、強烈な個は強固な絆を持って連携し目の前の敵を打ち砕く。


 二人が戦闘していた最中、春水は取り戻した風の力を使用して『霞風』を発動。春水は姿を消して、誰にも攻撃されずに集中して力を練っていた。


 春水の持つ、(レラ)(カムイ)としての力はまだまだ未発達。集中しそれなりの時間を掛けてようやく、血界の外でも真空を操作することが出来る。


 凝縮した真空。これはまさに、火がつけられる前の火薬のようなもの。爆発することの出来るその瞬間を、今か今かと待っている。


「花丸!!!影で筒お願い!!優晏は氷の礫を!!特大のやつ、頼んだ!!!!!」


 その春水の声に、二人は反射で言われた通りのものを作り上げる。それは傍目から見れば、正しく大砲。


 春水は影で作られた真っ黒な筒の中に氷の礫を入れて、その筒の中へ凝縮された破裂寸前の真空を詰め込む。


 そうして筒に優晏が薄氷で蓋をして、三人が精密に聖女へと狙いを定めて一個の大砲を支える。


「....これ、威力ってどれぐらいなの?」


「分かんない....。でも、とんでもない事だけは確かだと思うよ。」


「我が王、御安心を。私が全力で反動を抑えます。」


「まあ、万一の時はうちが治したるから!気にせんでぶっぱなしとき!」


 ぴょこっと春水の服の内側から狸の刑部が顔を出し、『美園』の準備をしながらその瞬間を見届けようと目を見開く。


 聖女は流石に二本も同時使用したのが祟ったのか、ぐったりと体を傾けて弱っている様な姿を見せた。


(狙うなら今!最大の威力を持って、最高の成果を叩き出す!!!)


 目標は三本の同時破壊。未だ腕が光っただけで能力未解のものと、先ほど優晏と花丸に向けて放った二つ。


 その全てを破壊するため、春水たちは砲台を上に傾け、しっかりと狙いを定める。そうして、ここぞというタイミングで春水は手前側の薄氷を破壊する。


 薄氷は音を立てて崩れ落ち、そこから真空へ空気が流れ込んだ。その圧力は優に音速を超え、真空波を生み出し衝撃が世界を轟かせる。


 そうして礫の弾丸は、見事聖女の右肩辺りを丸ごと粉砕。目標である三本の腕を吹っ飛ばし、残る腕はあと四本。


 ただその絶大な威力と引き替えに、莫大な反動が四人を襲う。衝撃は地面の氷を容易に砕き、全員が海へと投げ捨てられた。


 この場でただ唯一飛行可能な春水は風と翼を使って優晏と花丸を引き上げ、もう一度海を凍らせることで足場を再形成。


 全員が凍えた体を優晏の術式で温め、特に目立った損傷も無いまま態勢を整えることが出来た。


 春水は今までの流れに一抹の不安を抱きながら、この勢いを逃したくないと氷を踏んで空へと跳躍する。


(.....上手く行き過ぎてる。悪いことじゃない...悪いことじゃないんだけど....。早めにカタをつけたいな....!!)

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