叶わなかった復讐の終わり
炎に包まれ、それでもなお拳で抵抗するヤスと、大きさを二メートルほどに縮めた「なまはげ」が格闘戦を繰り広げている。
僕はそこに乱入し、ヤスの援護をするため拳を放つ。それに「なまはげ」も気づいたのか、これが最後と言わんばかりにフルパワーで応戦してきた。
「ヤス!!燃えてるけど行けそう?」
「無問題!それよりアイツ、体をガチガチに硬めて来やがった!今までのより数段硬ェ!」
「だけど息が上がってる。再生だって無限じゃないんだ、このまま押し切るぞ!」
どうやら向こうはこれ以上の負傷を避けたいらしく、体の形状変化を一切行わなくなっている。
腕は大太刀ではなく普通の腕に、体は肥大化させず、有利を取れる最低限の大きさに。
これまでの情報から整理するに、「なまはげ」の再生はあの茸に由来するもの。つまり茸の形状を変化させ、武器にする分のストックはもう無いと見ていい。
とはいえ、こちらも連戦続きで消耗がすぎる。だからここは、お互い培った体術だけで相手を圧倒する。
まずはヤスと僕で、「なまはげ」を中間に置いて挟撃。相手の意識をできるだけバラバラに割かせ、一人に向く注意を限界まで引き下げさせる。
しかし、流石に相手も手練。僕らが繰り出した双方向からの拳を両の手で片方づつ受け止め、そのまま話すまいとがっちり固定した。
拳を固定されたのを逆手にとって、僕は地面を蹴り上げ拳を支点に「なまはげ」の頭上へと飛ぶ。そこで初めて身を捻って拳を脱出させ、それから背中を逸らして縦に一回転。
「なまはげ」の顔面にサマーソルトで蹴りをぶち込み、僕は元々ヤスの居た位置へと場所を交代する。
そうして一方ヤスは、拳を支点に「なまはげ」の股を潜って相手の拘束を脱出。僕の元居た位置へ配置を変え、拳を腹へとめり込ます。
(数的優位があるなら、とにかく手数だ!相手に対応させる隙を....与えない!)
「なまはげ」の視線を鑑みるに、今「なまはげ」の注目はややヤスに向いている。そのおかげで、僕は相手の死角に寄ることに成功。そこから無防備な背中へ、渾身の蹴りをお見舞しようとした。
「あくまで賭けではあったが、どうやら上手く行ったな。」
だが、こちらの予想とは一転、「なまはげ」は視線をヤスに向けたまま僕の蹴りを掴み、僕をヤスに向かって思いっきりぶん投げる。
(やられた...っ!視線はフェイント!死角に攻撃を誘うための罠か...!だけど...詰めが甘い!)
「ヤス!!キャッチお願い!!」
「ったく....。無茶なヤローだよ、お前はっ!!」
宙で体勢を整え、体を地面と平行にしてヤスへ手を伸ばす。そうして、弾丸のように投げつけられた僕をヤスは器用にキャッチ。
「喰らえやァ!!返品だオラァ!!!」
そのまま僕の手を取り、ヤスはぐるぐる体を回転させて、僕を「なまはげ」の方に再度飛ばす。
投げられた風圧と返品というワードセンスに顔を顰めながらも、僕は前に拳を突き出して「なまはげ」へと突っ込む。
「ふざけた曲芸を....!くっ....重い...!!」
こちらの特攻を「なまはげ」は間一髪、両腕を犠牲にすることでなんとか防いだ。しかし、両腕を犠牲にしたせいで二撃目は耐えきれない。
僕は拳が弾かれた後、しっかりと両足を地面に着けて体を固定。腹と腰に力を込めて、身を屈めることで正拳突きを繰り出すための力を貯める。
こちらの貯めを見た「なまはげ」も覚悟を決めたのか、精一杯腹に力を入れて、攻撃を受け止めて耐える為に気合を入れた。
「.......来い。貴様の全てを受け止めて、散っていった作之助の墓に貴様の首を手向けとして置いてやる。」
正真正銘、ここにいる全員が持てる最後の力を振り絞って、次に繰り出す一撃のため力を込める。そうしてそれぞれの準備が終わり、硬直していた盤面が動き出した。
「オレをよォ!!!!忘れて貰っちゃァ困るんだよ!!!!!」
身を屈めていた僕の頭上を、飛び蹴りを繰り出したヤスが飛び越える。そうしてヤスの蹴りは「なまはげ」の意表を突き、見事顔面へとクリーンヒット。
