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百鬼夜行と踊る神  作者: 蠣崎 湊太
倭国大乱・蝦夷編
132/235

海上戦争

 

 刑部一行の中型船に、突如として巨大な幽霊船が激突。中型船はその衝撃によりやや損傷、少しの浸水を許してしまう。


「....?!今の衝撃....何が起こってん...?」


「ん....!あれ...でっかい船!」


 最初に敵艦の存在を感知したのは、最も窓の近くにいた絹だった。絹はそのまま外に出て状況を確認しようとするも、同時に織が船内へ戻ってくる。


「たいへん!!!!しゅんすいが....!しゅんすいが....!海に落ちちゃった...!!!」


「「「「?!?!」」」」


 この時点で船内にいた刑部、優晏、花丸、絹は状況を大まかに察知。急いで戦闘準備を整え、甲板へと向かう。


「かぐやっ!!春水は?!」


 甲板には必死にロープを垂らそうとするかぐやと、最早正確に表情を確認できないほど遠くに流されてしまった春水。


「後で...合流って.....!叫んでました....!」


 かぐやは悔しさに歯噛みして、幽霊船の方を睨みつける。迫る幽霊船と、激しい海原の波。春水の救出は、ほぼ不可能となってしまった。


「そんな....!我が王っ!!今!!私もそちらにっ?!」


 半狂乱し、海に飛び込もうとする花丸を優晏は掴んで甲板の上へ引き戻す。服の襟元を掴まれた花丸はやや冷静になったものの、不安は拭いきれていない。


 だがそれは、花丸だけに限った話では無い。そもそも彼女たちは、春水というたった一人を中心に集められたメンバーだ。


 率いる者としてのリーダーが居ない集団は、すぐさま統率を失い瓦解する。そうしてそれは、彼女たちとて同じこと。


 刑部は船の操縦で手一杯。かぐやと織は、船酔いに加えて春水が流された絶望感で膝を折った。


 花丸は冷静さを失い、優晏もまた置かれた状況に混乱している。残った絹は、自分に出来ることは無いかとあたふた走り回るだけ。


 そんなことをしている間にも、敵艦は侵攻を開始。ロープを投げ込み、今か今かと攻め入ることができるようになる瞬間を見計らっている。


 誰も、立ち上がろうとしなかった。いいや、たった一人。折った膝を無理やり立ち上がらせて、激励を飛ばした者がいた。


 その激励とは言葉ではなく、月明かりのような閃光。白き一筋の光が、敵艦の帆に穴を焼き開ける。


「.......総員!立ちなさい!!春水は後で合流と、そう言ったんですよ!ここで...私たちが諦めてどうするんですか!!」


 はっきりと言ってしまえば、この集団の中でかぐやの実力は下から数えて二番目。しかも、今は船酔いのせいもあって顔色も真っ青。


 今戦いを始めたら、真っ先に殺されるのはきっとかぐやだ。本人も、その事を重々承知している。


 けれど、だからこそ立ち上がった。流されて尚、こちらを気遣ってくれた夫に恥じないために、彼女は声を張り上げた。


「優晏さん!花丸ちゃん!二人は敵艦の対応...!あとは...えーっと...えーっと.....!」


「もういいわよ、かぐや。ありがと、気合い入ったから。」


「ええ。取り乱してしまい申し訳ありません。即時、殲滅致します。」


 二人は既に、魅せられていた。自分たちにない弱さを持っていながら、この場の誰よりも強かった彼女に。


 その勇気の灯火を、二人は受け取った。開戦の狼煙はかぐやが上げたのだから、今度は自分たちの番だと言わんばかりに、両者は駆ける。


 そうして、勇気が灯ったのはこの二人だけではない。まず、刑部が術式を使って分裂。本体が船の操縦を行いつつ、分体を使って指示を飛ばす。


「船底に若干、穴ぽこ空いてるんよぉ。その修繕を織ちゃんと絹ちゃん、お願い。残ったかぐやちゃんは...出来るだけ遠距離で敵艦に穴ぽこぶち開けたってやぁ。」


「まかせて!わたしが木材運ぶから、きぬは糸で縫合して!」


「ん...!がんばる...!!」


