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百鬼夜行と踊る神  作者: 蠣崎 湊太
倭国大乱・羽後編
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英雄願望

 

 呼吸は深く、何時いかなる時も状況を冷静に判断するために頭を回すことが最優先。そうすれば、自ずとやるべきことは見えてくる。


(ヤスの出血量...持ってあと二分...。いや、内蔵を押し込めて傷口を焼けば、とりあえず止血にはなる。焦るな....。怒りに支配されるのは下策だ.....っ!)


 僕はヤスを救出するため、ヤスのいる方向へと向かって全力で走る。しかし、それを「なまはげ」が許すはずもなく。


「どけよ!!!!!」


「惨めだなぁ?これで少しは、私の思いが分かったか?」


 もう迷っている暇は無い。引火を考慮せず、僕は『大鵬金翅(だいほうきんし)迦楼羅焔(かるらえん)』と『未来測定』を発動。それから『魔纏狼(まてんろう)甕星浮(みかぼしうかべ)』も併発することで、一気に短期決戦を狙う。


 大量の術式使用に体が悲鳴を上げるが、それらは一旦無視し、僕は最速最短の身のこなしで「なまはげ」の攻撃を掻い潜る。


 右の薙ぎからの切り上げ。蹴りからの回転斬り。跳躍からの巨体プレス。それら全てを瞬時に捌くことで、ヤスへと続く道が出来た。


 あとはそれを進み、ヤスを救出してから刑部の元まで連れていけば、何とかはなるだろう。


 そう思っていた矢先、完全に捌いたと思っていた「なまはげ」の打撃が、今までとは比べ物にならない速さで僕の腹を打ち据えた。


「ガハッ.....!」


(『未来測定』で分かってはいた....。分かっていたのに...避け切れなかった....?!)


 (あか)に染まった「なまはげ」の打撃は、僕をヤスから引き離し、はるか後方へと吹っ飛ばす。


 その化け物じみた威力と速さに、僕は思わず戦慄してしまった。そうして恐怖する。久々に、僕の頭の中によぎった死の一文字。


 確かに、「なまはげ」は弱っていたはずだ。ではなぜ、今になってこれだけの力を発揮するに至ったのか。


 全身を燃えるような(あか)に包み、ニタニタと笑みを浮かべる「なまはげ」。決して、こんなはずではなかった。


 血反吐を吐きながら、それでも僕は考える。勝つために、ヤスと一緒に生き残るために。目線は相手から逸らさず、僕は闘志を滾らせ続けて「なまはげ」を睨む。


「これが私の最終形態、『(あか)の狂騒』。とくと感じろ、これが。これこそが絶望だ!!」


 ヤスならこんな時、諦めたりはしなかった。どんな絶望を前にしても、それを鼻で笑って突っ込んでいく。そういう漢だ、藤原保昌(ふじわらのやすまさ)は。


 だから僕も、ヤスに恥じないように笑ってやる。笑い飛ばしてやる。こんなの屁でもないって、余裕だって、口角を上げるんだ。


「はっ....。絶望....?笑わせるなよ。まだ誰も死んでない。ちょっと色がオシャレになったぐらいで、調子に乗るな茸野郎。」


「減らず口を....。いいだろう。望み通り、ここで死人を出してやる。まずは、貴様からだっ!!!」


 対応できないほどの速度を相手に、僕はどうすべきか。簡単だ、事前に回避の動きを作っておけばいい。


『未来測定』でも対応できない速さともなれば、瞬発力での回避などは夢のまた夢。だったら、『未来測定』で更に先の未来を知覚する。


 両目に力を込め、血涙が出るほど『未来測定』へ過剰に集中を注ぐ。脳みそがはち切れてしまいそうな錯覚も、視界が真っ赤に染まる恐怖も今は無視。


 限界を超える。正しくは、脳の機能を犠牲にして『未来測定』の出力を繰り上げる。チリチリと、脳みそが焼ける音が聞こえた気がした。


 《待って待って!それ以上はダメだって!今、キミに死なれたら困るのはこっちなんだよねぇ〜?まったく、しょうがないなぁ〜。予測演算はこっちでやっておくから、キミはキミで頑張ってね。》


「ミカ...?一体何...うおっ?!」


 一気に脳の処理が軽くなったのか、突然視界がぐんと開ける。それから更に、無理して『未来測定』を使っていた時よりも未来が感じられるようになった。


 ただし、それでもギリギリ。僕はなんとか事前に動きを作っておくことで、「なまはげ」の猛攻を回避。


 ミカの言葉に疑問を覚えつつも、そんな場合ではないとその疑問を排除。こちらの怒りを発露すべく、反撃に打って出た。


 回避に注力せねばならないため、直接の反撃はできなかったが、それでもやり方はいくらでもある。


 僕は『大鵬金翅(だいほうきんし)迦楼羅焔(かるらえん)』で燃えている羽根を射出し、宙に置いてくるように攻撃を設置した。


 未来を知覚だけあって、置き攻撃が百発百中で成功するのだ。このメリットを活かして、少しづつチマチマ削っていく。


「ぐっ....猪口才な....!」


 これならば、今の強化された「なまはげ」とも対等にやり合える。だが、それではヤスの救出が行えない。


(どうする...!どうすればっ....!)


