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百鬼夜行と踊る神  作者: 蠣崎 湊太
倭国大乱・羽後編
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告白

 

 血界の発動直後、一足先に相手の空間へと踏み込んだのは優晏だった。


 優晏は鎧を脱ぎ捨て、黒無垢へと姿を変えた花丸を見て一瞬で相手の不得手を見抜き、近接に持ち込むことを決める。


「素敵な黒無垢ね。顔は見せてくれないの?」


「えぇ。あなたには、これで十分ですので。」


 安い挑発に優晏は鼻を鳴らし、相手の表情が読めない分、意識を集中させて思考を巡らせる。


(恐らく、花丸のこれは術式頼りの血界。だけど、フィジカルの強い花丸が近接を捨てるとは思えない....。もしかしなくても、誘ってるわね....!)


「乗ってあげるわ!!だからたくさん!楽しませてよねっ!!!」


 両者の血界がぶつかり合い、相殺することで、どちらとも本来血界が持っているポテンシャルを引き出すことが出来なくなっている。


 この場合、優晏は負温度までの引き下げが不可能となり、花丸は影の拡張に制限が設けられていた。


 故に互いが狙うのは、血界の完全発動。この勝負、相手の血界を打ち破り、自らの血界を最後まで残らせていた方が勝利する。


「『金魚罰(きんぎょばち)』....!沈めっ....!!」


「無駄よ!足場ならすぐに作れるもの!!」


 花丸が優晏を影の中に引きずり込もうとするも、優晏はいつもの如く地面を凍結させて足場を作り上げた。


 その足場を滑り、距離を詰めて近接戦へ移ろうとする優晏。だがそれを良しとせず、花丸は影で狼を二匹生成。


 その二匹を優晏に向かわせることで、何とか自分に向けられた攻撃のヘイトをずらす。


 ただし所詮は雑兵。優晏は氷のナイフを即座に生み出して、影の狼二匹を素早く処理。そのまま花丸へと追撃を行う。


(くっ...時間稼ぎにすらならないかっ...!!)


 ナイフによる追撃を、花丸は紅の唐傘で受け止める。花丸の方がフィジカルが強い分、攻撃を防ぐことには成功するも、花丸は体勢を僅かに崩してしまった。


「ただでは...転ばない...っ!!」


 地面の影を蹴り上げるように花丸はバク転し、崩れた体勢を建て直しつつ優晏から距離を取る。


 それから、蹴り上げて跳ねた影で『墨揚羽(すみあげは)』を発動。眠りの鱗粉を撒き散らさせながら、追撃を妨害した。


(タイミング的にただの蝶々じゃないのは分かり切ってる。熱は温存しておきたかったけど、出し惜しみしてる場合でもないしね。)


 優晏は『墨揚羽(すみあげは)』を鱗粉ごと焼却。想定外の副次効果を嫌い、過剰なほどの火力で影ごと焼き払う。


 花丸はこの警戒度合いを確認し、次々に影で多種多様なものを形成して優晏へと向かわせた。


「『疾風鼠(はやてねずみ)』!『丑獄魔入(うしごくまいり)』!!『虎王(こおう)』!!」


 鼠、牛、虎を型どった影で優晏を牽制。とにかく何かあると思わせることで相手の体力を削ぎ、事を有利に運ばせる。


(判断が鈍るか。それともリソースを費やすか。どちらにせよ、それは徒労に過ぎない!!)


 先程花丸が発動した技は、全てハリボテの偽物だ。なんの効果も持たず、特に優晏程の相手を害する強さも持たないのだ。


 だが、そんなことを優晏は知らない。もう少し時間に余裕があれば見抜けたかもしれないが、その猶予を花丸は決して与えない。


 手数に手数を重ね、とにかく思考の余裕を食い潰させる。視野を狭め、選択肢を奪い、着実に詰みへの行って、まで繋げるために。


(何この血界?!いくらなんでも自由度高すぎでしょ?!でも、これだけの技を使ってでも近寄らせようとしないってことは、近接は捨ててたってこと?)


 圧倒的な物量差が、優晏の思考を安易な方向へと導く。短絡的な思考がもたらすのは、希望的な観測と、誘導されている道筋のみ。


 優晏の格闘センスの源泉となっているのは、類稀なる洞察眼と、頭の回転の速さが織り成す機転によるもの。


 つまり、この状況下において花丸は、対優晏戦における最適解を図らずとも選んでいたのだ。


「もう....まどろっこしいわね....!邪魔!!!!」


 花丸はあえて物量での押し込みを弱め、優晏の突進を受け入れる。それを誘導とは捉えず、逆に好機と思い込んだ優晏は、脳筋思考で花丸へと向かった。


 花丸の影を何度も何度も焼き払ったことで、優晏の熱量リソースは底を尽きる。そのため優晏は炎の生成を諦め、氷のナイフでの決着を選んだ。


「近接は苦手なんでしょ!!なら、これで終わりよ!!」


 優晏のナイフが黒無垢へと突き立てられる。氷のナイフは確実に心臓部分を撃ち抜き、どう考えても致命傷は避けられない。


(あっ....。やりすぎた.......!!!!)


 ナイフを突き刺した瞬間、優晏を襲ったのはやらかしたという自責の念だった。


 しかし、物量攻撃が無くなったことで余裕を取り戻した思考が、現状への違和感を遺憾無く告げる。


 だが、違和感に気づくには遅すぎた。優晏が違和感を察した時には既に黒無垢は崩壊。


 このタイミングで優晏は、黒無垢の中身が花丸ではなく影だったことを悟る。


(顔を隠していたのは表情を見せないためじゃない!影との入れ替わりを気づかせないためってこと!?じゃあ、本体は今どこに?!)


