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百鬼夜行と踊る神  作者: 蠣崎 湊太
倭国大乱・羽後編
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白銀と黒影

 

 決闘が始まった直後、まず先に走り出したのは優晏だった。優晏は『焔奪氷化(えんだつひょうか)』を発動して、周囲の温度を奪い氷を生成。


 生成した氷をブレード状にして足に装着し、スケート靴のように形を整えた。


 それから進行方向の地面を最小限凍結させ、凍結した氷上を素早く滑り距離を殺す。


(以前よりも遥かに速い...!優晏様も成長し続けている...という訳ですか....!!)


 速度を伴い、加えて飛び上がり回転することで遠心力さえ味方につけた優晏が、足のブレードを向け花丸目掛けて蹴りをお見舞した。


「『影狼送(かげろうおく)り・魔纏狼(まてんろう)』擬似展開っ!!」


 しかし、花丸は全身に硬質化した影を纏わせることで生身へのダメージを避け、優晏の蹴りを腕で受け止める。


 最速の初撃を防がれた優晏はすかさず追撃を繰り出そうとし、受け止められた足をそのままに身を捩って踵落としを繰り出す。


 これに花丸は回避を選択。軽く後ろに下がって踵落としを避けた後、優晏が身を引く前に反撃へと打って出た。


 純粋な獣の肉体から解き放たれる、容赦のない拳。花丸の拳は確かな速度と威力を孕んで、確実に優晏を打ち据える。


「くっ....。中々に重い....わねっ....!!」


 優晏は回避こそ間に合わなかったものの、素で攻撃を受けることはせず防御の姿勢を取っていた。


 その上、大気中に氷の盾を相手の攻撃軌道を予測して設置。見事、花丸の攻撃威力を弱めることに成功している。


 それを加味してなお、花丸の拳は止まらない。花丸は拳を振り抜いて優晏を後方へ吹っ飛ばし、まずは先手を奪取した。


(走り出しは上々!あとは後手に回らないように、攻め続ける!!)


 吹き飛ばした優晏に向かって走り出す花丸。ただ一方、優晏も無抵抗で飛ばされっぱなしではない。


 優晏は自分の少し後ろに半円状の氷壁を創造し、それを滑走路替わりに滑ることで、追撃に向かってきた花丸の方へと自らを射出。


 空いた手に今まで吸収した分の熱を込めた炎の刀を生み出して、花丸の追撃をカウンターする構えを見せる。


(力負けは仕方ない。あれこれ考えても無駄ね...。だったら、速度でそれを補えばいいだけの話でしょ!)


 花丸の攻撃から受けた衝撃を逆に活かすことで、優晏は力負けしている現状に活路を見出した。


 ただそれでも、やっと力は互角に並んだ程度のこと。そうして射出された優晏と追撃に来た花丸がすれ違う瞬間、かっと火花が散る。


 方や鋼鉄の黒影。方や蒼く練り上げられた炎。その両者がぶつかり合い、気持ちのいい快音を響かせた。


 その後、刹那の逢瀬を終えた二人は攻撃を共に弾いて、互いが無傷のまま通り過ぎる。


 揺らめく炎に輝く氷と、ただ静かに時を待つ影。様々な思いや作戦が入り交じり、絶え間なく二つの脳が回転し続けた。


 そうして弾き出された結論は、この状況に置かれたどちらとも、そんなぬるい結末を望んでいないということ。


 両者は再び戦いに身を投じるために距離を詰めて、クロスレンジでの攻防へと持ち込んだ。


 再度、炎の刀と影に包まれた拳による接触が開始される。しかし先程までとは異なり、炎の刀は拳を弾くことなく砕けて、辺りに舞い散った。


(獲物を砕いた!!いや...違う?!あえて砕かせたのか...!)