 焦りと熱で、額に汗がじんわりと浮かび出す。そんな手詰まりだった僕に、一筋の希望が差し込めることとなった。


 僕の後方にあった茂みから、ガサガサと音が鳴る。そうして、そこから姿を現したのはなんと、作之助だった。


「これは.....どういう状況だっぺ?」


「作之助ぇ!!!「なまはげ」はこっちで抑えるから!!!そっちはヤスの救出を頼む!!!」


 なぜここにいるはずもない作之助がいるのかは全く分からなかったが、なんにせよこれは僥倖極まりないことだ。


 今の僕なら「なまはげ」を完全に抑えられる。だったらその隙に、作之助がヤスを救出してくれさえすれば、なんの問題もない。


(よしっ...!勝った!!!このまま...このまま行けばっ....!!!!)


 サクッと、僕の背後で何かが刺さるような音が聞こえた。その音の直後、僕の背中が燃えるように熱くなる。


「は?」


 火傷してしまいそうなほど燃え滾る感覚に、僕は思わず背後を振り返る。すると、そこにはナイフを携えて笑顔を浮かべた、作之助の姿があった。


「悪いっぺなぁ春水。でもおいは、こっち側なんだべ。」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(あぁ....。寒ぃな......。今、どうなってる.....?)


 視界が霞み、何にも見えない。それどころか、音も聞こえない。


 ここは静かだ。戦いは終わったのだろうか。勝ったのか、それとも負けたのか。


 記憶が曖昧で、何もかもが思い出せなくなる。オレは確か、戦ってたはずだよな。一体誰と?何のために?


 分かんねェ。分かんねェことだらけだ。いや、それは今に始まったことじゃない。オレはずっと、分かんねェことだらけだった。


 オレにとって、戦うことは義務でしか無かった。家柄がそうだったから、物心ついた頃にはもう訓練の毎日で。


 ガキん頃の記憶は、木刀を振り回してたことだけ。友達なんてのも作る暇がなかったし、第一周りに同年代もいなかった。


 でも、一人いたっけな。オレが好きだった。いや、今でも好きなあいつが。


 かぐや。あいつと出会ってから、オレの中で戦うことが義務じゃ無くなった。オレが強くなれば、武士として偉くなれば、もしかしたらあいつと一緒になれるかも。


 なんてガキ臭ェ夢を抱いて、オレは刀を振り続けた。そんな夢も、長くは持たなかったけどな。


 かぐやは絶望の中で溺れていた。手篭めにされ続けて、誰も助けてくれなくて。


 オレは、助けてやりたいと思った。そう思っていたのに、助けられなかった。違う、助けなかったんだ。


 怖かった。権力とか、今後のこととか。それだけじゃない。オレは、一瞬でも思っちまった。かぐやの体を見て、色っぽいなんて。


 オレはクズだ。ゴミだ。武士の風上にも置けねェ、正真正銘のカス野郎なんだ。


 だから、シュンが屋敷を出ていったあの日、武士を辞めようと思った。オレにはもう、刀を振る理由が無くなったから。


 それでも、オレはこうして中途半端に戦いの場に出てきちまった。武士を辞めて腹を切ることも、迷いを捨てて京に戻ることもできず。


 ただただ中途半端なまま、こうやってシュンの所まで来ちまった。かぐやからしたら、どの面下げてって思われてんだろうな。


 だけど、オレはなりたかったんだよ。無理でも、もう手遅れでも、かっこ悪くても。


 オレはお前の英雄に、なりたかったんだよ。


 特別じゃない。強くもない。かっこよくない。芯を通せない。頭も悪い。正しくない。可愛げなんてない。綺麗でもない。真面目でも、器用でも、高潔でも、清廉でもない。


 ただの自己中な、失敗ばっかのオレでもよォ。あいつは、シュンはオレを相棒だって言ったんだぜ?


 そんなこと言われちまったらよ。こんな端役で、主人公になんて到底なれないようなオレでもよ、勘違いしちまうじゃねェか。


 オレはかぐやの人生の、主役になりたかった。お姫様を救う英雄に、ずっとずっと憧れてたんだ。


 でも、そんなのはオレのガラじゃねェからよ。シュン、その役はお前に譲ってやる。


 その代わり、オレはもっともっと、泥臭く、みっともなく行ってやる。お前ができないぐらい、惨めに這いつくばってでも、オレは勝ちを取りに行く。


 だから、それまで死ぬんじゃねぇぞ。


 最後の力を振り絞って、オレは手を伸ばした。その先にあったのは、真っ白な茸。この辺りなら、どこにでも生えてる、災厄を振りまいた呪いの茸。


 それが、今のオレにとっては何よりも必要なものだった。オレはその茸を頬張って、なんとか胃の中まで飲み込む。


 全身が犯されていく感覚。菌糸が血管内を一本一本這いずり回って、体のコントロールがどんどん失われていく。


(かぐやも.....こんな気分だったのかもなァ....。)


 だが、これで血は止まった。内蔵も元通り体の内側にしまわれたし、命の危機は十分に脱した。だからあとは、オレの気合いだ。


 オレは全身に酒をぶっかけて、言葉を紡ぐ。そうして紡がれた最後の言葉はもちろん、『火酒緋蜂(かしゅひばち)』。


 全身が炎に包まれ、今にも気絶してしまいそうなぐらい体が熱い。けれど、この感覚はただ肌が焼ける代わりに、纏わりついている菌糸が焼けているだけだ。


(体のコントロールは戻った。なら、まだ立てる。)


 オレはゆっくりと立ち上がり、歯を食いしばりながら、こちらに背を向けていた「なまはげ」に向かって、燃える拳を突き出した。


「シュン!!!!!!!!オレはまだ死んでねぇぞおおおおおおおお!!!!!!!だから、諦めんじゃねええええええええ!!!!!!!」

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