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百鬼夜行と踊る神  作者: 蠣崎 湊太
倭国大乱・蝦夷編
145/235

燃え移るが故に

 

 焼け落ちた村、人の焼死体、踏み荒らされたいくつもの遺骸たち。それらを、私たちは眺めていた。


「まさか、ここまでするとはな。分かってはいたが、人の業とは斯様なまでに深きものか。」


 一晩をかまくらの中で過ごした後、私たちは食料を求めてアイヌの村を二つほど通過した。そうしてそのどちらもが、既に焼け落ちた廃村。


「同じ...人同士じゃないですか。なんでこんな...酷いことを....。」


 かぐやの泣き顔は痛ましいほどに憔悴し切っており、空腹と疲れから今にも倒れそうになっている。


 無理もない、これほどの補給不足だ。いくら力を持っているとはいえ、人間のかぐやには大分堪えるだろう。


「文化が違う、見た目が違う、考え方が違う。たったそれだけの理由で、同じ人間でもここまでやってのけてまうのが人間なんよ。」


 火は近くにあるもの全てを燃やし尽くすか、何かに消されるかしかない。私は、火が人間みたいだなと思った。


「何にせよ、食料がないのは困ります。どこかで調達できる手段を考えねば...。」


「焼けた村にもまだ何かあるかもしれん。儂が探してくる。」


 牡丹が一人瓦礫を掻き分けて、廃村の中に消えていく。村の外に取り残された私たちは憂鬱とした気分でその場に座り込み、今後の方針を考える。


 牡丹が言うには、ここはもう小樽の付近らしい。加えて小樽にはアイヌの村がたくさん点在しているとの事で、その密集地に向かうのが原初の目的だ。


 けれど、正直言って村にたどり着くことが出来るかは五分五分。いくら小樽の付近まで来ていても、移動するには花丸の背に乗って行かなければならない。


 ほとんど飲まず食わずで二日間、何人も乗せて走りっぱなしの重労働。ここまで持っているのが逆に奇跡なくらい、花丸はよく頑張った。


 じゃあ、花丸に乗らずに徒歩で小樽までの距離を進むことが出来るのか。そんなのは当然、出来るわけが無い。


 ここから小樽まで、徒歩で行くなら半日は余裕でかかるらしい。この状態で半日、足元の悪い雪路を歩き続けるなんてただの自殺行為だ。


 花丸に負担をかけて、五分の可能性に賭ける。これが最も勝率の高いやり方だ。でも、こんな事を誰が花丸に言えるだろう。


 今まで散々頑張ってきた。みんなの中で一番頑張ってきた花丸に、これ以上鞭を打ちたくない。


(ただ他にやり方がないのも事実....!お腹が空いて頭が回んない...。どうすれば.....。)


 そんな時、遠くの方からどんどんと何かの音が近づいてくる。ガリガリと雪を削るような音がうっすら聞こえてきて、私たちの目の前で音は止まった。


「.......え?ここの村...無くなってんだけど。どゆこと?」


 沢山の犬にソリを引かせているアイヌの民族服を着た男が、呆然とした顔で村の前に立ち尽くした。


 男は膝から雪に崩れ落ち、それからしばらく動かなかった。数分たった後、男はようやく心の整理がついたのか、男は私たちに話しかけてくる。


「これ、アンタら...ってワケじゃ無さそうだな。今にも腹減って死にそーってツラだし。...クッソ、しゃーねぇ。これ食え。そんで食ったら、代金代わりに何があったのか教えろよ。」


 男はソリの後ろに付けていた袋から大量の魚の干物を取り出して、私たちにくれた。私たちはそれを沢山頬張りながら、男に感謝を述べる。


「そいつは棒鱈(ぼうだら)だ。知らねぇってことは、アンタら外から来た人かい。まあいい、とにかくだ。俺はそいつを売りに来た商業人で、ここの村は俺のお得意様だったんだが...。一体、何があった?」


