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百鬼夜行と踊る神  作者: 蠣崎 湊太
倭国大乱・羽後編
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絶望

 

 時刻は夜九時。完全に日が沈み、森の気配がざわめき出した頃、僕たちは作戦を実行するために森の少し手前で馬を停める。


 ここで僕らは後方支援組の三人、刑部チームとは解散し、彼女らをこのまま街道を城下町の方へと向かって前身させた。


 事前に決めていた手筈では、作之助が表立って武士たちとコンタクトを取り、支援部隊としての説明を行うことになっている。


 武士たちにはヤスが話を通しているとはいえ、流石に刑部や絹をもののけの姿のまま武士たちの前に出しては混乱は避けられない。


 なので二人には変化の術や変装をしてもらって、なるべくもののけであることを隠すように指示を出した。


 刑部チームを見送った後、残った僕らも行動を開始し、森の中を進んでいく。


 そうして少し草木が生い茂ってきたところでメンバーを分割、二人組に別れて各々が散開の形を取った。


 一抹の不安が無い訳では無い。正直、この場で一番強いのは多分僕だろう。そんな僕でさえ、刑部と組んだ時でも撤退を余儀なくされた「なまはげ」に、果たしてみんなは対応出来るのか。


(杞憂だな。みんなならきっと、乗り越えられる。)


 不安をかき消すくらい、僕は彼女らに確信を抱いていた。彼女らならきっと、やってのける。そんな確信にも似た、圧倒的な信頼。


「ヤス。二時の方向に二体。」


「了解!!ぶった斬る!!」


 気分は上々、コンディションは最高。これ以上ない、絶好の戦闘日和。


 僕はヤスに指示を出して、それからさらに湧いて出た三体の雑兵をサクサク斬り捨てていく。


 しかし、斬り捨てられたはずの雑兵たちは再び立ち上がり、何事も無かったように傷口を菌糸で即座に再生した。


 恐らく武士の死体に菌が繁殖し、その菌が死体を操っているのだろう。全身が真っ白な見た目になった武士たちがわらわらと集まってきて、こちらを取り囲む。


 そうして計五体の雑兵はこちらの攻撃など意にも介さず、痛みさえも感じていないのか、時には捨て身の特攻まで繰り出してくる。


 その攻撃に触れないよう、僕らは最低限の動きで相手の刃を回避しつつ、首を跳ねたり胴を袈裟に斬ったりしてみた。


 しかし、どれも効果なし。どの雑兵も一定時間が経てばすぐに再生し、また元通りになってしまう。


 どうしたものかと僕が攻めあぐねている間に、ヤスは腰につけていた瓢箪から、何かの液体を取り出して雑兵たちにぶちまけた。


「ヤス!『火酒緋蜂(かしゅひばち)』なんて使ったら木に引火する!民間人にも被害がっ!」


「まあ見てろ!嘲る雀。囲み殺すは小さな火鉢。どれだけ小さな(ほむら)とて、命の危機には届きうる。死に目に一杯!『火酒緋蜂(かしゅひばち)』」


 ヤスは詠唱を即座に終了させて、燃える刀を雑兵のうちの一人に突き刺した。すると雑兵は炎に包まれもがき苦しみ、案の定辺りに火の粉を撒き散らした。


「周りに引火しない....?どうして...。」


「ハッ!強くなったのはシュンだけじゃねぇってことだよ!魔術のコントロールも、今はお前より上だ!!」


 ヤスはギラギラと目を炎に輝かせて、瞬く間に他四人の雑兵を灰へと変える。その流れるような動作は、どこか綱さんを彷彿とさせるような、そんな無駄のない動きだった。


 屋敷にいた頃、ヤスは魔術のコントロールが苦手だったはず。加えて今のように引火を防止するなど、逆立ちしたってできるはずのない芸当だ。


「お酒がマーカー代わりってわけか。なるほどね。」


 ヤスに僕がカマをかけてみると、ヤスは分かりやすく動揺の汗をダラダラと流した。どうやら、完全な図星だったらしい。


 ヤスはお酒で対象にマーキングをして、それから瞬発的に火力を上げることで対象を完全に焼き切る。


 そうすれば相手は一瞬で黒焦げとなり、これ以上燃えることの無い完全な炭か灰になる。こうすれば、確かに引火の心配なく雑兵を狩ることが可能だ。


「その工夫を誇ろうよ...。火力も凄いんだしさぁ...。」


「.........あっ!向こうに敵だ!シュン、早く行くぞ!!」


(弟子は師匠に似るって言うけど、こういう所まで綱さんに似なくてもいいのに。)


