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百鬼夜行と踊る神  作者: 蠣崎 湊太
倭国大乱・羽後編
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憎しみの答え

 

 前方には僕。それから満身創痍の「なまはげ」を間にして、後方にはヤス。はっきり言って、負ける気がしない布陣だ。


 僕はヤスと目線を交わし、たったそれだけで作戦会議を終わらせる。五年間もの年月が生み出した、神業と呼ぶに差し支えない阿吽の呼吸。


(僕が上から!ヤスは足元っ!!)


 翼を展開し、「なまはげ」の頭上まで飛び上がる。そうして刀を垂直に構え、重力も組み合わせた唐竹割りをお見舞した。


 それを防御すべく、「なまはげ」は両腕を眼前でクロスさせてこちらの刀を弾いた。しかし、そのせいで足元がお留守となる。


 その隙をついたヤスが、後方から前へと「なまはげ」の足を切りつけながら走り抜ける。ヤスが切りつけたのは右の腱。当然全体の重心は左に寄り、防御のバランスが悪くなった。


 そこで僕が、刀を弾かれた反動で身を宙で右回転させ、コマのように回転しながら右方向から刀を振り抜く。


 右に力がかかりすぎたせいで、「なまはげ」は左側に転倒。ここまでは以前、刑部と共に戦った時とさほど違いは無い。


 けれど、今僕の隣にいるのはヤスだ。こんな中途半端な攻撃で攻めの姿勢を崩すことは絶対にしないはず。


「デカブツ相手にゃ足を崩すってのは定石なんだよォ!!んなとこで、手ェ止めてられっかァ!!!」


 ヤスは「なまはげ」が倒れ込むはずの地点に先回りし、刀をただ上に構える。並大抵のもののけであれば、このまま串刺しになってゲームセットだが。


「馬鹿がっ!!そのまま潰れろ!『死蝋倚廬(しろいろ)胞子変生(ほうしへんせい)』」


「なまはげ」の腕が大太刀から大盾へと形状を変え、ヤスを刀ごとぺちゃんこにしようと、体を捩って倒れていく。


 あの巨体から繰り出される、シンプルな押し潰し。質量と重量もさることながら、あの大盾の持つ硬さが厄介だ。


 重さだけなら、ヤスはなんとか相手の体を貫いて耐えるだろう。しかし、あの盾が刀を防げば、ヤスは支えを失って無防備なまま潰されてしまう。


 それでも、ヤスはその場を動かない。何故か、その理由は明白。ヤスは僕を信じているからだ。こいつならきっと、道を切り開いてくれる。そんな確信が、ヤスの眼を輝かせている。


「全く....!人使いが荒い....なっ!!」


 刀を地面へと捨て、僕は宙にいたまま方向転換。翼をはためかせて「なまはげ」の首にしがみつき、全力で首を絞めた。


 全筋力を翼に集中させたため、ほんの一瞬だけ「なまはげ」の自由落下速度を阻害することに成功。それと同時に、「なまはげ」の意識までをこちらに割かせることが出来た。


「無駄な足掻きを....!」


「ムダでもねェさ。テメエみてぇなデカ図体、たった二つの盾で全身を覆えるわけねェだろうが。潜り込んじまえば、あとはこっちのもんだよなァ!!」


 一瞬さえあれば、ヤスは安全に相手の懐へ潜り込める。それから、相手の盾を逆に足場として利用することで、ヤスは力強い踏ん切りをして「なまはげ」の腹部へと刀を突き刺す。


 ヤスはまだまだ止まらない。突き刺した刀を支えに、ヤスは刀の柄を握ったまま「なまはげ」の体を走り回った。


 ヤスの刀は「なまはげ」の体をバリバリ引き摺り裂き、最終的には腹部に刺さっていただけの傷が、あろうことか背中の肩甲骨辺りまで伸びる大きな裂き傷となる。


「冥土の土産にそいつはやるよ。随分カッケェ角が、背中に生えて良かったなァ?!」


「安い挑発だ...。所詮、貴様らがいくら私を傷つけたところで、その分再生すればいいだけの話。貴様らの行為は全て無意味。」



「なまはげ」の言葉は正しい。いくらこちらが手数を増やして攻撃したのだとしても、倒しきれないのなら意味が無い。


 ただ、僕たちはあの屋敷に五年間もいたのだ。もののけ狩り、鬼狩りと名高い頼光一門の屋敷では、常に任務が舞い込んできていた。


 言うなれば、対もののけ。特段鬼に関してはプロフェッショナル。そうして、鬼を斬るにあたって最も重要な項目が一つだけある。


 それは再生する相手への対処法だ。鬼は基本的に再生能力を身につけているし、どの鬼も他のもののけの再生力よりも強力なものが多い。


 そうして、その答えを僕らは既に見つけている。再生する相手への完封方法、それはつまり。


「「再生出来なくなるまで、すり潰す!!」」


 僕らが五年の末選んだ最終結論は、結局のところ脳筋攻略法だった。極めてシンプルかつ単純な方法だが、それ故に効果も高い。


 僕はヤスを背中に乗せて、遥か上空へと飛び上がった。そうして空の上を鳥のようにぐるぐる迂回して、ヤスの魔術効果範囲ギリギリで対空し続ける。


 相手が対空手段を持っていない場合、この戦法は暴力的なまでに効果を発揮してしまう。これから繰り広げられるのは、正しく一方的な虐殺だ。


「鯰の頭に石を置け。鯰の尾っぽに石を置け。土は茶色の硬い海。今は凪いでる大地とて、一寸先は大荒れ模様。要の石が外れれば、大地はすぐさま母へと帰る。動かぬ鯰を殺しましょう。石が取れてもいいように。動かぬ鯰を殺しましょう。石が割れてもいいように。『腹裂鯰(はらさきなまず)』」


