素晴らしき深夜の1ページ
駄文です。
深夜、腹痛に苦しめられた勢いで書きました。
後半汚い描写があるのでご注意ください。
丑三つ時は、深夜2時くらいだと思っていたから、深夜3時になるといつもホッとしていた。
ああ、今日も無事にやり過ごしたって。
自分は以前、夜中に散歩するのが好きだった。
いくら都会とはいえ、流石に徒歩で小さな街灯の明かりしかない暗闇を歩くのは、ほんの少しだけ怖かったから、自転車で明るめな河川敷や少し大きな通り、ちょっとした住宅街をのんびりと散歩していた。
昼間、爽やかな河川敷や多くの人が行き交う賑やかな大通りも深夜になるとすっかり静まり返って、怪しげで恐ろしさの含んだ全く違う雰囲気を見せる。
もう引き返した方がいいんじゃないか、頭の隅でそう警鐘が鳴る。
暗闇に覆われて、どこに続くか分からない道を進むことに、恐怖と油断と好奇心の入り混じった音が脳裏に響く。
けど、そんな小さな危機感を塗りつぶすほど、深夜の散歩は魅力に溢れていた。
玄関を開け、一歩外に出れば、まず空気の匂いが違う。
冷たくて、けれど昼間の営みの温かさを残した独特の匂い。冷えたアスファルトの匂いや洗濯物の洗剤の香り、土の匂いや川の匂い、動物の生ぬるい毛の匂いに草木の匂い、たまに潮風の匂いもする。
この空気が格別なのだ。
すうっと吸い込むと身体が軽くなったような気がする。
鬱陶しい太陽や太陽に隷属する生ぬるい風から解放されて、ようやく自分の身体を取り戻したような感覚がある。
今ならいくらでも進んで、何処まででもいける。
そんな思いが毎度、飽きることなく新鮮なままに浮かんできた。
そんなある日の深夜、自分はいつも通りに自転車を走らせていた。
今日は、河川敷に鴨を見に行こう。
舗装されたランニングコースで自転車ゆっくりと漕ぎながら数メートル下の川に目を向ける。
深夜に散歩をするまで、鳥は夜間全く活動できないのだと思っていた。
しかしそんなことはないようで、数匹の鴨の群れは川を緩やかに泳ぎ、潜っては浮かび、潜っては浮かびを繰り返していた。
こちら側が見えていないのか、いつもはすぐ遠くに行ってしまう鴨たちが、この時間は比較的、陸地の近くにいる。
これもまた深夜の特権であり、なんと言っても鴨の愛らしさは、格別である。
あの、丸い頭部と美しい流線描く胴体に法則的に配置された色とりどりの羽毛、そしてあの周囲を見回す際のコロコロとした仕草が、なんとも愛らしく、濡れた嘴のなんと艶やかなことか、溢れて留まることを知らない愛らしさゆえに思わず川に飛び込んみこの手に包んで一生を共に過ごしたいと血迷うほどの……!!
……ンンンッ!!マーベラスッ!!
興奮を理性で抑えつけ目を凝らすと、間隔を空けて置かれた街灯で川面が照らされ、波と鴨が起こす水の動きが見えることがある。
そこから次に出てくる場所を予測して当てる。
水中の鴨の動きは素早いようで、かなり難しい遊びだったが、鴨の愛らしさゆえに飽きることはなかったし、かなり楽しかった。
愛らしさに溺れるのは人類共通の文化であり、人生の意義そのものであるって以前、言っていた友達は元気だろうか。
就職してから忙しいだろうとお互いに気を遣って、もう半年も連絡をとっていない。
今度連絡してみよう。
そんなことを考えながら、新しい鴨の群れを探して自転車を漕いでいると、大きな水の動きが見えた。
大きな鯉かナマズか、はたまたワニか、それともアライグマか!好奇心と期待に胸を躍らせ、これでもかと目を凝らすと、
髪の生えた、人の、頭部のようなものが見えた。
足の先まで全身に鳥肌がたつ。
明らかに野生動物とは違う毛の流れ。
一瞬、事件かと考えるが、いや、明らかに泳いでいる。
それはすぐに沈み見えなくなったが、異様なものが近くにいる恐怖。
この感覚は実際に体験しないと分からない、普段であれば想像もつかない感覚だ。
勘づかせないようそっと自転車をUターンさせる。
振り返ってから気づいたが、こういう時振り返るのはフラグなのでは?と思ったが大丈夫そうだ。
足にぐっと力を入れ、最高スピードで元来た道を戻る。
さっきまで煌めきに溢れた深夜の街が、今度はひどく恐ろしい。
その小道から得体の知れないものが飛び出してや来ないか不安で仕方がない。
チラリとハンドルにかけた鞄から覗くスマホで時間を見る。
午前2時、丑三つ時とされる時間だ。
これなら納得できる。
この恐怖は自業自得、自然の理不尽とかではなく本当に自分のせいだった。
油断しきっていたのだ。
深夜という非日常のスパイスとしてしか、深夜の危うさ、その恐ろしさを見ていなかったのだと実感した。
全てを振り切る勢いで自転車を漕ぎ、ようやく家に着いた。
汗をかいたがシャワーなど浴びていられない。
水場に行くのはフラグというやつだろう。
きっとさっきのやつが湯船とか排水溝とかから出てくるんだ。
映画の見過ぎだろうか。
いや、行かないに越したことはない。
服を脱ぎ捨て、パジャマに速攻で着替える。
早着替えコンテストに出れそうだと思ったが置いておく。
喉が乾いていたので、牛乳なら水じゃないしセーフなのではと思い、冷蔵庫ひ飛び付き、喉を鳴らして飲む。
そしてそのままベッドに飛び込む。
それが最悪の状況を招いた。
ぐぎゅるらるるるるあああがるるるる
腹をくだしたのだ。
そりゃそうなのだ。へけっ。
火照った体に急に冷たい牛乳を1/2パック投入すれば、腹も壊す。
しかも自分は牛乳で腹を下す体質であったのだから当然だった。
ぐぎゅらるらるるあああるるる
水場がどうのとか人権の前に言ってられねえ!!
