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百鬼夜行と踊る神  作者: 蠣崎 湊太
倭国大乱・蝦夷編
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猛る吹雪

 

 嵐のような猛吹雪が、全ての命を枯らさんとして吹き荒れる。そうしてその中心には、白き巨躯をこれでもかと見せつけている『象』の姿になった牡丹。


 荒れ狂う吹雪が優晏の血界を一瞬で粉砕。優晏は何が起こったのか理解出来ぬまま、血界を破壊された反動をその身に受ける。


(大したダメージじゃない....。だけど、何をされたのか全く分からなかった....!)


「花丸、交代っ!!血界使って時間稼いで!!そしたら後は交互に血界でローテ!」


 何をされたのか理解できなかったのなら、理解できるまで試行回数を増やせばいい。故に優晏は花丸と交代交代で血界を使い続け、対処法を見つけようと筋道を立てた。


「御意に。ですが優晏様、私は時間稼ぎだけに留まるつもりはありません。私が、ここで倒します。【血界侵蝕】『不明常夜(あかずのとこよ)』。」


 これは、自信に裏打ちされた発言では無い。花丸は眼前にいる『象』が、自分なんかよりも酷く強いことを感覚で理解している。


 それでも引けない、引くことなど自分が許さない。だって、ちゃんと頼られたのだから。


 美しい銀色。自分が心から憧れ、尊敬した彼女が、何のお世辞も惜しみもなく自分を頼ったのだから。


 その思いに応えたい。その信頼を裏切りたくない。だから花丸は気合いを入れるかのように、自分を思いっきり鼓舞した。


(見栄くらい...貼ったっていいでしょう....!!!)


 黒無垢に身を包み、世界の一部を影の世界へと落とす。しかし、それでもやはり吹雪は吹き止まない。


「落ち.....っろ!『金魚罰(きんぎょばち)』」


「『獣』を前にして血界が耐える....だと?ふむ、有り得ないことだが、現に起きてしまっているしな。ただな、魂とは本来そこにあるだけで世界を革変するもの!血界のような薄っぺらい空間など、すぐに書き換えれられる!!」