 たったの一撃。たったの一言で、状況がくるりと一変した。ただ蹂躙されるだけのはずだった彼女らは、勢いを取り戻し戦闘を開始。


 ひとまず蝦夷までの到着を目的とし、敵艦を退けるためそれぞれが全力を尽くす。手始めに、優晏が術式を発動。空中に氷の板を数枚生成した。


 それを足場とした花丸が敵艦へと飛び移り、主人と離された怒りを発露すべく、敵船員たちを撫で切りにしていく。


「『影狼送(かげろうおく)り・魔纏狼(まてんろう)』擬似展開。一人たりとて、逃がすつもりはありません。」


 敵船員は合計、百を優に超える数の悪霊を船内に配置している。それから、そのうちの九割は術式持ち。


 大雑把に考えても、百対四の戦況差は覆りようのない絶望だ。だが、そんな絶望など、簡単にひっくり返してしまう。


((((春水なら、きっとそうする。))))


 彼女たちには、信念がある。絶対に守らなければならない、再開の約束がある。故に、彼女らはもう折れない。


「刑部っ!!船と船の距離が近い!三秒ぐらいなら橋を作れるから、その間に出来るだけ来て!!」


「よし来たっ!!じゃんじゃん出すでぇ〜!行ってこいっ!『松山騒動八百八狸(まつやまそうどうはっぴゃくやだぬき)』!!」


 優晏が氷の橋を船の間に作り、その上を刑部の分体が通り抜ける。凡そ五十まで増えた刑部の分体と、やる気満々の優晏が敵艦へと乗り移った。


「物量戦なら、刑部がいるだけで勝てるわ。喧嘩を売る相手は、キチンと選びなさいね。」


「お勉強になったなぁ。まあ、それがこの先使われることはないやろうけど。」


 刑部の分体は言うことを聞かない。命令違反や逃亡などは日常茶飯事。ただし、ここは敵艦上、大海原の真っ只中。逃げる場所などどこにもない。


 つまり、刑部の分体は逃げることなく戦うしか選択肢が残されていない。さらに、刑部の本体は中型船の中。


 ここに、無敵の軍勢が完成した。本体のダメージによる消滅はなく、逃亡もすることが出来ない。


 ここは刑部の術式を最大限引き出すことが出来る、最高のステージ。狸の女王は、気品を持って舞うように殺戮を開始する。


「....京極さんが言ってた、刑部は戦闘狂の血筋って言うの。本当だったのね。」


「....これ、私たち要りました?刑部様だけで十分殲滅できたのでは?」


 刑部の実力は、優晏にも花丸にも、到底届くものではない。だが、こと殲滅戦において、刑部は無類の強さを誇る。


 刑部が大抵の敵船員の体力を削り、確実なトドメを優晏と花丸のコンビが刺していく。相手が術式持ちの軍勢だろうと、この布陣の勝利は揺るぐことがない、はずだった。


 敵艦に乗り込んでから数分。刑部たちは快進撃を続け、敵の殲滅度が二割を越えた辺りで、一気に人気が少なくなる。


 そうしてその代わりに、一人の白髪混じりの男が船頭に現れた。男は心底気だるげそうな顔をして、ふーっと溜息をつく。


 それから胡散臭いにこやかな笑みを作り、優男風の口調で男は刑部たちに話しかけた。


「お嬢さん方、まずは非礼を詫びさせて貰えないでしょうか。紳士的なやり方ではなかったと、そう自省したもので。」


「今更、謝られたところでなぁ。んで、何がしたかったん?そっちさんは。」


 男はにこやかな笑みを崩さない。それどころか、自嘲的な態度で鼻を鳴らし、偏屈にへりくだって頭を下げる。


「そちらに、星の術を使う者がいらっしゃるのではないでしょうか?その者を引き渡して貰えれば、私たちのような札付きも荒事をせずに済みます。ですので....」


 相手の男が全てを言い終える前に、三つの声が重なる。取引の内容は、簡略化すれば春水を渡せということ。そんなことを、この三人が許すはずもない。


「「「却下。」」」


「.........その陽だまりが、あなた方の体に釘を打ち込む。交渉は決裂ですね、では仕方ありません。私の悪心に、どうかご容赦を。『道化華(どうけのはな)』」

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