人生で数回あったかどうか、フル回転した脳が全ての機能を使い導き出す最短コースを、素晴らしき運動神経と筋肉が最高速で駆け抜ける。
うおおおおお!!!間に合えええ!!!!
バン!!ドン!サッ!
音速を超えた(雰囲気)動きに音が遅れてついてくる。
……!!!
無事にプライドは守られた。
ここはサンクチュアリ。
全ての汚れ(けがれ)を癒す場所。
凄まじい腹痛はこのサンクチュアリによって軽減されているがこれでもかというほどだ。
ヒーラーが欲しい。
優しいヒーラーのお姉さんにヨシヨシされたい。
こういう時シングルプレイなのが悔やまれる。
けどそもそもパーティのガチャなんてないし、
そもそもヒーラーのお姉さんなんて魔王討伐最終戦で実はサキュバスでしたとか言い出して、
けどほんとは今まで一緒に旅してきた勇者パーティのみんなを裏切りたくなくて、魔王から仲間を庇って傷を負うみたいな役なんだろうなあ。
そもそもここは勇者とか魔王とかいないし、自分はうんこの討伐中なんだけどね!
腹痛がひどくて現実逃避している。
頭もひどく混乱している。
お腹痛すぎて、うんこじゃなくて背骨抜かれてんじゃね?と思うほどだ。
頭に耐えながら踏ん張る。
ひーるひーるひーる!
1人で自分を勇気づける。
コンコンッ
ん?いまノックされたような。
力みすぎてどこか折れたのかな。
コンコンコンッ
ほあああ!ほんとにノックされてるよおお!!!
え!え!え!鍵かけたよ!?自分一人暮らしだし!?!?
コンコンコンコンコンッ
合鍵なんて作ってないし!?てかこんな時間に来るやつとかいないし!?
ぐぎゅらるらるらるるるはるるる!
はうぅ!くっそはらいたい、ぐぅぅぅ!
どんどんどんどんどん!!!!
ぐぎゅるるるるじゃうるるるるぐおお!
腹の痛みとノックというか殴打の音が呼応してやがる!
くっそ!こちとら一世一代の討伐に挑んでるっていうのに!
おそらく、いや十中八九、いや十中十十、川で見たやつだろうなあ。
てか言いにくいな十中十十って、8.9まで来たならもう10にすれば良いのにっていつも思う。
どんどんどんどんどんどん!!!
まじでうるせえ!こちとら腹痛マックスなんだけど!?
てか一旦自分のプリティなお星様を拭きたいんだが、
トイレットペーパーが、ちみっとしかない……。
クソ!さっきの自分だ!最悪だ!おのれ自分!
けどわかる。
何故がそういう時に限ってちみっとしか残ってないことに気づかないんだよな。
分かる。
うん。分かるよ。
ここにトイレットペーパーの和解と調和の証としてトイレットペーパーの芯を立てよう!!
どんどんどんどんどんどんどんどどなど!!
ギシ!!!パキキッ!!メキッ!!
うおおおい!なんか軋んでるんだが!!!ここ社宅なんだよ!!やめとけよ!!
くそっ!これじゃあどうにもならねえ。
前門の幽霊、肛門のうんこ、ってところか……。
グギュルルルルッ
くっ!!もう時間がない!
行くしかないか!!強行突破じゃあ!!!
ドバン!!!!!
次の瞬間、音を置き去りにして開かれた扉は、本来であれば通用しないであろう、物理攻撃無効の壁を容易く貫き、招かれざる客を塵に帰したのだった。
その衝撃で星がひとつ滅んだとかなんとか。
そして光の速さで閉まる扉。
その現象にもはや音はなく、幾光年先の宇宙に新たな星を産んだのであったとかなんとか。
無事に箱ティッシュを持ってトイレ、いやユートピアに帰還できた自分は星を労り、大きな試練を乗り越えた感動にひたるのであった。
エデンの園に帰還する途中一瞬だけ黒い粉のようなものが見えたが気のせいだろう。
音も止んだしきっと帰ったんだろうな。
腹痛が止んだせいか全てをポジティブに捉えてその日は寝床についた。
時間は深夜3時、随分と長い戦いだった……。
翌日、昨日のことを振り返り、深夜の散歩はしないでいた。
そして就寝後、深夜3時。
アヴァロンの方向から奇怪な音が聞こえてきた。
グギュルルルルっっ!!
え?なに?もしかして?
そろそろとベッドから出て、
そっと部屋から顔を出し覗いてみると、
そこには黒い塵のようなものがうごうごと床を這い、
ぎゃぎゅるるるるっ!とユートピアに向かって音を出し続けているではないか。
異様な光景だった。
とりあえずベッドに戻りぬくぬくする。
幽霊って丑三つ時にしかいないんじゃないの……?
スマホで検索したら、丑三つ時の時間が結構曖昧なことを知った。
23時〜2時とか3時〜4時だったり……。
えー、そうなんだ、知らなかったなぁ……。
ぬくぬくしたまま様子を軽く伺いつついたが、塵はこちらに気づくことなく深夜4時まで音を出し続けていた。
4時になると音はパッタリと塵もなく、静けさが戻った。
幸い自分はどんな状況でも寝れる体質である。
なんかなぁ、まあいっか!と思いながら自分は眠りについた。
終
腹痛の辛さには。幽霊の怖さも敵わないと思います。