 ヤスの長文詠唱のあと、地面が派手にパッカリ割れ、「なまはげ」を地中深くへと飲み込んでいく。


 通常なら使えないような長文詠唱でも、相手が手出しできない空の上からならいくらでも打てる。それに加えて、ヤスの得意な大技の連発。ここが、これ以上ないヤスの晴れ舞台だ。


「うねる白波、寄せる流木。数多を呑み込む母の声。遠く遠くの燃える山、掬い上げるは御霊(みたま)か祈りか。」


「攫えよ命。奪えよ炎。これは我らが供物の祈り。母に届くことは無く。我らはただただ還るのみ。しかして、祈りは止められず。猛り、そして溺れ死ね。『晩鐘流(ばんしょうなが)し』」


 地面が割れることによって出来たV字型の窪みに、濁流がものすごい勢いで流れ込んでいく。


 津波なんて目じゃないくらいのスピードを孕んだ水の群れたちが、「なまはげ」一人を飲み潰さんとばかりに渦を巻いて呑み込む。


 魔術の影響で地形がぐちゃぐちゃになったものの、なんとか「なまはげ」は沈黙。姿こそ見えないが、おそらくは死亡しただろう。


「ヤス、死体を確かめに行こう。もし殺し損ねてたら大惨事だ。」


「まあそうだな。死体が残ってるようなら、こんがり焼いて灰にしねェと。いつ二次災害が起こるか分かったもんじゃねェ。」


 そんなふうに、死体を確認するため僕が飛行高度を下げた、その瞬間。地面で渦を巻く荒波の中から、白い閃光が一筋伸びてきた。


(弾丸?!避け切れ....ないっ!!)


 僕はなんとか回避しようとするも避け切れず、迫り来る凶弾を左肩に被弾。左翼部分をまるまる持っていかれてしまう。


 空中で被弾したため、僕とヤスはそのまま地面へ自由落下。全身を強く地面に打ち付けてしまい、しばらく痛みに体を踞らせた。


「ヤスっ....!あいつ....まだ生きてる......!」


「マジかよ....。化け物か....!?」


 ヤスの魔術、特に『晩鐘流(ばんしょうなが)し』は津波を呼び起こすだけの技じゃない。津波に付随して、鋭い瓦礫や木材、更には礫なんかも作り出すものだ。


 だから相手は溺死だけでなく、水流と同じ勢いで迫り来る物質にも気を払わねばらないという最悪の魔術。


 本来の津波を想起させる、まさに災厄と呼ぶに相応しいもののはずだ。それに耐えながら、反撃まで繰り出してくるとは。


 完全にこちらの想像を上回っている。一体「なまはげ」は、あとどれだけ再生の余地を残しているんだ。


 そう苦痛に顔を歪めていると、窪みの方からザパッと、濁流から「なまはげ」が脱出した音が聞こえる。


 全身が傷まみれになり、擦り傷や打撲などがあちこちに散りばめられていた体も、水から上がって一分もすればすぐに元通り完治してしまった。


(まずい....ヤスの方はまだ落下の衝撃から回復しきってない....!時間を...少しでも時間を稼ぐ....!)


「なぜ...。どうして、お前は人間をそんなに恨むんだ....!人間に....何をされた....!」


 よろよろと立ち上がり、僕は「なまはげ」にそう尋ねた。すると「なまはげ」は少し遠くを見つめてから、僕の問いに答えを返す。


「私は、何もされていない。」


「だったら....!どうしてこんなに人間を殺す?!そこに...なんの意味が?!」


 僕の言葉に「なまはげ」はにっこりと笑い、片腕を大太刀へと変形。近くでまだ踞っていたヤスへ向けて、その凶刃を走らせた。


「やめっ.....やめろおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」


 そんな怒号も虚しく、ヤスは腹から大量に血を吹き出し、内蔵が傷口からチラチラと顔を出している。顔はどんどん青白くなっていき、明確な死の色が、ヤスを包み込む。


「貴様は、私に何もされていないはずだ。ではなぜ、貴様は私をそんなに睨む?」


「ふざけるな.....。ふざけるなぁあああああああああああああああ!!!!!!!!」


「ふざけているのは貴様らの方だ!!!!その貴様の怒りは、私の持つ怒りに他ならない!!!!それをさも偉そうに、恥を知るがいい!!!!それが貴様ら人間という、矛盾に塗れた生き物の醜い本性だ!!!!」


「黙れええええええええええええ!!!!!」

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