懐かしの決闘
目が覚めると、僕は全く知らない場所の布団の中にいた。そうして周りには、さっきまでの僕と同じようにすやすや眠るみんな。
僕の右腕を優晏が、左腕をかぐやが握っていて、お腹の上には狸の姿となった刑部。
加えて織が僕の頭を撫でながら寝ており、それに寄り添う形で花丸も僕の髪へと手を伸ばしている。
そうして最後に、絹が少し離れた所で編み物をしたまま寝落ちしていた。みんなきっと、相当疲れたのだろう。
僕は一体何日眠っていたのか。そうして、ここはどこなのか。そんな疑問が頭を過ぎった瞬間、ガラリと襖が開けられた。
「ん?おぉ、起きたかよシュン!無事でよかったぜ...ったくよォ!」
リンゴを持って部屋に入ってきたヤスが、早業でリンゴを剥いて僕の口に突っ込む。
僕は突っ込まれたリンゴをとりあえず飲み込んで、今までがどういう状況になっていたのかをヤスに聞くことにした。
ヤスが言うには、どうやら僕は三日も寝込んでいたらしい。そうしてここは羽後国の城下町の端っこ。
化け物退治の功績により、当面の資金と宿を貸してもらったそうだ。ちなみに被害はゼロ。
さらに、菌に犯されていた人たちも「なまはげ」が討伐されたことで呪いが解かれ、もう日常生活に支障なく日々を過ごせているようだった。
「なんにせよ。この国のゴタゴタは解決ってこったな!あとは六つか....。ま、何とかなんだろ。」
そう言うとヤスは胸元からゴソゴソと何かを取り出して、こちらに投げようとする。
しかし、僕の両腕が塞がっているのを見てヤスは一瞬固まり、そっと優しく地面に紋所のようなものを置いた。
「コイツを使えば、他所の国でも多少の融通は効くはずだ。一応...ここに置いとく。」
「蝦夷には手が回ってない...んだったっけ。」
「....話が早ェな。つっても、まだ休んでて良いんだぜ?オレは報告のために一旦京に戻らなきゃなんねェが、そのあと合流を待ってからでも遅くは...。」
「いいや。できるだけ早い方がいい。その方が、被害も少なく済むからね。」
僕は力なく笑って、精一杯の強がりをしてみせる。この状況、ヤスにだって事後処理なり何なりがあるだろう。
僕にはヤスのように、立場はない。だから、僕にできるのはせいぜい戦うことだけだ。
こちらの笑顔にヤスは少しため息をついて、それから肩を落とす。そうして迷ったような素振りを見せて、ゆっくり口を開いた。
「...あのよ....。あの隕石って...。お前の...」
「ん〜....?ご主人様起きたん?みんなぁ、ご主人様起きたってぇ〜。」
刑部がむくりと体を起こし、僕の周りにいたみんなを起こして回った。
「春水!!平気なの?!三日も眠って...心配したんだからね!!」
「そうですよ...!もうっ!しばらくちゃんと療養してくださいよ!」
わちゃわちゃとみんなに揉みくちゃにされて、僕は完全にヤスと話すタイミングを逃してしまった。
そうしてみんなに揉まれる僕を見てヤスは気を回したのか、軽く手を振って別れの挨拶を済ませる。
「.....んじゃ、後はごゆっくりってヤツか。もうオレも京に戻るわ。あとは任せたぜ、相棒。」
「うん。気をつけてね、相棒。」
「っは!こっちのセリフだっての。」
去っていくヤスの後ろ姿は、なんだかちょっとだけ物悲しいような雰囲気を纏っていた。僕はそれが気になりつつも、周りのみんなに意識を奪われてしまう。
「みんなも無事だったんだね....ほんと良かったよ...。怪我とかない?」
やはりあれから三日も経っているからか、みんなそれなりに回復はしているようだった。
傷を抱えているものも、後遺症が残っているものも無く、それぞれがほぼ全回と言っていい状態にある。
その事実に僕は胸を撫で下ろしつつ、体を起き上がらせてヤスがくれた紋所を拾う。
高貴な意匠が加えられたそれは、見るからに高い身分を表すもので。もし無くしたら、確実に怒られるでは済まされないだろうことが理解出来る。
全身にだるさが残る体で僕はそれを懐にしまい、外の空気でも吸おうかと外に出ようとした。
するとそこで、ふと花丸から声を掛けられる。僕がそれに振り返ると、そこにはかつてないほど真剣な眼差しをした花丸の瞳があった。
「我が王。もしよろしければ、正午に庭へ足を運んで頂けないでしょうか?」
「いいけど....。そんな真剣な事?」
「私にとっては、大事なことです。貴方に...。他でもない、貴方に見て頂きたいのですから。」
花丸はそれだけを言い残して、スタスタと宿の奥へと消えていく。僕はよく分からないまま花丸と別れ、朝ごはんを食べるため食堂へと向かう。
どうやらヤスが取ってくれたのは中々に広い宿のようで、温泉に食堂。それから宴会会場まで備えられていた。
しかも、これだけ上等な宿が完全に貸切状態。僕は今夜、絶対にヤスのいる方へ足を向けて寝ないようにしようと心に誓う。
朝ごはんを食べ終わったあとは、体のだるさを取るためにお風呂に入る。だだっ広い空間に一人なのが逆に落ち着かなかったが、それでも体の疲れは取れた。
風呂から上がり、気づいた時にはもう時間はお昼近くになっている。
僕は花丸との約束を守るため、急いで用意されていた緩めの浴衣に着替えて庭へと向かった。
そうして庭に着くと、そこにはみんなが既に揃っており、何にもない広い空間で花丸と優晏の二人が向かい合っている。
「それで花丸?私たちを呼びつけた理由ってのは、一体何なの?」
花丸は大きく息を吸った。それからその息を深く吐き出して、優晏に向かって人差し指を向ける。
「優晏様、私との決闘を受けてください。」
一方的な宣戦布告。花丸はそう言い放ったあと、ちらりと一瞬だけこっちを見た。しかしその後すぐに視線を戻し、花丸は優晏の反応を伺う。
花丸のそれに対し、優晏はにっこりと口角を上げた。まるで、新しいおもちゃを貰った子供のように、心底楽しそうな顔をして。
「いいわ。乗った。その代わり、退屈させないでよねっ!!」
「もちろん。貴女のその自信に、泥をつけて差し上げます。」
こうして、なぜこうなったのか僕には全く理解できないのだが、それでも戦いの火蓋が切って落とされた。
「ねぇ、なんでこうなったのか知ってる?」
「ん〜?うちは知らへんなぁ。かぐやちゃんは?」
「私も...心当たりは無いですね。優晏さんは、なんかすっごいノリノリですけど。」
「ん....ボクも知らない....。」
「がんばれ〜!はなまるがんばれ〜!!」
((((コレ、どう考えても明らかに織だけが知ってるやつだ。))))
恐らくこの瞬間、全員が同じ考えに至ったが、織があんまりにも真剣に応援しているので誰もその事を追求することは出来なかった。
ともかく、理由はどうあれ二人の戦いを僕は見届けることにした。なぜなら、純粋に勝敗が気になったからだ。
格闘センスと術式の練度は、優晏の方が断然強い。しかし素の肉体スペックや耐久力なら、花丸に軍配が上がる。
迷宮での敗北と先日の森での戦いが、一体どこまで花丸を成長させたのか。僕はワクワクした心地で、二人の決闘を見守った。
(なんか懐かしいなぁ〜。僕も、ヤスと昔よくやったっけ...。一回ぐらい、やっていけば良かったなぁ〜....。)