 棒鱈(ぼうだら)をありえない速度で胃の中に放り込み、一足先に口の中が空っぽになった刑部が口を開いた。


「まず、これをやったのは本州の人間らしいんよ。そんで、この村以外にもあと二つ村が燃やされてる。うちらが知ってるのは、大まかにこんぐらいやなぁ。」


 それを聞いた男は愕然として、胸元から地図を取り出し刑部に見せる。そうして燃えた他二つの村の位置を確認して、ガックリと頭を抱えた。


「クソ...アイツら....!俺たちを攫って奴隷にするだけじゃ足りねぇってのかよ!クソっ!!!」


 男はぶつくさと崩れ落ちながらも独り言を呟き続け、何か覚悟が決まったのか勢いよく立ち上がった。


 そうして丁度その時、牡丹が村から帰ってくる。そうして何故か、牡丹は立ち上がった男を見るなり戦闘態勢に移行。即座に首を跳ねるため雪の刃を向かわせる。


「牡丹....!この人は通りすがりで...私たちを助けてくれたの....!だから...戦う必要なんて無い....!!」


 私は牡丹の繰り出した雪の刃を、氷の刃で反射的に受け止めた。おそらく、私たちがあの時のような襲撃を受けたと勘違いでもしたのだろう。


 それからは唐突に鍔迫り合いとなり、圧倒的な牡丹の膂力から繰り出される剣戟に、私は火花が飛び散ったかのような錯覚を覚える。


(重.....!しかもそれだけじゃない....!動きをこっちに合わせてズラしてる....!!これじゃあ弾き切れない....!!)


 あまりに重い牡丹の攻撃に戦慄しながらも、私は誤解が解けるようになんとか説得を試みた。しかし、牡丹は攻撃を辞めようとしない。


「戦う必要....?儂にとっては相手が人間であれば、善人だろうと悪人だろうと戦う理由になり得る。勘違いしているのは貴公の方だぞ、悪霊の!!」


 牡丹は剣先を軽く捻って追撃を繰り出し、その後即座にバックステップで後方へと退避。多少の距離を取って、こちらに攻め入る機を伺っている。


「...憎しみの目やね。人を恨んで恨んで、殺したがってる目。優晏ちゃん、あん人とはここでお別れした方がいい。もう、分かり合えない。」


 刑部が寂しそうな声で、私にそう告げる。そうしてそれを肯定するかのように、牡丹は雪を蹴り上げて再度攻撃を開始した。


 牡丹は右からの大振りを繰り出し、私はそれをしっかりと刀で防御。だが、牡丹の剣筋はこちらの防御をするりと抜けて素早く反対方向からの切り返しが飛んでくる。


「ぐっ....!!刀の部分だけ術式を解いて....空中で再生成....?!術式の練度まで段違いってわけ。」


「フッ。あの攻撃を避ける貴公も大概であろう?久々に、骨のある相手と戦えそうだ...。」


 ギリギリ上体を逸らしてなんとか致命傷は避けたが、それでも若干の切り傷を負ってしまった。


 どう考えても格上の相手。術式、体術の練度共に、相手が圧倒的に上。一体一ならば、勝ち目のない相手だったろう。


 こちらは六人、そうして向こうは一人。ダメ押しに、牡丹は空腹でパフォーマンスが少なからず落ちているはず。


 勝てない相手じゃない。私はそう確信して、警戒しながらも花丸たちに声をかける。


「花丸は待機、私の合図で交代お願い。刑部はサポート、それ以外はそこの人を連れて離れて。多分だけど牡丹は...「なまはげ」なんかよりもよっぽど強い....!」


「お任せを。寸分の狂いなく、交代します。」


「背中は心配せんでええよ。前だけ見とき、うちが守ったるから。」


 頼もしい言葉たちを受け、私は迷いを払拭した。負い目は無い。少し悲しいけれど、私はもう迷わない。


 術式を最大展開。「なまはげ」との戦いを通して、私は更に学びを得た。


 辺りにきめ細かい氷の粒を大量に生成して、絹程までとはいかないが、それを丁寧に織り上げていく。


 そうして一着のドレスを作り上げた。私はそれを身に纏い、準備万端と言った風に覇気を全身から押し出す。


「なまはげ」の強みは硬かったこと。そうしてその硬さは、菌繊維をいくつも丁寧に編み上げていた事が所以。


 再現するイメージを汲み上げるのと、術式の精密な操作が可能となるまでに時間がかかったが、もう感覚は掴んだ。


「『焔奪氷化(えんだつひょうか)恋折水仙(こおりすいせん)』。.......迷えば失う。私も、そう思うわ。だから痛い目を見たくないなら引いて、牡丹。」

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