 花丸の『金魚罰(きんぎょばち)』をして、牡丹の足元数センチしか沈めることが出来なかった。


 けれどその数センチは確かに、相手の動きを鈍らせて行動を阻害する。その機を狙って、花丸は更に相手の自由を奪う。


「『蔦漆(つたうるし)』...!!その重い体ごと....っ!引き摺り込ませてもらいます.....!」


 地面の影から蔦が伸び、『象』と化した牡丹の体を縛り上げていく。だがそれでも、『象』の巨体は止められない。


 牡丹はほんの少しの身動ぎでブチブチと蔦を破壊し、影の地面を無理やり力で推し進む。それに加えて、単純な力任せの突進を花丸へと繰り出した。


 鋭い二本の象牙が花丸を襲う。象牙は花丸を突き刺さんと真っ直ぐに向かったものの、花丸はそれをがっしり腕で掴み、動かないよう抑える。


 だが、『象』の本当の脅威は象牙ではない。その真なる脅威とは、長い鼻による無慈悲な打ち付け攻撃。


 両手で象牙を抑え、何とか拮抗状態を作り上げたもののその反動で無防備になった花丸を、『象』の鼻が狙う。


 振り上げられたその鼻は確実に象牙を掴んでいる花丸へと向かい、ブンと勢いのある音を響かせて空振りした。


 とぷんと、地面の影に広がる波紋。花丸は優晏との戦いの最中でさえ、メキメキと成長していたのだった。


 影の中に潜って回避。あの時優晏が見せた、苦し紛れの大博打。それを花丸は、実践レベルまで引き上げることに成功。


 見事、牡丹の攻撃を回避し相手の視界から完全に姿を消した。花丸が消えたことで、不意打ちを警戒する牡丹。


 そんな牡丹の背後に、花丸は影を落とす。それから拳を思いっきり振り上げて、牡丹の後ろ足を襲撃した。


「背後から奇襲、か。そんなもの、見え透いている!!『鼻吹雪(はなふぶき)』!!!!」


 牡丹は後ろ足を蹴り上げてから、体をクルッと器用に半回転させる。そうして不意打ちを警戒していた最中、溜めていた力を一気に解放。


 長い鼻から暴力的なまでに荒々しく巻き起こる吹雪を解放し、凍てつく風の道筋を直撃させた。


 溜めていた吹雪を全て出し切り、視界が晴れたところで牡丹は気づく。先程まで自分が攻撃していたものが、文字通り花丸の影に過ぎなかったことに。


「影.....?っ?!後ろかっ!」


「いいえ、正面ですよ。」


 花丸は慢心なく、相手を恐れ警戒していた。故に、一度の偽装工作では牡丹からの返り討ちに会ってしまうと確信。そこで花丸は、二重の罠を貼った。


 まず、地面の影に沈んでからはその場の地中に『金魚罰(きんぎょばち)』で作った金魚を残して、牡丹の後方へと移動。


 そうして後方の地中で待機しつつ、自らの真上に影の人形を生成。その人形が壊されれば、後は前方に置いてきた金魚を暴れさせて地面の影を少し振動させる。


 歴戦の強者ほど、その高い反射能力から不意打ちへの耐性が高い。どれだけ不意打ちされようが、向こうの攻撃よりもこちらが早ければ理論上不意打ちには対処出来るからだ。


 速さで劣っている花丸は、本来なら不意打ちしたとしても対応されるか、手痛い反撃を喰らうのみ。


 だが、不意打ちに不意打ちを重ねるならどうか。後手に後手にと回った相手は、いつか対応が間に合わなくなる。


 牡丹はその高い反射能力とスピードで、金魚の振動を感じ取って金魚を後ろ足で蹴り壊した。ただしその瞬間、正面には花丸が浮び上がる。


 後ろ足が上がった状態で、『鼻吹雪(はなふぶき)』のための力の溜めもない。まさに無防備と言っていい状態の牡丹の顔面に、花丸は右ストレートをぶちかます。


 刹那、パキンと血界が砕ける音がした。それに重なって、バキッと拳にヒビが入る音まで重なる。


(ここで限界かっ....!しかもあの皮膚、とんでもなく硬かった...。下手に殴ればこちらの腕が砕ける.....っ!)


「....地力の差と言うやつだ。そも貴公らでは、儂の防御を貫けん。」


 腕を抑え、牡丹に見下されながら雪に膝を着く花丸。しかしてその表情は、絶望に彩られている訳では無い。


「見抜けましたか、優晏様。」


「ええ!バッチリ!!」


 花丸が牡丹に対して血界を使用している間、優晏はその外から熱をせこせこ集めながら、戦いをよく観察していた。


 そうして優晏は理解する。ここら一体が、もう既に牡丹の血界内のようなものだということに。


壊錠(かいじょう)】とは、魂の発露。魂本来の形を形成し、より本能を剥き出しにする奥義だ。それをここまで理性的に振るえるのは、ひとえに牡丹の修練の賜物である。


 牡丹の言葉通り、魂とは在るだけで世界を革変するもの。【壊錠(かいじょう)】を発動した瞬間、周囲には空間を分断しない血界が本人を中心として生成される。


 血界は空間を閉じることで、その内部にかかる力を強固なものとして作用させている。そのため空間を閉じない場合、ただ力が漏れ出すだけの意味無い行為へと成り下がってしまうはずなのだ。


(世界の革変...馬鹿みたいに力を撒き散らして、血界以上に高密度な空間を保つ。そんなこと、あっていいの?!)


 要するに、優晏たちは血界の綱引きをしていたに過ぎないのだ。ただし、相手は不可視の空間そのもの。どこが切れ目でどこが力の範囲内なのか、極めて分かりづらい。


 だからこそ、優晏は血界を使うことを辞めた。あんな馬鹿げた体力の前で綱引きをしたところで、勝ちはどうやっても拾えないからだ。


 そこで優晏は血界を捨て、牡丹に唯一有利を取れる炎を採用。少しづつでも、皮膚を炙って相手を削ることを選択した。


「花丸っ!刑部に回復貰ったらすぐ戦線復帰お願い!一緒に叩くわよ!!」


「....はいっ!はい!!もちろんです、優晏様!」


 花丸は刑部の元へと走り、優晏は牡丹の元へと駆ける。両者は片腕を軽く上に上げて、すれ違う瞬間に手のひら同士の逢瀬を行い、パンッと交代の快音を響かせる。


「ほんまに仲良くなってもうて...妬けてまうなぁ。東の豊穣一番、『盛馬千(さかえまち)』、東の豊穣三番、『望都真地(もとまち)』。速さと防御は上げておいたから、うちのことも忘れんでなぁ〜。」


 刑部の方を一瞬ちらりと見て、優晏は刑部に声をかける。スピードと防御が補強された優晏は、刑部に話しかけながら炎の剣を携えて大きく跳躍した。


「忘れて無いわよ!あと盾お願いっ!」


「ほんっっっっま!みんなうちの扱い荒すぎひん?もう〜ストライキ起こすよいつか。東の豊穣十一番、『豊妃螺硬鉛(とよひらこうえん)』」


 ぶつくさと不平を零しつつも、刑部は的確な位置に盾を配置し優晏の足場を作る。そうしてその足場を蹴ることで軌道を大幅に変えた優晏は、牡丹の反撃をするりと抜けて硬い皮膚を斬り焼く。


「刑部様...私も......回復を......。」


 しょぼんとした顔で申し訳なさそうな花丸が、刑部におずおずと回復を頼む。そんな花丸を見て若干の罪悪感を感じた刑部は、やや不貞腐れながらも回復を始める。


「...後でなんか奢ってな。東の豊穣十二番、『美園(みその)』」

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