「ばあ!」


 優晏の背後の足元から、足場の氷を砕いて花丸が姿を現した。現れた花丸は『魔纏狼(まてんろう)』を擬似展開したまま、無防備の優晏を羽交い締めにする。


「後ろっ?!しかも地面から...!!」


金魚罰(きんぎょばち)』は初めから、優晏を沈めるために用意したものではない。花丸が潜るために用意されたものである。


 物量押しに優晏が意識を割いているタイミングで花丸は地面の影へと潜り、黒無垢と鎧とで交代。


 あとはこちらがわざと隙を見せて、それに乗ってきた相手がトドメを刺したと思い込んでいるタイミングを逆に突けばいい。


 花丸の完全な作戦勝ち。緻密に練り上げられ、相手の行動をどこまでも読み切った、完璧な勝利。


「分かっているでしょう?力押しでは勝てないと。絞め技が決まった時点で、貴女の負けです。」


「ふっ....!そうね...。その通り....よ.....。でも....だから...何なの.....?」


「負け惜しみを...!では、このまま落とします!」


 ストンと、優晏が落ちる。これは比喩表現でもなんでもなく、影の地面へと優晏は沈んで行った。


 当然花丸の視界から優晏は消え、花丸は困惑する。そうして、一足遅れて理解した。優晏が血界を解除したことを。


(こちらの血界が完全発動して、『金魚罰』が自動的に優晏様を引きずり込んだのか!ただ、それは寿命をほんの少し伸ばしただけに過ぎ...?!)


 パキンと、血界が割れた音がした。次の瞬間、視界が一気に開けて影の世界が収縮。へたり込む優晏と広がる庭が、網膜に映し出される。


 血界を自ら解除するのと、壊されるのでは、結果は同一だとしてもその意味は大きく異なる。


 前者は無駄な体力を霧散させることなく、戦闘続行がギリギリ望めるのに対し、後者は体力が外へ漏れ出してしまう。


「なっ.....?!どんなカラクリで.....?」


「本当に...綱渡りだったけどね...。血界を発動して集めた分の熱を爆発させたの....。自爆よ、自爆。」


 優晏の血界侵蝕である『燼不凍星(もえずのいてぼし)』は、血界の終了後に吸収した分の熱を引き受ける。


 そのせいで血界終了後はオーバーヒートに陥り、必ずと言っていいほど優晏は行動不能となってしまう。


 だが、今回は血界のぶつかり合いにより完全発動でなかったこと。それに加えて途中で解除したことも相まって、オーバーヒート寸前で踏みとどまった。


 そのオーバーヒート寸前まで集まった熱量を、一気に解放。自分を爆心として影の水底を焼き、見事血界を打ち破るに至る。


 まさに、綱渡りと呼ぶにふさわしい所行。オーバーヒートの危険と、血界を破壊できるかの博打。更には自爆後の状態など、様々なか細い道を超えて、なお闘志を燃やす。


 そうして煤だらけになりケホっと咳き込む優晏は、地面に座っていながらもまだ立ち上がろうとした。


 一方で花丸も満身創痍。傷こそないものの、不意の血界崩壊による体力の損耗は花丸の膝を折る。


 がくがくと子鹿のように震え、立ち上がることさえままならない。しかし、彼女にも意地があるのだ。


 震える膝を殴りつけ、生来のフィジカルを見せつけるかの如く自らを奮い立たせる。


(優勢だった....優勢だったはずだ....!なのに...ここまで粘られるなんて....!)


(逆転...とは言えないわね。一時はどうなることかと思ったけど、これで現状引き分け。あとは...気合ね。)


 策を講じ、完封直前まで持っていった花丸。それに対し、最後の最後で機転を効かせ、血界勝負という根本をひっくり返すことで何とか凌いだ優晏。


「聞きそびれちゃってたけど....花丸はどうして...私に決闘を挑んできたの?」


「......我が王!!!」


 突然、花丸が大声で吠える。それは、秘めていた心を打ち明けるような告白で。


「私は貴方を....お慕い申しております!貴方と共に駆け、貴方の隣に立ちたいと...何度懸想したことか....!!ですが...私はまだまだ未熟です...。でも....それ故に!!私は貴方の、影で在りたい!!!」


 乙女の慟哭に、優晏はニッと笑う。慟哭を聞き届けた少年は赤面し、月の少女は真顔になり、狸の娘はにやけ、蚕の女性は首を傾げる。


 そうして、乙女のお姉ちゃんはただ頷いた。心底その告白を喜ぶように、泣き笑いの表情を浮かべながら。


「そう...それが答えってわけ.....!なら、私を認めさせてみなさい!!そうしたら、春水と結婚することを許してあげる!!!」


「では全力で.....勝ちに行かねばなりませんね....!!」

(かぐや)「ちょ...!勝手に決めないでくださいよ優晏さん!!!ダメです!!これ以上ハーレム要因が増えたらダメですって!!!!」


(刑部)「かぐやちゃん....?ちなみになんやけど、一番最初にご主人様に唾つけたんは...うちなんよ?」


(絹)「ん...みんな...春水のこと大好きなんだね...。」


(春水)「これすっごい僕、重婚クソ野郎になってない?!」


(みんな)「「「「「「それはそう」」」」」」」


(春水)「.........。それでも僕はみんなが好きだよ.....。」

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