決戦前夜
安易なパロディを含みます....。もし良ければ探してみてくださいね。
「なまはげ」との邂逅から一日経った昼、僕とは別行動を取っていたヤスが研究室に帰ってきた。
ヤスもどうやら相当頑張ったみたいで、僕が話さずとも「なまはげ」についての情報はしっかり把握している。
それどころか、ヤスは既に地元武士たちとコンタクトを取っており、もう「なまはげ」と戦う作戦をしっかりと練っていた。
「説明するぞ。まず、オレが知り合った武士たちは全部で三十人ってとこだ。その三十人を森に投入、「なまはげ」が使役してくる雑兵の処理を任せる。」
ヤスが得てきた情報は敵の数、特性、おおよその配置など、どれもこれも具体性に溢れる素晴らしいものだった。
そのおかげでより綿密に作戦立案が可能となったため、僕らはみんなで話し合いながら少しづつ細部を固めていく。
「うちらはどないするん?大将首の「なまはげ」を探すんやったらばらけなあかんし、かといって単独で撃破できるような相手やないよ。」
「ん〜...。じゃあ折衷案として、二人組を作って捜索っていうのはどう?これならある程度ばらけられるし、最悪負けそうになっても撤退くらいはできるでしょ?」
ヤスは優晏の意見を聞いて深く頷き、それを取り入れることにした。そうして全員を二人組に振分け、できたチームがこれだ。
まず最初に、僕とヤス。このチームは完全な「なまはげ」撃破狙いのチームで、雑兵処理よりも大将首を優先に設定している。
次に、優晏とかぐや。諍いも多く、二人で組むとなると少々難しいかもしれない凹凸コンビだが、能力的にはバッチリ。この二人は「なまはげ」討伐も視野に入れた上で、森の中を駆けてもらう手筈だ。
それから、花丸と織。こっちには完全に雑兵処理を目的に据えて、森から出た敵兵が町に被害を出さないように立ち回る役割を任せた。
そうして最後に余った三人、刑部と作之助と絹。この三人は後方で治療及び情報伝達を担当。傷ついた武士たちを治癒し、万が一菌に感染したら作之助による手術を行う。
作戦の実行は明日の夜。武士たちが森へ先行し、その後に僕らも続く形を取る。最終目的は「なまはげ」の討伐と、森の奥にある村の調査。
どう考えても生存者がいるとは思えないが、それでも僕は見捨てたくないと思ってしまった。
未だに苦しんでいる人のことを考えると、いてもたってもいられない。そんな心のざわめきをなんとか押さえつけ、僕は刀を磨き準備を整える。
鏡面となった刃に映る顔に、迷いは無い。作戦会議を終えた僕らは、それぞれが振り分けられたチームに別れて、さらに細かい話し合いをした。
「確認しとくぜ。シュンの手札は屋敷の頃と変わってねぇか?」
「炎の威力が若干上がったって感じかなぁ...。その分、炎の吸収は出来なくなったけど。それで、そっちは何か変わりある?」
「あぁ...。言うほどのもんじゃねえかもしれねぇが、この任務に行くってなった時、本家からこんなもん貰ったんだよなぁ。」
そう言ってヤスが差し出してきたのは、赤茶けた色の羽織りだった。それを僕はじっくり観察してみたが、結局どんなものなのか全く分からない。
「魅孕って感じでもねぇんだがよ。どうやらそいつ、燃えねぇらしい。本家のヤツらは火鼠の皮衣つってるけど、実際どうだかな。」
ヤスはそのまま、火鼠の皮衣なる羽織りを身に纏って、気休めにはなんだろ。と軽やかに言い放った。
《........チッ。》
一瞬、どこかで舌打ちが聞こえた気がして辺りをキョロキョロ見回すが、どこからも剣呑な空気は感じられない。
大方、何かの物音でも聞き間違えたのだ。そう思って僕は気を取り直し、再びヤスとの話し合いを続ける。
それからしばらく経って、あらかた準備も話し合いも落ち着いてきた頃、辺りはすっかり日が沈んでしまっていた。
今から丁度二十四時間後、僕は森の中にいることだろう。そうして、全国七つの地点に広がった、強力なもののけのうちの一体。「なまはげ」をここで撃破する。
僕は目をつぶって、あの時遭遇した「なまはげ」との戦いを再度思い出す。
表情、言動、戦い方。全てにべったりと恨みがこびりついているような、復讐者の眼差し。
僕はここで不意に、いつかのミカの言葉を思い出した。呪いだと、人を踏み躙るものだと、そう言っていたミカの言葉を。
ではなぜ、「なまはげ」は人を呪うのか。そんな意味の無い考えが、脳みそに一瞬よぎってしまった。
人を恨むもののけなんてのは腐るほどいる。屋敷に居た五年間では、そんなもののけたちをひたすら殺し回る仕事をしていたのだ。今更、何を思うところがある。