 そんな詮無いことを思いながら、僕はヤスについて行って、その後も雑兵狩りを続ける。そうしてまだ、僕らは「なまはげ」と遭遇できていない。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「全然敵がいませんね。そっちはどうです?優晏さん。」


「こっちもダメ。気配も感じないわ。他の道を行こうかしら。」


 私はかぐやのことを認めている。心が折れても尚立ち向かってくる気概、土壇場で覚醒する根性。そのどちらも、戦士として欠けていてはならないものだ。


 かぐやは心が強い。そこは賞賛に値するし、私も認めた部分だ。けれど、彼女には圧倒的な欠点がある。


 それは、かぐやが戦力的に弱いということだ。いくら心が強くても、それに実力が伴っていなければ話にならない。


 かぐやの術式は光の閃光を放ち、相手にダメージを与えるという遠距離タイプのもの。ここまではいい。ただ、この威力がどうしても弱すぎる。


 はっきり言うなら、弓でも持って使った方がまだ威力が出る。かぐやの閃光の威力はせいぜい、肌が若干焦げるくらいなものだ。


 それでいて、しかも近接は大の苦手と来てる。近接の前提条件である体力も無ければ、相手をはっ倒せる筋力もない。


 籠の中のお姫様にしては、よくやれている方なのだろう。されど、私は戦闘面でかぐやに期待することはどうしてもできない。


 それに加えて、この森に出現するという「なまはげ」の存在。春水でさえ押されるレベルの相手なのに、私がかぐやを庇いながら戦えるのか?


 こればっかりは本当に、「なまはげ」と遭遇しないことを祈るしかない。攻略チームを組む都合上、相性や実力差も考えて、このチーム分けが最善だということは理解出来る。


(でも結局、かぐやと一緒ってよりも、単独の方が戦い易いのよね。)


 そんなことを思いながら、私は自分の後ろを着いて歩いてくるかぐやをチラリと見る。


 するとかぐやはこちらの視線に反応して、よく分からないといった風に首を傾げて少し笑った。


 そうしてその時、かぐやの背後にぬっと、禍々しい鬼のような巨体が出現する。それは春水から聞いていた通りの。いや、聞いていた以上に禍々しい、正真正銘「なまはげ」だった。


「かぐやっ!!!!!!」


 私は瞬時に地面を凍結させてかぐやの元まで滑り、かぐやを抱き抱えて、既に振り下ろされていた大振りをなんとか回避。


 無茶な回避が祟ってか、左腕を少しだけ負傷してしまったが問題ない。私は戸惑うかぐやを抱えたまま「なまはげ」と一定の距離を取って、かぐやを守るよう前に出て構える。


(考えうる限るの最悪ね...。撃破は...。ううん、考えない。)


 私は空気中の水分の熱を奪い、氷の刀を生成した。そうして相手の間合いを読み続けながらも、今自分に出来る最善の行動を考える。


「かぐや!刑部の所まで逃げて報告!春水を呼んできて!!」


「なまはげ」の両腕に着いている大太刀から繰り出された挟み撃ちを上空に避けて回避しつつ、私はかぐやへと指示を出した。


 けれど、かぐやは全く逃げる素振りを見せない。それどころか、かぐやは両腕を構えて「なまはげ」へと閃光を放つ。


「優晏さんを置いて...!逃げれません!」


 閃光は「なまはげ」の顔面に見事命中。かぐやの攻撃に「なまはげ」はほんの一瞬動きを止めたが、相手は再度動き出して、今度は私ではなくかぐやを狙った。


「貴様の方が、容易く殺せる。」


「なまはげ」の巨体がぶんと空を切って素早く動き、かぐやに向けて横薙ぎを全力で繰り出す。


 私はそれを阻むため、地面を蹴り上げて弾丸のように己の身を射出させる。そうしてかぐやと「なまはげ」の間に割って入り、刀を携えて何とかかぐやに向けられる凶刃を防ごうと試みた。


「くだらない。所詮は醜い人間から生まれただけの出涸らしの癖に。」


「なまはげ」の大太刀を防いだことで崩れた重心を狙い、「なまはげ」が容赦のない膝蹴りを私にお見舞する。


「かはっ.....!」


「優晏さん!!」


 膝蹴りで宙に浮いた私を「なまはげ」は渾身の蹴りで追撃し、私ははるか後方の木へと打ち付けられた。


 そんな私の身を案じて、かぐやが私の元へ駆け寄ってくる。その後ろで、ズシンズシンと絶望の音を奏でる、「なまはげ」を引連れて。


「か....ぐや........。逃げ......て.....!」

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