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百鬼夜行と踊る神  作者: 蠣崎 湊太
倭国大乱・羽後編
110/235

春は必ずやって来る


光の筋が完全に消滅したと共に、「なまはげ」は破壊され切ったハンマーを再生性する。


一度こちらを仕留め損なったからか、その表情にはややイラつきと焦りが見えた。しかし、そんなものを塗りつぶすぐらいに、「なまはげ」は上機嫌に歌う。


「いい気分だ。どれだけ貴様らが足掻こうが、全てが虚しく終わる。もがき苦しみ、それでも希望が見えない生き地獄。ようやく、貴様らも理解できただろう?」


クルクルとハンマーを回しながら、「なまはげ」は悪逆に笑った。その笑みは、勝利を確信して砂漠の一粒たりとも疑っていないような笑顔だ。


私はそれがおかしくって、力なく吹き出してしまった。だって、そうだろう?


あれだけ派手に攻撃をぶちかまされたのに、瀕死の獲物を前にして悦に浸ってるなんて。浅はかすぎるにも程がある。


「何がおかしい....?死の直前に気でも触れたか?」


「冗談でしょ?あなたがバカだから笑ったの。あなた、私たちがたった二人だけでこの森に来たって。本気で思ってる?」


一瞬の間を置き、それからしまった。という風な顔をした「なまはげ」が焦りを露わにしてハンマーを全力でこちらに振る。


「もう遅いわよ。私たちは...悔しいけどあなたには勝てない。でもね、負けもしないの!だって、私たちにはまだ、春水がいるから!!」


刹那、こちらに向かっていた大質量のハンマーが視界から消え、すっぽ抜けるようにはるか彼方へと飛んでいく。


それを私は、蕩けた瞳で熱く脳に焼き付くほど、じっと見つめていた。


一体、何が起こったのか。「なまはげ」も、かぐやも、あの速さに何が起こったのか分からないでいる様子だ。


でも、私だけは分かった。私だけは捉えられた。彼が、春水がものすごいスピードで空から飛来し、それと同時に「なまはげ」の腕を切り飛ばしたのを。


「間に合ってよかった...。二人とも、よく頑張ったね。優晏、かぐや。立てる?」


春水は「なまはげ」に背を向けて、私たち二人に手を差し伸べた。私はその手を取って立ち上がり、まだ起き上がれていないかぐやに肩を貸す。


「私....少しは春水の隣に、立てたかな。」


「当たり前じゃん!本当に...本当に強くなった。優晏も、もちろんかぐやもね。」


私はその一言で、なんだかもう死んでもいいような気がした。ようやく、私の五年間は報われたのだ。そう、心の底から思えた気がした。


一方で私に体重を預けているかぐやは、にへにへと気持ちの悪い笑顔を浮かべていたので、私は思わずかぐやにデコピンを放つ。


「かぐやは意地張りすぎなのよ!ちゃんと引くべき時は引きなさい!このバカっ!」


「うぅう....。でも....だって.....。」


「だってじゃない!....まあ、次からはちゃんと逃げてね!こっちとしては気が気じゃないんだから!」


そんな和気あいあいとしたやり取りを見て、「なまはげ」が怒声を上げて大剣を両手に生成、怒りのままに春水へ向かって斬撃を繰り出そうとした。


しかし春水はそれに動じることなく、「なまはげ」の斬撃がこちらへと届く前に、術式を発動して後ろ蹴りをお見舞する。


「お前は、ここで確実に殺す。『魔纏狼(まてんろう)纏身憑夜鬽(てんしんつくよみ)(あらため)』」


「なまはげ」はその蹴りをもろに喰らい、数メートル後ろに吹き飛ばされた。それを見て春水は、目を見開いて口をあんぐりと開く。


「軽すぎる...。しかも硬さも全然ない。見た目も萎んでるみたいだし...お前、二人に結構追い詰められてたのか!!」


なんだか上機嫌になった春水は、嬉々として「なまはげ」に向かいなおって刀を抜いた。


それから数度「なまはげ」を切りつけ、その手応えでさっきのことを確信したのか、再びその口角を上へ上げる。


「優晏!刑部のとこまで逃げて!大丈夫、こいつもう二人のおかげで瀕死だから。軽く捻ってすぐ向かうよ!」


「奢るなぁあああああああ!!!!!!高々まぐれが重なっただけで!!!いい気になるなよ人間風情が!!!!!」


「へぇ。じゃあよぉ!これもまぐれなのかァ!!」


春水の相棒らしい男が、「なまはげ」の背後からぬっと姿を現して、「なまはげ」に刀を突き刺した。


すると、「なまはげ」の身体は炎に包まれ、その身をバタバタと悶えさせながら両腕をぶん回し続ける。


私はそれを視認して、いそいそとこの場から刑部の元へと離脱した。ここから刑部いる後方地まではおおよそ十分程度。


毒の回った身体ではもっと時間がかかるだろうが、それでも雑兵一二体くらいの相手ならまだ容易だ。


「いいんですか...?ああは言ってましたけど、私たちがいた方がもっと有利に戦えたんじゃ....。」


「まあ、流石に瀕死ってのは私たちを安心させるための嘘でしょうけどね。でも平気よ。だって、春水だもの。」


「ふふ、確かに。春水なら、負けるはずないですもんね。じゃあ...他の子たちは大丈夫でしょうか...?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「わああああああああ!!!!!!はなまるぅ!!!助けてぇ!!!!!!!!」