僕はもう一度、刀を抜いて自分の表情を確認する。酷い顔だ。憂いに満ちた、半端者の顔だ。
迷いはある。けれど、それでいいと思った。迷いながら、戸惑いながら、僕は進んでいけばいい。
何にも考えずに、機械みたいにもののけを斬り捨てるよりかは、こっちの方が断然僕はいいと思った。
「なまはげ」は命を奪った。憎しみから人を殺し、呪いで人の世を焼こうとしている。
そんなものは、絶対に間違ってる。どんな理由があったって、それが虐殺を肯定する理由にはならない。
僕はそれを止めなきゃいけない。でも、「なまはげ」の向こうに背負っている想いも、僕は直視するべきなんだ。
虐殺者だろうと、復讐者だろうと、僕が今から奪おうとしているものは、紛れもなく命そのものなんだから。
「ヤス、明日は気張っていこう。ほら、いつもの。」
「おうっ!背中は任せたぜ、相棒!」
僕はヤスに向けてグーを突き出して、恒例のアレを求める。それに対してヤスもグーを突き出して、僕らはグータッチした。
これは、僕らにとっての儀式みたいなものだ。拳がぶつかる瞬間、僕らは共犯者になる。
もののけの命を奪い、人に仇なすものであれば容赦なく殺す。それでも、自分の心までは殺さない。
そのために、僕らは罪を二人で割った。五年で僕らが築いた屍は、地獄行きが確定するほど大きく膨れがっている。
苦しい時も、もう殺しが嫌になった時も。一人じゃないって事実だけが、僕らを人として押し留めてくれていた。
「そろそろご飯にしようか。戦う前だし、栄養つけなきゃね。」
僕がそう零すと、みんなが一斉に僕の方を見た。全員お腹が空いていたのだろうか、お腹を鳴らして、期待の眼差しを僕に向ける。
「そう言えばなんだけどさ、この中で料理が上手なのって...誰かいる?」
辺りが急に、しんと静まり返った。あれ、もしかして誰も料理出来ない?
考えてみればそうだ。僕たち屋敷組は自炊なんてしないし、迷宮組に至っては今までどうしていたのか分からない。
「うちらは...海峡が作ってくれてたしなぁ...。料理はオカマの嗜み言うてたけど...。」
「よく分かんない料理ばっかだったけど、意外と美味しかったわよね!」
二人の発言に僕は驚愕しつつ、今の状況に絶望を覚えた。これがもし旅の途中だったなら、まだ保存食や携帯食で何とかなったが、これから先ずっとそれだけというのは耐え難い。
僕がうんうん唸って悩んでいると、ぽんと僕の肩に優しく絹が手をかけてきた。
「料理....やってみたい。ダメ....かな?」
「できる.......のか?」
「がんばる........!」
正直言って、めちゃめちゃ不安だ。つい最近まで茸を齧っているだけだった絹に、果たして料理ができるのだろうか。
でも、こうなった以上は絹に託すしかない。僕は急いでまだギリギリ開いていたお店に行って、それなりの量の食料を買い込んできた。
絹が失敗してもいいように、丸かじりできるリンゴや、最悪煮れば何とかなるじゃがいもなど、多種多様な食べ物を僕は絹に手渡しする。
「ん...。任せて。」
(めっっっっっちゃ任せたくない。不安だぁ.....。)
それから数十分後、絹は有り得ないほど上品そうな懐石料理を作って僕らに運んできた。
「なんか出来た。おいしい?」
「「「「「「「「おいしいです。ありがとうございます。」」」」」」」」
この場にいた絹以外の全員が、五体投地で絹へ頭を下げた。絹はどうやら、服も作れて料理も作れるという、非戦闘系の天才だったようだ。
僕たちは感動に咽び泣きながら絹の料理を食べ、作之助に至っては何度もおかわりをしている。
「こんな美味いもん食っていいんだべか!!」
「ん....しっかり食べて。...おかわりもいいよ。」
絹は料理をよそいながら、それをみんなに配って嬉しそうに笑った。
「遠慮しねぇで、今までの分食おうぜぇ!!」
「うめ。うめ。うめ。」
・火鼠の皮衣
炎という概念そのものを拒絶する絶滅技術。耐久力の面で見ても極めて優秀な装備であり、前述した効果以外にも、特定の条件下で更なる状態へと移行する。
一世代前の人類が⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎神と戦った際に使用し、その人類が滅びたと同時に失われたはずの代物。
それは残滓だ。抗い疲れた人類が、自らの滅びを悟り、それでもと誰かに託そうとした。そんな一欠片。
それは遥か悠久の時を経て、藤原家の人間に発掘され現在に至る。この装備と彼の出会いが、今後の世界を大きく変えるのかもしれない。