 砕け散った炎の欠片が花火のようにチャフとなって、花丸と優晏の視界を隔てる。


 ただ、ここでは仕掛けた優晏が一枚上手だった。チャフで死角を作り、花丸の後ろに回り込んだ優晏が、音で不意打ちが見抜かれるのを危惧して素手による攻撃を繰り出す。


 最速最短の、確実に成功する予定だった不意打ち。それを花丸は野生の勘で感じ取り、ダメージを最小限にする動きを取った。


 その後も幾度となく攻防を重ねたが、どちらも相手に決定打を与えるには至らない。


 決め手に欠ける。この言葉が両者の脳みそを過ぎり、ある一つの選択肢が朧気に浮かんできた。


「互角...と言っていいのかしらね。随分腕を上げたじゃない、花丸?」


「恐縮です。と普段なら言っているでしょうが、今日だけは言わせて頂きます。まだまだこんなものではありませんよ、私は。」


 花丸の挑発的な視線と、優晏のワクワクと燃え上がる瞳が交わって、ある種の膠着状態が生まれる。


 優晏は自らの才能を自覚しているし、それを振るうことが心底楽しいとも感じていた。


 故に、優晏はこの状況をできるだけ長く続けたいと考えている。この膠着を、愉悦の延長を何より望んでいた。


 そんな無自覚な意識のセーフティが、優晏の天才的な戦闘センスを鈍らせ続けてしまうのだ。


 しかし同時に、全力を出してみたいとも彼女は考えている。だが優晏にとって、全力を出しても壊れない相手はただ一人、春水のみ。


 楽しいはずなのに、どこか引っ掛かりが残る。そんな優晏の心の機微に、彼女の力を羨み、その背中を追った花丸は気づいてしまっていた。


「優晏様。使わないのでしたら、このまま倒しますが?」


 花丸は腹に力を込め、自らの影の輪郭をより捉えて意識を集中させる。そのプレッシャーが少なからず優晏にも伝わり、優晏の額に一筋の汗が走った。


 正々堂々とした戦いの中、優晏は震え上がる。恐怖などではなく、心の底からの武者震いによって。


「ふふ....。ふふふ....!あはははははは!!!本っ当に、面白いのね花丸って!気に入ったわ!お望み通り使ってあげる!【血界侵蝕】『燼不凍星(もえずのいてぼし)』!!!!」


 優晏の血界は、まさに必殺と言って差し支えない程の性能を誇っている。負温度による分子の崩壊、絶対零度による致死の攻撃、例をあげればキリがないほどに。


 発動すれば勝利がほぼ確定されてしまう技に、優晏は本人すら自覚していないレベルの些細な慢心をしていた。


 その寸分の慢心を、花丸は虚として突いた。言わばこの状況は、花丸によって緻密に組み上げられた、調律された盤面。


 優晏はその事実に、血界を発動してから一呼吸遅れて気づいた。そうしてそれを気づかせたのは、他でもない花丸の血界。


「それを...待ってたんですよ!!【血界侵蝕】『不明常夜(あかずのとこよ)』」


 花丸はこれまで、優晏に嫉妬し続けた。時には的はずれな怒りに囚われ、時には果てのない自己嫌悪に陥り。


 そうして遂に、彼女は花開いたのだ。曲がりなりにも優晏の背を追い続けた花丸は、皮肉にも優晏のものと酷似した血界を会得するに至る。


 発動された二つの血界がぶつかり合い、互いに互いを侵蝕し合う。


 それから球状に展開された二人の血界は、ちょうど球の半分でせめぎ合いを始めた。


 想定通りに事が進んだ花丸はボルテージが一気に上昇。テンションが空へと駆け上がり、絶好調のパフォーマンスを見せる。


 一方で優晏はと言えば、こちらも花丸と同様にボルテージが上昇。全力でぶつかっても壊れない相手(おもちゃ)に、目をキラキラと輝かせる。


「楽しい...!楽しいわ花丸!!こんなの春水以来!私、今本当に嬉しいのよ!ねぇ、花丸!!」


「奇遇ですね。私も...ほんの少しだけ、心地がいい....。色々と、スッキリしたような気持ちです。」


 晴れやかな顔をした二人が、白銀と漆黒の混じり合う世界で対峙した。


 迷いも、憂いも、厭いも。あらゆるしがらみを取り払った両者が、ただ全力をぶつける為だけに相手を狙う。


 そこにあるのは、ただ相手を凌駕したいと言う純粋な欲求。そんな純粋なエゴの衝突が、一瞬の間を置いて再び開始された。

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