貯めていた腹への力も霧散し、一瞬の無防備状態が相手に生まれる。その一瞬を目掛けて、僕は「なまはげ」の腹へと、拳を振り向いた。
「がっ......?!はっ.....!」
「なまはげ」は地面に倒れ込み、煙を立てながら身の緋を吐き出していく。
加えて体はみるみるうちに縮んでいき、最終的には小さな子供のような体型となって、よろよろと立ち上がった。
そうしてヤスもまた限界だったのか、飛び蹴りの後はうつ伏せになって地面に伏す。この時点でヤスを包んでいた炎が消失し、ヤスの所々白くなっている肌が露出した。
「ぐっ....。体が言うことを聞かねェ.......。勝手に動かねェ分...まだマシかもな.....っ....!」
僕はヤスの元へと急いで駆け寄って、傷の状態を確認する。すると、うねうねと白い繊維がヤスの体を修復していき、その白色をどんどん広げていく。
「ヤスっ?!結局この感染の解決法は掴んでないんだ...!どうすればっ....!」
「いい....。どうせ「なまはげ」を殺せば全部終わりなんだ.....。アイツをぶっ殺せば、これも消えるかも知んねぇしな....。だから...シュン。後は、任せた...!」
その力強い目を見て、僕は自分のやるべきことを再度自覚した。斬るべきものは斬る。それが、僕が今やるべきこと。
僕は立ち上がって、萎びて小さくなった「なまはげ」へと視線を向けた。鬼の面も、骸骨の面も、あれだけ強大だった体躯も、もはや見る影すらない。
腕をプラプラとぶら下げて、こちらを憎々しそうに睨み返す、真っ白な少女が、そこには立っていた。
「ここで、終わりにしよう。お前の恨みも、憎しみも。全部、ここで終わりだ。」
「まだ...終わりなんかじゃない......っ!終わらせて...終わらせてたまるか...!!私はまだ、お母様のためにやらなきゃいけないんだ!!殺さなきゃ...人間を皆殺しにしなきゃ....!」
半狂乱になった「なまはげ」は、涙と怒りを顔に浮かべて、ぐっちゃぐちゃのよく分からない表情をした。
髪をわしゃわしゃと無造作に掻き、叫んだり、地団駄を踏んだり。僕はそれを、なんだか悲しくなりながらも最後まで見続ける。
ここに居たのは、決して理解不能の化け物たちなんかじゃなかった。恨みと憎しみで、こうなるしか他に道がなかった、悲しいけだものたちが、ここにはひしめいていたんだ。
「あ。」
突然、何かの糸が切れたように、「なまはげ」はその動きを止めてぼーっと空を見上げた。
「お母様に、会いたい。」
「なまはげ」は急に僕に背を向けて、一目散に森の奥にある村の方へと逃げ出した。僕はそれに一瞬呆気を取られたが、すぐさま「なまはげ」の後を追う。
どこにそんな力が残っていたのか、「なまはげ」は瞬足で森を抜け、ボロボロの廃村の一角にあった家屋へと入っていく。
ここでトドメを刺すため、僕は村へと足を踏み入れて、「なまはげ」が入った家屋へと進もうとした。
だがそこで、最後の刺客が現れる。刀を携え、悠然としたままゆらりとこちらを覗く、明らかに手練の老人。
その皮膚は白く染まっており、おそらくは「なまはげ」が用意していた手駒の一人なのだろう。
(ここで「なまはげ」を見逃すわけにはいかない....!普段なら速攻捻って終わり程度の相手でも、今じゃ時間がかかるのは明白だ....!)
「クソッ....こんな時に....!」
「ちょっとそこの....失礼するぜぃ。」
僕がそう悩んでいると、森の茂みから一人、チンピラじみた見た目の武士が姿を現した。
「あー...俺の名前は藤四郎。保昌サンから話は聞いてる。このジジィは俺の相手なんでな、アンタはさっさとあのガキを追うといい。ここは任せな。」
「....恩に着る!任せた!!」
通りすがりの武士に僕は礼を言いつつ、「なまはげ」の後を追うために家屋の中へと僕は進んで行った。
「保昌サンといい...最近のガキってのは年上に敬語も使えねぇのかよ...。まあ、俺もアンタに使ったことなかったっけなぁ。なぁ?ジジィ。」