「織様っ!!右っ!右から来ます!!」


「右ってどっちだっけええええええ!!!!!!」


私たちは今、雑兵でもない。かと言って、「なまはげ」でもない相手と戦っている。


その相手を一言で表現するなら、巨大な茸の化け物だろうか。巨大な茸からは人間の手足が生えていて、それを機敏に動かし、今も織様を殴り殺さんとして迫っている。


この茸の化け物、その馬鹿みたいな見た目とは裏腹に、想像以上の強さだ。


茸から伸びる手足は長く、その上膂力も桁外れ。今まで術式を使って来ていない分、術式は無いと判断しても、それでもやはり強い。


術式や魔術、魅孕(すだまはらみ)などに依らない純粋なパワー。揺らぐことの無い、圧倒的なその地力。


そんな力の塊に、私たちは言うまでもなく押されていた。それはひとえに、私たちの実力不足から来る劣勢。


そうして実力が足りない私のせいで、織様は今にも相手の拳の餌食になろうとしている。


私は無力だ。「なまはげ」ですらない、こんなよく分からない相手に私が不覚を取ったせいで、織様が殴り殺されてしまう。


織様の背中ギリギリに、相手の凶悪な拳が身を寄せる。このままいけば、確実に重たい一撃を貰う。そうしてあれを喰らってしまえば、動きが格段に落ちてこれ以上の戦闘続行は出来なくなる。


その先に待っているのは死だけだ。私はそれを回避しようと、何とか手を伸ばす。けれど、そんな意味の無い行為が何かの助けになるはずもなく。


織様は相手の一撃を背中に思いっきり受け、ガキンと金属音のような、鈍い音を響かせた。


「【足を削げ】『八束落(やつかおとし)』っ!!」


織様の背中から、金色の光が淡く漏れ出す。そしてその光を放っている主は、なんと織様が背中に隠していた、とある剣。


ある蜘蛛のもののけが糸を紡ぎ、我が王が使用者を殺して奪取したことで蜘蛛の山から入手できた、唯一の戦利品である魅孕(すだまはらみ)


(確かあれは...我が王が貞光に預けていたはずのもの!なぜ織様が....?)


「いったい....!でも、そっちの方がいたいでしょ!何せ、トゲトゲにしておいたんだから!」


織様を殴った茸の化け物の手からは鮮血がボタボタとこぼれ落ちている。一方で、織様はその背中に隠していた剣を取り出し、私にも見えるように頭上へ掲げた。


「棘....?織様、棘は一体どこに?」


「もうけした!この武器ね〜、ぐにゃぐにゃ形が変わっておもしろいの!!」


そう言って織様は、剣の形を今度は槍にして、茸の化け物へと突き刺した。


「はなまる。こわいなら、下がってていいよ。」

・『八束落(やつかおとし)


効果発動に必要な祝詞は【足を削げ】。この魅孕の効果は大きく分けて二つ。


一つ目は蜘蛛及び、蜘蛛糸。その他糸や多足類への特攻。


二つ目はサイズや形の変形。しかしどんな形になるという訳ではなく、あくまで武器の形にしかなれない。


それに加えてこの効果は、蜘蛛糸に通ずる者以外の使用はできない。例えば土蜘蛛や女郎蜘蛛、蜘蛛の雑兵や織などは使用できるが、その他は使えない。


しかし例外的に、糸を自由自在に操れるものであれば二つ目の効果も遺憾無く発揮することが出来る。




屋敷編、『地獄が根ざす蜘蛛の山』で入手した武器です。この武器は春水が任務終了後、貞光に戦利品として手渡していた物ですが、屋敷を出る際に貞光が織へと返還。そのまま織が所有し続けていました。


(貞光)「僕らの出番....まだですかねぇ...。」


(季武)「....貞光の持ち場は京でしょ。だから、そんなに焦ることないよ。」


(金時)「俺は出雲だからなぁ...まだまだ先は長ぇよ。」


(道鏡)「拙僧は三河ですぞ!金時どのなんかはまだマシな方ですゆえ...。そうですよね?綱殿!」


(綱)「そんなに出番が欲しいなら譲ってやるよ貞光!俺ぁ大トリなんてダルい役回りごめんだぜ?!」

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